コロナ禍に沁みた人の温かさ!開業から7年の人気カフェオーナーの思いとは | HAPPY HILL 山田裕介さん

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
新型コロナウイルス感染症によって、飲食店は大きな打撃を受けています。福岡市の「Cafe & Dining HAPPY HILL」(カフェ&ダイニング ハッピーヒル)は、開業から5年で新たな展開に踏み出した矢先、予期せぬコロナに見舞われました。代表の山田裕介さんが起業前からこれまでの道のりを包み隠さず話してくれました。

■プロフィール
合同会社HAPPYHILL 代表社員
山田裕介(やまだゆうすけ)さん
1982年、福岡県柳川市出身。西南学院大学経済学部を卒業し、ケーブルテレビに入社。福岡のカフェや飲食店に勤務した後、2014年「Cafe & Dining HAPPY HILL」を福岡市大名で開業。薬院のKKRホテル博多1階に移転し、2021年3月からは今泉で営業。
目次
イタリアのバールに魅せられて開業を志す
――山田さんは飲食業に興味があったのですか?
山田:いえ、もともと考えたことがありませんでした、大学生のときも飲食店でアルバイトをしたこともなかったですし。ただ、祖母で美容室を経営していて、両親も美容師。小学3年生くらいから親が忙しいときは自分でご飯を作ったり、プリンやゼリーなどを作って食べたりしていました。
――大学卒業後はどんな仕事に?
山田:特にやりたいことがなく、ケーブルテレビの営業職になりました。新車を買えるお金を貯めることを目標に、1年半で達成して辞めました。大きな不満があったわけではないのですが、家族が身近で商売をしていて、お客さんたちに「ありがとう」と喜ばれてお金をいただく姿を見て育ったので、サラリーマンになって契約書のやり取りだけで済んでしまうことにちょっと違和感があった気がします。
――会社を辞めて、どうしたのですか?
山田:海外に行ってみたくて、コーヒーが好きだったこともありイタリアへ10日間のツアーに参加しました。ローマのバールでラテを頼むと、おじいさんがラテアートを描いて出してくれたので「写真撮っていいですか?」と聞いたら、裏で働いている人も全員連れてきて、写真に入ってくれたんです。みんなすごく楽しそうに働いていて、忙しい時間なのにお客さんも文句を言うことなく眺めていて。その雰囲気にすっかり魅せられて、自分もそんな場を作り楽しく働きたいと思いました。
がむしゃらに働き人を観察して、店をオープン
――イタリアで飲食への思いが芽生えたのですね。
山田:はい、帰国してたまたま行ったレストランのコーヒーがおいしくて、仕入れ先のハニー珈琲でアルバイトをさせてもらいました。そこからビストロバーなど4店ほどを転々として、調理や接客などを貪欲に身につけていきました。自分の店を持つという漠然とした目標を立てたものの、やり方が分からないからとにかく働いて学んでいく感じでした。

――どんなタイミングで独立されたのですか?
山田:独立する前の5年は筑紫野市に本社を置くOBU Companyで、魚のさばき方から接客、営業まで、とにかく目の前のことに食らいつき、がむしゃらに働く毎日でした。同社が手がける「居心地屋 螢」はホスピタリティが素晴らしく、私が在籍中に居酒屋甲子園で2度日本一に。お手伝いした東京出店も成功して人気店になりました。それで、自分たちがやってきたことは間違っていなかった、こんな心持でやっていけばいいのかなと思えて、32歳で自分の店を出そうと決めました。
――資金調達や物件探しは順調でしたか?
山田:資金はある程度貯まっていたのですが、心許なかったので銀行の友達に相談して500万円だけ融資を受けました。物件探しでこだわったのは、調理しながら全体を見渡せること。探し回って、ようやく福岡市中央区の大名で見つかりました。
――念願の店をオープンするときはどんな気持ちでしたか?
山田:正直なところ、最初のお客さんを迎える前までは怖さの方が強かったですね。店を改装している間は、ずっと店の前に座って人の流れを見ながら、「ランチタイムは毎日同じ人が通るから日替わりにしなきゃ」とか考えてました。アルバイトの募集を出したらありがたいことに100人以上の応募があり、6人採用しました。
ホテルで営業を始めたもののコロナで急変
――2014年、いよいよHAPPY HILLをオープンされました。
山田:店の前に黒板を出して「オープンまで〇日」とカウントダウンしていたので、「待ってました」と来てくれる人が結構いました。初日は調理して知り合いに挨拶して…バタバタで、記憶がないくらい疲れ果て、もう2日目は休みたいと弱音を吐いちゃいました(笑)。ランチは常連さんが来てくれるようになったけど、ランチは客単価が低いので、いかに夜に来てもらって満足度を上げるかが今も重要な課題です。

――2019年4月、薬院のKKRホテル博多に移転されたのはなぜでしょう?
山田:知人から声をかけてもらい、入札に参加しました。大名でオープンして4年半経つと、何となく先が見えた気がしていました。大名の店は最大30人しか入れず、結婚式の2次会などパーティの問い合わせをお断りして残念だなという思いもあり。入札で決まったときは、壁を越えてちょっと先が開けたかなと素直にうれしかったです。個人事業主から合同会社にしました。
――ホテルは今までと違いましたか?
山田:ホテルの朝食を業務委託で受けたので、日によってバラつきはあるものの朝だけで売上があるのは大きかったです。100人収容で大きな予約も取ることができました。社員3人とアルバイト18人の仲間と共に、おいしくて居心地のいい店づくりに励んでいました。
でも、1年も経たないうちにコロナで状況が一変。お客さんが一気に減り、パーティの予約が1年先まで全てなくなって…本当に恐ろしい経験でした。それでも宿泊客1人の朝食のために店を開けなければいけないのも大変で。テイクアウトやネット販売、クラウドファンディングなどできることを探してやってみたものの、打開策にはなりませんでした。
――せっかく先が開けていたのに…。
山田:ホテルの赤字を補填するため2号店を出そうと思い立ち、人の流れがあった今泉で物件探しを始めました。その間にも赤字が膨らみ続け、ホテルの契約更新の時期が来て、新しい物件も見つかっていないのに更新しないと決断しました。それから今泉で理想の物件に出会い、2021年3月にオープンしました。

辛いときに浮かぶのはお客さんや生産者の顔
――起業や移転などを決断される際は、誰かに相談されるのですか?
山田:起業前から妻とはよく話します。ずっとサポートしてくれて、すごくありがたいです。友人知人にも助けられています。20年ぶりに会う小学校の同級生が店に来てくれたり、大学の同期が予約を入れてくれたり。西南学院中学に通っていたので、同級生が社長になっていたりして、「最近どう?」と自然に経営の話になったり。
大学生のときにふと浮かんで、大事にしている言葉があります。それは「人に素直に、自分に正直に」。人に嘘をつかずに付き合ってきたことが良かったと感じています。
――起業して7年、お店を継続できている要因は何でしょう?
山田:うーん、そうですね、苦しいときに出てくるのはお客さんや生産者さんの顔です。支えてくれる常連さんたちを裏切っちゃいかんという思いがあります。あと、うちは生産者さんとの距離がとても近く、現場を見学させてもらって直接取引しています。本当に辛くて店をやめたいな、閉めた方がラクだなと思うこともあったけれど、皆さんの顔が次々に浮かんできて、やっぱり「元気でやってます」と伝えたいなと思い直して…。常連さんの期待や生産者さんとのつながり、そしてもちろん家族やスタッフの支えがあるから続けられているのだと思います。

自分が思うよりも、まわりの人が応援してくれる
――今泉の店舗は明るくて素敵な雰囲気ですね。今後の抱負を聞かせてください。
山田:おかげさまで、大名のときのお客さんもまた来てくれるようになりました。まだ自粛ムードで経営の目標値にはほど遠いのですが、店がなくなる危機は乗り越えて前を向いてやっています。これまで同様、料理もお酒もコーヒーも全て自信を持って出せるレストラン&カフェでありたいです。それに、カフェ×ウエディングという軸で、気軽に肩ひじ張らない場を提供できるといいなと考えています。
最近はスタッフが「将来独立したい」「ラテアートで有名になりたい」と目的を持って入って来てくれています。僕もいつまでもチャレンジしていきたいです。

――これから起業する人にメッセージをお願いします。
山田:予期しないことがいろいろあると思うけど、明石家さんまさんがよく言う「生きてるだけで丸儲け」ではないでしょうか。今回のコロナを通じて、自分のまわりには自分で思っているよりも心配して助けてくれる人がいっぱいいると気付かせてもらいました。クラウドファンディングに挑戦したら292人から243万円の支援とコメントもいただき、こんなに応援してもらっているのかと感激しました。遠方の人から「店に行けないから、クラファンやってくれてありがとう」と逆に言ってもらったりして。経営に向き合うと、なかなか人に相談できず孤独を感じるかもしれないけど、弱音を吐いても応えてくれる人や応援してくれる人が意外にいっぱいいると思いますよ。
――起業を迷うなら、やった方がいいと思いますか?
山田:迷うなら、迷っている先を想像して、自分やまわりの人たちが笑っている姿を想像できるならやった方がいいんじゃないかな。誰かが泣いたり不幸になっているところしか想像できないなら、やめた方がいいと思います。

イタリアでの出会いから修業時代、独立、コロナ禍の激動まで、自らの歩みを語ってくれた山田さん。最後に何気なく「起業して良かったですか?」と問うと、「答えはまだ出ていません、すごく難しい質問で…」と返され、ハッとさせられました。穏やかな笑顔の奥には人知れずいろいろな苦労があり、軽々しく答えないところに山田さんの誠実さがにじみ出ているなあと感じ入りました。
合同会社HAPPYHILLについて
■会社概要
会社名:合同会社HAPPYHILL
Instagram:@cafe_happyhill
所在地:福岡県福岡市中央区今泉1-7-21-1F
設立:2014年
共同代表:山田裕介
■事業内容
カフェ&ダイニングの運営
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817
- 創業
Writer
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。
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