
人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
電動キックボードという乗り物をご存知でしょうか?地面を蹴って加速するキックボードとは異なり、電動でけり続けることなく楽に移動することができる新たな乗り物。「電動スクーター」「イースクーター」とも呼ばれ、アメリカをはじめ世界中で愛されています。ただし日本の現行法上では電動キックボードは"原動機付自転車(原付)"として扱われるため、公道で走行するには国土交通省が定める保安部品の取り付けや免許証の携帯が必要です。
福岡を拠点に電動キックボードのシェアリングサービス『mobby(モビー)』の展開を進めるのが、今回ご紹介する株式会社mobby ride。自治体や施設に向けて敷地内の移動手段として取り入れてもらえるよう働きかけると共に、政府の「新事業特例制度」を利用して特定エリアにおける自転車専用通行帯での走行を可能にしました。現在も日本各地で実証実験を行いながら、整備に取り組んでいます。
これまでの"移動"の概念を覆すと言っても過言ではない電動キックボード。その普及と、さらなるビジネス展開に挑戦する、代表取締役の日向諒さんの起業ストーリーを紹介します。

プロフィール
株式会社mobby ride
代表取締役社長 日向 諒(ひゅうが りょう)さん
1988年、埼玉県生まれ。青山学院大学国際政治学部卒業後、東京の広告代理店に就職。2016年6月よりAnyPay株式会社に参画し、2018年8月より株式会社LayerXの立ち上げに関わる。2019年6月に株式会社mobby rideを立ち上げ、代表取締役社長としてモビリティ事業に没頭中。
広告代理店を退職後、複数の会社立ち上げに携わる
――これまでの経歴と、株式会社mobby rideの設立に至る経緯を教えてください。
日向:大学卒業後、新卒で広告代理店に入社してスマホアプリに特化した広告営業部の起ち上げを担当していました。そんな時にクライアントとして知り合った株式会社Gunosyの代表(当時)木村新司さんと、フィンテック(金融を意味する「ファイナンス」とIT技術を意味する「テクノロジー」を組み合わせたサービス。キャッシュレス化の先駆けとも言われる)の会社を作ろうという話になり、広告代理店を辞めて2016年6月からAnyPay株式会社というフィンテックの会社に参画することに。そこでは取締役CMOとしてマーケティングや営業・アライアンス領域を統括し、BtoBの決済システムやQRコード決済といった、個人間のお金のやり取りに関わるサービスを開発していました。
ただ個人間決済やQRコード決済といったサービスは競合の多い領域だったので、何か新しく新規事業を始めようとしてブロックチェーンの領域とモビリティの領域の2つを新規事業として立ち上げたんです。その後、元々付き合いのあった株式会社Gunosyと共にブロックチェーン関連事業を行う合弁会社、株式会社LayerXの設立に参画しました。そこで代表取締役副社長を務めていたのですが、1年ほど経ってある程度事業が安定稼働してきたタイミングで退任し、モビリティ事業を専任することに。2019年6月にAnyPay株式会社からこの事業を切り離し、新たな法人格として株式会社mobby rideを立ち上げました。

――最初からモビリティで起業しようとしていたのではなく、AnyPay株式会社の新規事業を途中から引き継いだことが始まりなんですね。
日向:AnyPay株式会社を立ち上げた理由が、今に通じる大事なポイントになってくるんです。前職の広告代理店業は、言わば裏方の仕事。「お客さまがこういう商品を販売したいからPRしてください」という依頼に対してお力添えをしていく仕事なのですが、いろいろな案件に携わっていくうちに自分でサービスやプロダクトを作っていきたいという思いの方が強くなってきて。toC・toBといった、自分たちが"サービサー"となれるビジネスに携わりたいと思った切り口の1つがフィンテックであり、AnyPay株式会社でした。だからどちらかというと起業したいというよりはサービスを始めたいという思いの方が強く、その中で周りに一緒に起業しようと声をかけてくださった仲間がいたので始められたんです。
モビリティ事業に可能性を見出す
――新規事業を始めるにあたり、なぜ電動キックボード(モビリティ)に取り組むことにしたのですか?
日向:まずは単純に、電動キックボード(モビリティ)がすごく面白いと思ったから。ただし、「便利」や「楽しい」モノというだけではなく1つの"デバイス"として捉えていました。そうするといろいろとカスタマイズができるんですよ。電動マイクロモビリティは自転車のように人力で動くものとは異なり、通信機能やGPS機能を付加できます。例えば車体に通信機能を付けることで息を吹きかけるとアルコールレベルを感知し、基準値以下だったら鍵が開く。そうやって飲酒運転のような課題を解決するための制御や制限ができることが魅力だと感じました。電動キックボードのような新たなデバイスをどんどん日本にも持ってこられると面白いな、という思いが最初のきっかけでしたね。
――会社の新規事業が株式会社mobby rideになるまで、具体的にどのように進めていったのですか?
日向:新規事業を始めるにあたって最初に何をしたかというと、実は市場を見ることなんです。市場を見る上で、世界中のVC(ベンチャーキャピタル)のような投資会社がどういった分野に投資しているか、調査会社のレポートなどを見ながらチェックしました。当時はECやWEBの領域が多かったのですが、2017年くらいからどんどんブロックチェーンだったり、フロンティアテックと呼ばれる宇宙産業やモビリティ分野に投資していることが分かり、「外資のスペシャリストたちが注力している分野は伸びる」ということが分かったというか、モビリティの領域という選択は間違っていないことが一つの裏付けとなりました。
市場的にはある程度伸びていきそうだと分かると、次に日本ではなぜこれまでモビリティが普及してこなかったのかを調査しました。すると、法律上の問題があることが分かりました。その時点で諦めてしまいがちだと思うのですが、テクノロジーの進化に伴って生じるいろいろな問題やゆがみを解決することがスタートアップの役割だと思うんですよね。"ビジョン専攻型""社会課題専攻型"という形でアプローチすることによってこれまでのゆがみが直り、そこに市場ができていろんなメーカーや大手企業が参入して新たな市場価値が形成されるものだと思います。法律を変える…とまではいきませんが、ゆがみをどう直していくべきかという議論を自治体や規制省庁と話をしていて、ある程度方向性が見えてきたというか。今は1つの事業として実践できる土台が整ったところまで進んでいます。
――東京の会社から始まって現在は福岡市を拠点に事業をされていますが、福岡市との出会いは何だったのでしょうか?
日向:モビリティを導入していくにはいろいろな場所で実証実験をしていく必要があります。またモビリティは実際に"町"で使われるものなので、こういった新たなツールが入ってくることに対してポジティブな反応を示してくれる自治体の協力が必要です。ただ正直、最初はどの自治体からもポジティブな反応が得られませんでした。法律の壁もあるし、無理じゃないかというような…。そんな中、福岡市だけは「一緒にやりましょう」と受け入れてくださり、市が行っている「実証実験フルサポート事業」に採択してもらいました。町に入って行う事業なので、実際にその地域に住んでみないと分からないのではないかと思い、会社ごと福岡市に移ることにしました。

――福岡で起業するメリットを感じることはありますか?
日向:『Fukuoka Grow Next』のような施設もそうですが、ベンチャー企業と大企業が共創できる環境や、町自体にスタートアップを支援しようというマインドがあるので起業しやすいのではないでしょうか。
ただ一方で課題に思っていることもあります。事業が大きくなってきた時に、起業家としてはイクジット戦略というものを考えていかなくてはいけません。福岡の大企業は買収をしないことが多く、起業した会社が上場したり会社が大きくなったりすると東京に移る…という傾向があります。それってエコシステム(複数の企業や団体が業界の垣根を越えて連携し共存共栄する仕組み)としては最後が弱いのではないかと思っています。僕らのような起業家が上場するとして、次はその人たちがエンジェル投資家としてスタートアップを支援する立場に回っていくことがエコシステムを作っていく上で重要なんですよね。そのエンドポイントがないとサイクルが回り始めないので、時間はかかると思いますがそういった事例が増えていくといいなと思っています。
起業とは、課題に対しスキルを生かすこと
――今後の展望をお聞かせください。
日向:キックボードに限らず、"座れる3輪のモビリティ"というような様々な種類の電動マイクロモビリティを増やしていきたいですね。天候や目的地、荷物の量、体の状態など、環境や利用者の状態に応じていろいろなモビリティを選べるようにできたらいい。その後には都市計画や交通計画といった"まちづくり"の分野にもシフトできるのかなと思っています。
福岡もそうだと思いますが、どこの都市も「駅依存型」のまちづくりが主流ですよね。住居も店舗も「駅から徒歩5分」といった駅チカ物件の不動産の価格が高く、一方で駅から徒歩20分以上かかる不動産はまだまだ価格が低い状態です。そこで多様なモビリティが町に普及すると、幅広い不動産に付加価値が付き始めると思います。そうするとまた違った視点でまちづくりができるようになってくるのではないでしょうか。
――最後に、これから起業したい方に一言アドバイスをお願いします。
日向:起業するに当たって「儲かりそう」「簡単に稼げそう」というイメージを持つ方もいらっしゃるのですが、お金を稼ぐために事業をする人は"事業家"だと思っています。そうではなく、スタートアップの存在価値は社会にある問題やゆがみに対し、ビジョン専攻型でアクションを起こし続けられることだと思っています。抱えている課題に対して自分のスキルを生かし、アプローチできる領域があるんだったら起業した方がいいと思いますね。本当にそれは自分がやるべきビジネスなのか、自分が始めた方がより社会が良くなっていくのかということを徹底的に考えられる人が、起業家に向いていると思っています。

社内の新規事業として立ち上がり、「海外で注目を集めているサービスを日本に持ってこられたら面白いよね」という発想から始まった株式会社mobby ride。これまでの決済事業、投資事業、ブロックチェーン事業を通じて得たノウハウや経験を生かし、モビリティを"移動手段"から"まちづくり"という新たなビジネスモデルへと展開する日向さんの姿勢には目を見張るばかり。電動キックボードが抱える法律上の問題といった課題解決をスタートアップの存在価値として捉えるという言葉も印象的でした。
株式会社mobby rideについて
■会社概要
会社名:株式会社mobby ride
URL:https://mobbyride.jp/
所在地:福岡市中央区大名2-6-11 Fukuoka Growth Next内
代表取締役社長:日向諒
■事業内容
電動キックボートのシェアサービス『mobby』を展開
■問い合わせ先
MAIL:pr@mobbyride.jp
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817
福岡県福岡市出身・福岡市在住。地元の大学を卒業後、ペット雑誌「犬吉猫吉」や旅行情報誌「九州じゃらん」の編集に携わり、フリーライターとして独立。ペット雑誌の経験を活かし、ペット関連の取材や執筆をする"(自称)ペットライター"としても活動中。趣味はネコグッズ集め、ライブ鑑賞、プロ野球観戦。