インタビュー

社会貢献領域で仕事を増やし、地域に恩返しを。| YOUI 原口唯さん

By 佐々木恵美

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2021.04.01
株式会社YOUI 原口唯さん

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。

ソーシャルビジネス、オープンイノベーション、デザインシンキング、SDGs―。世界のトレンドともいえる分野である一方、これらの言葉になじみのない人も多いかもしれません。今回の主役・原口唯さんは福岡を拠点に、これらを含むフィールドで新たな社会価値を提案するコンサルティング会社YOUIを経営されています。大学生のときの"内定切り"に始まり、悩み考え行動しながら切り拓いてきたキャリアの軌跡や起業にまつわる話を、ざっくばらんにお話してくれました。

原口さん

■プロフィール
株式会社YOUI 代表取締役
原口唯(はらぐちゆい)さん

糸島市で育ち、2011年に九州大学芸術工学府修了後、都市開発コンサルティング会社、自治体シンクタンクを経て、2017年に株式会社YOUIを設立。その他、 一般社団法人大牟田未来共創センター理事、認定NPO法人エデュケーションエーキューブ理事などを務める。

独立のきっかけは、職場と契約交渉するため

――まずはYOUIの事業内容を教えてください。

原口:「社会課題解決から社会価値提案へ」をミッションに掲げ、行政や企業、市民などの多様な主体がより良い社会づくりを進めるための支援をしています。と説明しても、いつも人に理解してもらうのが難しくて…(苦笑)。
具体的には大きな柱が2つあります。一つはNPOやソーシャルベンチャーの支援。NPOやベンチャーが活動するためにはお金が必要で、国や助成財団の競争的資金などを一緒に申請し、採択されたら一緒に事業をしています。今は10チームほど支援しています。
もう一つは、企業のオープンイノベーションの支援で、新しいビジネスを作るワークショップの設計や運営を行っています。そのほか、SDGsやCSRの推進などもやっています。

SDGs推進

――どれも専門性の高い分野で、どうやって起業に至ったのか気になります。学生時代は何を学んでいたのですか?

原口:九州大学の芸術工学部で建築を学びました。ただ、私は自分が物を作るより、デザイナーや起業家を応援する仕事がしたいと思い、東京のオフィス不動産仲介のベンチャーに就職予定でした。ところが、リーマンショックの影響でいきなり内定取り消しに。電話で「地方の女の子はいらない」というようなことを言われて、「社会なんか信じられない!」と深く傷つきました。
それから大学院に進学し、東京の大手企業でインターンも経験したのですが、東京での大きく華やかなビジネスがしっくりこなくて、ご縁あって福岡の都市開発コンサルティング会社に就職しました。

――内定切りなんて大変でしたね。会社ではどんな仕事を?

原口:入社後、プロジェクトプランナーとして、まちづくり協議会の資料作成や調査業務などをやっていました。また、入社した2011年に設立された福岡地域戦略推進協議会(通称:FDC)で、多種多様なアシスタント業務に携わらせていただきました。FDCは、福岡の将来を描き、成長戦略の策定から推進まで行う、産学官民一体のシンク&ドゥタンクです。200を超える企業や自治体などの会員を中心に、新たなサービスやビジネスを生み出し、都市の成長を目指しています。

福岡地域戦略推進協議会

▲福岡地域戦略推進協議会 提供

――いきなり難しそうな仕事ですね。

原口:ハードワークでしたし、はじめのうちは仕事ができない自分に絶望しましたが、少しずつ慣れていきました。5年目には、福岡アジア都市研究所という福岡市の外郭団体で、FDCの仕事だけを担うポジションができて、そちらに籍を移しました。私にとっては転職ですが、外から見ると「FDCの原口」ということで、何も変わらなかったと思います。
ただ、新しい職場では給料は上がらず、仕事量はさらに増えいき…。当時の上司に嘆いたところ、「それはお前の責任だ。不満があるなら、個人事業主になるか自分で会社を作って、契約交渉をすればいい」とアドバイスされて、「その通りだな」と納得。それでYOUIを立ち上げました。

創業2年目、自分ができることをSNSで発信

――勢いで起業された感じですか。

原口:はい、30歳になった2017年に株式会社YOUIを立ち上げました。崇高な理由なんてなくて、まさか自分が起業するとは思ってもいなくて。学生時代からいろんな起業家の方にお会いしてきて、すごいなあと尊敬するばかりで、私はこんな方たちを応援していく役割だと思っていましたから(笑)。

――個人事業主ではなく、株式会社にされた理由を教えてください。

原口:10年ほど前、仕事の一環として、福岡の女性起業家や個人事業主の方々にお話を聞かせていただく機会がありました。個人事業主だと契約してもらえないとか、女性は肩書がないと相手にされにくいとか、皆さんご苦労されていました。だから、はじめから株式会社にしました。

――YOUIを立ち上げて、どんなことをしたかったのですか?

原口:FDCで円滑に働くために作った法人なので、あまりイメージはありませんでした。ところがFDCと業務委託契約を結んでいただくと、想定以上の金額になったものの仕事も激増しまして、そこは想定外でした。あわよくばFDCで都市の経済成長を追うだけでなく、他の仕事もしてみたいと思っていたのに、全く余裕がなくなりました。ちょうど優秀なスタッフが増えてきた時期でもあり、7年でFDCを卒業することにしました。

――起業して1年後ですね。

原口:そうです。自分の意向でFDCとの契約を終えたものの、なんの根回しもしてなかったので、起業2年目の4月1日は契約がゼロ。その日は朝、目が覚めて「することがないな」と思い、まる1日寝てました(笑)。
そもそも自分に何ができるか、自分をどう売っていけばいいのか分からない状況でした。とりあえずfacebookで「NPOやソーシャルベンチャーの支援、オープンイノベーションの支援、SDGsやCSRの推進をやります。ご連絡ください」みたいにお知らせしたら、何人か連絡してきてくださったんです。仕事のない時期が長かったら、やさぐれていたかもしれませんが(笑)、おかげさまで軌道に乗っていきました。

DNP新ビジネスプロジェクト

全てが自分の責任だから、気持ちがラクになった

――起業から現在まで仕事を継続できている要因は何だと思われますか?

原口:人のご縁と、事業領域のユニークさでしょうか。例えば、弊社がやっている企業向けのデザインシンキングやSDGsの研修は、福岡や九州でできるところの情報が少なくて、「FDCにいた原口さんに相談してみよう」と思っていただけるようです。前職からのつながりで、人脈に恵まれたことがすごく大きいと思います。

――SDGsについては、早くから取り組まれていましたね。

原口:タイミングの良さもポイントでした。私は2017年に「2030SDGs」のワークショップに参加して、とても感動したんです。それでこの考え方を広くお伝えしたいと思い、2018年3月にファシリテーターの資格を取り、カードゲームの体験会をしていました。すると、ちょうど社会的にSDGsが注目される時期と重なり、SDGs関連の仕事も舞い込んでくるようになりました。

SDGsイベント

――起業されて、素直にやりたいことに向かっていたら、どんどん広がっている感じですね。

原口:それはすごく感じます。YOUIは私にとって、行きたいところに行くためのお気に入りの車という感覚なんです。私がやりたい仕事をやりやすいようにしてくれる存在です。

――起業されて良かったですか?

原口:すっごく良かったです。心身がとても健康になりました。私の仕事は、自分の頭と体が価値の源泉なので、体調に気を付けるようになりましたし、自己投資して勉強することも増えました。
それに、会社員時代は失敗して会社や社内の人に迷惑をかけないようにという気持ちがとても強かったけど、今は私の組織で全ては自分の責任という点において気がラクに。どうしてあの人はやらないんだろう、みたいな他責の念もなくなりました。

社会貢献の領域で働ける人を増やし、地域に恩返ししたい

――今、振り返ってみて、やっておいて良かったと思うことがあれば教えてください。

原口:起業に関わらず、もともと人とのご縁は大切にしてきたつもりです。ご縁といってもただつながっているだけではなく、相手がどんなことに興味を持ち、お仕事のビジョンやミッションは何なのかといったことをそれとなく聞くようにしていました。ですから、何かふんわりとしたご相談があったときでも、その方が何を求めているのか先回りして考え、いろいろな情報を提供したりご紹介したりできるようになり、それが私の強みになっていると感じます。
コロナによってオンライン化が進み、関東や関西の会社に気軽に仕事を頼むことができるようになって、先ほどお話した弊社の地の利は一気になくなっている気がします。けれど、福岡の感覚を持っている私にコーディネートしてほしいと言ってくださる方々がいて、人のご縁って本当にありたがいなとしみじみ感じています。

――福岡を拠点に起業するメリットはどんなところでしょう?

原口:福岡は人との関係が密接で、尖ったことをしたらすぐ注目してもらえるのはいいところですね。それに、みんなで応援し合おうという雰囲気があり、いくつかの組織で得意なことを持ち寄ってプロジェクトを回すなど、助け合い、高め合える関係性にあるところがすごくいいと思います。弊社は地域の方々からいろいろなお仕事をいただいているので、地域に恩返ししたいという気持ちが強いですね。

九州大学産学官民連携セミナー「地域政策デザインスクール」

▲九州大学産学官民連携セミナー「地域政策デザインスクール」 提供

――YOUIや原口さん自身の今後の展望について教えてください。

原口:私自身はずっと「社会貢献の領域に関わる仕事がしたい」と思っていたけれど、まわりの大人には「無理だよ」と言われ続けていました。でも起業して、今はその分野で仕事をすることができて幸せです。
これからは、社会貢献の領域で仕事ができる人をもっと増やしていきたいというのが弊社と私の願いです。NPOなどで世の中にとって良い仕事をしているのに、給与の水準が高くないために、家族ができると辞めざるを得ない人も結構いるんです。NPOやソーシャルベンチャーの支援を通じて、世の中に良いことをしつつ、ちゃんと家族を養えるような人を増やしていくこと、そんな社会になるように力を尽くしていきたいです。

――最後に、これから起業を考えている人にメッセージをお願いします。

原口:私の経験から申し上げると、たとえ志がなくても起業はできます(笑)。私は起業してすごく自由になり体調も良くなり、やりたい仕事ができるようになりました。「起業したら責任があるし、稼がなきゃいけないから大変でしょう?」と言われたりしますが、会社員でもいろんなストレスがありますよね。起業は手段です。ご自分がどういう風に生きていきたいかをよくよく考えていただくことが一番大切で、さまざまな選択肢の中の一つとして起業を考えてみてもいいのではないかと思います。

福岡の将来を大きく左右するような組織で、錚々たる顔ぶれに囲まれて仕事をしていた原口さん。いつもイキイキとした印象で、起業された背景には確固たる志があったのかと思いきや、流れに任せた選択であり、創業2年目の初日は契約ゼロだったという話には驚かされました。しかし、仕事が軌道に乗るまでのストーリーには、たくさんのヒントがありました。「起業は手段でしかなく、どう生きていきたいかを考えてほしい」というメッセージは、まさにその通りだなと思いました。

株式会社YOUIについて

■会社概要
会社名:株式会社YOUI
URL:https://youi.works/
所在地:福岡県福岡市博多区上川端町9-35 A101
設立:2017年5月
代表:原口唯

■事業内容
デザインプロジェクトにおけるコンサルティング事業

■問い合わせ先
Mail:info@youi.works

お知らせ

▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

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