人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。
「Live Your Life すべての人に、自分らしい人生を。」というミッションを掲げて、2013年に東京で創業した株式会社Waris(ワリス)。河さんを含む女性3人が共同代表を務め、女性の自由で多様な働き方を実現すべく各種サービスを展開し、数々のメディアで注目を集めてきました。河さんは2016年に夫と福岡へ移住して代表を続けています。「勢いで創業した」という経緯とその後の歩み、そして起業したい人への具体的なアドバイスまで、ときに笑いも交えながら本音を伺いました。
■プロフィール
株式会社Waris 代表取締役/共同創業者
河京子
1984年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科を卒業後、2007年にリクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。法人営業を担当し、企業と個人のマッチングに従事。その後、営業企画部門に異動して企業の大型採用を支援。同社在籍中に株式会社Warisを設立してボランタリーベースで経営に関わった後、2014年6月より現職。2016年に福岡へ移住。
女性というだけで採用から外される現実に愕然とした
――まずはWarisを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
河:もともとマイノリティの支援に興味があり、大学卒業後はリクルートエージェント(現リクルートキャリア)で中途採用をする企業に人材を紹介する営業担当として働き始めました。そこで大きな衝撃を受けたんです。人事担当の皆さんが「女性は紹介しなくていい」と言われるんです。どんなに優秀な女性を紹介したくても、「女性は出産や夫の転勤で辞めるでしょう」と取り合ってくれない…「これはおかしい」と問題意識を持ち、悶々とした日々を過ごしました。
――それはショックですね。
河:そこから4年で異動して、企業から採用活動を丸ごと受託する事業を担当するようになり、初めて「業務委託契約」を知りました。プロに業務を委託するこの形態について、法律や契約に関して一通り勉強しました。一方で、女性のキャリア問題をどうにかしたいという思いは強まるばかりで、社内のビジコンに女性チームで応募したりもしました。
そんな中、知り合いだった田中美和が女性のキャリア支援をするために日経BPを辞めて、フリーでライターとキャリアカウンセラーとして働き始めたと聞き、久々に会いました。そこで一緒に活動しようと盛り上がって、賛同者を集めるために美魔女レッスンをやったりして…かなり血迷ってましたね(笑)。
――美魔女レッスンですか(笑)。
河:でも「なんか違うね」としばらく試行錯誤。実は、当初から私の中では「女性と企業を業務委託という形でマッチングする」というビジネスモデルを描けていたけど、私自身が人材業に飽きていたので黙っていたんです(笑)。
でも、なかなかいいアイデアが出なくて、数か月後ついに業務委託マッチングの話をしたら、田中が大賛成。実際に業務委託で働いている知人の米倉史夏にヒアリングしてみようと会ったところ、「この働き方はすごくハッピーだから広げたいと思ってたの。私も混ぜて」という話に。それで、創業したいなんて全く思ったことのなかった3人が意気投合して、「よし、やっちゃおう」と2013年4月に株式会社Warisを設立しました。
ビジコンで経営を学び、とにかく人に話を聞いてもらった
――経営の知識があったのですか?
河:米倉は財務、田中はメディア、私は人材が強みで、経営はみんな素人。事業計画書を書いたこともなかったので、ビジネスプランコンテストに出て学ばせてもらおうと、神奈川県の「かわさき起業家オーディション」に応募しました。そこでビジネス・アイデアシーズ賞とプロのアドバイスもいただいて、とても有意義でした。
――起業する際に資金やオフィスはどうされましたか?
河:創業融資として1,000万円借りました。創業から1年間、私はまだ会社員だったので無報酬で、他2人の役員報酬だけミニマムに設定。オフィスについては、フレキシブルに動ける状態にしたかったのでコワーキングスペースを本社登記しました。
――起業して初めに取り組んだことを教えてください。
河:米倉と田中の知人に「よければランチかお茶で情報共有させてください」と挨拶メールを送り、1日5件ほどのアポに奔走しました。私は会社員だったのであまり動けなかったのですが、朝6時から3人でカフェでミーティングして、それから出社したりしていました、
人に会っていると「じゃあ、試しにこんな案件を」と言ってくださる企業の方がいて、そこから3人で大急ぎで友人のリストを見て、「〇〇さんならできるかも」とマッチングして。元コンサルだけど出産で仕事を辞めたような友人が結構多く、彼女たちが業務委託で働いてもらったら「基本単価が高くて、とてもやりがいがある!」と友だちに勧めてくれて、どんどん登録者が増えていきました。
――ウェブサイトも活用しましたか?
河:友人にサイトとロゴを作ってもらい、6月にサイトを立ち上げて登録者を募集しましたが、基本的には友人から広がっていきました。私たちには創業時からアウトソースの文化があり、自分たちでやることを明確にして、それ以外の仕事は社外のできる人にどんどんお願いして、それは必要なコストと捉えています。自分たちの優先1位はお客様の開拓で、社内ではそこに注力した方が絶対いいと思っています。
PRに力を入れメディアに紹介されたことで認知度がアップ
――Warisさんは創業すぐからメディアでも紹介されていました。
河:1年目から田中がBSジャパンに密着されたり、NHKの「おはよう日本」に取り上げていただいたりして、登録企業や登録者が増えました。創業からPRは力を入れていました。小さなことでも毎月のようにリリースを打ち、メディアに取り上げてもらったことがうまくいった要因の一つだと思います。私は2年目から正式にジョインしたのですが、1年目には黒字になっていたんです。
――時代の後押しもあったのでしょうか?
河:私たちが創業してすぐはまだ「フリーランスって何?」と言われ、第一子出産と同時に退職する女性が6割を占めていました。しかし、とにかく皆さんに知ってもらうことが大事だと活動を続けて、女性活躍推進法が追い風になったと思います。
――創業期は大変という感じでしたか?
河:毎日とにかく忙しかったけど、すっごい楽しかったです。3人で膝を突き合わせて、ああしよう、こうしよう、この方にいい仕事がないかな、などと議論するのが本当に楽しくて。そういえば、100個やりたいことを書き出し、3年後に振り返るとだいたい叶っていました。箱根の旅館に3人で集まって書いているとき、ゲラゲラ笑い過ぎて仲居さんに注意されたぐらい楽しかったんですよ(笑)。
――創業後に困ったことがあれば教えてください。
河:人材の育成ですね。大手と違ってうちには入社後の教育システムがなく、もともと優秀なメンバーを採用していました。すると、彼女たちがほったらかされていた自分の経験をもとに育成プランをどんどん作ってくれました(笑)。
強みと弱みを分析して、足りないところは外の力に頼る
――河さんはなぜ福岡に移住されたのですか?
河:私は岡山出身で、東京生活はしんどいなと感じていました。大阪出身の夫も私も2拠点生活に憧れていて、夫が仕事で住んだことのある福岡が大好きだったので2016年に移住しました 。 福岡のスタートアップ市場が高まっていた点も魅力に感じました。
田中と米倉はビックリしていたけど、その前に米倉が夫の転勤でニューヨークに行くかもしれないという話が出て対応を考えていたこともあり、どこにいてもリモートで経営できるから大丈夫という共通認識がありました。結局、今は米倉がベトナムにいて田中は東京ですが、全く問題ありません。
――福岡でWarisの市場を開拓されているのですか?
河:そうですね、福岡に来て産休・育休で少しお休みをいただいてから復職しました。東京に比べると、福岡は女性の活躍やフリーランス、リモートワークについての理解がまだまだ進んでいないと感じています。ただ、人材活用に関するセミナーなどで講師を務めることがあり、最近は多様な働き方というテーマに関心を持つ企業が増えてきました。
――立ち上げから8年経ち、順調な感じですか?
河:おかげさまで右肩上がりです。従業員はいろんな契約形態で約50人 、登録者が約1万8,000人、顧客企業約1,700社、売上規模は3~4億円になりました。
――なぜ会社を継続できているとお考えですか?
河:「頼る力」でしょうか。世界的にみて女性は自信がないという調査結果があり、客観的な強みと弱みを聞かれても弱みしか言えない女性が多いようです。自信があるかどうかはいったん横に置いて、個人でも会社でも、冷静に強みと弱みを分析して、足りないものを補っていけばいいと思っています。自社の力に限定せず社外の力にも頼るというのが 私たち3人の考え方で 、創業当時からいろいろな方の力をお借りした おかげで成長し、会社も継続できている 大変感謝しています。
――頼るときのポイントはありますか?
河:相手に迷惑かなと考えがちですが、意外と皆さん快く応じてくださるものです。「相談させてください」と曖昧にするのではなく、相手が分かりやすいよう明確に 「ここをお願いできませんか」「ここをこう助けてくれませんか」と伝えることが大切です。ベンチャーはスピードが大事なので、自分で調べて迷って分からなくて…という時間のロスがもったいないと思います。
考え込まずにまず「言うこと」「やること」が大事
――今後の展望を聞かせてください。
河:企業と女性のジョブマッチングを通じて「Live Your Life」を実現するというビジョンは変わらず、積み上げていきます。一方で、もっと加速するためには企業側の働き方に対する柔軟性を高めていくことが大切だと考え、今年1月企業に女性の役員人材 を紹介するサービス「Warisエグゼクティブ」を立ち上げました。意思決定層の多様化を目指しています。ほかにも、テクノロジーを使った新しいサービスなどを検討中です。
――最後に、起業したい人や何か始めたい人にアドバイスをお願いします。
河:私たちは「言うこと」と「やること」をすごく大事にしています。Wishがあるなら、まずは言ってみれば、私みたいに共同創業者が現れたり協力してくれる人が出てきたりして、一人ではできないことができるようになるかもしれません。そして、やること。今の時代は何が当たるか分からないから、あまり作り込まずにやって反応を確かめて、次のアクションを考えればいい。もしどうしようかと悩んでいるなら、まわりに積極的に発信して 、とにかく動いてみればいいと思いますよ。
明るくサバサバと、オープンに話してくださった河さん。やりたいことを人に言う、とにかく動く、100個の夢を書く、強みと弱みを分析して足りない ところを補う、外の力に頼るなど、起業したい人はもちろん、あらゆる人の役に立つヒントが満載でした。
株式会社Warisについて
■会社概要
会社名:株式会社Waris
URL:https://waris.co.jp/
所在地:[本社オフィス]
東京都千代田区神田鍛冶町3-7 神田カドウチビル8F
[福岡オフィス]
福岡県福岡市赤坂1-11-20 8bit赤坂201
設立:2013年4月
共同代表:米倉史夏、田中美和、河京子
■事業内容
人材サービス
有料職業紹介事業
雇用関係給付金取扱職業紹介事業者
各種セミナー、イベント等の企画・開催・運営
■問い合わせ先
Mail:info@waris.co.jp
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
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フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。