インタビュー

お菓子製造のOEMで福岡の製菓業界に新境地を開く。ATELIER S.e.n.s.e 中原浩雅さん

By 山本 佳世

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公開日 2025.03.07
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更新日 2025.03.14

他社ブランドの商品を生産する"OEM"。受託企業は商品の製造に、委託企業は商品開発やPRに集中できるというメリットがあり、アパレルや自動車などのさまざまな業種で活用されていますが、食品業界でもOEMの商品は多く見られます。今回はそんな食品の中でもお菓子(焼き菓子)のOEM製造を手がける、「ATELIER S.e.n.s.e(アトリエ・センス)」代表の中原浩雅さんにインタビュー。福岡ではまだ希少なお菓子のOEMという業種で起業した背景には、中原さんの多彩な経験が深く関わっていました。

■プロフィール
ATELIER S.e.n.s.e 
代表取締役 中原浩雅(なかはらひろまさ)さん

福岡市出身。辻調理師専門学校卒業後、西鉄グランドホテル調理部洋食課、同ホテル製菓課に勤務。福岡市内のレストランでパティシエを務め、中村調理製菓専門学校准教授として教壇に立つ。同校退職後は製菓の製造現場に携わり、2024年に「ATELIER S.e.n.s.e」を立ち上げる。

多彩な経験の中で自分に求められる仕事を見つける

――以前のキャリアから起業することになった経緯を教えてください。

中原:専門学校卒業後は西鉄グランドホテルの調理部洋食課に入社し、見習いとして経験を積んでいました。そのうち製菓の部署に興味が湧くようになり、希望を出してそちらに異動することに。そうして西鉄グランドホテルに11年間勤めた後、父の会社が出店する新しいレストランで3年間パティシエを勤めていました。

その店が移転をするタイミングで退職し、今度は中村調理製菓専門学校に入社し、製菓部門の講師として勤務します。そこで18年間教壇に立ち、うち2年は韓国のソウルに出向いて現地の学生を指導したこともありました。それから同校を退職し、今度は福岡でスペシャルティコーヒーの先駆けとして有名な企業の新規製菓事業の立ち上げのため1年ほど関わることになったのですが、製造現場に携わる中でお菓子のOEMを個人でしているところが福岡にほとんどないことを知り、"ならば自分が"と独立して開業することになったというのが大まかな流れです。

――すごく多彩なキャリアを築かれたのですね。

中原:専門学校の講師を経験したことが起業に一番大きく影響しているかもしれません。長年教員として働く中で、沢山のシェフやオーナーの方と接することで、後にOEMを依頼してもらえるお店や企業との縁が繋がることもできました。御多分に洩れず食品業界も人手不足に陥っている中、シェフたちのお手伝いができないかと思った時に"自分にはOEMができるのではないか"と考えたのです。お菓子のOEM商品は味や質に満足できなかったり、大ロット生産しかできなかったりすることが多いのですが、自分であればそのお店のクオリティを満たす商品を小ロットから製造することができます。そして私が集中して製造を担う代わりに、シェフたちはより高品質な商品開発に挑戦することで双方がプラスに働くと思いました。

自らネットワークを広げて情報を得る

――現在はどのようなお菓子を製造しているのですか?

中原:シティホテルのビュッフェ用の焼き菓子や、個人店で販売するクッキー、他にはお付き合いがある会社や知り合いから依頼されたギフト用のお菓子やケーキなど、洋菓子全般のOEM商品を製造しています。変わったところではお肉屋さんに手作りのジャムを置かせてもらったりもしています。ありがたいことにいろんなところから新規のご依頼や提案をいただくのですが、なにぶん1人で製造しているので、お断りせざるを得ないこともあるのが悩ましいところです。

――起業にあたって最初に取り組まれたことは何ですか?

中原:起業する際、実は最初につまずいてしまったのです。あるお菓子の老舗企業から自社のアドバイザーとしての仕事をお任せいただくと同時に製造の委託もしていただけるとの話が上がり、その工場内の場所を間借りして製造ができる予定でした。しかし、途中でその話が無くなってしまいました。そういった経緯もあり、起業に関して長く計画を立てていた訳ではなかったので、工場の確保や認可関係の申請など何もかもをゼロからスタートすることに。そこでまずは場所探しと、設備を整えるところから始めました。

――設備や場所はどうやって決めたのですか?

中原:ネットワークを広げて情報を入手するところから始めました。閉店する店から中古のオーブンを格安で譲ってもらったり、先輩の店からもう使わないオーブンや調理台をセットで同じく破格で譲ってもらったり。とにかく自分からネットワークを広げて情報を集めることで、何とか予算内で設備を集めることができました。

工房の場所に関して、最初は自宅を増築してできないかと考えていたのですが承認を取るのが難しく、どこか貸してくれる場所はないかと探していたところ現在の場所を見つけました。当初は事務所での貸し出しで飲食は不可だったのですが、OEM製造で来客はないと交渉して使わせてもらえることになったのです。

――中原さんの行動力が功を奏したのですね。

中原:今だと思った時にすぐ行動するタイプなので(笑)。ただ、起業にはアドバイスしてくださった方の影響も大きかったですね。オーブンなどの設備を取り扱っている会社の社長さんと知り合いなのですが、その方からも「ずっと考えていてもスタートできないから、早く事業を始めた方がいいよ」と背中を押してもらったのです。タイミングも大事だなと実感しました。

――起業準備にあたって苦労されたことはありましたか?

中原:技術者だけではなく、経営者としても考えるべきことがたくさんあることでしょうか。特に資金については何をどうやって借りたらいいのか分からなかったので、いろんな方からアドバイスを受けました。これまで住宅ローンや車のローンを組んだことはありますが、事業となるとそれらとは全く異なり、借りたお金をどう回していくかを考えないといけません。そこで私は協調融資(一つの企業に対して複数の金融機関が協力して融資すること)という形をとらせていただきました。

また先ほども申し上げたように、最初は協力会社ありきでスタートする予定だったので、そこまでの資金がなくても動き出せると踏んでいたのです。予定が狂ってしまったのですが、他の仕事をしてお金を蓄えるよりもまず起業することを優先したので、最初は自分の貯蓄を資金に回していました。

お客様の笑顔のために、製菓の枠に収まらない挑戦も

――起業されて良かったと感じたエピソードがあれば教えてください。

中原:お菓子の製造と聞くと華やかでキラキラしたイメージがあるかもしれませんが、実際は労働時間が長く立ち仕事なので体力的にも大変で、理想と現実のギャップがあり長続きしない人も多いのが現状です。

では何のために頑張れるのかと聞かれると、その先にあるお客さまの笑顔です。ですので、お菓子を作って喜んでいただけることが私の喜びでもあります。

実際に去年、ギフト用にクリスマスケーキを作った時にお客さまから感想を送っていただき、とても嬉しかったですね。

――福岡を拠点に起業するメリットについて感じることはありますか?

中原:福岡は食に興味のある方が多く、食のレベルも全国的に見ても高いと思っています。海の幸や山の幸にも恵まれていて、メディアなどでも多く取り上げられることも多いですよね。そういう土地柄は食の仕事にとっても好都合ですし、物流インフラが整っていることや物価もそこまで高くないこともメリットになっているのかなと感じています。

――今後の展望について教えてください。

中原:以前取引のあるお肉屋さんに、リンゴや生姜、玉ねぎを使ったジャポネソースを持って行ったところ、とても喜ばれたことがあります。そこでフレンチで鴨肉にオレンジソースを組み合わせるように、ジャムやフルーツソースとお肉の組み合わせを提案していこうかなと考えているところです。私は製菓だけではなく洋食の現場も経験しているので、パティシエ専門の人よりもそういう発想が生まれやすいのかなと思っています。

何よりお菓子のOEMは福岡ではまだ先駆けなので、まずはこの形を確立することが優先ですね。開業届を出したのは2024年の7月ですが、実際に稼働したのは同年の11月でまだ間もないので。OEM商品はもちろん、オリジナル商品の開発にもチャレンジしたいと考えています。

ATELIER S.e.n.s.eについて

■会社概要
会社名:ATELIER S.e.n.s.e
所在地:福岡県福岡市西区大字徳永587-3
設立:2024年7月
代表取締役:中原浩雅

■事業内容 製菓製造業・焼き菓子OEM

■問い合わせ先
090-4581-7979 
hiromasa4632@gmail.com

お知らせ

Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」

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