人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
全国にクライアントを抱える企業が多く存在する福岡のクリエイティブシーン。その代表格ともいえるのが、名だたる企業のCM制作やMV制作、さらには西日本でいち早くプロジェクションマッピングに取り組んだ先駆け的存在、株式会社ランハンシャです。
最近では、コロナ禍での新たなエンターテインメントを生み出そうと、従来のドライブインシアターとデジタルアートを組み合わせることで、映画や周りの自然と一体になるような感覚が味わえる「森のドライブインシアター」を福岡県糸島市の森の中で行ったことでも注目が集まりました。
福岡にいながら最先端の情報をインプットし、質の高いアウトプットで起業時から引き合いを受け続ける理由は何なのでしょうか。その秘訣を探るべく、代表取締役の下田栄一さんにお話をうかがいました。
■プロフィール
株式会社ランハンシャ 代表取締役・CGディレクター
下田栄一(しもだえいいち)さん
1978年、福岡県福岡市生まれ。2003年株式会社ビデオステーションキューに入社。2008年に仲間と3人で株式会社風車を設立。その後、2013年に株式会社ランハンシャを立ち上げ、CMやMVなどの映像や、プロジェクションマッピングなど映像にまつわる様々なCGコンテンツを制作している。
大学卒業後に飛び込んだCGの世界
――まずは事業内容について教えていただけますでしょうか?
下田:CMやMV、映画などの映像を手がけるCG制作会社です。数年前からプロジェクションマッピングも本格的に手がけるようになり、いまではインタラクティブな仕掛けを備えたプロジェクションマッピングも制作しています。設立して約7年になります。
――ランハンシャを立ち上げる前もCGに携われていたのでしょうか?
下田:大学時代にCGに可能性を感じ、卒業後にCGの専門学校に入り直しました。その後、株式会社ビデオステーションキュー(以下、VSQ)という会社に入社したんです。初日から絵コンテをパッと手渡されて「じゃ、よろしく」と。何の前触れもなく、ゲームソフトのCMの一部をつくることになったんです(笑)。
――初日からですか!それはすごい体験ですね。
下田:なかなかないですよね。ただ、今思い返してみれば、"この日(初日)"から今まで、ぼくの仕事のスタンスって変わってないんですよね。
――その仕事のスタンスというのは"すぐつくる"ということでしょうか?
下田:そうですね。頭で考える前にとにかく手や体を動かしてみる、これが初日から変わっていない仕事のスタンスですかね(笑)。
「なんとかなるさ」精神で起業
――起業を決意されたのはどうしてでしょうか?
下田:理由は単純です。自分が「やってみたい」「楽しい」と思う方向に進みたいと思ったからですね。VSQを退職したのちに、上司と3人で株式会社風車という会社を立ち上げました。仕事内容についてはVSQ時代とほぼ同じでしたが、しばらくしてプロジェクションマッピングに出会うことになります。知り合いのディレクターさんが東京駅のプロジェクションマッピングに携わっていたご縁でお話を聞くことができ、「何それ、楽しそうやん!」って感じで、ぼく自身はすごくテンションが上がっていたんですけど、プロジェクションマッピングに対してスタッフたちとの温度差を感じてしまって…こうなったら新しい自分の会社を立ち上げて、自分が直感的に「楽しい」と思うことをしようと思ったんです。
▲初めて手掛けたプロジェクションマッピング
――起業前に、まず何を準備されましたか?
下田:意識したことは「自分自身にファンをつける」ということ。"この会社に仕事をお願いしたい"ではなく、"下田さんにお願いしたい"になるようにしようと、仕事の効率を上げるためというのもありますが、積極的に携帯電話の番号も伝えていましたね。そうするとそのうち、ぼくの携帯電話に直接連絡がくるようになったんです。
――ファンをつけるって、簡単なことじゃないですよね。
下田:CG会社としてはあまりやられていないのですが、発注をいただいた内容を会社で制作するのではなく、PCや機材をごっそり持っていってクライアントがいるところで一緒に作業をするということも実践していたんです。実際に顔を見ながら作業した方が人柄も伝わりやすいですし、ひとつの"体験"として記憶にも残りやすいかなと思ったんですよね。
――資金についてはどうでしたか?
下田:実はほとんど自己資金がなかったので、身内に少し借りることにしたのと日本政策金融公庫に融資をお願いしました。楽観的な性格なので、自己資金がなくてもどうにかなるかと思っちゃったんですよね。…融資していただいたおかげで、どうにかなりました(笑)。
――自己資金がほとんどない状態で起業をされたという下田さんの体験は、今から起業を考えている方にとって励みになりそうですね。実際に起業してみていかがでしたか?
下田:仕事は割と順調な滑り出しだったんです。困ったこともほとんどなく、当時"自分自身にファンをつける"という作戦が功を奏したのだと思います。
福岡にいるからこそ輝ける
――ランハンシャがここまで成長した要因は何だと思われますか?
下田:九州内で競合が少ないことですかね。風車時代にプロジェクションマッピング事業をスタートしましたが、その時、西日本の会社でプロジェクションマッピングを手がけていたのは、多分うちだけだったと思います。それからCGはもちろん、九州で"プロジェクションマッピングといえば下田"というイメージを持っていただけるようになったのではないかな…と。
※西日本シティ銀行でもCMやプロジェクションマッピングをグルーヴィジョンズさんと担当いただいた。
(こちらのプロジェクションマッピングは2015年当時のものです)
――下田さんは今でもいちプレイヤーでいらっしゃいますよね。
下田:そうなんです。CGは日進月歩の世界ですから自分がプレイヤーでいることが大切だと思っていますし、ぼく自身が現場に足を運び一緒に作業をすることで、ランハンシャという会社自体を印象づけられるのではないかと考えています。ただ、今後はもう少し"経営者"としての仕事の割合を増やしていこう、というところです。
――福岡以外にも取引先が多いランハンシャですが、拠点を福岡においているのはどうしてですか?
下田:ごはんがおいしい、自然が近いなど生活環境の良さはクリエイティブな仕事にも影響していると思います。それからここ数年力を入れているのが、森とテクノロジーの融合。森の中でプロジェクションマッピングをしたり、いろいろな可能性を探っているところです。そういうアイデアが思い浮かぶ、そして思い浮かんだらすぐに試せる土壌があるっていうのは、やっぱり福岡に拠点をおいているからこそなんでしょうね。
▲ドライブインシアター糸島 「フォレストナイトドライブ」
https://www.forest-night-drive.com/
――今いろいろ振り返ってみて「起業前に準備しておけばよかった」と後悔していることはありますか?
下田:やはり自己資金の貯蓄でしょうか。自分で会社をやるなら資材も多いので倉庫をオフィスにしたいと思っていたので、倉庫を借りて内装にもこだわりました。そんなことをしていたら、割と初期費用がかかってしまったんですよね。自己資金がほとんどなくても何とかなりましたが、やっぱりやれることも広がるので資金があるに越したことはありませんね。
――これから起業を考えている方にアドバイスをお願いいたします。
下田:とにかく"やってみる"しかないってことですね。岡本太郎氏が残した「危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ」という言葉があるんですが、迷った時は必ず思い出すんです。くよくよしていても、結局自分が行きたい道はそっちなんだから仕方ないじゃない、と。もちろん最低限の準備は必要ですが、「やりたい!」と思った立った時のエネルギーに勝るものはないですから。
一見無謀にも思える下田さんの「なんとかなるさ」精神。しかし、何が起こるかわからないことばかり心配して予防線を張ってばかりいては、なかなか前に進みません。迷った時は敢えて危険な道を選ぶことを自らに課する下田さんだからこそ、どんな壁をも乗り越える精神力と知恵を持ち合わせているのでしょう。
株式会社ランハンシャについて
■会社概要
会社名:株式会社ランハンシャ
URL:https://run-hun.co.jp/
所在地:福岡市中央区港3-4-25
設立:2013年11月
代表取締役社長:下田栄一
■事業内容:CMのCG制作。プロジェクションマッピング、デジタルアートイベントなどの企画制作。その他PV、LIVEオープニングWE Bムービー、VR、AR、映画などのCG演出。
■問い合わせ先
MAIL:info@run-hun.co.jp
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
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愛媛県四国中央市出身。大学卒業後に上京し、ファッション誌やライフスタイル誌の編集に携わる。2016年、東京から福岡への移住を機に、出版社を退社。フリーランスのエディター・ライターとしての活動をスタートさせる。現在は糸島市在住。博多人形師育成塾の6期生。