北九州で新しいロボット産業を生み出すため、2019年に設立されたKiQ Robotics(キックロボティクス)株式会社。代表取締役CEOの滝本隆さんはもともと北九州高等専門学校の准教授で、システム制御の技術をもとに20社以上と研究を行い、さまざまな製品を生み出してきました。
同社では特許を持つロボットの柔軟ハンドとシステム制御の技術を強みとして、作業の自動化を進めるための機器の研究・開発・販売を手掛けています。
スタートアップとして注目を集める同社について、滝本さんにお話を伺いました。
■プロフィール
KiQ Robotics(キック ロボティクス)株式会社
代表取締役CEO 滝本 隆(たきもと たかし)さん
福岡県出身。2002年北九州高等専門学校を卒業後、大阪大学大学院基礎工学研究科に進学、工学博士。2008年から福岡県産業科学技術振興財団研究員を務め、2010年北九州高等学校専門学校機械工学科の講師に。准教授だった2012年に合同会社Next Technologyを設立。2019年にKiQ Robotics株式会社を設立し、翌年高専を辞職。
北九州高専に勤務しながら2つの会社を設立
――滝本さんは高専の先生を経て、KiQ Roboticsを設立されたとのこと。これまでのキャリアを教えてください。
滝本:私はロボットが好きで、高専から大学院までロボットなどのシステム制御について学び研究しました。母校である北九州高専で教鞭を取るようになってからは、研究成果を活用するため2012年に合同会社 Next Technologyを立ち上げ、学生や卒業生たちとの活動にも力を入れてきました。いろいろな会社がIoTやロボットでやりたいことを形にするお手伝いをして、実際に世に出た製品がいくつもあります。
――例えば、どんな製品があるのでしょうか?
滝本:一番バズったのは、足の臭いを測定する犬型ロボット「はなちゃん」です。犬型ロボットが鼻についたセンサーで足の臭いを測り、臭いが弱ければすり寄り、中程度なら吠え、強ければ倒れて気絶します。テレビ番組『月曜から夜ふかし』など国内外のメディアで紹介されて、かなり反響がありました。
――とてもユニークですね。さらにKiQ Roboticsを設立されたのはなせでしょう?
滝本:スタートアップとして、社会課題を解決する会社を作りたいと思ったからです。2019年に立ち上げて、1年間はメンバー集めと資金集めを行い、資金調達ができたタイミングで高専を辞めて本格的に活動を始めました。
よく「退路を断って起業したのですか!」と驚かれますが、1度学校を辞めてもいろんなキャリアがあると思っています。研究者は社会のために研究しているので、スタートアップと相性がいいし、海外では実際に起業している先生が結構います。新たなキャリアモデルを示したいという思いもありました。
ハンドとシステムをカスタマイズしたロボットを提供
――どんな会社なのか聞かせてください。
滝本:KiQ Roboticsの「KiQ」は「KitaQ」(北九)の略で、ロボットのまち北九州で、新しいロボット産業を生み出すことを目指しています。もともとは当時、九州工業大学の准教授だった西田健先生が開発した「何でもつかめる柔軟ハンド」と、私が研究開発してきた産業用ロボットを動かす技術をもとに創業しました。
一般的にロボットアームはアーム本体のみ販売されていて、先端のハンドと、ロボットを動かすシステムが別途必要になります。弊社では現場のニーズに合わせてそれらをカスタマイズしたロボットを提供することで、働きやすい生産現場を実現できればと考えています。
――具体的にはどんなところで使われるのでしょうか?
滝本:作業の自動化が求められるのは、いわゆる3Kといわれる、きつい・汚い・危険な工場のような職場です。人が働きたくないところをロボットによって補うことが重要ではないかと思っています。
今、最も多く相談が寄せられているのは、廃棄物処理の現場です。廃棄物処理場は臭いも音も劣悪な環境の中、異物の除去を人間の手でやっています。ビン、缶、ペットボトルしか入っていないなら、仕分けできる装置がすでにあります。しかし、自動販売機の横にあるごみ箱やコンビニのごみ箱といった事業ごみには、犬のフンやマスクなどあらゆるものが混入していて、人が選別しなければいけません。
――複雑な選別には人の目と手が必要なのですね。
滝本:廃棄物処理業者さんによって、いろいろな作業があります。プラスチック袋に包んで捨てられたごみの袋を破ることに課題を感じていたり、飲み残しのペットボトルの選別に困っていたり、木材の分別があったり。それぞれ対象物をAIで認識して選別できるロボットを開発することが私たちの役割です。
つまり、ロボットに目と手をつけてお届けするようなイメージです。そのためには事前の実験が欠かせないため、今は会社の拠点が3つあり、そのうち1つは実験設備のあるスペースになっています。
また、専門知識のない方でも簡単にロボットを活用できるパッケージ「Quick Factory」もあります。
特殊な柔軟ハンドによって自動化の範囲を広げる
――先ほどお話されていた「何でもつかめる柔軟ハンド」というのは何ですか?
滝本:3Dプリンタで作った特殊な構造の樹脂に柔軟性を持たせて、それをロボットハンドに応用するというのが私たちの特許です。ハンドの柔らかさを調整することで、さまざまな形状のものをつかめるようになります。
すでに導入した例を挙げると、円筒形状の部品をつかんで機械に取り付ける作業に使われています。従来の硬いハンドでは1種類の部品にしか対応できず、部品が変わるたびに人がハンドを付け替えなければなりませんでした。しかし柔軟ハンドなら、多少大きさや形の違う部品にも対応できるため、部品が変わっても人が介入することなく機械を動かし続けられて、生産効率が上がりました。
また、柔軟なハンドに変更することで、同じものをより小さな力で持てるようになります。モーターやロボットを小さくすることができて、省エネにも貢献できます。
――ものをつかむところに可能性があるのですね。
滝本:今、ある自動車メーカーで実験を進めているのが、コンテナのハンドリングです。コンテナのつかむ部分にはさまざまな形状があるため、積み下ろしの作業をなかなか自動化できないという課題があります。そこで柔軟ハンドを使えば、複数の形状に対応できて、ロボットに置き換えられるのではないかという考えのもと、実験を行っています。
柔軟ハンドは物流をはじめ、あらゆるシーンで活用できる可能性があります。例えば、Amazonの倉庫では人が1個ずつピッキングしていますが、そういうシーンでも使えそうです。ただ、ハンドだけで解決できるわけでなく、他にも多くの技術が必要なため、今はまだ他の技術の進展を待っている状態です。コンテナのハンドリングなどの事例を一つずつ世に出して、さらに自動化の適応範囲を広げていきたいです。
意欲ある会社と共に研究開発を進めて製品化を目指す
――会社にはどんなメンバーがいらっしゃるのですか?
滝本:私のほかに、安川電機出身の技術者が2人います。そのうち1人は私の研究室の卒業生です。ほかにリンクアームズ代表で機械導入専門商社での経験が豊富な國本研一さんに顧問を務めてもらっています。
――クライアントとはどのように出会うのでしょう?
滝本:自動化を進めるためにロボット技術を探している会社は多いようで、知り合いからの紹介がメインです。柔軟ハンドはネットなどを通して、全国から問い合わせをいただいています。
いろいろな会社からお声がけいただきますが、まだすぐにロボットを売れるわけではなく、廃棄物処理については一緒に研究開発を進めている段階です。
――最後に今後の展望を聞かせてください。
滝本:会社としては当面大きく2つの軸に注力していくつもりです。一つは先ほどお話した廃棄物処理の分野で、厳しい環境で働く人の負担を減らせるようにロボット化を進めること。もう一つは柔軟ハンドによって、自動化の適応範囲を広げて新しい市場を作っていくこと。どちらも私たちが持っている技術によって社会課題を解決できて、大きな可能性があると感じています。これからも楽しみながらチャレンジしていきます。
KiQ Robotics株式会社について
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
[NCB創業応援サロン福岡]
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平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817
◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。