西日本シティ銀行は2021年11月15日より「天神ビッグバン」第一号案件である『天神ビジネスセンター』の1F~3Fに、西日本シティTT証券・アルファ天神とともに天神支店をオープンしました。そんな大規模都市開発により変革する天神エリア。その天神エリアにおける街のあり方やビジネス展望について各方面の方々にお話しを伺います。
「天神ビッグバン」による大規模な都市開発が進む天神エリア。コロナ禍の影響で働き方に大きな変化が起きる中、商業施設やオフィスビルの建築が着々と進んでいます。今回の記事では、経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース等を経て、福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)に転じ、2015年4月より事務局長を務める石丸修平さんお話しを伺います。
■プロフィール
1979年、福岡県飯塚市出身。経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース等を経て、2015年4月よりFDC事務局長を務める。その他、九州大学客員教授。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、Future Center Alliance Japan理事、九州大学地域政策デザインスクール理事、九州経済連合会行財政委員会企画部会長等を歴任。また2021年10月、世界経済フォーラムGlobal Future Council on Agile Governanceと国際官民連携ネットワークApoliticalによるAgile50「破壊的変革を導く世界で最も影響力のある50人」に選出(日本人はうち2人)。
クリエイティビティなまち・天神
――まずは石丸さんと天神との関わりについて教えてください。
石丸:私は実家が飯塚で、高校は北九州だったのにもかかわらず、学生時代は天神に遊びに来ていました。もともと天神は若い人たちを惹きつける魅力的なまちという印象があります。その後、関東の大学に進学して就職し、福岡からしばらく離れていたのですが、2013年にFDCに入ってから天神のオフィスに勤務しています。
――改めまして、FDCとはどのような組織でしょうか。
石丸:FDCは、福岡の新しい将来像を描き、地域の国際競争力を強化するために成長戦略の策定から推進まで一貫して行う、産学官民一体のシンク&ドゥタンクです。設立は2011年で、福岡市や福岡県などの自治体をはじめ企業や学校など200を超える会員を擁しています。我々は、西は糸島、東は宗像、南は筑紫野まで17市町約250万人の経済圏を福岡都市圏と定めています。その経済の7割が天神・博多・ウォーターフロントという福岡都心にあり、ここをしっかり作っていくことが将来の福岡都市圏の成長につながると考えて、2012年に都市再生部会で福岡都心再生戦略を策定しました。
――天神が重点3エリアに入っているのですね。
石丸:戦略では3つのエリアを特徴づけており、天神のテーマは「CREATIVITY(クリエイティビティ)」です。もともと大名や今泉あたりにクリエイティブ系の人たちが多く集まっており、スタートアップの人たちもいた。かつ、まちに支店や地場の大手企業があるなど、非常に多様性のある地域だったので、クリエイティビティを際立たせていこうという戦略を掲げました。
――そこから天神ビッグバンにつながるのでしょうか。
石丸:当時、天神には2つの課題がありました。1つは、ビルが老朽化して既存不適格であり、2005年の福岡県西方沖地震ではビルの窓ガラスが道に落ちたりして、耐震面で相当のリスクが顕在化していた。もう1つは、グローバル企業や先端企業を誘致したくても、入口にゲートがないというセキュリティ面と、ワンフロアで広く使いたいというスペース面のニーズに応えられるビルがなかったんです。
そこで福岡市とFDCが共同で2014年に国家戦略特区を取りにいき、規制緩和ができる仕組みが整って、2015年に福岡市が天神ビッグバンの政策を打ち上げられました。FDCとしても福岡都心再生戦略で目指す方向と一致していたため、一緒に旗振り役を担ってきました。
――石丸さんは天神のどのようなところにクリエイティビティを感じていましたか。
石丸:天神で働くようになってまちを歩くと、スーツ姿の人から学生、観光客まで、実にさまざまな人がいることが新鮮でした。東京では、例えば霞が関は公務員、新橋はサラリーマンというように、まちごとに機能が分化していたので。天神はいい意味でごちゃごちゃしていて多様性があるという肌感覚があり、多様性や創造性を損なわずに先ほどの2つの課題を解決することが重要な論点だと考えていました。
――天神ビッグバンを進める中で、新型コロナウイルス感染症の影響もあったのでは。
石丸:コロナ禍になり、天神ビッグバンはどうするのか、オフィスはそんなにいらないのでは、パラダイムシフトが進むのでは、といったいろいろな世論が巻き起こりました。そこで公開で議論した方がいいと考え、FDCでは2020年6月に「Beyond Coronavirusを見据えた福岡の可能性」と題してオンラインイベントを緊急開催しました。福岡市の髙島市長や、天神ビッグバンや博多コネクティッドの中心にいる福岡地所の榎本社長と西鉄の倉富社長(当時)、JR九州の青柳社長などにご登壇いただき、懸念点なども俎上に上げながら議論したところ、皆さん覚悟を持って前に進められると力強く決意を語られる熱い場となりました。そして、天神ビッグバンは重要なので、変化をチャンスと捉え、状況に応じて柔軟に進めようという結論に至りました。そして2か月後、髙島市長は「感染症対応シティ」という政策を発表しました。ビジネスも含めたまちづくりをみんなで議論しながら進めていけるのは、他にはない福岡のユニークな魅力だと思います。
▲昨年(2020年)のイベントでの議論を受け、2021年11月12日には、同じくBeyond Coronavirusのまちづくりをテーマに「福岡都心再生サミット2021」が開催された。
既存企業との連携によるイノベーション
――再開発が進む天神エリアにおけるビジネスに、どんなことを期待されていますか。
石丸:キーワードは「イノベーション」です。福岡市は2012年にスタートアップ都市宣言をして、シアトルのようにスタートアップ企業などがどんどん価値を創出して成長して雇用を生み、市民生活を豊かにすることを目指しています。今はスタートアップ支援施設として『Fukuoka Growth Next』があり、スタートアップのすそ野が広がってシード、アーリーと進む中で、さらに成長できる機能をまちに備えたい。投資家やアクセラレーター、プレイヤーを増やし、その人たちが集まったり成長した企業が入居したりする場として、天神ビッグバン規制緩和第1号案件の『天神ビジネスセンター』がオープンしました。
加えて、スタートアップの成長には地場企業の役割が大変大きいのではないかと個人的に思っています。既存企業とスタートアップが連携して共に成長していけば、支店経済に依存している福岡のリスクを改善できるはず。ですから、さまざまな人がコラボレーションする場づくり、それなりのスペックが整った環境づくりを天神ビッグバンで実現したいと考えています。
――天神で建て替えが進むと、スタートアップにとっては賃料が上がるという懸念がありました。
石丸:コロナ前であれば、成長フェーズにいる福岡は、不動産価格が上がり、確かに建て替えによって賃料の負担が大きくなったかもしれません。しかしコロナの影響でオフィスについての価値観が多様化しており、より柔軟なニーズにお応えする流れが出てくると思います。
一方でコロナに関係なく、ビルの床が増えるということで事業者にとっては需要をどう作るかという問題があります。今は多様なニーズが表出しているので、いろいろな人たちを受け止めて、これを機に新しい産業を創出するというような大きな議論を始められたらいいと思っています。
――働く場(ビジネス)として、天神にはどんな魅力がありますか。
石丸:天神に限らず、福岡の強みはなんといってもQOL(クオリティ・オブ・ライフ)ですね。近年、世界のビジネスプレイヤーや企業はQOLを重視し始めていて、コロナでさらにそれが顕在化しました。
一つの例として、FDCは国際金融機能誘致を目指す「TEAM FUKUOKA」の事務局を担っています。香港の情勢不安を受けて、日本で金融機能を受け止めようという動きが背景にあるのですが、いろいろ調べてみると国際金融関係者が重視する軸としてQOLに対する評価がどんどん上がっています。福岡の強みが国際金融の世界でも通用する流れが起きていて、これまで手が届かなかった人たちを呼び込める可能性が出てきています。ちょうど新しいビルもできるタイミングで、QOLをしっかり担保しながら誘導できれば、スタートアップを盛り上げる新しい担い手を誘致できるかもしれません。従来、足踏みしていた外資系企業を受け入れる座組ができてきて、大きなチャンスだと思っています。
――確かにQOLの高さは福岡の強みですね。
石丸:福岡の良さがこれからますます注目を浴びそうです。コロナ禍で東京から外へ人が流れる動きがありましたが、中身を見ると大半の移動先は東京近郊でした。つまり、人々は結局、都心の価値と田舎の価値の両方を享受したいと思っているのではないでしょうか。それは福岡が最も担保できる機能です。もともと密ではなく、職住近接が進んでいて、豊かな自然が近くにある。都心から空港が近く、東京やアジアへの利便性も高い。その都心と田舎の良さを享受しながら、感染症対応を施して新しい価値観に対応できるまちは、福岡以外になかなかないと思います。
――今後、天神エリアでビジネスにおける展望があれば聞かせてください。
石丸:天神は基本的にサービス産業のまちですが、今の福岡の産業構造にはない企業や他の地域との連携を進めていくことが、さらなる成長につながると考えています。九州を一つと捉えて、九州各地にある産業や事業が天神でグロースするような絵を描きたいですね。また、人口減少が進む中で、地場企業が九州の新しいプレイヤーとコラボレーションして次なるビジネスモデルを作ったり事業ポートフォリオを広げたり、福岡に来た人を九州内のほかの地域へ送り込む役割を果たしていくことも大事だと思っています。
――福岡は海外との連携も進んでいるように感じます。
石丸:FDCは、福岡都市圏が東アジアのビジネスハブとして、多様な人が集い?栄し続ける地域を目指してきました。食に関して台湾とワンコンテナに混載するプロジェクトを始めたり、広州と越境ECをしたりしています。また、ボルドーやエストニアなど海外の国や都市とどんどん連携して、お互いのインキュベーションオフィスに優先的に入居できたり、EU展開をサポートしてもらったりと、多方面で海外とのネットワークが充実してきました。天神にはまさに東アジアのビジネスハブの機能を担ってもらうことを期待しています。
FDCは2020年に新しい地域戦略を立てました。鍵は天神ビッグバンや博多コネクティッドなどを進めてビジネスエコシステムを確立する段階で、その先は都市ソリューションの移出成長として福岡の製品やサービスを海外に出していく方向性を打ち出しています。
――最後に、天神への拠点進出を検討している企業の方々にメッセージをお願いします。
石丸:天神は利便性が抜群でQOLが高いのに加えて、多様性を受け入れつつ新しいことにチャレンジできるチャンスあふれるまちへとさらなる進化を遂げています。FDCの麻生泰会長がよく話される「ストレッチゴール」という言葉が、私は大好きなんです。すぐ届くゴールや絶対に届かないゴールではなく、背伸びして歯を食いしばって走り回って、やっと達成できるゴールを設定することが大切なのだと。天神ビッグバンは、需要を作り福岡都市圏に価値をもたらすストレッチゴールだと思います。ぜひ当事者となって、一緒にチャレンジしていただけるとうれしいです。
QOLの高さが評価軸として重視されてきているという点については、驚きとともに福岡で働く身として納得感がありました。Googleが天神ビジネスセンターに拠点を設けるのではないかというニュースもあったように、これからさらに注目が予想される天神。企業進出や地場企業との連携、そして特色の違う産業構造を持つまちと一体で考えることで、福岡市だけではなく九州全体として好循環につながるのではないかと感じました。
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。