役員報酬とは、役員に支払われる報酬です。役員報酬は従業員の給与とは異なり、手続きや金額についても決まりごとがあります。この記事では、役員報酬の決め方や、どの程度の金額にすればよいのかについて解説します。
会社における役員とは?
役員の種類
役員には、取締役・監査役・会計参与・執行役があります。それぞれの役職を解説します。
取締役
取締役とは、株式会社で業務に関する意思決定を行う人を指します。取締役会を設置する会社では、代表取締役が業務の執行にあたります。
監査役
監査役は、取締役および会計参与の職務を監査し、適正かつ健全な企業経営を実現するミッションを担っている役員のことです。
会計参与
会計参与は、取締役とともに計算関係書類を作成します。会計参与になれるのは、会計の専門家である公認会計士や税理士に限られます。
執行役
執行役は、取締役などが決めた方針や重要事項を実行する役割を担う人です。取締役と執行役を兼ねることもできます。
みなし役員とは
法務局に登記されていない役員でも、税法上の役員として数える場合があります。ただし、登記されていなければ、会社法で規定されている役員としての責任や権利を負う必要はありません。
法人税上の役員は範囲が広い
会社法の役員に比べ、法人税上の役員はそれよりも範囲が広いです。たとえば、役員として法務局に登記されていない相談役や会長、株主の家族など、実質的に経営に関わっている人はみなし役員とされることがあります。
また、同族会社の従業員でも、決められた条件をすべて満たしていれば、みなし役員にすることが可能です。
役員報酬の決め方・手続きと手順
役員報酬のベースは会社法
会社法361条には、「取締役の報酬については、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」とあります。これは、取締役が自分たちで報酬を決めることを防ぐためです。
株主総会で総額を、取締役会で配分を決める
株主総会で決めるのは会社全体の役員報酬で、個別の支給額を決める必要はありません。株主総会の決議で役員報酬の総額を決め、具体的な配分を取締役会で決定します。
株主総会で個別の役員報酬を決議しないのは、一人ひとりの支給額がいくらかわからないようにするためです。
役員報酬にはボーナスも含む
役員報酬は、役員への給与のほかにボーナス(賞与)も含みます。つまり、役員報酬は役員への給与やボーナスなので、「給与所得」です。通常の従業員と所得税の計算方法は同じで、年末調整の対象になります。
役員報酬の決め方と手続きの流れ
会社を設立して初めて役員報酬を決めるときは、以下の手続きと手順で行います。
(1)役員報酬のルールを確かめる
経費(損金)として認められる範囲内で役員報酬を決めます。
(2)株主総会で決議
株主総会を開いて役員報酬の金額を決定し、会社の出資者の承諾を得ます。
(3)社会保険加入の書類を作成し、年金事務所に提出する
役員報酬を決定したら、社会保険加入の手続きをします。
(4)役員が住んでいる市町村に住民税の届け出を行う
役員の住民税について、会社が源泉徴収して納税する特別徴収手続きをします。
税金(法人税)の規定
法人税の規定に従わないと経費にできない
役員報酬には従業員の給与と違う点があります。それは、役員が役員報酬を意図的に操作しやすいことです。特に「会社=社長」のような小さな会社では、その傾向が強くなるといえます。
ですから、会社が勝手に役員報酬を変えたりできないよう、法人税で一定の制限が設けられているのです。
法人税法の役員報酬
法人税法の役員報酬には、以下の3つがあります。これに該当しないと損金にできないので、きちんと内容を理解しておきましょう。損金とは、費用の一部のことです。法人税を計算するときに、かかる税金を減らせるものを損金といいます。
定期同額給与
定額同額給与とは、役員に定期的に支払われる報酬のことです。役員の給与は毎月同じ金額でなければいけません。
また、期中に変更できないという決まりがあります。従業員の給与はボーナスや残業代によって変わりますが、役員報酬は原則として「定額同額給与」で支払う必要があるのです。
事前確定届出給与
役員にもボーナスは支払われますが、原則として損金にできません。ですが、事前(株主総会で決議した日から1か月以内)に税務署へ届ければ、損金として認められます。ただし、届出書どおりに支給しないと、損金にできないので注意が必要です。
業績連動給与
業績連動給与を利用すれば、業績に連動させた役員報酬を支給できます。ただし、「同族会社」でない会社が条件です。250万社前後の中小企業(資本金1億円以下)の9割以上が同族会社なので、主に上場企業やその子会社のための制度です。
役員報酬を決める際のルール・注意点
役員報酬のルール
役員報酬を決める際のルールは、以下の2つです。
役員報酬は、株式会社設立後3か月以内に決める
役員報酬は、会社を設立してから3か月以内に決めなければいけないというルールがあります。役員報酬の金額によって、所得税や地方税などの税金や毎月の社会保険料が変わります。最初は売上の見通しが立たない時期なので、役員報酬を決めることは難しいといえますが、必ず慎重に考えるようにしましょう。
役員報酬は毎月同額であること
先述のとおり、役員報酬は毎月同額が支払われなければいけません。また、額面と手取り金額が同じになるようにします。
役員報酬と法人税額は反比例
役員報酬は、会社から役員に対して支払います。ですから、役員にたくさん報酬を支払えば会社に残る資金は少なくなり、役員報酬を少なくすれば会社に残る資金は多くなります。
会社に残る資金が変わるということは、役員報酬の金額によって、税金として請求される金額も変わるということを意味しています。役員報酬と法人税の支払いは反比例の関係にあることを覚えておき、役員報酬の金額を決定するようにしてください。
会社の事業計画によって税金額が変わる
始めの予定よりも売上が伸びれば、それだけ利益が上がるので会社に残る資産は多くなります。しかし、そのぶん税金も多くなります。経営者にとって売上が伸びることは嬉しいことですが、税金のことを考えると悩ましいといえるでしょう。
また、売掛金など会社にお金が入ってくるのが数か月後になると、会社にあるお金は少ないにもかかわらず、利益を基準として計算される税金の支払額は多くなる可能性があります。ですから、いざというときに手元に資金が残っていないことがないよう、気をつけなければいけません。
次年度の事業予測から損益計算を立てる
役員報酬の金額を変えられるのは、年度が始まってから3か月以内です。そのため、次年度の事業の予測を立てた上で、正しい損益計算を立てることが大切といえます。
役所への手続きを忘れないように行う
株主総会で決議を行うことで役員報酬は決まりますが、これで終わりではなく、市区町村や年金事務所へ届け出る必要があります。各役所への手続きを忘れないようにしましょう。
役員報酬を変更できる時期
会社設立時または事業年度開始時から3か月以内
役員報酬は、会社設立時または事業年度開始時から3か月以内であれば、一度だけ変更できます。3か月を超えてからも、役員報酬の支給額を変更することは可能です。ただし、その場合は法人税の計算上で損金として認められません。
3か月経過後に役員報酬を増額した場合
たとえば、事業年度開始から3か月経過後に、役員報酬を30万から50万円に増額したとします。その差額20万円(50万円-30万円)を損金にすることはできません。
3か月経過後に役員報酬を減額した場合
支給額を減額した場合は、減額後の役員報酬がベースになり、その前の超過している部分は損金にできません。たとえば、事業開始から3か月経過後に30万円から20万円に減額した場合、損金にできるのは20万円のみとなります。
役員報酬を変更できるケース
役員報酬を一定にしておくことは、利益操作を防ぐことが目的です。しかし、事業年度開始から3か月経過後の役員報酬の変更が、すべて禁止されているわけではありません。以下のような条件では、増額や減額が認められます。
代表取締役などに昇格した場合
平取締役が代表取締役に昇格するなど地位の変更があった場合は、3か月経過後でも決議をして増額することが可能です。昇格によって業務の責任と権限が増すことから、増額が認められています。ただし、役員の肩書きを変更するだけでは増額を認められないので、注意が必要です。
また、代表取締役を後継者に譲り相談役になった場合は、職責の変更による役員報酬の減額が認められています。
業績が著しく悪化した場合
業績が著しく悪化した場合は、事業年度の途中であっても例外的に役員報酬を変更できます。役員報酬を減らさないと、銀行など金融機関への返済ができなくなったり、大口の取引が終わって業績が悪化してしまったりする可能性などが考えられるためです。
病欠などでやむを得ない場合
病気や産休などやむを得ない状況のときも減額は認められます。ただし、税理士や税務署などで事前に確認しておくようにしましょう。
役員報酬変更の手順
役員報酬は、株主総会と取締役会の決議を経て変更します。
株主総会での手順
株主総会招集通知に総額変更の議案を記載し、2分の1超の賛成票で可決となります。決議事項について議事録を残す必要はありますが、一度可決された総額は翌年以降も有効です。
取締役会での手順
役員の個別支給額の決定は取締役会で行われ、取締役会で2分の1以上の賛成をもって可決されます。こちらも議事録を残す必要があります。ただし、役員報酬の支給額を代表取締役に一任することも可能です。
適正な役員報酬の判断基準と平均額
企業の役員報酬はいくらが適正か
役員報酬の考え方
役員報酬は、役員の仕事への対価です。株主が承認していれば、役員報酬の金額はいくらでもよいといえます。たとえば年間1,500万円の売上の会社で、役員報酬が2,000万円だったとしても、株主が認めていれば間違っているとはいえません。
ただし中小企業の場合、株主と役員は一緒であることが多いので、自分の役員報酬を株主の立場で決めることも可能です。ですから、実際に仕事をしていなくても役員報酬を支給するといったことができてしまいます。
そのため法人税を計算するときは、役員報酬が適正であるかを以下の基準で確認しなければいけません。
役員報酬が適正かどうかの判断基準
会社の業績や従業員(社員)への給与
役員の職務内容
同じ業種や同じ規模の法人の役員報酬
ただし、この3つの基準すべてを考慮して役員報酬を決めなければいけないというわけではありません。特に、同業他社の役員がどの程度の役員報酬を得ているかは、なかなか正確にはわからないでしょう。
役員報酬の相場
それでは、役員報酬の支給額はどのように決定すればよいのでしょうか。国税庁の民間給与実態統計調査結果によると、2018年(平成30年)度の役員報酬の平均は以下のとおりです。
資本金 | 平均 |
2,000万円未満 | 605万円 |
2,000万円以上 | 851万円 |
5,000万円以上 | 1,094万円 |
1億円以上 | 1,392万円 |
10億円以上 | 1,561万円 |
資本金が大きくなるにつれ、役員報酬も高くなっているのがわかります。意外と少ないと思うかもしれませんが、2020年(令和2年)3月期の最高額は、武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長の20億7,300万円です(同年6月24日:時事通信社より)。上場企業では、1億円以上の役員の名前と金額の公表が義務づけられています。
損金への参入が認められない場合に注意
役員報酬の支給額をいくらにするかは決まりがなく、その会社に委ねられています。ですが、役員報酬が同業種・同規模の他社と比較して高すぎる場合、税務署が損金への参入を認めないことがあるので注意が必要です。
役員報酬で会社の利益は大きく変わる
会社は、株主に配当として利益を還元しなければいけません。ですから、より多くの利益を残すことは大切な使命といえます。また、会社の継続的な成長のためには、設備投資やM&A(企業の合併・買収)の資金も必要です。
利益を踏まえた役員報酬の決め方として、「会社に利益を残す」「節税を重視する」の2つが考えられます。
会社に利益を残す
会社に利益を残したい場合は、役員報酬をある程度抑えた上で法人税を支払うようにしましょう。利益を残しておけば財務体質も強くなり、将来銀行などから資金を借りるにしても、個人保証や追加の担保を求められないことにつながります。
節税を重視する
一方、利益をたくさん残せばそれだけ法人税がかかります。節税を重視するなら、利益を残さないという選択肢もあるのです。役員報酬を高めに設定しておけば、会社に利益が残らず法人税の課税も少なくなります。
ただし、会社にお金が残らないので、銀行などから将来お金を借りるときは、経営者の個人保証や追加の担保を求められる可能性が高まる点に注意が必要です。
まとめ
役員報酬は、原則として「毎月同額を支払わなければならない」「会社設立(起業)時や事業年度開始から、3か月以内に決定や変更しなければならない」などの決まりがあります。また、損金にできるため、会社が支払う税金に大きく影響します。会社の経営状況や従業員給与との釣り合いなどを考えながら、適正に役員報酬を決めましょう。