サーキュラーエコノミーは経済システムに関する概念で、欧米を中心に発展してきた考え方です。企業が新たなビジネスモデルを構築するチャンスにもなるので、ぜひ注目しておきましょう。今回は、サーキュラーエコノミーの仕組みを紹介します。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の仕組みとは
「サーキュラーエコノミー」という言葉は聞いたことがあるけれど、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。まずは、言葉の意味や基本的な考え方を説明しますので、理解しておいてください。
循環型の経済システム
サーキュラーエコノミーは、循環型経済(循環経済)を意味します。簡単にいうと、モノが循環し、ゴミが出ない社会システムです。従来の経済システムは、大量生産や大量消費、大量廃棄を前提とした一方通行の線形経済(リニアエコノミー)でした。サーキュラーエコノミーは「3R」を基本とし、イノベーションを駆使して新たな価値を生み出すことを目指す考え方です。
3Rとは
Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再生)の3つのRの頭文字をとった言葉で、世界的に広がっている概念です。日本では2000年(平成12年)に循環型社会形成推進基本法が制定された際、3Rの考え方が導入されました。現在もゴミ削減、環境やリサイクル促進のキーワードとなっています。
サーキュラーエコノミーの3原則
サーキュラーエコノミーの動きは世界的に広がっています。サーキュラーエコノミーへの移行を主導しているのは、イギリスに拠点を置くエレン・マッカーサー財団で、次のような3原則を掲げて指針としています。
1. 廃棄物を生み出さないデザイン(設計)を行う
ゴミを出さないためには、製品の設計段階から3Rを意識しておくことが重要です。製品の軽量化も有効ですが、長く使えるよう耐久性を確保することも必要でしょう。
2. 製品と原料を使い続ける
製品リサイクルにより原料を回収すれば、新たな原料を調達する必要がありません。製品自主回収のシステムを作ったり、リース方式を利用したりする方法が考えられます。
3. 自然システムを再生する
天然資源への負荷を最小限にしなければなりません。再生材など、環境配慮型の素材の積極的な活用が有効です。
日本の「循環経済ビジョン2020」
日本でサーキュラーエコノミーの概念が明確にされたのは、2020年(令和2年)に経済産業省がまとめた「循環経済ビジョン2020」です。同ビジョンでは循環経済を「あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済」と定義され、循環経済への転換の方向性を明らかにしています。
サーキュラーエコノミーはなぜ必要?
循環型経済へ移行する動きは世界的に高まっていますが、線形経済では何が問題なのでしょうか。経済システムの変革が必要な理由を考えてみましょう。
資源・エネルギー需要の増加
世界的な人口増加と経済成長に伴って、人間が生活を維持するために必要な資源やエネルギーの量も増えました。このままでは近い将来、資源・エネルギーの安定供給が困難になるリスクがあります。限りある資源を有効活用するために、サーキュラーエコノミーへの転換は欠かせません。
環境問題の深刻化
大量生産・大量廃棄の線形経済は地球環境への負荷が大きく、さまざまな問題を生み出しています。地球温暖化の影響で、海面上昇や自然生態系の破壊、災害等のリスクが増大しました。プラスチックごみが海洋に流れ込み、海洋生物や人体に悪影響を及ぼす海洋プラスチック問題も深刻です。地球と人類の存続のためには、線形経済を見直す必要があります。
中長期的な競争力の強化
市場・社会でも環境配慮要請が高まっており、環境や社会を意識した経営を行っている企業に、資金を投下するESG投資が拡大しました。循環型の製品・ビジネスの展開を目的に経営戦略・事業戦略を立てることで、長きにわたって競争力を強化できます。循環型経済への移行は、我が国の産業発展のためにも不可欠です。
サーキュラーエコノミーの市場規模について
サーキュラーエコノミーの動きは世界中に広がっています。今後どのくらいの市場規模になるのかを把握しておきましょう。
2030年(令和12年)までに4.5兆ドルに
アイルランドに本拠を置くアクセンチュア社によるとサーキュラーエコノミーは今後成長し続け、2030年(令和12年)には4.5兆米ドル(約510兆円)の市場規模になると試算されています。従来型の線形経済では、資源、キャパシティ、ライフサイクル価値、潜在価値の4つの無駄が生じています。サーキュラーエコノミーにすれば、再生可能資源の利用、リサイクル、シェアリング、製品のサービス化などにより、無駄を富に変えることが可能になります。
シェアリングエコノミー
カーシェアリングや民泊など、遊休資産の貸出しを行う「シェアリングエコノミー」は、循環経済を支えるビジネスモデルの1つです。近年は、スキルのような無形の資産のシェアリングプラットフォームも登場しています。一般社団法人シェアリングエコノミー協会が、株式会社情報通信総合研究所(ICR)と共同で行った市場調査によると、2020年(令和2年)の日本のシェアリングエコノミー市場規模は、2兆1004億円と過去最高です。さらに、2030年度(令和12年)には14兆1526円と、不動産業と同程度になると予測されています。
出典:「シェアリングエコノミー関連調査2020年度調査結果」
新たな雇用と市場を生み出せる
サーキュラーエコノミーに移行するには、新たなビジネスモデルを最適化しなければなりません。サーキュラーエコノミーは、新たな雇用や市場を生み出すチャンスにもなります。国家の経済成長戦略として、循環経済への移行は大きな意味を持ちます。
おすすめ書籍
サーキュラーエコノミーについてもっと詳しく知りたい人のために、おすすめ書籍を紹介します。企業での取り組みやビジネスモデルの構築に役立ててください。
サーキュラー・エコノミー:企業がやるべきSDGs実践の書
ミシュラン、グッチ、アディダス、イケア、アップルなど、各業界をけん引する企業の取り組み事例を紹介しています。先進企業の具体的な事例を確認しながら、サーキュラーエコノミーに移行するための方法論を学べる1冊です。
サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル
官民一体でサーキュラーエコノミーに移行したオランダと、日本の実践例が紹介されています。サーキュラーエコノミー先進国の実情と日本独自の留意点をふまえ、循環型経済に適応した新たなビジネスチャンスを探れます。
捨て方をデザインする循環ビジネス:サーキュラービジネス実現へ三つの提言
廃棄物処理事業・総合リサイクル業を行う株式会社ナカダイでは、リサイクル率99%を実現し、新たな素材の使い方を創造しています。社長の中台氏が同社のビジネスモデルを紐解きながら、サーキュラーエコノミー実現に向けての具体的な提言を行っています。
サーキュラーエコノミーは今後どうなる?
サーキュラーエコノミーの考え方は、日本の企業や個人にも広く浸透しつつあります。将来の展望について考えてみましょう。
経済効果はますます拡大
サーキュラーエコノミーによって、新たな価値が創造されます。雇用が創出されれば、景気回復にもつながるでしょう。循環型の経済社会活動への移行は、停滞している日本経済を活性化させるチャンスとなります。
消費者価値観の変化
大量生産、大量消費の時代は終わりました。消費者の価値観は、所有から共有・利用・体験へとシフトしています。今後はますます、シェアリングエコノミーの需要が拡大するでしょう。企業においては、自社の製品やノウハウを生かしたビジネスモデルを構築する必要があります。
まとめ
サーキュラーエコノミーへの転換は、環境問題を解決し持続可能な社会を実現するために不可欠と考えられます。企業においては、1つのビジネスチャンスにもなるはずです。先進企業の取り組み事例を参考に自社の強みを生かしながら、循環型経済へと移行する方法を考えてみましょう。
AFP(日本FP協会認定)、行政書士、夫婦カウンセラー
大学卒業後、複数の法律事務所に勤務。30代で結婚、出産した後、5年間の専業主婦経験を経て仕事復帰。現在はAFP、行政書士、夫婦カウンセラーとして活動中。夫婦問題に悩む幅広い世代の男女にカウンセリングを行っており、離婚を考える人には手続きのサポート、生活設計や子育てについてのアドバイス、自分らしい生き方を見つけるコーチングを行っている。