接待交際費は企業活動に不可欠なものといえますが、無制限に経費として認めてしまうと、無駄遣いを見逃してしまう可能性があります。そのため、税法上では一定の範囲でしか経費として認めない「5000円基準」が定められています。この記事では、5000円基準のルールや、接待交際費と会議費の違いについて解説します。
接待交際費とは
交際費等の範囲
接待交際費とは、法人税法における「交際費等」に該当するもので、交際費や機密費、接待費などの費用のことです。法人が、得意先や仕入先など事業に関係のある者に対する接待や贈答、慰安、その他これらに類する行為のために支出するものをいいます。
わかりやすくいうと、主に得意先を接待するためにかかるお歳暮やお中元・飲食代などのことです。
交際費(飲食費)が厳しくチェックされる理由
取引先と食事をしたときの領収書を経理に出すと、「金額はいくらだったのか」「誰と食事をしたのか」といったことを細かくチェックされることがあるでしょう。これは、無駄な経費を使っているのではないか、プライベートでの食事の領収書を会社に回しているのではないかという確認でもありますが、実は税務処理上の理由もあります。
税務処理上における会議費と交際費の扱い
食事をしながら商談をした場合でも、一人当たりの金額が5000円以下の場合は会議費として処理できます。一方、5000円を超えた場合は交際費となります。会議費と交際費では税金上の扱いが異なり、交際費は原則経費になりませんが、会議費は経費になります。飲食費が厳しくチェックされる理由には、こういった税務処理の面も関係しています。
「接待交際費の5000円基準」のルールとは
接待交際費の5000円基準の要件
2006年(平成18年)度の税制改正により、一人当たり5000円以下の飲食代が交際費から除外され、全額を損金算入できるようになりました。これが交際費における「5000円基準」です。5000円基準の要件は、以下の4つです。
1.一人当たりの飲食費が5000円以下であること
5000円基準は、飲食費を参加した人数で割った金額が5000円以下である場合に適用されます。もし一人当たりの金額が5000円を超えてしまった場合は、その全額が交際費として取り扱われます。一人当たりの飲食費の5000円相当額を控除するという方式ではないので注意しましょう。
2.取引先などの接待のための飲食であること
5000円基準は、あくまでも仕入先や得意先など社外関係者に対する接待交際の飲食費が対象です。会社内の従業員や役員などの接待のための飲食費は含まれません。
3.旅行やゴルフなどでの飲食費は交際費等から除外できない
旅行やゴルフなどに伴う飲食費に関しては、5000円基準に含めることができません。一人当たり5000円以下の飲食費であっても、通常の交際費として取り扱われます。
4.店舗ごとに飲食費用を計算する
レストランなどで取引先を接待したあと、2次会として居酒屋やバーなど別の店舗に移動し、接待の飲食をしたとします。この場合は、それぞれの店舗で一人5000円以下かどうかを計算します。
5000円基準ができた背景
5000円基準ができた背景には、最大のメリットである「節税」が関係しています。そもそも、交際費は損金不算入というのが原則でした。しかし、交際費のすべてを損金にできなければ、事業を円滑に進めにくくなります。
そこで、交際費の中で飲食に関する接待費が一人5000円以下なら、交際費から除外して経費にできると定められました。実務上では、以前からも3000円~5000円程度であれば損金として計上できましたが、改正により税法上でも認められるようになったのです。
5000円基準のために保存しておかなければいけない事項
5000円基準で飲食費を接待交際費から除外するためには、以下の要件を満たしたレシートや領収書が必要です。
● 飲食があった年月日
● 飲食等に参加した仕入先や得意先、その他事業に関係ある者などの氏名又は名称
● 飲食等に参加した人数
● その費用の金額や料理店・飲食店などの名称及びその所在地 など
5000円基準に税金(消費税)は含まれる?
消費税抜きだと5000円以下になっても、消費税込みの金額だと5000円を超えてしまう場合はどうすればいいのでしょうか。その場合は、企業が採用している消費税の経理処理に応じて処理することになります。
税抜経理を採用している場合は、税抜き金額が一人5000円以下であるかどうか、税込経理を採用している場合には、税込金額が一人5000円以下であるかどうかを計算します。
社員に対する飲食代に5000円基準はない
社員に対する飲食代に関しては、福利厚生費・会議費・接待交際費に分けられ、5000円基準はありません。
接待交際費は主に得意先との接待のための費用のことですが、社員であっても常識の範囲を超えた支出であったり、福利厚生費や介護費に該当しないと判断されたりするものは、給与や接待交際費として処理するか、経費として計上しないようにします。
これは、経費として考えられるのはあくまでも業務上必要なお金であり、個人的なものや常識の範囲を大きく超えた支出については、税務署から否認される可能性が高くなるからです。
飲食をした際に5000円基準の判断が難しいケース
続いて、5000円基準の判断が難しい場合の具体例について解説します。
1次会・2次会をした場合
同じ会場で1次会と2次会をした場合は、合計した金額で5000円基準の判定を行います。一方、1次会と2次会を別の飲食店でしている場合は、それぞれの飲食店ごとに5000円基準の判定を行います。
● 【例】1次会:40人(合計金額16万円)、2次会:30人(合計金額16万5000円)
※2次会での新規参加者はいないと仮定
1次会・2次会が同じ会場の場合
● (16万+16万5000円)÷40人=8125円
この場合は、5000円を超えているため5000円基準には当てはまりません。
1次会・2次会の会場が別の場合
● 1次会:16万円÷40人=4000円
● 2次会:16万5000円÷30人=5500円
この場合は、1次会は5000円以下、2次会は5000円を超えているとそれぞれを分けて判断します。
得意先との懇親会でキャンセルが出た場合
飲食店で得意先との懇親会を開くことになり、一人当たり5000円のコースを10人分(5万円)予約したとします。しかし、当日1名がキャンセルとなり、最終的な出席者が9人になった場合は、5000円基準に当てはまるのでしょうか。
キャンセルが出た場合は、出席者のみで一人当たりの金額を計算します。計算式は「5万円÷9人=約5555円」となり、一人当たりの自己負担金額は5000円を超えます。よって、この場合は5000円基準には当てはまりません。
会議費とは
ここでは、会議費について詳しく解説します。会議費とは、企業の業務に関する打ち合わせなどで発生する費用のことです。社内外や従業員同士、取引先などは問いません。
会議費は、交際費と間違えやすい勘定科目です。特に飲食代については、会議費と交際費のどちらの勘定科目にするのが正しいのか、判断が難しい場合もあります。原則として、交際費は一定の要件を満たさない限り経費とは認められないので、勘定科目を明確に分けられるように違いを理解しておくことが大切です。
会議費の例
以下のように、業務上必要とされる打ち合わせや会議にかかる費用は、会議費として処理します。
● ホールや貸し会議室などの会場利用料
● 会議中に提供するコーヒーや弁当などの飲食代
● 取引先との商談にかかる費用
● 遠方で会議を行う場合の宿泊費 など
打ち合わせや会議の場所については、貸し会議室や社内の会議室などが考えられます。そして、レストランや喫茶店などで行われた会議の飲食代も会議費の対象です。
しかし、クラブやバーなどアルコールの提供がある場所での飲食代は、業務上の打ち合わせとしては適切でないことから、会議費として認められない可能性があるので注意が必要です。
5000円を超える交際費でも会議費として認められる場合
食事をしながら商談をしたとき、一人当たりの金額が5000円以下の場合は会議費、5000円を超えた場合は交際費になると説明しました。
では、外部の会議室を社内の会議のために借り、昼食を取ったケースを考えてみましょう。この場合は最初から会議が目的なので、5000円を超えても会議費として判断される可能性が高いといえます。
しかし、あまりにも費用が高額であった場合は、税務調査で会議費として妥当ではないと判断される可能性もあります。なぜ会議室を借りて場所代を支払わなければいけないのかを、きちんと説明できるようにしなければいけません。
接待交際費における損金算入の特例
中小企業は年間800万円まで接待交際費を経費にできる
2014(平成26年)4月1日から、中小企業(資本金または出資金が1億円以下)においては、年間800万円までの接待交際費を損金算入できるようになりました。
通常、中小企業であれば接待交際費だけで年間800万円を超える可能性は低いと考えられます。そのため、中小企業であれば5000円基準をあまり気にする必要はないといえるでしょう。
具体的な特例の内容は、以下の2つです。
年間800万円まで損金算入できる
1年間の接待交際費の金額が800万円までは、全額が経費(損金算入)となります。
飲食やこれに類するもの(接待飲食費)の50%を損金算入できる
接待交際費のうち、50%に相当するものを経費として損金算入できます。
接待交際費が年間800万円を超える場合
もし年間の接待交際費が800万円を超える場合は、上記の特例のどちらを選べばいいのでしょうか。
たとえば、接待交際費のうち接待飲食費のみで1600万円を超えた場合は、「接待飲食費の50%の損金算入」が有利になります。仮に接待飲食費が2000万円だった場合、1000万円(2000万円×50%)を損金算入できるので、年間800万円の損金算入を選ぶよりも金額が大きくなります。
ただし、中小企業において接待飲食費のみで1600万円を超えることはまれなので、基本的には年間800万円までの損金算入を選ぶことになるでしょう。
まとめ
接待交際費の5000円基準とは、一人当たり5000円以下の飲食代が交際費から除外され、損金算入できる制度です。接待交際費は税務調査で必ずチェックされるポイントです。交際費に当たるかどうかをきちんと判断し、税務調査で指摘を受けないように注意しましょう。
証券外務員1種
証券会社でマーケットアナリスト・デリバティブディーラーを経て個人投資家に転身。投資歴は20年以上。現在は、日経225先物を中心に、現物株、FX、CFDなど幅広い商品に投資している。