多様な生き方や働き方が広がりつつある現代。企業にはこれからますます、さまざまな人が働きやすい環境を整えることが求められます。社員の働きやすさを叶える企業の取り組みとは?
この連載では、実際に働き方改革に積極的に取り組む企業で働く人や経営者にインタビュー。今回は、鹿児島県内5カ所に養鰻場があり、福岡・東京に直営の専門店「うなぎ仁」も展開する、株式会社鹿児島鰻を取材しました。
※ここで紹介する企業は私募債発行に際してSDGsに資する取り組み、中でも働き方改革を積極的に行うことを要件に取り込んだ、西日本シティ銀行が提供する、次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」を発行している企業です。※私募債についてはこちら
【社員インタビュー】
株式会社鹿児島鰻 養鰻作業員(2022年入社) 大木 玲奈(おおき れな)さん
Q:この会社を選んだ理由、入社の決め手を教えてください。
両親が水族館や動物園に何度も連れて行ってくれ、子どもの頃から生き物が好きで面白さを感じていました。将来は生き物に関わる仕事がしたいと水産系の大学に入学し、就職活動では水産系にしぼって企業を探しました。
内水面養殖業、なかでも養鰻作業員に興味が湧き、当社でインターンを経験。実際に働く社員のみなさんの雰囲気や、養鰻の仕事を自分の目で確かめて、「この会社で、養鰻の仕事をやってみたい」と思いました。
また、数社との出会いのなかで、女性ということもあり体力面などで心配されることが多かったのですが、当社は面接の段階で「女性でも働きやすい環境です」と前向きに話してくださったことも、決め手の一つでした。
Q:入社して感じた、この会社の良さはどのようなところでしょうか?
各事業所の養鰻チームは4~5人で、社員同士の仲が良く何でも相談しやすいですし、コミュニケーションはしっかり取れていると感じています。養鰻はビニールハウス内の池で行うため夏場は大変ですが、休憩時間はもちろん水分補給や小休憩を取るなど、場長や先輩が細やかに声をかけてくださいます。
自分のチームに女性は私1人なのですが、力仕事でどうしても難しい時は手伝ってもらうこともあり、働きやすい環境です。
Q:現在の業務を教えてください。
養鰻場での業務は餌練り、餌並べ、池整備(水車組み・モーター配線接続・池洗い・砕石)と多岐に渡り、別の事業所へ行って出荷選別作業を行うこともあります。
私の場合は朝8時に出勤し、まず行うのは餌を並べる作業です。餌は、稚魚(シラスウナギ)と成魚で硬さ・柔らかさが異なるものを与えるため、飼料から水で練って調整し作っています。その後は、池の水のpH値を測定します。pH値が急激に下がると環境が変わってしまい鰻のストレスになってしまうので、pHを一定に保つことが重要です。
あとは日によって作業が異なりますが、池整備などを行います。鰻が大きくなり出荷されると池が空くので、次に育てる鰻のためにきれいにします。夕方にまた餌を与えて、16:30頃に退勤します。どうしても人手が足りない時は朝5時出勤のシフトになることもありますが、基本的にはこのようなスケジュールです。
Q:業務でのやりがいや嬉しかったことを教えてください。
鰻は、稚魚から出荷までは早くて半年、長いと2年かかります。大きさによって与える餌が異なるためサイズ別に選別して育てていくのですが、1つの池におおよそ2万5千、小さい稚魚の池だともっと入っています。毎日餌をあげる際に、鰻が少しずつ大きくなっていくのを見るとやはり嬉しいですね。また、チームみんなで育てているので、大きく育って出荷される時には達成感があります。
長い時間をかけて丁寧に育てているので、出荷される時は嬉しさと同時に寂しさを感じることもあるくらいです。でも、自分が育てた鰻を初めて家族に贈った時は、みんなで美味しく食べている写真が送られてきて、とても嬉しかったのを憶えています。
Q:福利厚生や制度はどうですか?
休みはシフト制で月に7日あります。毎日の帰宅も早いので身体をゆっくり休めることができ、休みの日はゲームなど好きなことに没頭しています。
会社の制度としては、資格取得のサポートがあります。なかでも業務で使用するフォークリフトは、入社後すぐに資格を取得するのですが、業務時間内で講習を受けに行けますし、費用は会社に出していただけます。
Q: 仕事を通じて学んだことはありますか?
鰻は生き物なので、毎日ちょっとした変化を見逃すと大変なことになります。些細な事にも気づくことができる観察眼、丁寧に真剣に向き合う姿勢が大切だと日々実感しています。
Q:今後の目標を教えてください
今は入社3年目で場長からの指示を受けて業務を行っていますが、将来的には自分の意思を持って鰻を育てられるようになりたいと考えています。そのためにも、日々業務を行うなかで先輩方など周囲の方の意見をよく聞いて、知識をしっかり蓄えていきたいです。
【トップインタビュー】
株式会社鹿児島鰻
代表取締役 斎藤 裕仁(さいとう ひろひと)さん
1988年(昭和63年)生まれ、鹿児島県出身。中学・高校時代は野球に打ち込み寮生活を送る。大学は海洋学部に入学するも、先代である父の病気により、将来の家業継承を想定して大学を中退。19歳で株式会社鹿児島鰻に入社。現場で下積みから養鰻作業を経験し、関連会社の代表などを経て、30歳より現職。
チーム全員で鰻を育て、日々の変化に真摯に向き合う
当社は1996年(平成8年)に創業。私は19歳で入社して養鰻の現場に入り、毎日朝4時起きで夕方18時まで養鰻作業員として働きました。当時は、池の横にあった社員寮に住み込みで働いていたので、鰻につきっきりの生活です。その後、鹿児島鰻販売という関連会社(現在は事業部)の代表として経営実務を経験し、2018年(平成30年)に当社の代表取締役に就任しました。
代表に就いてから行った大きな改革の一つは、人事の刷新です。私が養鰻の現場で働いていた頃にいた古参の社員は現在ほとんどおらず、30~40代を主軸に、20代の若い世代や、新卒社員も少しずつ入ってきています。就任時は赤字が2期続いていたのですが、思い切った人事をはじめ、若い社員の考え方を取り入れた経営方針にシフトしたことで、現在はおかげさまで黒字転換しております。
私自身、現場時代は辛くきつい経験をしてきたので、働き方についても大きく変えました。私は、「自分たちが出した結果の分だけ、自分たちに跳ね返ってくる」それが働くモチベーションに繋がると考えています。モチベーションを上げるためにどうすれば良いか、時間や休みなども含め、経営サイドが指示するのではなく、現場の社員に自分たちで考えてもらっています。
また常々、仕事は「楽しさとコミュニケーション」が大事だと私は考えています。社員それぞれが持っている知識を出し合い、チームとして成果を出すには、コミュニケーションが必要不可欠です。そこで、社員たちが仲を深めるための食事や飲み会などの経費は会社で出しています。こうした働き方の改革もあって、社員同士の雰囲気はとても良いですね。
鰻は仕入れる稚魚によって育つペースが異なり、育てるのは本当に難しいです。どれだけ稚魚を死なさず出荷まで育てられるか。病気の稚魚がいれば、いかに早く処置して他への影響を最小限に抑えられるか。そのためには、日々の食欲など一匹一匹の些細な変化を見逃さない集中力と判断力、そして何よりチーム力が大切になってきます。
そんな養鰻作業員に求めるのは、体力よりも人間力です。もちろん学生時代の運動経験などバックボーンは役立つと思いますが、それ以上に、チームで動ける協調性やコミュニケーション力が重要です。力仕事も多く大変な仕事ですが、その分、出荷する時の達成感は他では味わえないと思います。自然豊かな鹿児島で生き物に対峙するこの仕事を、若い世代にはぜひ経験してほしい。きっと人生の糧になるはずです。
出荷量だけでなく、味、評価ともに日本一のブランドを目指して
現在、当社は鰻の出荷量日本一ですが、この実績は守っていきながら、今後は味や評価の面でも、鹿児島鰻を日本一のブランドにしたいと考えています。そのために通販事業や、飲食業「うなぎ仁」なども展開しており、フランチャイズ化も検討中です。
日本の養殖鰻では静岡や三河などがよく知られていますが、近い将来「ここの店、鹿児島鰻を使っているらしいよ」と、店選びの指標になるくらい、広く認知されることを目指しています。媒体展開や店舗展開を含めたブランディングはもちろん、今よりもっと身近に食べてもらえるスタイルや価格帯などの戦略も検討し、鹿児島鰻をより多くの人に届けていきたいですね。
フリーライター・編集者
福岡市出身。大学卒業後、フリーペーパー編集部や企画制作プロダクションにて編集・ライティング業務に従事。2017年よりフリーランス。未就学児2人の子育てに奮闘中。