福岡発祥の名物として、高い人気を誇る「明太子」。現在、明太子メーカーは福岡県内に200社ほどあり、中でも国産の希少な原材料をメーカーに提供しつつ、グループ会社のブランド「島本」の辛子明太子や関連商品がメディアで話題になっているのが、株式会社はたえです。国産の明太子原材料シェアではトップに輝き、海外にも商品を展開している同社。「世界に明太子の食文化を広げたい」と夢を語る代表取締役の波多江正剛さんに、会社の沿革から戦略、今後の展望まで話を聞きました。
上質な国産に特化しトップシェア
――まずは御社が創業された経緯を聞かせてください。
波多江:当社は1947年、福岡市博多区で海産物の卸会社としてスタートしました。戦前、海産物問屋に丁稚に行っていた私の祖父が、戦後に福岡市博多区で創業。主に北海道から仕入れた昆布をはじめ、いりこやカツオ、椎茸などの乾物を扱っていました。その後、父、母と会社を受け継ぎ、2012年から私が代表取締役を務めています。
▲同社のトラックが写る昭和30年代の写真
――子どもの頃から「会社を継ぐ」という思いがあったのですか。
波多江:自分が継がなきゃとは思っていました。小さい頃は店の上に住んでいて、商売を身近に感じて育ち、ずっとお手伝いをしていました。夏休みは工場、冬休みはお歳暮の準備、年末は祖母の市場の店で前掛けをして、お客さんに釣銭を渡すのが私の仕事。正直なところ、子どもの私にとって海産物はイケてないし、においが服についたりして、あまり好きになれなくて。でも、家族や親戚が一生懸命働く姿を見ていましたし、お手伝いから学ぶこともたくさんありました。
大学進学で東京へ行き、オーストラリアに留学もしました。就職活動ではいろいろ内定をいただいたのですが、やはり家業を継ぐことを見据えて福岡の銀行に入行。ところが翌年、父が亡くなり、銀行で3年だけ勉強させてもらって家業に入りました。
――現在の事業内容を教えてください。
波多江:はたえの事業は、大きく3つの柱があります。メインは明太子の原材料の卸。福岡名物の辛子明太子の原料となる、すけとうだらの卵を国内外で買い付け、明太子メーカーに販売しています。
2つ目は創業時から続けている海産物やその他食品の販売です。当社が厳選した辛子明太子や取引先の商品をお中元やお歳暮として百貨店に販売したり、カタログギフト会社などに納めたりしています。そしてもう一つ、家庭用明太子や加工品などを「博多食材工房」というブランドで、オンライン上で販売しています。自社商品だけでなく取引先の商品も含めて、Amazonや楽天、Yahoo!や業務用食材卸などに出店しています。
――会社の事業内容として現在は明太子の原材料の卸が中核ですか?
波多江:祖父が始めたダシ系の卸は、小売店が減り、スーパーでは安売り合戦になって、どんどん苦しくなるばかり。そこで父の代から始めたのが、明太子の原材料の販売です。後発だったのでどうするかと考えた結果、国産の上質な材料に特化しています。北海道で獲れるスケトウダラの卵は、明太子材料の約5%と希少で、当社は国産原材料のシェアでは日本トップです。
――国産の明太子原材料でトップシェアはすごいですね!
波多江:ありがとうございます。もともと北海道に強いつながりがあり、2020年には株式会社北海道きょうりんの株式を取得。辛子明太子に適した原卵づくりをより追求できるようになりました。
国産の原材料はかなり高いのですが、品質の高さが魅力だと思っています。福岡には大小の明太子メーカーが200社ほどあって、自社ブランドのところから下請けのところ、料理屋さんが作っているケースも。規模が小さくても味にこだわって、すごくいい商品を作っているメーカーもたくさんあるんです。そういうところが望む原料を探したり、少量ずつこまめに提供したり、一緒に商品の価値を考えたりと、寄り添って対応しているのがうちの強みだと思います。国産卵の良さを理解して大切に扱ってくださるお客さんに恵まれて、ありがたい限りです。
▲スケトウダラ漁
――グループの株式会社島本食品では、自社商品も販売されていますね。
波多江:通信販売のほか、福岡県内4か所で販売しており、祇園にある博多駅前店、博多阪急店、新宮店、本社直売店で販売しております。また、さまざまなメディアでオリジナル辛子明太子を取り上げていただき、昨年2022年11月には全国放送のテレビ番組で、とある芸能人の方が「手羽先めんたい」を推してくださったようで、大きな反響がありました。
食文化をキーワードに事業を展開していく
――御社の今後のビジョンを教えてください。
波多江:はたえ、島本食品、北海道きょうりんの3社で連携して、面白いことをしていきたいです。数年苦しい時期もあったのですが、お陰様で、だんだん、事業も軌道に乗りはじめ、これからは、福岡は明太子を主軸に、北海道でも地域ブランドを作っていきたい。はたえでは、今年から新卒採用も始めました。
父が亡くなったのは私が28歳のとき。それからすごいと思う会社の社長さんに手紙を書いて、全国どこへでも会いに行き、経営の話を聞かせてもらってきました。自分が苦しい時期に正直に話すと、苦労されている社長さんほど親身に教えてくださって、本当に感謝しています。自分も経営者としてもっともっと頑張らなければと思います。
――御社では新たな人材も求めているそうですね。
波多江:当社はまだ小さな会社ですが、私は会社を良くしていきたいし、地域を良くしていきたいし、子どもたちに明るい未来を残したいと本気で思っています。会社を経営する上で一番大切な資源は「人」だと実感しています。想いを共にしてくれる人と働けるといいですね。
私自身、失敗も含めていろいろな経験をさせてもらったからこそ、今があります。だから失敗を許容できて、チャレンジできる会社でありたい。グループとしてやっていきたいことは山ほどあるので、1つずつ着実に進めていくつもりです。
――世界に向けた動きも進んでいるとのこと。
波多江:日本はもちろん、世界に明太子を広げていきたいです。明太子は福岡が誇る食文化としてアピールできるすばらしい商品だと思います。
ちょうど先日マレーシアの社長が来られて、明太子などをたくさん発注いただきました。海外展開を見据えて、2021年にハラル認証を取得したことが成果として表れてきています。
――明太子業界として、そのような動きがあるのでしょうか。
波多江:明太子業界には組合があり、今は私と同年代の社長に代替わりしていて、みんな仲がいいんです。以前、ヨーロッパに明太マヨネーズなどを持っていったら、現地の人たちに大好評でした。日本の市場がシュリンクする中、みんなで力を合わせて積極的に海外へ売り込んでいこうと話しています。
――素敵なアイデアですね。
波多江:子どもの頃は家業の食に携わるのが恥ずかしくて嫌だったけれど、今となっては食で良かったと心から思います。世界の人たちの日本食への信頼や期待は非常に高くて、みんな食べることを楽しみに福岡に来られますし、おいしいものがあれば人と人がつながり、楽しい場を作ることができます。食文化をキーワードとして、これからも事業を広げて、もっと地域に貢献していきます。
福岡に住んでいても、辛子明太子を食べ比べる機会はなかなかありません。今回、「国産の原材料はおいしさが別格」と知り、意識して食べてみたいと思いました。「明太子を世界に広げたい」と夢を語り、実際にヨーロッパやアジアで1歩を踏み出したエネルギッシュな波多江社長。明太子業界の仲間や社員と共に、夢に向かって着実に歩む一方で、はたえグループとしてのこれからの展開も楽しみです。
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。