会社のことを知るために決算書は欠かせないものですが、十分に理解できていない人も多いのではないでしょうか。当記事では、決算書の種類や読み方、決算書から何がわかるのかについて解説します。
決算書は会社の成績表
決算書は、会社の一定期間の活動をまとめたものです。そして、基本的には自分の会社に投資してくれた人のために作成されます。具体的には、投資家や銀行などの債権者です。外部の人にとって、会社の業績を知る手段は決算書しかありません。
決算書では、主に次の3つをチェックできます。
収益性:いくら稼いでいるか
安全性:倒産の危険はないか
成長性:今後、会社は大きくなっていくのか
決算では、入ってきたお金(収入)と、出ていったお金(支出)を計算します。お金の出入りをすべて計算することで、これまでいくら稼いできたか、いくら使ってきたかがわかるようになっています。
決算書にはマイナスの情報も書かれているので、決算書を読めるようになれば会社の状態が理解しやすくなります。決算書の内容によって、投資家は投資判断をしたり、銀行は融資判断をしたりします。決算書は「会社の成績表」と言っても過言ではないかもしれませんね。
決算書の種類
会社がつくる決算書には、主に次の3つがあります。
貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう、Balance Sheet:BS)
損益計算書(そんえきけいさんしょ、Profit and Loss Statement:PL)
キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement:CS)
3つの表はつながっているので、その関係がわかれば、数字の裏にある企業の実態がわかるようになります。以下、詳しく説明します。
貸借対照表(BS)
貸借対照表は会社の「財産」がわかる表です。会社がどんな財産をもち、資本や借金がどのくらいあるのか、会社の財政状況がわかる表なのです。
貸借対照表には、以下の3つが記載されます。
損益計算書(PL)
損益計算書とは、1年間の収益と費用から会社の経営成績がわかる表です。「収益」「費用」「利益」が記載されます。たとえば、12月決算の会社なら、毎年1月1日から12月31日までの期間の収益、費用、損益がいくらかを示しているのです。
収益:どれだけ稼ぐことができたか
費用:どれだけコストがかかったか
利益:どれだけ儲けたか
を表しています。
キャッシュフロー計算書(CF)
キャッシュとは現金のことです。キャッシュフロー計算書は、会社の保有する現金が、1年間にどういう理由でどのくらい増減したかがわかる表です。会社の売上として入ってきたお金だけでなく、銀行から借りたお金や、お金をどのくらい使ったかが、この表でわかるようになっているのです。
決算書を見るとわかること
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの決算書を見ることで、主に次の3つのことがわかります。
儲けている会社かどうか
儲けとは、利益がでているということです。
決算書を見ることで、経費などを除いて会社にどれだけ儲けが残ったかがわかります。儲けは多いほどいいですが、会社の収益性(効率的に儲けているか)を見ることも大切です。
倒産しないかどうか
会社が倒産する前には、決算書のさまざまな箇所にサインがあらわれます。
たとえば、借金が増えていたり、現金が不足していたりすると、会社の安全性は低いと判断できます。
伸びている会社かどうか
決算書を見ることで、会社の成長性を判断できます。
会社も人間のように成長していきます。ただし、寿命はさまざまです。長く、大きく成長していくためには、会社の努力が必要です。その努力は、設備投資などに表れます。
決算書は会社の経理担当が作成する
決算書は、1年間の企業活動によって得られた成果を数字にしたものです。したがって、年商1,000億円の大企業も、年商10億円の中小企業も、最低でも1年に1回以上は決算書を作成しなければいけません。ただ、決算期をいつからいつまでに設定するかは会社の自由です。
決算書を作成するタイミング
上場企業の7割は、4月1日~翌3月31日の年度をベースに決算書を作成しています。この場合、3月31日の取引までを組み入れなければいけないので、決算書の作成は3月31日以降になります。ただし、決算が終わってから2か月以内に決算書を税務署に提出しなればいけません。そして、決算終了後3か月以内に株主総会を開きます。
決算書の作成には簿記や会計の知識が必須
決算書を作成するのは、会社の経理担当者や担当部署です。税理士などが担うケースもありますが、基本的に決算書を作成するのは会社の経理担当の役割と考えてよいでしょう。
しかし、決算書は1年に1回まとめて作成するわけではありません。日々の取引を整理、集計して決算書を作成するのです。つまり、決算書は日々の会計処理の結果を項目ごとに集計したものです。スピーディーで正確な決算書作成のためには、日々の会計処理の正確さがポイントになります。なお、決算書の作成には簿記や会計の知識が必要です。
初心者が決算書を見るときのポイントとコツ
それでは、決算書を見るときのポイントとコツについて解説します。
財務諸表の基本と見方
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などを「財務諸表」と呼びます。財務諸表を読む能力があれば、業界を問わず会社の実態を捉えることができます。取引先の経営状況をきちんと把握したり、自社の経営計画や経営指標を理解したりすることは、ビジネスの能力を高めるのに必須の知識です。
それでは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を見るときのポイントを解説します。
貸借対照表の見方入門
貸借対照表は、決算日に会社にどれくらいのお金や借金があるのかという財務状態を明らかにした表です。以下のように左右に分かれており、左側には「資産」が、右側には「負債」と「純資産」が記入されています。
左側の資産は、集めたお金がどのように使われて、何になっているかを示します。右側の負債や純資産は、お金をどこから集めてきたのかを示しています。
最大のポイントは、左側の合計金額(資産)と右側の合計金額(負債+純資産)が一致している点です。計算式で表すと、以下の通りです。
資産は、負債に純資産を加えることで求められるのです。左側(資産)と右側(負債+純資産)が、天秤のようにバランスが取れているようなイメージになるため、英語ではバランスシート(Balance Sheet:BS)と呼ばれています。資産、負債、純資産などそれぞれの内容を解説します。
資産
資産とは、現金そのものか、売ればお金になるものです。たとえば、商品や建物、土地などは売ればお金になります。資産は、上から「流動資産」「固定資産」「繰延資産」と現金化しやすい順に並んでいます。
流動資産
流動資産は、1年以内に現金化できる資産です。流動資産の項目はたくさんありますが、大きくは「当座預金」「棚卸資産」「その他の資産」の3つに分類できます。流動資産を多くもっているということは、資金ショートを回避できる可能性が高いということです。
「当座預金」は、現金・売掛金・受取手形・有価証券などです。これらは現金に近い存在であり、当面(2~3か月)の支払い能力を示します。
そして「棚卸資産」とは、製品や商品のことです。製造業であれば製品や商品のほかに、つくりかけの製品(仕掛品)や製品をつくるための原材料が在庫として存在しますが、これらも棚卸資産に入ります。
最後に、「その他の資産」とは、短期貸付金・前払費用・前払金などです。たとえば、短期貸付金は返済期限が1年以内の貸付金です。ただし、返済日までは現金化できません。
固定資産
固定資産とは、土地や機械、長期貸付金など、現金化するのに1年以上を要する資産です。固定資産は、会社が長期間使う目的で購入した資産のことで、自社で販売する商品のように転売を目的として購入した資産ではありません。
なぜ流動資産と固定資産を区別するのかというと、会社が存続し続けるためには、資金の安定が必要だからです。流動資産と固定資産に分け、その会社が資金的に安定しているかを貸借対照表から判断できるようにしているのです。
繰延資産(くりのべしさん)
繰延資産とは、本来は費用に近いもので、その支出効果が1年以上に及ぶ資産のことです。具体的には、創立費や開業費、開発費などがあります。たとえば、会社設立費用を一期の費用として計上してしまうと、十分な売上がないと赤字になってしまいます。しかし、数年にわたって費用を償却すれば繰延資産として計上でき、税負担も軽減できるのです。
負債
負債には1年以内に支払い期限がやってくる「流動負債」と、1年を超えて返済できる「固定負債」があります。流動負債の代表は、買掛金や支払手形といった商品の未払い分です。そして固定負債には、長期借入金や社債などがあります。
純資産
純資産は、ほとんどが「株主資本」です。株主資本は、「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」の4つの項目からなります。
資本金とは会社の元手のことで、返済義務のないお金です。資本金と資本剰余金は株主が会社にだしたお金であり、利益剰余金は会社の利益の蓄えです。また、自己株式は、会社が発行した株式を会社自らが買い取って保有しているものになります。
損益計算書の見方入門
損益計算書とは、1年間の収益と費用から企業の経営成績がわかる表です。3月決算の会社なら、4月1日から翌3月31日までの収益、費用、利益がいくらかを示しています。損益計算書は、「収益から費用を引いて利益を計算している表」だということを、まずは覚えておきましょう。
利益には、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つがあります。その前に、売上高を求めることが必要です。
売上高
損益計算書の計算は、まず「売上高」から始まります。売上高とは、商品を売ったりサービスを提供したりして、どのくらい対価を得たかを表した数値です。
売上総利益=売上高-売上原価
商品を売るためには、商品自体の仕入れや材料が必要です。そのためにかかった費用を「売上原価」といいます。売上から売上原価を引いたものが「売上総利益」です。売上総利益は商品の付加価値を示すことになり、企業の競争力の源泉といえます。
営業利益=売上総利益-販売費および一般管理費
販売費および一般管理費は、賃料や人件費などモノを売るのにかかった費用です。営業利益は、会社の本業によってしっかり利益をだしているかどうかを判断するための指標になります。
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
経常利益は、営業活動以外の収益と費用を加味した、経営活動の成果です。営業外収益や営業外費用は、預金から得た利息や借金で支払った利息など、営業外での利益や費用です。
経常利益は事業以外の財務活動までを考慮した利益で、会社が安定して継続的に利益を生む能力があるかを判断できます。
税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失
税引前当期純利益は、経常利益に特別利益を足し、特別損失を差し引くことによって計算します。特別利益や特別損失は毎年生じるものではなく、一時的に発生した利益や損失です。
たとえば株式の売却によって得た利益や、災害などによって発生した被害などが含まれます。税引前当期純利益は、会社に課税される法人税等の計算をするもとになる利益です。
当期純利益=税引前当期純利益-法人税等
税引前当期純利益から税を引いたものを当期純利益といいます。税金には、国に納める法人税、地方自治体に納める法人住民税・法人事業税などがあります。当期純利益は、会社の最終損益です。
キャッシュフロー計算書の見方入門
キャッシュフロー計算書は、会社が保有する現金(キャッシュ)が、1年間でどういう理由でどのくらい増減したのかわかる表です。貸借対照表でも、前期との比較でどのくらい現金が増えたかはわかりますが、具体的な金額の増減を判断するにはキャッシュフロー計算書を見るしかありません。キャッシュフロー計算書には、以下の3つがあります。
営業キャッシュフロー
投資キャッシュフロー
財務キャッシュフロー
この3つをあわせたものが1年間のお金の増減額になります。
営業キャッシュフロー(営業CF)
キャッシュフロー計算書の最初に記載されるのが、「営業活動によるキャッシュフロー」です。営業キャッシュフロー(営業CF)とも呼ばれ、本業で稼いだ現金の増減がわかります。
商品を売ったことでいくらお金が入ってきたのか、商品を購入したことでいくらお金が出ていったのかがわかります。現在の本業の状態がわかるので、もっとも重視され、普通はプラスになります。
投資キャッシュフロー(投資CF)
キャッシュフローの2番目に記載されるのが、「投資活動によるキャッシュフロー」です。投資キャッシュフロー(CF)とも呼ばれ、資金運用上のお金の出入りが記載されています。
投資キャッシュフローは、将来の利益につながる活動に使った現金の増減です。つまり、未来のためにいくらお金を使ったかが表されて、通常はマイナスになります。
財務キャッシュフロー(財務CF)
キャッシュフロー計算書の3番目に記載されるのが、「財務活動によるキャッシュフロー」です。財務キャッシュフロー(CF)とも呼ばれ、資金調達上のお金の出入りが記載されています。つまり、市場や銀行からの資金調達や返済によって生じた現金の増減です。
決算書を読むときの基準
決算書を読むときの基準は「過去との比較」と「他社との比較」の2つです。まずは、連続した2~3期分の決算書を比較して会社の良し悪しを判断します。
そして、他社との比較を行います。収益構造が異なるので、製造業であれば製造業同士、小売業であれば小売業同士、と同じ業界内で比較するようにしましょう。「過去との比較」、「他社との比較」ができるようになると、会社の正しい姿が見えてきて、決算書を読むことが楽しくなりますよ。
決算書の読み方 - まとめ
決算書とは、会社の状態が数字で記載されたものです。1年間にどのくらいの利益をだしたのか、期末にどのような財政状態になっているのかを表しています。また、数年分の決算を見比べることで、成長している会社なのか知ることができますし、ライバル会社と比較することで、どちらが優れているのかなども判断できます。
決算書が読めるようになれば、今まで見えなかった世界が見えるようになるのです。決算書を読む練習をし、ぜひ役立ててみましょう。