インタビュー

下町鮮魚店のDX(デジタルトランスフォーメーション)? シャッター街の魚屋さんがコロナ禍をプラスに変えた経営策とは

By renew編集部

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公開日 2020.10.05
下町鮮魚店のDX-東比恵

福岡市博多区東比恵、街の一角にある小さなお店、占部商店(お店のHPはこちら)。昭和40年(1965年)に創業し地元で愛され続けて55年。しかし時代の流れとともに町の賑わいは去り、来店客も比例して減少していきました。そんな中でも、2代目店主占部雅伸さんはコツコツと一人で店を営んできました。転機は2020年3月、コロナ禍でさらに困難になった経営を立て直すために動き出した「新たな策」とはSNSでの商品販売。子どもたちの応援で従来の魚の売り方を一変したITに無縁な占部さんと父親を後押しした娘さんに話を伺いました。

昔の比恵商店街
昔の比恵商店街2

50店舗を超える小さな店が軒を連ねる賑わいの街

東比恵は博多区博多駅東側に位置し博多駅と福岡空港を結ぶ流通盛んなエリア。昭和40年(1965年)頃は工場や土木、運送会社などが立ち並び、そこで働く人々や家族が生活する街として賑わっていた。当時この街の商店街で食料品店を創業したのが占部商店。

創業者の占部信博さんは好漁場でも知られる津屋崎町育ち。問屋で働きながら商売を学び、取引先の縁から東比恵で店を構えました。占部信博さんは息子3人と妻の5人暮らし。店は毎日客も多く繁盛店。「小さい頃は、兄たち兄弟3人でよく店の手伝いをしていました」と語るのは2代目店主の占部雅伸さん(55)。

賑わいのある比恵商店街

- 活気のある街だったのですね?

占部: とにかく人が多かったんです。店の前の道など、通れないほど人が溢れてました。魚、肉、野菜、服屋、靴屋、食堂なんか小さい店が55軒くらいあって、生活の必需品が賄えるんで遠くからも人が来てました。店は家族だけでは足りないから、3人くらい人を雇ってましたねぇ。

- 店を継ぐことになったきっかけはいつだったのですか?

占部: 高校を出てこれからの進路を考えるとき、兄たちはすでにそれぞれの道を進んでいました。父は一代で店を閉じてもいいと言っていました。私は、特にやりたい仕事もなかったので、父に店をやらせてくれないかと頼んだんです。(笑) 父は、「今までと同じことをしていてはいけない、やるなら時代に合うよう、自分のしたいようにしろ」と言ってくれました。勉強のためにと卸業社に勤め始め、5〜6年働く予定だったんですが、店を手伝っていた母親の具合が悪くなって、22歳の時に店に戻って、間もなく23歳の時に結婚して3人の子どもが生まれました。

手作り鮮魚加工品が新たな人気商品に

- 食料品から鮮魚加工食品を取り扱うようになったのですね?

占部: 昭和63年(1988年)頃、世の中はちょうどバブル時代で商店街は創業当時と変わらないくらいに賑わっていました。28歳くらいの時に、それまでも魚の加工品は売っていたんですが、父は魚を捌くこともできていたので、自分たちで加工品を作ってはどうか?と思い立って、直接、魚市場に魚を仕入れに行き、自分の目で選んだ鮮魚を加工して売り始めたんです。魚市場に到着するのは5時半頃、店に戻ってからはずっと働きっぱなし、途中配達もあったりで夜8時くらいまで仕事していました。手作りの水産加工品も好評で、もうとにかく忙しかったです。

扱う鮮魚
占部商店

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スーパー進出で一変

- 経営の変化に気づいたのはいつ頃ですか?

占部: 平成7年(1995年)頃、父が脳梗塞で倒れたんです。1年くらい療養をしていました。その頃、スーパーなどができ始め、人が分散してきたんです。それまで歩きや自転車で買い物に来ていた人が、車でスーパーに行ってまとめ買いをするようにかわっていきました。スーパーはさらに増え、続いてコンビニがあちこちにでき始めて人の流れが変わっていったんですね。

- 商店街の老朽化や経営者の高齢化も進んできた時期ですね?

人通りが少なくなって、街も住んでる人もそれなりに歳を重ねていくと活気も無くなっていきますよね。後継ぎがいないところは店を閉じるしかなくて。平成15年(2003年)頃には地域はビルとワンルームマンションに変わって、ふっと気づくと周りの店のほとんどが閉店して、今では小さな店舗で商売をしている店はここを入れて6店舗程度です。

ビルやマンションが立ち並ぶように

コロナ感染拡大で状況はさらに悪化

- コロナ禍で人の通りも随分少なくなったそうですね?

昔から店に来ていた人がコロナになってから家を出なくなって、配達注文になってきました。一人暮らしのおばあちゃんには、配達ついでに頼まれた野菜を買って一緒に持っていったり。ヘルパーさんとかには言いづらいみたいで。何をしてるかわからないですよ。ボランティアかなぁ。でも私の小さい頃からのつきあいがあるからですね。(笑) 飲食店からの注文も随分減ったし、店にお客さんが来ないから今はほとんどを予約対応だけにしています。

「私たちと同じ30代の人に食べてもらいたい」と娘の千尋さん

- 息子さんがIT関係、娘さんがカメラマンだったことは占部さんにとって幸運だったですね?

「店が開いてるのか閉まっているのかわからない状態になって、やっと父も試しにやってみようかと言ったんです」と娘の千尋さん。

千尋: 兄弟で相談して。私たちも初めての挑戦だからどうなるかわからなったんですが、とりあえず兄がHP作成、私が素材のための写真撮影をして…。イメージは私たちと同じ世代に魚を食べて欲しい。魚を身近に感じて欲しいということです。そんなことを考えてHPを作りました。本当は生の魚を届けたいけど、それは輸送やコストの問題でなかなか難しい。でも、魚って加工の仕方でいろんな料理になれるし、冷凍したら遠くまで届けられるというのも利点。これだったら結構いけるんじゃない?って (笑)。

占部さんと千尋さん
通販している鮮魚

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- SNS配信をスタートしたのはいつですか?

千尋: 2020年4月です。友達や兄弟それぞれのSNSで発信しました。PRに予算をかけることなどできない状態ですから、SNSだけのスタートでしたが反応がありました。友達の友達からとか、その先で繋がっている人とかが興味を持ってくれて。思い描いていた30代のファミリーの注文が多く嬉しかったです。

- 県外からの注文もあるそうですね

千尋: 福岡のお客さんが県外の両親のために注文いただいたり、博多の魚を魅力に感じてくれている関東、関西方面からの注文をもらったり、北海道から、向こうでは季節柄獲れない太刀魚の注文があったり、県外からの注文に発信している私たちが驚いたりしています。

占部商店が販売する鮮魚
魚をさばく占部さん

- お客さんごとに調理法を変えているのですか?

千尋: デジタルが苦手な父にはネットでの注文を受けるのは難しいようで、始めは私たちがネットで受けた注文を紙の伝票に書き下ろして、それを見て父が発送の準備をしていました(笑)。父はお客さんのアレルギーのことや家族構成を聞いて、魚の種類や調理方法を変えて準備します。魚調理に慣れてない家庭には料理しやすい大きさの切り身にしたり、子どもさんのいるところには食べやすいように小骨の処理をしてとか、結構考えているんだって娘ながら嬉しくなったり。そしてこれが評判いいんです(笑)。 

紙の伝票

- 自家製「占部家の辛子明太子」も人気の商品だそうですね

千尋: 祖父がもともと作ったもので、もう65年の味です。塩分控えめで年配の人から若い人からも注文をいただいています。昔から贈答品としても利用していただいているのですが、最近は家庭でパスタに使ったり焼いたりして食べるように自宅用切れ子も若い人に人気です。

- 最後にこれからことを教えてください

占部: 今はまだお試しのような状態です。どこにでもある商品ではなく、時代に合わせた食材作りをしていかないとって思っています。鮮魚加工でも今の人のニーズや環境にあった細かな加工品にする必要がありそうです。手間のかかる仕事ですけど、いい食材で丁寧に商品を作っていけば店は続くって思います。

千尋: SNS販売ですがその先にいるのは人。食べた人が美味しかったと満足してくれたら言葉にしてくれます。私たちができることはその喜びの声をSNSに乗せて発信すること。「占部商店」の商品をたくさんの人に知ってもらうためにより惹きつける情報発信を試していこうと思っています。

編集後記

父親が新たなニーズに向けて、心を込め、手間をかけて作る鮮魚加工品。今の時代を生きる子どもたちは得意分野で、父が長年営んできた店をどう復活させるか試行錯誤しています。福岡発信、小さな小さな魚屋「占部商店」親子の挑戦にこれからも注目です。

占部商店について

占部商店の店頭

占部商店

福岡県福岡市博多区東比恵4-6-7 ビバーライフカネヒロ1F

TEL:092 - 411 - 2114

営業時間:9:00-18:00

*配達等で一時不在の場合もございます。ご来店の際は事前にお電話にてご連絡をお願い致します。

店休日:日曜・祝日

占部商店

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