
今までありそうでなかった「クリーニングタグ広告」を開発した株式会社Farout(ファーアウト)。クリーニング店から返却される衣類のハンガーに広告のタグをつけるという独自のアイデアが受け入れられて、創業からわずか10カ月で全国50社以上の約3,000店に導入されています。ニッチ市場の可能性に目をつけ、全国展開に成功した背景には、代表の井上拓さんの徹底した戦略と行動力がありました。
■プロフィール
株式会社Farout 代表取締役 井上拓
福岡県太宰府市生まれ。福岡大学法学部にAO入試一期生として入学。卒業後、大手保険会社、大手広告会社を経て、2024年10月に株式会社Faroutを設立。far outは英語のスラングで、「何か目新しいもの・変わったものを見たときの驚き」に使われる言葉。
保険会社の営業職から、未知の広告業界へ転職
――井上さんが起業するまでの経緯を教えてください。
井上:大学を卒業し、大手保険会社に入社。金融機関などへの営業担当として8年間勤めました。営業成績で表彰されて、やりがいはあったのですが、保険はネガティブな出来事をリカバリーする仕組みです。だからどうしても相手に「万が一のことがあったら」という話をしなければいけなくて…。「こうしたら儲かります」というような、もっと前向きな話をしたくて、広告業界に転職しました。
―広告業界に興味があったのですか?
井上:どんな仕事をするにも広報は必要で、広報やマーケティングのスキルを身につけたら強みになると思い、広告業界に着目しました。ただ、保険会社で満足できる年収をもらっていたのに、普通に転職したらかなり下がってしまう。そこで歩合がつく広告会社で、営業ができて、かつ久留米の自宅に近いところを探したら、希望の大手広告会社が見つかりました。その会社は、全国に営業所を展開しており、主力の屋外広告看板事業では国内トップシェアを誇ります。
広告会社に勤め、制作のスキルを独学で身につける
――大手広告会社ではどんな仕事をされたのでしょうか?
井上:屋外広告看板をはじめ、屋外や役所、駅などの広告看板やデジタルサイネージなどの広告営業を6年ほどやりました。営業として広告を受注すると、もちろん社内にデザインチームがあるのですが、自分でも作ってみたくて動画や写真、デザインなどを独学でマスターしていきました。それが自分の財産になるという思いもありました。
――いつか独立したいという思いがあったのですか?
井上:勤務していたところが全国展開の会社なので、昇格していくためには全国に転勤しなければなりません。しかし、僕は地元を離れるつもりがなくて、営業でどんなに成績を上げても、管理職になれないことは確定してたんですよ。それに、管理職になったら、自分が現場でお客さんを持てなくなるのも嫌でした。それで、どこかで会社に見切りをつけなければという思いがあり、自分のスキルを磨きました。

――広告業界ではどんなやりがいを感じていましたか?
井上:広告の営業は、「こうすれば売上が上がります」「反響があります」という話をお客さんと共有できることが好きでした。経験とロジックの積み重ねで、ここに広告を出せば、どんな人が見て、何%の人が動くかという期待値も計算できるようになる。広告や出店について、マーケティングの知識まで身についていくのも面白いと感じていました。
他にはないクリーニングのタグ広告で会社を設立
――2024年7月に退社されたとのこと。どんなビジョンがあったのか聞かせてください。
井上:お客さんが結構いて、ある程度スキルもあったので、思い切って辞めました。そして、個人事業主「Farout」(ファーアウト)として制作を請け負うことにしたら、既存の建築系のお客さんを中心に、パンフレットを作りたいといった仕事の話が入ってきました。ただ、制作の仕事は受けられる量に限度があるので年収の天井が見えて、僕自身は制作より営業が好きだった。それに、クリエイティブ一筋のすごいプロにはやはり勝てないと感じて、独立から数カ月でこの領域で戦うのはやめようと決めました。
――次にどんなことを考えられたのでしょうか?
井上:自分が広告のメディアを持ちたいと思いました。前職の屋外看板は投資が必要で無理だし、フリーペーパーやポスティング、ウェブなどいろいろ考えてもピンとこない。そんな中、前職のお客さんだった龍クリーニングの龍社長と話しているとき、ハンガーにタグがかかっていて、「龍クリーニングのここがすごい」という内容が書かれているのを見つけたんです。これに他社の広告を載せればいいとひらめきました。でも、すでに誰かがやっているだろうとネットで調べて、知り合いの弁理士さんに商標を調べてもらっても、一切形跡がない。それならやろうと「クリーニング広告」と「クリーニングタグ広告」という2つの商標を取り、2024年10月に株式会社にして事業を始めました。
相手にメリットを示し、地道な営業活動を展開
――素晴らしい思いつきですね。今はどのような状況ですか?
井上:龍クリーニングは大牟田を中心に20~30店舗を展開しています。そこを皮切りに営業活動をスタートして、今では全国の50社以上、3,000店舗ほどと提携しています。日本にあるマクドナルドが約3,000店舗なので、同じくらいですね。
――創業から1年経たずにそんなに広がっているのは驚異的です。どうやって広げていったのか聞かせてください。
井上:もともとクリーニング業界に人脈があるわけでもなく、僕が正面から連絡して、大手クリーニング会社の社長に会えるわけがない。そこで、龍社長にアポイントを取ってもらい、2人でまず福岡の大手から訪問。さらに福岡で提携してくれた社長が全国クリーニング協議会の理事だったので、東京の会議へ連れて行ってもらうことに。それから、人の紹介などで、大手の提携先がどんどん増えました。
――クリーニング会社にとってのメリットは?
井上:タグ広告をつけてもらったら1枚何円という契約をしています。クリーニング業界は厳しい状況に立たされています。日本では人口減少に加えて、温暖化やコロナの影響でスーツ離れが進み、衣料の生地が良くなり家で洗えるようにもなっていて…。ですから、タグを広告メディアにして収益を得るという提案を受け入れてくれたのだと思います。

――一方で、広告を出してくれるところも必要です。全国レベルでどうやって見つけているのですか?
井上:生命保険会社に代理店があったのと同じように、広告代理店の仕組みを作りました。全国に30~40社の代理店があって、例えばウェブ系の会社やフリーのイラストレーター、広報の人たちがサポートしてくれています。
さらに今、仕掛けているのが、新聞社の折り込み広告の会社です。地方新聞社の折り込み会社と連携して、その会社のスタッフが折り込み広告のお客さんに対して、「クリーニングのタグ広告はどうですか」と営業してくれるというモデルです。
――なるほど、新聞社も厳しい状況にあるので、いいアイデアですね。
井上:折り込みの会社にとってクリーニングタグ広告は新たな商品で、新聞折込の営業のついでにお客さんに提案できるので、連携しやすいわけです。

業界を冷静に分析して、勝てる戦略を描き実行
――今、会社には従業員がいらっしゃるのでしょうか?
井上:社員が2人います。一人は僕の片腕として事務系の仕事全般を担当し、もう一人は僕の秘書として働いています。他に、地区ブロック統括として当社の名刺を持っている者が4人います。

――きちんと戦略を立てて動かれてきたという印象です。
井上:独立してからは、自分の裁量で何でも決められるのが面白いです。クリーニングタグ広告はニッチな分野のビジネスですが、需要はある。それに、ある領域を独占してライバルがいなければ絶対に勝てると考えていて、その通りに進んでいます。クリーニング業界は、各県に地場の大きな会社があり、全国に提携先を広げていくにはかなり手間がかかるので、大手広告代理店は参入してこないと思ったんですよ。そして、今は事業の仕組みが整い、僕がいなくても成立するビジネスになりました。属人にならないことも大事だと思っています。
――最後に、今後の展望を教えてください。
井上:クリーニング店は全国をほぼ制覇できていて、これからは広告の営業側で新聞社さんに話が広がっていくことを期待しています。そして、大手の広告代理店がクリーニングタグ広告を扱うようになるのが、最終のゴール地点かなと思っています。
僕自身は並行して、他のビジネスを始めるかもしれません。根本は、誰かに喜んでもらえる仕事がしいたいという気持ちなんです。死ぬまで仕事をしていたいですね。
株式会社Faroutについて
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」
※renewのサイトポリシー/プライバシーポリシーはこちら。
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。