インタビュー

IT技術で地域産業・レガシー産業をアップデート!|クアンド 下岡純一郎さん

By 山本 佳世 |
公開日 2021.10.04
クアンド

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。

今やビジネスシーンにおいて、デジタルは切っても切り離せない身近な存在です。分からないことがあればパソコンやスマホで調べ、ビデオチャットを活用すればリモート会議もできる。一方、建設業や製造業の現場仕事においてはまだまだアナログな部分が多く、長時間労働や人手不足などの課題が浮き彫りになっているのが現状です。そこで「業界の常識を変えなくては」と立ち上がったのが、今回ご紹介する下岡純一郎さん。自身の生い立ちや経験から「地域産業・レガシー産業のアップデート」というビジョンを生み出した下岡さんの、起業に至るまでの経緯や想いに迫ります。

クアンド下岡さん

■プロフィール
株式会社クアンド 代表取締役CEO
下岡純一郎(しもおかじゅんいちろう)さん

1986年、福岡県北九州市生まれ。地元の高校を卒業後、九州大学(福岡市)、京都大学大学院(京都府)へ進学。P&Gや博報堂コンサルティングでの勤務を経て地元の北九州市へ戻り、2017年4月に株式会社クアンドを設立。

現場仕事の“負”を取り除くプラットフォームを開発

――まず、株式会社クアンドの事業内容や製品について教えてください。

下岡:我々がミッションに掲げているのは「地域産業・レガシー産業のアップデート」です。いわゆる地方産業やレガシー産業(IT化が浸透していない産業)と呼ばれる業界に対してIT技術を掛け合わせ、新たな事業を生み出しています。具体的にはコンサルティングをはじめシステム開発、プロダクト開発まで幅広く展開していますが、ここ1~2年はプロダクト開発へと舵を切り、2021年の夏には外部資金を調達しました。

――プロダクトとは、どういったものになるのでしょうか。

下岡:いま注力しているのが「SynQ(シンク)」という、現場作業をスマートにするためのプラットフォームです。その一つとして提供している「SynQ Remote(シンクリモート)」は、遠隔操作で現場の指示や確認を行うビデオコミュニケーションツールになります。例えば技術者が現地に出向くことなく遠隔地から指示を出したり、遠く離れた場所で起こった突発的トラブルに迅速に対応したりするなど、現場の生産性向上や技術継承の実現をサポートしています。

――このプロダクトによって、どんな課題が解決できるのでしょうか?

下岡:オフィスワーカーは「Office」「Google」といったデジタルツールを使っていると思いますが、現場で働く人たちは情報収集やコミュニケーションのために電話やFAX、口頭といったアナログな手段をとることが多いんですよ。そういった方法は時に非効率であり、“経験が物を言う業界”“一人前になるには10~20年”なんて言われることも。そうすると技術をすぐに習得できないので人が定着しない、高齢になったら働けなくなってしまう…という悪循環につながり、産業の“負”を生んでしまいます。そこで、現場に特化した情報を共有するプラットフォームとしてシンクを開発しました。時間や場所に関係なく現場で自分の役割を提供できる情報共有ツールを作りたかったというのが、根底にある想いです。

海外での経験と自身の生い立ちが起業の後押しに

――起業しようと思い至った経緯やキッカケは何だったのでしょう?

下岡:九州大学に在籍していた学生時代、大学の研修プログラムでシリコンバレーに行く機会がありました。シリコンバレーで成功した九州大学卒の起業家が、海外で学ぶチャンスを学生たちに与えるというものです。この経験が“スタートアップ”というもの触れたキッカケとなり、いつかは自分で会社を持つことを考えるようになりました。

クアンド

▲シリコンバレーにて

――起業する前は現場仕事に携わっていたのですか?

下岡:大学院卒業後に入社したP&Gでは、製造工場の生産管理や海外での工場立ち上げに関わる部署に在籍していました。そこでモノ作りの現場環境を見てきたという経緯はあります。父親が祖父の代から続く建設設備業を経営していたので、生まれた時から「現場」というものが近くにあったことも大きく影響していますね。

生まれ育った背景とP&Gでの経験を通じ、日本の現場力や技術力が世界でトップクラスであることを知ると同時に、現場に多くの課題が存在することで業界が停滞していることにも気がつきました。

――起業にあたって、まず取り組んだことは?

下岡:最初は解決すべき具体的な課題が見つからず、核となるプロダクトを作ることができませんでした。そこで最初の約3年は顧客の要望に応じたシステム開発やコンサルティングサービスの提供をしながら、地域産業の課題を汲み取ることに注力しました。そこで技術の継承問題や高齢化、現場の情報コミュニケーションの非効率といった共通の課題を見つけ出し、約1年を費やしてそれらを解決するプロダクトを作ることに専念しました。

顧客は父親の建設設備業やお付き合いのある地元の議員さんなどの商的なネットワークがあったので、そういったところのツテを伝って紹介してもらいました。

クアンド

地域産業を根付かせ、アップデートすることの重要性を見出す

――なぜ北九州市で起業することにしたのでしょうか?

下岡:私が生まれ育った北九州市の八幡という街は、新日鉄(現:日本製鉄)の八幡製鉄所があった場所です。街には新日鉄の社宅があり、企業のお祭りが行われるなど地域に根付いた企業でした。やがて鉄の産業が冷えていくのと同時に、街も寂しくなっていった。そういった街の姿を目の当たりにしていくうちに、地域産業の存在がその地域に暮らす人々の生活や文化、思想にまで影響を与えていることを痛感したんです。

それは北九州市だけでなく、P&G時代にイタリアで働いていた時にも感じていたこと。イタリア人は自分たちの土地を愛し、その場所でしっかりと産業を育てています。その姿を見て、いわゆるピラミッド型のアメリカ型資本主義ではなく、特色を持った産業がその土地に根付いていることが理想的だと感じました。

時代に合わせて地域産業をアップデートすることにより継続的に産業が生まれ変わることが健全ですし、そこに生きる人たちが世の中のマジョリティになります。僕も地域に根付いた産業を育み、その地域を愛する人々が暮らす街を実現したいと思い、地元の北九州市に戻ってきました。

北九州市風景

――福岡を拠点に起業するメリットは何だと感じられていますか?

下岡:一つはスタートアップと企業や大学との距離が近いので、必要なプレーヤーにすぐ会えること。東京では企業の社長や大学の教授と組むことは容易ではありませんが、福岡はコミュニティが東京に比べてコンパクトなので実現しやすいのかなと感じています。もう一つは、福岡市長がエンジニアに力を入れていること。エンジニアにとっては住みやすい都市ではないかと思います。

――ご自身はそういったスタートアップのコミュニティやサービスは利活用されたのでしょうか?

下岡:福岡市の『FGN』には最初から入らせていただきましたし、実証実験フルサポート事業を通してプロダクトのPRをすることもできました。北九州市の方では創業時の補助金を利用させていただくなど、行政のさまざまなサービスを活用させてもらいましたね。

――今後の展望を教えてください。

下岡:我々が展開しているビジネスは「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」という、ベンチャー界隈では一般的になってきているサービスです。これを活用して大きくなった会社は東京が中心であり、まだ地方には少ないという印象があります。そこでSaaSを利用して上場、もしくは大きくなった地方発のスタートアップモデルになりたいと思っていますし、シンクが製造現場や建設現場で一般的に使われるような世の中になるように頑張りたいなと思っています。

※SaaS…インターネットを経由してソフトウェアやアプリケーションを利用できるサービス

クアンド集合写真

――これから起業を考えている方にアドバイスをお願いします。

下岡:僕は最初、起業するにあたって資格試験のような感じでファイナンスやマーケティングについて勉強をしていました。それらをセオリーとして突き詰めていけば、成功できる会社や事業を作れるのではないかなと思っていたんです。そういった目的でP&Gや博報堂コンサルティングに入社したという経緯もありますが、どれだけ知識やナレッジを貯めても実際にやることと学ぶことは全然違うことを実感しました。小さくてもいいので、早い段階でまずは事業を始めてみることが重要になるのではないかなと思います。

社名の「クアンド」はラテン語で「時」という意味。映画監督が指示を出す際に使う「キュー」の語源にもなっており、“物事の始まりや変化を知らせる合図”という意味もあるそうです。「これからさまざまなモノの在り方が変わる中で既存産業が変化していくキッカケを知らせる存在でありたい、という想いをこの社名に込めています」という下岡さん。その想いに向けて会社を大きくする中で、エンジニアの採用に力を入れているそうです。興味のある方は下記からお問い合わせください。

株式会社クアンドについて

■会社概要
会社名:株式会社クアンド
URL:https://www.quando.jp/
所在地:福岡県北九州市八幡東区枝光2-7-32
福岡市中央区大名2-4-22 3階 OnRAMP内
設立:2017年4月
代表:下岡純一郎

■事業内容
プロダクト事業:現場向け情報共有プラットフォーム「SynQ」の開発
DX事業:課題抽出からシステム運用まで一気通貫の業務改善・企業価値の創出

■問い合わせ先
Mail:info@quando.jp

お知らせ

Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

タグ
  • 創業

Writer

おすすめの記事

対談記事【ビジネスのヒント】|接骨院から建設業へ。驚きの経歴と経緯
続きを読む >
お役立ち2025.10.23

対談記事【ビジネスのヒント】|接骨院から建設業へ。驚きの経歴と経緯

経営に関する悩みや課題を抱える事業経営者の皆さまにとって、銀行の営業担当者は心強いサポーターの一人です。そこで、リニュー編集部では、事業経営者と西日本シティ銀行の営業担当者にスポットをあててインタビュー。サポートのきっかけや、事業の成功までの道のりなどをざっくばらんにお話しいただきます。

【今月のZero-Ten Park】株式会社ストリ|心と体に美しさと健やかさを
続きを読む >
ニュース2025.09.30

【今月のZero-Ten Park】株式会社ストリ|心と体に美しさと健やかさを

福岡を中心に世界5カ国15拠点を展開するシェアオフィス&コワーキングスペース「Zero-Ten Park」。そこに入居している、今注目したい企業をピックアップ。今回は「株式会社ストリ」をご紹介します。

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」
続きを読む >
お役立ち2023.11.21

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」

これから就職先を探している学生のみなさんにとって、どんな企業が自分にとって働きやすいのか、気になりますよね。そこで今回は、西日本シティ銀行が取り扱う次世代ワークスタイル応援私募債『ミライへの路*』を発行している企業のみなさんにご協力をいただき、その企業で実際に働いている若手の社員に直撃インタビュー。なぜ入社を決めたのか、実際に働いてみてどんな感じなのか、などをヒアリングしました。また、併せて、各企業の経営者にも、求める人材像や今後の展望などをお話しいただきました。取材に協力いただいた企業は、地元・福岡で働き方改革に注力している、優良企業ばかりです。ぜひ、就職希望先の候補の一つとして、働く先輩たちのリアルな声をご一読ください。

【ミライへの路に挑む企業】地球を守り働く人の成長を支える環境調査会社|株式会社ENJEC
続きを読む >
お役立ち2025.07.18

【ミライへの路に挑む企業】地球を守り働く人の成長を支える環境調査会社|株式会社ENJEC

多様な生き方や働き方が広がりつつある現代。企業にはこれからますます、さまざまな人が働きやすい環境を整えることが求められます。社員の働きやすさを叶える企業の取り組みとは?この連載では、実際に働き方改革を積極的に取り組む企業で働く人や経営者にインタビュー。今回は、九州を中心に、水質、大気、土壌といった環境にまつわる調査・分析の事業を手がける、福岡市の株式会社ENJEC(エンジェック)に取材しました。

質の高い人材紹介サービスで、企業も求職者も従業員も幸せに |株式会社GR8キャリア 小畑和貴さん
続きを読む >
インタビュー2025.06.11

質の高い人材紹介サービスで、企業も求職者も従業員も幸せに |株式会社GR8キャリア 小畑和貴さん

医療・福祉業界の人材紹介サービスをメインに事業展開する株式会社GR8(グレイト)キャリア。代表の小畑和貴さんは宮城県出身で福岡に移住し、住宅メーカーから人材紹介業界に転職したという異色のキャリアの持ち主です。創業から1年足らずでメンバーは20人ほどに増え、順調な滑り出しといえます。しかし、組織や利益の拡大は求めず、あくまでも「質の高いサービス提供」と「社員とその家族が笑顔で過ごせること」にこだわり続けたいという小畑さんに、その思いの根源や起業のストーリーを聞きました。

番組・動画制作から拠点の運営まで、幅広い事業を展開|株式会社move on.e 岩谷直生さん
続きを読む >
インタビュー2025.06.02

番組・動画制作から拠点の運営まで、幅広い事業を展開|株式会社move on.e 岩谷直生さん

20歳から放送局の番組制作に関わり、個人事業主を経て、41歳で番組と動画制作を主軸にした株式会社move on.eを設立した岩谷直生さん。長年のディレクター経験を生かして、マスメディアの番組やイベントを手掛ける一方で、子どもに向けた全く新しい事業にも意欲的にチャレンジしています。

【事業継続力強化計画認定制度】概要や認定のメリット、申請支援事業も紹介
続きを読む >
お役立ち2025.11.25

【事業継続力強化計画認定制度】概要や認定のメリット、申請支援事業も紹介

近年、地震や台風などの自然災害、感染症の流行など、企業経営を取り巻くリスクが多様化しています。 こうした中で注目されているのが、災害や緊急事態に備えて事業を継続できる体制を整える「事業継続力強化計画(BCP)」です。 この計画の認定を受けることで、補助金申請時の加点や税制優遇など、さまざまなメリットがあります。 そこでこの記事では、事業継続力強化計画認定制度の概要や認定メリットに加えて、計画策定・申請を支援する取り組みについても解説します。

【中小企業必見】最低賃金引上げに伴う負担軽減策とは?福岡県の支援策も紹介
続きを読む >
お役立ち2025.11.25

【中小企業必見】最低賃金引上げに伴う負担軽減策とは?福岡県の支援策も紹介

令和7年度の最低賃金引上げにより、全国的に人件費の負担が増加しています。特に中小企業や小規模事業者にとっては、賃上げへの対応が経営上の大きな課題となっています。 こうした状況を受け、国や自治体では、最低賃金の引上げに伴う事業者の負担を軽減するため、各種支援策を打ち出しています。 この記事では、最低賃金引上げに対応するための国の主な支援策に加え、福岡県独自の支援制度について解説します。