小規模企業共済とはどんな制度?加入対象&メリット・デメリットまとめ
By 松田 聡子
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「小規模企業共済」とは、個人事業主や小規模な法人の役員が個人で掛け金を拠出する退職金制度です。小規模な事業主にとってメリットが多い制度なので、起業を考えている人や起業したばかりの人は知っておくべきといえます。今回は小規模企業共済の制度の概要と、メリット・デメリットについて解説します。
目次
個人事業主でも退職金を準備できる「小規模企業共済」とは?

最初に、小規模企業共済とは何かについてお伝えします。
小規模事業者の退職金制度
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者が退職金を積み立てる制度です。国の機関である中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が提供しており、2017年(平成29年)3月現在、全国で約133万人が加入しています。
加入者が退職または事業を廃止した場合などに解約し、それまでに積み立てた掛け金に応じた共済金を受け取ることができます。
小規模企業共済の掛け金
掛金の額
毎月の掛け金は1,000円から70,000円までの範囲(500円単位)で選択できます。掛金は増額または減額もできます。
掛金の払い方
掛金の払い方は月払い、半年払い、年払いから選択できます。また、掛金は前納もできます。前納すると、一定割合の前納減額金を受け取ることができます。
受け取る退職金(共済金・解約手当金)の種類
小規模企業共済で積立てたお金を受け取る場合、次の4種類のいずれかになります。
- 共済金A
- 共済金B
- 準共済金
- 解約手当金
共済金等の種類 | 請求事由 |
|---|---|
共済金A | ・個人事業を廃業した場合 ・個人事業主の共済契約者が死亡した場合 ・法人が解散した場合 |
共済金B | ・老齢給付(65歳以上で180か月以上掛け金を払い込んだ場合) ・病気、怪我の理由により、または65歳以上で役員を退任した場合 ・法人役員などの共済契約者が死亡した場合 |
準共済金 | ・個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、解約をした場合 ・法人の解散、病気、怪我以外の理由により、または65歳未満で役員を退任した場合 |
解約手当金 | ・任意解約 ・機構解約(掛け金を12か月以上滞納した場合) ・個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、解約をした場合 |
小規模企業共済の破綻リスク
厚生年金基金の解散のニュースなどから、小規模企業共済の破綻リスクを心配する人もいるでしょう。結論をいうと、小規模企業共済の破綻リスクは低いと考えられます。
平均運用利回りが予定利回りを上回っている
小規模企業共済の支給額は小規模企業共済法に基づき、運用収入の見込み額によって決められます。
現状、小規模企業共済の予定利回りは1%から1.5%です。これに対し、2014年(平成26年)度から2018年(平成30年)度までの5年間の平均運用利回りは2.08%と、予定利回りを上回る結果となっています。
長期的な繰越欠損金の解消
小規模企業共済の破綻リスクが懸念される原因であった長期的な繰越欠損金は2016年(平成28年)度末には解消され、以後順調に推移しています。以上のことから、小規模企業共済の破綻リスクは低く、安心して利用できる状況だといえるでしょう。
小規模企業共済のメリット

小規模企業共済は単に「退職金が積み立てられる」だけの制度ではありません。以下のようなメリットがあります。
掛け金が全額所得控除
掛け金の全額を、小規模企業共済等掛金控除として課税対象の所得から控除できます。つまり、支払う税金が少なくなるということです。所得の高い人ほど大きな節税効果が期待できるでしょう。また、1年以内の前納掛金も同様に控除できます。
法人の役員にはより大きなメリット
法人の役員の場合、法人から退職金を受け取ることができます。法人からの退職金は、法人が加入する生命保険などで準備します。
一方で、小規模企業共済は役員個人が拠出する制度です。小規模企業共済に加入すれば、個人でも節税しながら退職金を準備することが可能です。
共済金(退職金)受け取り時の税負担が軽い
退職時にお金を受け取る際は、一括で受け取るか、分割で受け取るかを選べます。分割での受け取りは共済金A・Bのみ可能です。
一括で受け取る場合は退職所得扱いとなり、退職所得控除が受けられます。分割(年金形式)で受け取る場合は雑所得扱いとなり、公的年金等控除を受けることができます。
いずれにしても、事業所得に比べて税負担が軽くなります。
契約者貸付制度を利用できる
小規模企業共済では、資金繰りが苦しくなった場合などに契約者貸付制度を利用することができます。契約者貸付制度とは、それまで積立てた掛け金の範囲内で、資金調達を低金利で行えるというものです。事業を進める中で不測の事態が起きた場合に利用できます。
加入期間が一定以上の場合、払った掛金より多くの退職金が受け取れる
共済金Aと共済金Bについては、36か月以上加入すると、掛け金総額より多くの共済金を受け取ることが可能です。掛け金を積み立てた期間に応じ、最大120%相当額が戻ってきます。
小規模企業共済のデメリット

高い節税効果などが魅力的な小規模企業共済ですが、注意すべき点もあります。以下の点を踏まえ、加入するかどうかを検討しましょう。
元本割れと掛け捨てのリスク
元本割れのリスク
掛金納付月数が240か月(20年)に満たないうちに小規模企業共済を解約した場合、解約手当金は積み立てた金額を下回ることになります。つまり、元本割れが起こるということです。
掛け捨てのリスク
さらに、最初の1年目に解約する場合は、1円も受け取れない「掛け捨て」となってしまいます。解約によって失う金額が節税額より多くなっては、小規模企業共済に加入する意味がないといえるでしょう。
インフレには対応していない
小規模企業共済の積立は長期間続けることが前提になっています。その場合、共済金を受け取るときのお金の価値が下がっている可能性も十分にあります。
お金の価値が下がった場合に掛け金の合計と同じ金額を受け取ったとしても、実質的には目減りしたと状態となります。
インフレ対応にはiDeCoとの併用を検討する
このように、小規模企業共済にはインフレを調整する機能がありません。インフレに対応するには、iDeCo(個人型確定拠出年金)との併用などを検討しましょう。
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小規模企業共済の加入資格

小規模企業共済に加入するには一定の条件を満たす必要があります。その条件とは以下のとおりです。
●常時使用する従業員が20人(商業・サービス業と士業法人では5人)以下の個人事業主(共同経営者を含む)、会社及び企業組合・協業組合・農事組合法人の役員、士業法人の社員
●上記の条件を満たす個人事業主に属する共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
加入資格の条件を満たさなくなった場合はどうなるか
従業員が増えても加入は継続できる
加入当初は従業員が20人以下だったのに、事業が拡大していって20人を超えてしまった場合、小規模企業共済を脱退しなければならないのでしょうか。
実は小規模企業共済は、加入資格を満たしているときに加入してしまえば、その後に加入資格を満たさなくなっても継続することができます。
小規模なうちに加入しておく
反対に、事業規模が大きくなって加入資格を満たさなければ、加入したくても加入することはできません。
小規模企業共済の掛け金は、月額1,000円からでハードルが低いといえます。少しでも関心があるなら、事業規模が大きくなる前に加入しておくとよいでしょう。
小規模企業共済の申し込み方法

小規模企業共済に加入する際の手続き方法について、申し込みの手順は以下のとおりです。
- 必要書類を入手
- 書類に必要事項を記入
- 中小機構が業務委託契約を結んでいる団体または金融機関の窓口へ提出
- 中小機構から「小規模企業共済手帳」と「小規模企業共済制度加入者のしおり及び約款」を受け取る
必要書類
中小機構のフォームで提出すべき書類は以下のとおりです。
●契約申込書
●預金口座振替申出書
そのほかの必要書類
加入者の属性 | 必要書類 |
|---|---|
個人事業主 | 確定申告書の控え |
法人の役員 | 履歴事項全部証明書(商業・法人登記簿謄本)など役員登記されていることが確認できる書類 |
共同経営者 | ・個人事業主の確定申告書の控え ・個人事業主と締結した共同経営契約書の写し ・社会保険の標準報酬月額通知、青色申告決算書、白色申告決算書および賃金台帳、国民健康保険税・介護保険料簡易申告書等報酬の支払い事実が確認できる書類 |
加入窓口
小規模企業共済の加入申込書は、以下の委託団体や代理店に提出します。
委託団体 | 代理店 |
|---|---|
商工会 | 都市銀行 |
商工会議所 | 地方銀行 |
中小企業団体中央会 | 第二地方銀行 |
事業協同組合 | 信用金庫 |
青色申告会 | 信用組合 |
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 | 商工組合中央金庫 |
アクサ生命保険株式会社 | 農業協同組合(33都道府県) |
小規模事業者が利用できる、そのほかの退職金制度

一定の条件を満たす個人事業主や法人の役員が利用できる小規模企業共済と同様に、小規模事業者が利用できる退職金制度を見てみましょう。
国民年金基金
国民年金基金とは、国民年金第1号被保険者が国民年金の上乗せのために任意に加入できる制度です。掛け金は全額所得控除になります(社会保険料控除)。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、個人である加⼊者が掛け⾦を拠出し、自己責任で運⽤を⾏い、60歳以降に年金または一時金として受け取ることができる公的年金の上乗せ制度です。こちらも掛け金は全額所得控除になります(小規模企業共済等掛金控除)。
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それぞれ併用可能
国民年金基金、iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済はそれぞれ併用することができます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)と小規模企業共済の掛け金は、ともに小規模企業共済等掛金控除の対象で、両者ともに限度額まで拠出することができます。
国民年金基金とiDeCo(個人型確定拠出年金)を併用する場合は、両者の掛け金の合計が68,000円以内と決まっています。
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まとめ
「小規模企業共済」とは、一定の条件を満たす小規模事業者が個人で掛け金を拠出する退職金制度です。掛け金は全額所得控除となり、退職金の積立をしながら節税もできるというメリットがあります。
一方で、短期間で解約した場合は元本割れなどのリスクもあります。注意点を確認しながら加入を検討しましょう。
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Writer
松田 聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保に法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。
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