福岡市博多区に本社を置く三和ホールディングスの会長だった石井和俊さんが、人生最後の事業として私財を投じ、2016年に設立した「公益財団法人 石井育英会」。
経済的な理由などで夢を諦めることがないよう、福岡県内の大学に通う修学意欲の高い大学生に、返済不要の奨学金を給付しています。同財団で代表理事を務める石井雄さんに設立の背景や思い、現状などを伺いました。
sponsored by 公益財団法人 石井育英会
余命宣告を受けてすぐ、育英会を設立
――石井育英会の母体となっている三和ホールディングスは、どんな会社ですか?
石井:不動産と住宅、総合通販サービスなどを事業の柱とする三和グループの純粋持株会社です。石井和俊は私の父で、もともと父を含む3人で三和株式会社を創業しました。それから事業を多角化していき、様々な経緯があり、今の体制になっています。父は2020年に亡くなり、今は兄が社長を務めています。
――不動産や住宅の会社が、なぜ育英会を立ち上げられたのでしょう?
石井:理由は大きく2つあります。一つ目は父が福岡県浮羽の出身で、どちらかというと貧しい家庭で育ったために大学への進学を諦め、高校卒業後に働き始めた経験からです。二つ目としては、父は40年近く会社を経営する中で、倒産の危機があっても、いろいろな方に助けてもらって乗り越えてきました。70歳を前に「自分が受けてきたご恩を地域社会に返したい」と考え、育英会の設立を思いついたそうです。
当時、大学生への奨学金の大半は貸与型で、卒業後に返済できず、親子で自己破産するケースが社会問題になっていました。そこで返済不要の給付型にしようと考えました。
――素晴らしいですね。人への思いが強い方だったのでしょうか?
石井:父は社員をすごく大事にしていて、人を育てたいという気持ちがとても強かったですね。週に2、3回は社長室に社員たちを呼び、出前のうどんを頼んで、社員の話に耳を傾け、手助けできることはないかと聞いていました。
また、若くして頑張っている人たちをさまざまな形で応援していて、自ら熱心に勉強しつつ、若手の経営者を集めた勉強会を開いていました。そのうち1社が一部上場したため、その株の利益をもとに育英会を立ち上げることにしたのです。
――2016年に石井育英会を設立されて、2017年には公益財団法人に。展開がスピーディですね。
石井:じつは、2016年6月に父が余命6か月と宣告されました。そのため父は一気にスピードを上げて準備をし、11月設立に至りました。さらに、少しでも多くの学生に給付できるように、税制の優遇措置を受けられる公益財団法人の認定を受けました。まわりの方々がサポートしてくださったおかげです。
福岡県内の大学生30人に奨学金を給付
――石井育英会の奨学金制度について、詳しく教えてください。
石井:経済的な理由で大学進学を諦めてしまう修学意欲の高い学生に援助を行い、青少年の心身の健全な発達に寄与し、福岡の将来を担う人材の育成に貢献すること、ひいては九州や日本を牽引できる人材を輩出することを目的としています。
具体的には、福岡県内の大学に通う学生30人に、月5万円(年間60万円)の奨学金を給付しています。入学から卒業までを基本としています。対象は、福岡県内の大学へ進学を希望する高校生で、世帯年収の制限があります。
毎年、卒業した人数分の募集を行っていて、今年は60人ほどの応募から8人を選抜しました。高校で候補者を決定してもらい、当財団で書類審査と面接を経て合格となります。
――対象となる学生は、どうやって集められるのですか?
石井:初めはまったく知られていないので、県内の高校を訪問して説明したり、資料を送ったりしましたが、それでもなかなか人が集まらずに苦労しました。最初の3年は大学にもアプローチして、すでに大学に入学している人たちにも募集をかけました。今は翌年大学入試を控えた高校三年生のみ募集をしています。
――奨学金を給付する側なのに、ご苦労もあるのですね。
石井:はい、当初は父が保有していた株券で財団を設立し、その運用益で運営していく予定でしたが、その株の配当が出なくなり、幅広く寄付を募ることに方針転換しました。今、クラウドファンディングもやっているので、ぜひ見ていただきたいです。
>>クラウドファンディングはこちら
理事や評議員の皆さまには無報酬で支えていただいています。学生たちには社会勉強の一環として、研修・広報・寄付・イベントの4つの委員会を作ってもらい、学生と一緒に財団を運営しています。SNSは学生が順番に発信していて、このポスターも学生が作ってくれたんですよ。
さまざまな出会いによって学生が成長
――奨学金制度は世の中にたくさんありますが、石井育英会の特徴はどんなところでしょう?
石井:ひとつは、事務局と学生たちの距離が近いこと。事務局と学生の面談が年2回あり、プライベートな相談もよく受けています。
また、学生たちのつながりが強いところも大きな特徴だと思います。毎年新しく入ってきた学生たちの歓迎会を、福岡市内にある三和グループの保養所で開催します。私たち大人は途中で差し入れを持っていくだけで、学生が企画して楽しんでいます。
石井育英会として食事会もしますし、委員会の活動を通して、学生たちがどんどん仲良くなっていきます。ほかにも、三和グループの研修会に参加した学生が刺激を受け、在学中に起業することもありました。さまざまな出会いや経験が、学生の成長につながっていると感じます。
――設立から6年が経ち、特に印象に残っていることを教えてください。
石井:学生に言われてハッとした言葉があります。当財団では年間60万円を4年間、つまり240万円を給付します。「240万円というお金は、時給1,000円で2,400時間働いた分と同じ金額です。つまり私たちは、時間を2,400時間もらったことと同じになります」と。当財団は学生たちに2,400時間を提供しているという捉え方に、「なるほど」と思いました。
――学生との思い出がたくさんありそうです。
石井:みんな夢があり修学意欲が高く、高校卒業から大学卒業まで見届けるので、どんどん成長していく姿に感動します。1~3期生全員から素敵なメッセージファイルをもらったり、サプライズの動画を作ってくれたりしたことも。社会に羽ばたいても頑張ってほしいと心から願っています。卒業生の会もあり、末永く付き合いが続いていくと思います。
共感によって応援の輪を広げていきたい
――どんな方が寄付されているのでしょうか?
石井:知人はもちろん、面識のない個人や団体がホームページやSNSを見て寄付してくださることも増えてきて、大変うれしく思っています。金額としては1,000円の方もいれば、学生1人の1年分として60万円という方も。これまで延べ350人を超える方からご寄付いただきました。私たちの活動に共感してくださる個人や団体の存在・言葉をうれしく感じていますし、励みにもなっています。
――寄付者には何か返礼などがあるのですか?
石井:当財団への寄付金には税法上の優遇措置が適用され、寄付金控除を受けられます。また、了承いただいた方のお名前をホームページに掲載しています。
寄付者には、学生がお礼の手紙を書いてお送りしています。育英会に新しく合格した学生を紹介する認定式や、学生の活動報告会・卒業式などにもお招きしています。ほかに、一定額以上のご寄付をいただいた方には事務所にお越しいただき、感謝状を額縁に入れて贈呈し、記念写真を撮影しています。
――寄付者とのつながりも大切にされているのですね。これからの展望をお聞かせください。
石井:「どうにか長く続けてほしい」と先代から託されたバトンを次へと受け継ぎ、100年続く団体を目指しています。そのためには持続可能な組織体制を作り、ご寄付いただける方を増やすことが何より大事です。
この先、現実問題として社会の格差はなくならないでしょう。当財団に応募してくれるご家庭には、世帯年収100万円以下というケースが少なからずあります。それでも選考によってすべての方を合格にできないのは、非常に心苦しいところです。
私たちの活動についてもっともっと多くの方に知ってもらえるよう活動を続けることで、活動内容に共感いただき協力・寄付いただける方々を増やしていきたいです。夢のある若者と福岡の未来のために、この事業を継続できるよう努めてまいります。
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。