インタビュー

Fukuoka Nowニック・サーズさんに聞く、グローバル視点でみる天神の魅力。

By 佐々木恵美

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2021.12.23
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西日本シティ銀行は2021年11月15日より「天神ビッグバン」第一号案件である『天神ビジネスセンター』の1F~3Fに、西日本シティTT証券・アルファ天神とともに天神支店をオープンしました。そんな大規模都市開発により変革する天神エリア。その天神エリアにおける街のあり方やビジネス展望について各方面の方々にお話しを伺います。

「天神ビッグバン」による大規模な都市開発が進む天神エリア。コロナ禍の影響で働き方に大きな変化が起きる中、商業施設やオフィスビルの建築が着々と進んでいます。今回の記事では、1998年創刊のインターナショナルメディア「Fukuoka Now」の編集長で、2021年からライブ動画配信サービス「Kyushu Live(九州ライブ)」をスタートさせたニック・サーズさんにグローバル視点からお話しを伺います。

■プロフィール
カナダのトロント出身。大阪と東京で働いた後、1990年福岡のソフト開発会社に就職。福岡の出版社を経て、フクオカ・ナウを創業し、1998年に外国人向け無料情報誌「Fukuoka Now」を創刊する。2009年から外国人旅行者向け観光地図「Now Map」を創刊し、2021年からライブ動画配信サービス「Kyushu Live」をスタートした。

福岡の良さに気づいてきている

――ニックさんはカナダご出身ですね。福岡に来られた経緯を教えてください。

ニック:私が最初に日本に来たのは1984年、バックパッカーとしてアジアをめぐった後、興味のあった禅を学ぶために来ました。東京にある禅寺の寮に1年間住み、勉強させてもらいました。それで日本が大好きになり、東京と大阪で会社員として働きました。一度は地元のトロントに戻りましたが、やはり日本で暮らしたいと思い、応募したソフト開発会社の本社がたまたま福岡にあって、福岡で働くことになりました。1990年、今から31年前のことです。

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――1990年、初めての福岡はいかがでしたか?

ニック:東京と大阪に比べて物価が安く、とても住みやすい場所ですぐに気に入りました。職場と自宅の距離が近いので通勤が楽で、豊かな自然もすぐそばにある。自由な充実したワークスタイルとライフスタイルで、Quolity of Life(QOL - 生活の質)がものすごく高い都市だと感動しました。

――31年前から福岡はQOLが高いと認識されていたのですね。その情報を届けるために「Fukuoka Now」が立ち上がったのでしょうか?

ニック:住むうちにさらに福岡が好きになりました。でもバブルが弾けて仕事がなくなってしまい、どうしようかと考えたとき、東京と大阪には外国人向けの情報誌があったのに、福岡には無いことに気づき、無いなら私が作ろうと思い立ちました。印刷会社に企画を持ち込み、有料の英語誌を発行したけれど、会社の都合で休刊に。しかし、情報誌の発行をどうしても諦めきれず、自ら1998年に無料の月刊情報誌「Fukuoka Now」を創刊しました。

当時は観光のために福岡に来る外国人はほとんどいなくて、福岡に住んでいる外国人と、海外に興味のある日本人に向けて福岡の情報を届ける、日米2か国語のメディアでした。外国人にとって日本語は難しく、今のようにネットで調べたりもできなかったので、英語で福岡の情報を得られるということで大変喜ばれました。とはいえまだ外国人、特に欧米人は少なくて、しかも英会話学校や大学などで働く人が数年だけ働いて帰国するパターンが多かったと思います。

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――30年の間に、ニックさんの事業や福岡で暮らす外国人にどんな変化がありましたか?

ニック:この30年の間にインターネットやSNSが普及して、ウェブにも力を入れるようになりました。英語と日本語に加えて、韓国語や中国語、フランス語、スペイン語などを取り入れた時期も。また、外国人観光客の増加を受けて、2009年からは年間42万部ほど外国語の観光地図「Now Map」の発行をスタートし、2015年から「月刊情報誌 Fukuoka Now」を英語・中国語・韓国語の3か国語記載にしました。しかしコロナの影響を受けて、雑誌と地図は2020年4月で休刊に踏み切りました。

福岡に住む外国人についても変化がありましたね。きっと福岡で暮らしている人は感じていると思いますが、今は会社員をはじめ起業家、自宅をオフィスにしてビジネスをしている人、国際結婚した人など、いろいろな外国人が長く住むようになったと思います。皆さん福岡の良さに気づきはじめているのだと思います。

――お仕事については時代の流れに応じて対応されてきたのですね。

ニック:紙媒体の休刊はコロナが引き金になったのものの、ちょうどウェブやデジタルに絞る方向で考えているところでした。どんな形になろうとも、私たちのミッションは、国際人のために、福岡や九州に関する情報を発信することです。

世界とのハブになり得る天神

――天神とはどのような関わりがありますか?

ニック:会社(フクオカ・ナウ)のオフィスは、長く天神にありました。天神が福岡における情報の中心地だと感じていたので。私にとっての天神は仕事のフィールドで、買い物や飲食、ナイトライフを楽しむ場所ですね。

――天神にオフィスがあり取材活動もされていたら、天神の変遷も身近に感じてこられたのでは。

ニック:この30年で大きく変わりましたね。特に西通りあたりは、世界的なブランドのショップが増えました。ハーゲンダッツ、スターバックス、アディダス、そしてアップルなど。海外で親しんでいたショップが福岡にできると、外国人の方々は喜んでいたし、住みやすくなったともいえます。その反面、福岡オリジナルの店が消えていってしまい、うれしさと残念な気持ちが入り混じっています。

天神をはじめ福岡のまちはフラットで、とても歩きやすい。そして博多や住吉、春吉、今泉、警固、大名、赤坂、高砂、薬院など、天神から歩いて行ける距離にそれぞれ個性があり雰囲気の違うまちがあるのも大きな魅力ですね。「天神ビッグバン」は福岡にとって必要でポジティブに受け止めていますが、同時に周辺にあるまちの個性を守るのも重要なこと。「天神ビッグバン」が福岡ビッグバンにはならないでほしいと思っています。

――「福岡ビッグバンにならないで」というのは印象的なフレーズです。

ニック:福岡市は今、天神・博多・ウォーターフロントという3つのゾーニングをしながら、エリアの連携も進めています。その中で天神は、昔から九州各地から若者を中心に多くの人たちが買い物やイベントのために訪れる場所。天神は福岡と九州のハブであり、さらにアジアや世界のハブという役割を果たしていけると考えています。

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――今年(2021年)1月から「Kyushu Live(九州ライブ)」を始めたのは、どんな背景があるのでしょうか?

ニック:コロナでまちに行きづらくなったことが一つのきっかけで、福岡のみならず九州と世界中の人をつなげることを目的としてライブストリームの動画配信を始めました。九州の魅力を世界に発信していきます。フクオカ・ナウを創業した当初は、福岡だけで十分だと思っていたのですが、今感じているのは、九州あっての福岡であり、九州は一つだということです。

例えば、私が大好きな糸島は、きれいな海や自然があって、おいしい食べ物に恵まれていることはもちろん、天神から車で30分ほどの近距離にあるいうことも大きな理由です。自然豊かな場所は日本中にたくさんあるけれど、天神のような都会のメリットを十分に享受できて、プロ野球の試合や歌舞伎を観に行くこともできる。そんな条件の場所はなかなかないでしょう。医療機関も充実していて、何も困らない。朝からサーフィンをして仕事に行くこともできる。私にとっては日本で最高の場所ですね。

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――なるほど、天神が近くにあることがポイントなのですね。

ニック:天神は九州の皆さんにとってのベネフィットなんです。「天神ビッグバン」によってオフィスのクオリティが上がり、これから外資系企業やグローバル企業がどんどん福岡に来てくれるかもしれません。福岡は第3次産業のまちなので、インテリジェント企業を誘致するというのはベストな戦略だと思います。

では、ナレッジワーカーやクリエイターを呼び込むのに必要なものは何か。福岡が誇るQOLは、まさに圧倒的な強みになるでしょう。福岡市の住みやすさは、イギリスの雑誌「MONOCLE」が発表する世界で最も住みやすい都市としてランクインしたことでも証明されています。豊かな自然があり、食べ物がおいしく、物価が安く、通勤時間が短い。これらをアピールすることで新たな人たちが福岡に来て生活に満足する一方で、今福岡にいる人たちも交流が広がって、お互いにハッピーですね。

――これからの天神にどんなことを望みますか?

ニック:「天神ビッグバン」によってスモール東京やスモール大阪になることなく、天神の個性を際立たせてほしい。さらに歩きやすさを追求したり、ベンチなど休憩するところを設けたり、緑を1本でも増やしたり。まちが大きく変わる今だからこそ、「まあ、いいか」と気を緩めずに、細かいところまでこだわってみんなでまちづくりを進めていければと思います。

それから、ナレッジワーカーの中には、ランニングパス、サイクリングパス、川遊びに期待している人も多いと思います。中洲の川で少しSUP(スタンドアップパドル)*ができるようになりましたが、もっと本格的に使えるようにすると、まちに活気も出てくるのではないでしょうか。天神からベイサイドあたりのウォーターフロントは、今後とても面白くなるエリアだと思います。

SUP・・・サーフボードに立ちパドルを使い海や川などの水面を進むウォータースポーツ。

――世界で福岡の知名度は上がってきたと感じられますか?

ニック:そうですね、私は22年間にわたって楽しみながら、時には頑張って福岡を発信してきたので、少しでも貢献できているとうれしいです(笑)。福岡もだんだん国際化してきて、たくさんの留学生やビジネスパーソンが暮らしています。彼らが福岡を離れても、福岡の話をしたり、福岡のことを調べてくれることで、福岡の認知も少しずつ広がっているのではないでしょうか。

福岡市がブランディングとして「NEXT」という言葉を使っているのがすごくいいと思っています。大都市の東京が一番いいという考え方は、すでにレガシーに…。感度のいい人たちは、会社の設立や移転、住むところ、投資先などを探すときに将来性を優先しています。福岡が先を見据えた「NEXT」を打ち出していることは、この都市の将来性の大きさを象徴している気がします。

――今後、会社や個人として、どんな活動をされる予定ですか?

ニック:紙媒体でもデジタルでも、私たちは情報を発信しながらコミュニケーションを大切にしてきました。リアルなイベントには1,000人近く集まることもありました。デジタルになっても、私たちのキーワードは「コミュニティ」です。私たち(フクオカ・ナウ)がつくるメディアを通して福岡や九州の今を知ってもらい、コミュニケーションのきっかけになればいいなと思っています。

2006年には福岡県が立ち上げた「福岡インターナショナルビジネス協会(FIBA)」に事務局として参画し、今は理事長を務めています。福岡で働く外国人や国際ビジネスに関わっている日本人などが英語で交流する場で、コロナが拡大する前は、年に数回集まって情報交換をしていました。こちらも来年(2022年)にはリスタートできればと考えています。

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――コミュニティをテーマに活動されるのですね。

ニック:私は福岡でメディアの仕事を22年間やってきて、行政や民間企業、一般の人などたくさんの人たちと出会い交流を続けてきました。そのご縁を大切にしながら、何かしたい外国人や日本人のネットワーキングをサポートしたり、交流できる場を提供したりしていくことが、私のミッションだと感じています。

もう一つは、福岡をはじめ九州の話題を、地元の国際人はもちろん世界中の人に届けたい。今は九州のニュースサマリーをまとめた英語のメールマガジンを週1回配信しています。ソーシャルメディアでは情報があふれる中で、私が1週間で面白いと思ったものを厳選してご紹介しています。今、1,900人の登録者がいるのですが、もっと多くの人に読んでいただければと思っています。九州に住む国際人に役立つ情報を届けつつ、九州の素晴らしさを世界に伝えていきたいです。

▽▽メールマガジン登録フォーム▽▽
https://www.fukuoka-now.com/en/mailmagazine/

――ちなみに、今はオフィスで仕事をされているのですか?

ニック:オフィスはあるのですが、コロナ禍になってからはほぼリモートワークです。オンラインでもデスクワークは問題ないのですが、やはり早く天神に戻りたいですね。天神のまちには、人との出会いや刺激があふれていましたから。今日ここ(博多)に来る途中、偶然何人もの知り合いに会いました。直接会って話すことの大切さや喜びを感じました。日々アップデートしていく福岡で、フクオカ・ナウとして、そして私個人として自らの役割を考えながら、これからも楽しく精いっぱい活動していきます。

コロナ禍で海外との行き来にはまだ制限があるものの、『天神ビジネスセンター』には外資系企業の入居が決まるなど、ますますグローバル化の動きが加速していくものと思われます。どこのまちにでもあるような様相ではなく、天神らしく発展していくためには、スモール東京を目指すのではなく、まさに福岡市が打ち出す「NEXT」視点が必要になるのかもしれません。

■会社概要
会社名:有限会社フクオカ・ナウ
URL:https://www.fukuoka-now.com/

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