人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
新型コロナウイルスにより大きな打撃を受けている観光業。福岡県北九州市にある観光地・門司港も例外なく打撃を受けている。そんな門司港で2019年3月にオープンしたゲストハウス『PORTO』は、緊急事態宣言等の影響もあり一般宿泊者の受け入れを停止中。
依然厳しい状況が続く中、インタビューを受けていただいたのは『PORTO』を運営する合同会社ポルトの代表・菊池勇太さん。「ゲストハウス自体は赤字です」と淡々と話す菊池さんが語った起業背景にあったのは壮大な目標に取り組む姿勢でした。その想いとは。
■プロフィール
合同会社ポルト 代表
菊池勇太(きくちゆうた)さん
1989年、福岡県北九州市生まれ。コンサルティング会社、マーケティングリサーチ会社を経て、2018年に合同会社ポルトを設立。ゲストハウス『PORTO』や飲食事業、メディア単体事業を手掛け、合同会社ポルトと同時期に合同会社阿蘇人の共同代表も務めエリアの枠を越えて地域に寄り添った活動をしている。
社会の不公平感に課題を持った
――まずは合同会社ポルトとしての事業内容についてお聞かせください。
菊池:合同会社ポルトは事業内容でいうとゲストハウスの運営のほかに、飲食・物販業、メディア運営が事業になっています。しかし基本はマーケティングや企画が仕事で、例えば遊休不動産に対しての解決策をリサーチして企画、そしてそれを実行するという感じです。
――ということはゲストハウス『PORTO』の成り立ちもそういった立ち位置からでしょうか?
菊池:そうですね。もともと建物のオーナーさんから「なんとか活用できないか」と相談があり、建物自体も面白かったですし、雰囲気も門司港らしいなと思ってそこからゲストハウスという活用法に至りました。
――合同会社ポルトはマーケティング、企画が主なお仕事ということですが、そもそも起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
菊池:根本のところは小学生の頃まで遡るんですが、実は小学生の頃に重たい難病を患って、その時に母親から言われた言葉が影響しています。
病気がわかった時は"なんで僕だけこんな想いをしないといけないんだ"とふさぎ込んでいたんですが、母親からは「あんたなんかより大変なやつは世の中にいっぱいいる。アフリカの子どもたちなんかは戦争やっている地域もあるし、ご飯も食べれない子たちもいっぱいいる。あんたなんか病院におったら生きていけるんやけ、死にはせんのやし」とよく言われていたんですよ。
――すごい言葉ですね。
菊池:当時、小学4年生でしたが、本当に世界はそうなのかと疑問に持ちながら本などで調べてみると、本当にその通りで、 "なんでこんなに社会は不公平なんだろう" と思い、それが今もずっと課題感というかたちで残っています。人類がみんな幸せに、持続可能な暮らしができる仕組みってどうやったらつくれるのだろうと、答えが見つからないまま今の活動に至るという感じです。
――起業に至るまではコンサルティング会社、マーケティング会社にお勤めだったということですが、その経歴も先ほどの課題感に対するものが影響しているのでしょうか?
菊池:そうですね。大学では北九州市立大学の国際関係学科というところにいて、途上国開発を専門に勉強していました。やはり社会を良くしたいという想いで勉強していましたが、勉強していく中で、シンプルに地球自体が一番危ないと思ったんです。社会課題を解決するよりも環境問題に取り組まないと地球そのものの維持が厳しくなるのではないかというのが僕の課題設定でした。環境汚染がなぜ無くならないのか、どうしたらいいのかわからなかったので、環境問題に携わるコンサルティング会社に就職しました。
――そこからマーケティングに携わるようになったのはどういった経緯でしょうか?
菊池:環境コンサルの仕事をしていた時は、イギリスがはじめたカーボンフットプリントという考え方の普及を、経済産業省や民間企業と一緒に取り組んでいました。これは生活者が普段目に触れる商品のラベルにCO2の表示をして、カロリー表示と同じで、環境を気にする人はCO2の排出が少ないものを買うと想定していたのですが、賛同していただいた企業の売上に全く貢献できなくて、国の予算が無くなると同時に市場からその取り組みも無くなってしまったんです。
環境に優しいということを証明して頑張っていても、そういった概念はなかなか定着しないということがわかったので、生活者の行動を変えるような社会変革の必要があるなと感じたんです。そこで生活者の行動を追うところから携わる仕事をしたいとマーケティング会社に転職しました。
――そこから現在の合同会社ポルトを起業するに至ったのはどういった想いからでしょうか?
菊池:マーケティング会社では、会社として社会を変革していくとかダイナミックな動きをすることはなかったものの、民間企業や行政ともプロジェクト単位で仕事をしながら、まずは生活者の動向の知識を身に着けたいと思っていました。おかげでこの分野で専門性を高めていくことができたので、30歳になるあたりで起業しようと準備を進めていました。
課題を解決する手段としての事業
――合同会社ポルトを起業したのが28歳の時ですよね?
菊池:そうですね。僕が門司港の出身ということもあり、たまたま建物のオーナーさんから相談を受けたんです。起業の準備自体は進めていたので少し早まった感じです。そこから融資を受けるにあたって法人格が必要になり合同会社をつくりました。
――なぜ合同会社というかたちなのでしょうか?
菊池:単純にお金がなかったんですよ。貯金も7万円くらいでしたからね(笑)。株式会社の場合だと、諸経費などで30万はかかります。それにポルトは出資を受けるわけでもないですし、仮に事業売却の場合でも会社単位でなくても事業単位で売ることもできるので、株式会社にする理由は出資を受けるくらいだなと思って、それならば今は合同会社で十分という判断をしました。結構この辺はメリット・デメリットを調べましたね。
――貯金7万円。不安はなかったですか?
菊池:売上をつくることはなんとでもなると思っていましたね。前職でもパソコン1台と自分の頭で売上をつくってきたので、違う分野でもなんとかなるはずだと思っていました。とはいえ、建物活用でゲストハウスをつくるにはまず内装工事にお金が必要でした。お金がないことには何もはじめられないので資金調達を急ぎましたね。資金調達の相談はしっかり事業計画書もつくり、日本政策金融公庫と地元の信用金庫に行きました。1年目に1,000万円以上の融資を受け、そのあとに西日本シティ銀行さんにも融資いただきましたね。
――うまく融資を受けたんですね。
菊池:これは本当に人に恵まれているなと思ったのですが、資金調達するタイミングで門司港の税理士法人TA PARTNERSさんに相談に行ったんです。そこの税理士である相浦さんとは起業する前から知り合いで、「貯金ないですけどお金借りれますかね?」と相談したところ、僕に合った日本政策公庫の担当者を紹介いただいて。その紹介いただいた方も「こんなにお金なくて相談に来る人はじめてです」と笑いながら言ってくれて、可能性にかけて融資いただいたんです。僕の現状だときっと融資できないと思うんですよ。それでもその後も融資いただき、今でも伴走いただいていることは本当にありがたいです。
――ありがたいサポートですね。ゲストハウスオープンから飲食などその他の事業も拡大できたのはどういった要因でしょうか?
菊池:誰もやりたがらないことをやっているから目立つんだと思います。ゲストハウスの収益率は低いですし、ましてこんな地方でやるということにはリスクが大きいと思います。そんな一般的には尻込みするようなことを構わず突き進んできたので、勇気があると思われているのではないでしょうか。なので、いろいろな相談がきます。
そういった相談をマーケティングの知識を活かし企画にして実行する。その課題を解決するための手段が飲食や物販にいきつき事業として広がっていったという感じです。
――あくまで課題を解決するための手法がたまたま飲食業になったということですね。
菊池:そうですね。社会を変革したいという想いは変わっていません。そのため、今後の話にもなりますが、産業のアップデートを手掛けたいと思っています。すでに何社か話は進んでいますが、一つは社外取締役として大企業に携わることで社会にインパクトを起こし、そこから変革を促していきたいと思っています。それも僕自身は門司港という地方に軸足を置きつつ動いていきたいと思っています。
――なぜ地方(門司港)にこだわるのでしょうか?
菊池:門司港ってめっちゃ田舎なんですよ。でも産業構造として東京が衰退した街みたいに今後の社会がよくわかる構造をしています。将来の社会のかたちがよくわかるといいますか、今後日本社会が直面する課題に一番に取り組んでいる。その課題解決となるモデルが門司港を発として他の地域にも展開できたら本当に社会を変えられると思っています。
――地方で起業することはおすすめですか?
菊池:北九州において言えばいえばクリエイティブな仕事についている人が少ないので市場があまり無いように見えますが、この街にしかない仕事に取り組める面白さはあると思います。
さらに言えば、コロナの影響で事業転換しないといけない企業が増えました。デジタル化の話題もありますが、地方の企業は特に変革を余儀なくされていると思うので、そういった企業のサポートができるプロデューサーみたいな仕事は増えてくるのではないでしょうか。
――最後に起業を考えている方にアドバイスがあればお願いします。
菊池:起業するのであれば資金はあった方がいいと思いますね(笑)。貯金が絶対に「正」とは思わないですが、安心できるものがあるにこしたことはないと思います。よっぽどの覚悟がないとお金の面で挫折して目標にもたどり着けないと思うので、自分の負担が軽くなる保険みたいなのは持っていた方がいいかもですね。僕の場合はメンタルが特殊なので参考にならないかもしれませんですが(笑)、覚悟を持って動くことが大事だと思います。
お話しを伺う前までは、ゲストハウスを起点に事業展開をしているものだと思っていましたが、事業の数々はあくまで手段であり、根本には社会を変革するという強い意思がありました。菊池さんの言葉からは確固たる意思があり、そのブレない姿勢がファンを惹き寄せ、新たな仕事に繋がっているのだと思いました。今後は複数の企業に携わりながら社会を変えるという菊池さんのチャレンジ。注目です。
合同会社ポルトについて
■会社概要
会社名:合同会社ポルト
URL:https://moji-porto.com/
所在地:福岡県北九州市門司区東門司1--10-6
設立:2018年3月
代表:菊池勇太
■事業内容
・宿泊・飲食業
・物販事業
・メディア事業
・企画
■問い合わせ先
Mail:info@moji-porto.com
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
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