人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
年々移住者が増え、"住みやすいまち"としても知られる福岡県糸島市。福岡市内から電車で30分ほどのほどよい距離感と、山や海に囲まれた環境が魅力的な地域です。そんな糸島市に2017年に北海道札幌市から移住し2018年には「森とコーヒー。」を屋号としてコーヒー豆の販売をスタートさせた山田圭太さん。北海道時代の職業は札幌市役所の公務員だったという山田さんが、公務員という肩書を手放してまで縁もゆかりもない糸島市で起業にこだわったのはどうしてなのでしょうか。起業までの経緯や想いを伺いました。
■プロフィール
森とコーヒー。 代表・焼き手
山田圭太(やまだけいた)さん
1983年、北海道札幌市生まれ。33歳の時に札幌市役所を退職し、福岡県糸島市へ移住。2018年1月に「森とコーヒー。」の屋号で、自家焙煎のコーヒー豆の通販をスタートし、2019年1月に糸島市本に焙煎室をオープンさせた。
"暮らしを変えたい"から始まった転職・移住計画
――まずは、「森とコーヒー。」の事業内容について簡単に教えていただけますか?
山田:コーヒー豆の焙煎、店頭販売、卸、そして、Webショップでの販売などをメインにやっています。
――森とコーヒー。を立ち上げる前は、どのような道を歩んでこられたのでしょうか?
山田:ぼく自身は、生まれ育った北海道に住みながら市役所職員として、妻は食品分析の会社で働いていました。どちらも素晴らしい仕事ですが組織が大きかったので成果がわかりにくく、充実感を得にくいことにモヤモヤとした日々を過ごしていました。そんな時に妻と話していると、お互い新しい仕事にチャレンジしたいと思っていること、そして、"暮らしを変えたい"と思っていることがわかり、せっかく新しい仕事にチャレンジするんだったらやりたい場所でやろうということになったんです。
――コーヒーを仕事に、という答えにはすぐにたどり着いたんですか?
山田:いえ、実はぼく自身はもともとコーヒーが身近な存在ではなくて。妻は実家でコーヒーを豆から挽いて淹れていて、そういう話を普段の会話の中から知ってコーヒー自体に興味を持つようになりました。それから自分で道具を買い、まずは比較的手軽な手網焙煎からスタート。もくもくと豆と対峙する時間が心地よくいつか仕事にしたいと考えるようになりました。そこで出た夫婦の目標が「コーヒー豆の販売をメインに生計を立てること」で、その最初のステップとして「海辺でカフェをやりながら自家焙煎の豆も販売する」ということを考えていました。
――海辺ということで糸島市が移住先の候補にあがったのでしょうか?
山田:移住候補地は特に絞っていなくて、糸島市には縁もゆかりもありませんでしたが、たまたま妻が旅行で糸島市を訪れたことがあり「いいところだったから2人で行ってみよう」と。それから約1年半をかけて季節ごとに糸島を訪れ、ここに移住しようと決めました。移住するなら自然の近くがいいけれど、都心にもすぐ出られる距離で、空港にも出やすい場所がいい。そう考えた時に糸島市はベストな場所でした。
お店のオープンに向けて、一歩一歩着実に
――その後カフェではなく焙煎所をオープンされたのはなぜでしょうか?
山田:はじめのステップとして夫婦でカフェをやるという気持ちはあったんですが、夫婦ともに飲食店で働いた経験がなく…。どこかでまずは経験を積んだ方がいいなと思っていた時に、以前から移住の相談にのってもらっていた方からカフェの求人情報が出ていることを教えてもらい、そこで働かせてもらうことになったんです。妻はまた別のカフェでお互い1年半ほど働きました。その期間中にも妻と将来について話していく中で、自分たちの思い描くライフスタイルを実現できる仕事はカフェではなく焙煎所だね、という考えで一致。「森とコーヒー。」という屋号で、2018年1月にWebショップを開始、2019年1月に店舗をオープンしました。
――起業するために最初に取り組んだことは何ですか?
山田:妻と一緒に人生設計を考えたことですかね。1年先、3年先、5年先、10年先…と、目標を立てました。夫婦で起業をする場合、仕事という面だけではなく、暮らしもセットになってくるので、事前にイメージをすり合わせておくことはとても大切なポイントだと思います。
――起業準備における最大の壁は何でしたか?
山田:これは、店舗の場所探しですかね。移住先と住居はすんなり決まったのですが、実際にお店を出す場所を見つけるのに苦労しました。いちから建てる場合は予算や法律の規制が障壁になったので、賃貸物件をリノベーションをしようと考えていましたがなかなかいい物件に巡り会えず、途方に暮れていました。そんな時に、ふと自宅の窓から外に目をやると、当時、鬱蒼とした雑木林のようだった隣の土地が目に入ったんです。「隣の土地、もしかして貸してもらえるんじゃない?」と。そこで何とか持ち主の方にたどり着き、無事に借りることができました。肝心のお店ですが、いずれ住居を変えることも見越して、移動可能なトレーラーハウスにしました。自分たちの引っ越しと一緒に、お店も連れていけますからね。
実店舗のオープン前からお店のファンを増やす
――今だからこそやっておいてよかった、と思えることは何でしょうか?
山田:お店をオープンする約1年前に、まずはコーヒー豆を販売するWebショップを開設しました。さらにお店のオープンまでの準備段階から積極的なSNSへの投稿や自主開催イベントを実施しました。お店のオープン間際には、広場のウッドチップ撒きや駐車場の砂利敷き、看板製作などのお手伝いさんを募集して、お返しにコーヒーや試作のコーヒー豆をプレゼントしたりして。こうした活動を通じてお店づくりから関わってくれる方を増やしていくことで、自然とお店のファンになってもらうことができました。当時は「面白そうだからやってみよう!」くらいの感覚でやっていたことですが、今考えてみれば本当にやってよかった、と思いますね。
――資金の準備はどのようにされたのでしょうか?
山田:こちらも夫婦で話し合って目標金額を決め、移住をする1年半くらい前から計画的に貯蓄していき、足りない分は親族に借りることができました。当時は借金=悪みたいに考えていたのですが、金融機関から借りてもよかったな、と今となっては思いますね。やっぱり資金があれば、やれることの幅もグッと広がりますから。ちなみに今後は、返せる見込みがあればどんどん借りるつもりでいます。
――最後に、今後の展望について教えていただけますでしょうか?
山田:とにかくやりたいことはたくさんあるんですが…近い将来では引っ越しですね。夫婦で"住みたい場所でやりたいことをやる"というのをテーマにしているので、また新たに住みたい場所を見つけて移動することを考えています。
また、これからは、ただコーヒー豆を売るのではなく、ライフスタイルと商品を紐づけて提案できたらと思っています。例えば、キャンプで使いたくなるコーヒーグッズの販売とか。コーヒーがどういうシーンで飲まれることが多いのかな、ということを考えて、これからも新しいことを提案していく予定です。
そして中長期的にもうひとつ。起業したいと考えている方へのコンサルティング…というと少し大げさですが、ぼくたちが起業して経験したノウハウを伝えるような取り組みをしていければと思っています。それと絡めてどこか場所を借りてカフェイベントをやるのもいいなと。そこで将来起業したいという方に1日オーナーとして、オーナー業務をすべて任せるのもアリかな…と。
とにかくこれからもいろんなことにチャレンジし続けていくと思います。
山田さんの人生は"暮らし"が主役。こうして文字にすると「そんなの当たり前」、そう思われそうですが、キャリアや慣れ親しんだ環境を手放して理想の暮らしを考え直すというのはそう簡単なことではありません。しかし、実際には「そんな暮らしがしたい」と考えている人は多いはず。だからこそ、今、みんなが本当に求めているビジネスアイデアが次々に思い浮かぶのではないでしょうか。そう思わずにはいられませんでした。
森とコーヒー。について
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
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愛媛県四国中央市出身。大学卒業後に上京し、ファッション誌やライフスタイル誌の編集に携わる。2016年、東京から福岡への移住を機に、出版社を退社。フリーランスのエディター・ライターとしての活動をスタートさせる。現在は糸島市在住。博多人形師育成塾の6期生。