インタビュー

規格外の「未利用魚」を魅力的な商品へ!水産業界が抱える課題を解決する「お魚サブスク」|ベンナーズ 井口剛志さん

By 山本 佳世

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公開日 2021.07.08
ベンナーズ

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。

突然ですがみなさん、ご家庭で日常的に魚を食べていますか? 中には、「最近食べてない」「魚は捌くのが苦手…」なんていう方もいるかもしれません。実はいま、日本人の"魚離れ"が進み、漁業者も過去40年間で1/3以下に減少しているというデータも。そんな日本の水産業界が抱えるさまざまな課題を解決するサービスを立ち上げたのが、株式会社ベンナーズ代表の井口剛志さん。2018年4月、当時23歳の若さで会社を起こした井口さんの起業ストーリーに迫ります。

ベンナーズ井口さん

■プロフィール
株式会社ベンナーズ 代表取締役
井口剛志(いのくちつよし)さん

1995年、長崎生まれ福岡育ち。高校1年生で中退してアメリカの学校に編入。ボストン大学へ進学し、アントレトレーナシップ(社会起業学)を専攻する。2018年4月、帰国と同時に株式会社ベンナーズを立ち上げる。

起業後は自身とのギャップだらけだった

――これまでの経歴と、起業に至る経緯を教えてください。

井口:高校を中退してアメリカの学校に編入し、そのままアメリカのボストン大学に入学してアントレプレナーシップを専攻しました。アメリカに行った当初は起業しようとは考えていなかったのですが、アントレプレナーシップで学んでいくうちに「自分で何かを成し遂げてみたい」と思うようにはなりましたね。

大学3年生の時、まずは企業に就職してビジネスについて勉強したいなと思い、就職活動をしました。無事に内定をもらって内定式にも参加したのですが、最後の最後に「自分でやってみるのが一番の修行になるのでは」と思いたって、就職をせずに起業することを決断したんです。

――それからなぜ、水産業界のビジネスを展開することになったのでしょう?

井口:大学ではプラットフォーム戦略(複数の関係する組織を同じ舞台[プラットフォーム]に乗せることで効率的なシステムを構築すること)という講義を受けていて、「情報の不均衡制が生じている業種こそ、プラットフォームのビジネスモデルに適している」ということを学んでいました。私の祖父母は水産業に携わっており、この業界のことは多少なりとも知っていたので、これこそプラットフォームビジネスに適しているのではと思い、水産業に関するビジネスで起業することに。授業で学んだことをベースにビジネスプランを作り、帰国した時にユーザーになり得る方々にヒアリングすることから始めました。

ベンナーズ井口

――現在はどういった業種を展開しているのでしょう?

井口:水産物全般の卸売りや、魚の売り手と買い手をオンライン上でマッチングさせるプラットフォーム事業を展開していますが、現在メインとしているのは「フィシュル」というBtoCのサービスです。これは、定期的にご家庭へ味付けや下ごしらえをした魚の加工品をお届けする、言わば"お魚サブスク"。主に福岡県で水揚げされた新鮮な魚介を買い付け、その日のうちに加工して味付けを施し、真空パックしてお届けするというビジネスです。商品となる魚介は、味には全く関係のない理由で規格外として扱われる未利用魚という魚を積極的に漁師さんから買い付けています。
仕入れから商品開発、加工、販売までのすべての行程を自分たちで行っていることも特徴ですね。

未利用魚

――順調に事業展開されている印象ですが、困ったことなどはあったのでしょうか?

井口:いえいえ、起業してからは困ったことだらけなんですよ(笑)。いくら大学でビジネスについて学んだからといっても、実際は机上の空論だらけ。何も実経験がないままに起業したので、いろんな部分が足りなさすぎて…。特に水産業界の方と共通言語で話せないことが困りましたね。そして経営的にも知らないことが多すぎました。大いにギャップを感じましたね、実際の自分と。

――そんな時はどのようにして解決していったのですか?

井口:わからないことがあればネットで検索する、誰かに聞くなど、全てを学びの経験ととらえて一つひとつ修得していくだけですね。ごく当たり前のことなんですが、それを地道にこなしていきました。

――他にも、起業において苦労したことはありましたか?

井口:具体的な話ですが、資金調達には苦戦しました。最初は日本政策金融公庫の「新創業制度」で調達しようと思っていたんです。断られるケースが少なく普通に借りられると聞いていたのですが、私の場合は業界の経験が全く無いままに起業したので、借りることができなかったんです。そこで次は投資家に話をしに行くと、けんもほろろにされてしまい、あまりいい手応えが得られませんでした。

それでも興味を示してくれる方はいらっしゃって実際に投資を受けることはできたんです。ただ、当初私がやろうとしていたプラットフォーム事業は先輩方がどこもうまく行っておらず、「そのアイディア自体が実現性ないんじゃない?」と言われたこともあり、説得するのに苦労しました。起業して最初の1年は、大変なことしかなかったです。

――いろんな壁を乗り越えながら、これまで約3年歩んでこられたんですね。

井口:そうですね。特に、2020年春からのコロナ禍の影響は特に大きかったですし、逆に契機にもなりました。最初に始めたプラットフォーム事業が軌道に乗って、「さあ、これから」というタイミングでコロナ禍になってしまって。顧客は外食産業が大半だったので、一気に売り上げがほぼゼロになったんです。

そんな時に誕生したのが「フィシュル」です。元々消費者に近いところでビジネスをしたいという思いがあり、なおかつコロナ禍で漁師さんも困っていることを知ったので、消費者にも生産者にも貢献できることはないかと考えるようになりました。そこでプラットフォーム事業から、魚を買い取って自分たちで商品開発と販売をする方向へシフトすることを考えたんです。

ベンナーズ

持続可能な"魚食"をつくる

――「フィシル」はコロナ禍において誕生したビジネスなんですね。

井口:コロナがきっかけではありましたが、やはり根底には未利用魚の存在がありました。ある漁師さんから、「1匹500円の鯛を800円で売ってくれるのはありがたいんだけど、それよりもボリュームを捌いてほしい」と言われたことがあったんです。どういうことか聞いていくと、1トンくらいある大きな桶に入れられた大量の魚が行き場を失っていて、そんなことは良くあることだと言います。本当はこういう魚を何とかしてくれたらありがたい、と言われたことがずっと頭に残っていたんです。

ベンナーズ

――ピンチをうまくチャンスに変えられたということでしょうか。

井口:そうですね。しかも「フィシュル」はクラウドファウンディングで資金を集めることもできたんです。そういった時代の波に上手く乗って臨機応変に対応できたことも、今まで事業を継続できている要因ではないかと思います。

事業を進めるにつれて水産業界の課題が見えてきて、それをビジネスにも活かせたと言いますか。点と点がつながって線になったという感じですね。

――現在はFGN(Fukuoka Grow Next)に入居されていますが福岡を拠点に起業するメリットは何でしょう?

井口:福岡市には実証実験がしやすい環境が整っていたり、FGNといったベンチャー関連の施設を運営していたり、福岡市自体がベンチャーに対して応援しているという印象がありますね。FGNは士業の方への無料相談といったサービスが充実しているので、ここだけでも起業に関する準備を進められるのではないかと思います。

――今後の展望を教えてください。

井口:未利用魚の課題は福岡だけでなく全国…むしろ全世界規模の問題だと思うので、今後はフィシルの活動拠点を増やしていきたいと思います。そして未利用魚の加工品だけに限らず、持続可能な"魚食"をつくることが最大の目的なので、「フィシュル」以外にもいろんなサービスをつくっていきたいですね。いま私たちがしていることって水産業界が抱えるほんの一部の課題の、ほんの一部しか解決できていないと思うので。

――最後に、これから起業を考えている人へメッセージをお願いします。

井口:福岡市はこれだけ起業に関するサポート体制が充実しているので、ちょっとでも起業しようと思っている人がいればとりあえずFGNに行ってみては。難しく考えていることでも、誰かに相談したら案外「ああ、そんなこと」と言われることもあるんです。迷いがあるのならば、まずは行動してみたらいいのかなと思います。

ベンナーズという社名は、エジプト神話に登場するベンヌという不死の霊長に由来しているそう。その名のように「日本の水産業界にとって、最も必要とされる会社になるまで最後まで決して諦めません」という井口さん。コロナ禍を乗り越えて新たなビジネスへと発展させたその根底には、「日本の食と水産業界を守る」という強い思いがありました。

株式会社ベンナーズについて

■会社概要
会社名:株式会社ベンナーズ
URL:https://www.benners.co.jp/
所在地:福岡県福岡市中央区大名2-6-11 FGN203号
設立:2018年4月
代表:井口剛志

■事業内容
1.水産物流プラットフォーム関連事業
2.冷凍水産物及び加工品卸販売事業

お知らせ

▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

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