お役立ち

労働・雇用保険の加入条件とは?それぞれの違いや事業主がすべき必要な手続きまとめ

By 濱田真里奈

|
2022.08.25
労働雇用保険

労働保険は労働者を傷病や雇用から守る目的があり、条件を満たす事業主には加入義務があります。労働保険の加入手続き漏れは行政から指導を受けるため、気を付けなければなりません。この記事では、労働保険の加入条件や手続きの方法などをまとめました。

労働保険とは労災保険と雇用保険を合わせたもの

労働保険とは、労災保険と雇用保険の2つを合わせた総称のことです。労災保険と雇用保険にはそれぞれ異なる役割があり、受けられる保証内容も違います。まずは、それぞれの保険の詳しい内容を見ていきましょう。

労災保険は勤務中の事故や病気に対する保険

労災保険とは、労働者の勤務時間中に発生した事故や病気に対し一定の給付をおこなう保険です。勤務時間には通勤時間も含まれるため、出社時や帰宅時に交通事故にあった場合なども保証の対象となります。労災保険の給付金には、以下のような種類があります。

種類

保障内容

療養補償給付

治療費など療養にあてるためのお金

休業補償給付

働けない期間の生活費にあてるためのお金

障害補償給付

後遺症が残った場合に受け取るお金

遺族補償給付

労働者が亡くなった際、遺族が受け取るお金

傷病補償年金

療養開始後1年半を過ぎても完治しないときに受け取るお金

雇用保険は失業時の生活に対する保険

雇用保険は、労働者の雇用や再就職を安定させることが目的の保険です。労働者の失業時や育児・介護により休業する際に、労働者の生活を保障するための給付がおこなわれます。

雇用保険でよく知られているのは、一般的に失業手当と呼ばれる基本手当や育児休業給付(育休手当)と呼ばれるものです。雇用保険は労働者だけでなく、雇用主側も一定の条件を満たした際に支援金を受け取れるのが特徴です。雇用保険の給付は、大きく4種類に分けられます。

種類

保障内容

求職者給付

失業後の生活を安定させるためのお金

就職促進給付

早期の再就職を促すためのお金

教育訓練給付

教育訓練の受講費用を補助するためのお金

雇用継続給付

長期休養時に雇用継続するためのお金

労働保険(労災保険・雇用保険)の加入条件や対象範囲

続きを読む

労働保険は2つの保険が組み合わさったものなので、それぞれの保険で加入対象者や範囲が異なります。ここでは、労働保険の加入条件や対象範囲を見ていきましょう。

労働者を1人でも雇用している事業主は加入義務がある

まず前提として、労働者を一人でも雇っている事業主は必ず労働保険の加入手続きをしなければなりません。例え1日のみ・1人のみのパートやアルバイトであっても、雇用している場合は労働保険の適用事業主となります。ただし、以下の事業所においては加入の義務はありません。

  • 国の直営事業所

  • 非現業の官公署

  • 船員法の適用を受ける船員

労災保険の加入対象

労災保険は労働者を保護することが目的のため、雇用形態や勤務時間数などに関わらずすべての労働者が対象です。労働者の希望の有無に関わりなく、労災保険が適用されます。例えば次のような人が、労災保険における加入対象者(労働者)にあたります。

  • 正社員・契約社員

  • パート・アルバイト

  • 日雇い労働者

  • 派遣労働者 など

労災保険の対象外となる人

労災保険の加入対象外となるのは、次の人です。

  • 法人の役員

  • 中小事業主

  • 自営業者

  • 事業主と同居する親族

  • 海外派遣者

注意点は、それぞれ一定の条件を満たす場合は加入対象者として認められることです。法人の役員でも取締役や理事から指示を受けながら働いて賃金をもらっている場合は、労災保険に加入できる労働者と見なします。また、海外派遣者で赴任ではなく商談のために海外出張している場合などは、労災保険の対象です。

役員や中小事業主なども労災保険に加入できる制度

労働者ではなく事業主の立場となる役員や中小事業主は、労働者の要件には当てはまらず労災保険の対象外になります。しかし、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護すべきとされる場合は任意加入が認められています。任意加入の制度というのが「労災特別加入制度」で、対象は以下の4種です。

  • 中小事業主等(役員・理事など含む)

  • 一人親方等

  • 特定作業従事者

  • 海外派遣者

所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に書類を提出し、承認されれば任意加入できます。

雇用保険の加入対象

雇用保険は労災保険と異なり、加入するために雇用期間や勤務時間数の条件が決められています。雇用保険の被保険者となるのは、以下の条件に当てはまる労働者です。

  • 31日以上継続して雇用される見込みがあること

  • 週の所定労働時間が20時間以上あること

期間の定めなく雇用され、フルタイムで働いている正社員は雇用保険の被保険者に該当します。また契約社員や派遣社員であっても、雇用契約に更新規定が記載され、31日未満での雇止めが明示されていなければ加入対象です。

雇用保険の対象外となる人

雇用保険の対象外は、上記の加入条件を満たしていない労働者と昼間学校に通う学生となります。学生の場合は本業が学業であり、仕事を辞めたとしても失業とはならないためです。ただし、定時制や夜間に通う学生は、加入条件を満たせば被保険者になります。

また、仮に残業などで一時的に加入条件を満たしたとしても、雇用保険の被保険者にはならない点に注意しましょう。雇用保険の加入の是非は、あくまで雇用契約の内容に従って判断されます。

労働保険料の事業主負担

労働保険料は、毎年6月1日~7月10日の間に納付手続きをしなければなりません。納付するには当年度分の保険料を自主的に算定し、その額を所定の書類に記載します。労働保険料は事業主と労働者でそれぞれ負担する割合があるため、詳しい保険料負担について見ていきましょう。

労災保険・雇用保険で負担割合が異なる

労災保険と雇用保険では、事業主と労働者それぞれの保険料負担割合が異なります。労災保険は全額事業主負担です。雇用保険は労働者と事業主でそれぞれ保険料負担があり、事業主の方が負担割合は多くなっています。

労働保険料の計算方法

労働保険料は、以下の計算式で算出できます。

  • 労働保険料=「賃金総額」×「労働保険料率(労災保険料率+雇用保険料率)」

賃金総額見込み3,500,000円の小売業を例に計算してみましょう。小売業における2022年度(令和4年度)の労災保険料率は1,000分の3、雇用保険料率は1,000分の9.5です。従って、以下の計算になります。

  • 計算例:3,500,000×(3.0/1000+9.5/1000)=43,750円

労働保険料を計算するには、該当年度の賃金総額と労働保険料率を知っておく必要があります。

賃金総額とは

労働保険における賃金総額とは、事業主が労働者に対し労働の対価として支払うすべての金額です。賃金総額に含まれる金額は種類が多いため、一部を紹介します。

  • 基本賃金

  • ボーナス

  • 残業代

  • 通勤手当

  • 扶養手当

一方で、賃金総額に含まれない額には以下のようなものがあります。

  • 役員報酬

  • 退職金

  • 冠婚葬祭手当

  • 出張手当

  • 傷病手当

労働保険料率とは

労働保険料は、労災保険料率と雇用保険料率を足した数字です。労災保険料率は、業種によって異なります。各業種の災害の発生状況を基準として、2022年度(令和4年度)は1,000分の2.5から1,000分の88まであります。雇用保険料率は、事業種類によって以下のようになるのです。

【2022年度(令和4年度)】雇用保険料率(労働者・事業主の負担割合計)

事業の種類

雇用保険料率

※2022年(令和4年)4月1日~2022年(令和4年)9月30日

雇用保険料率

※2022年(令和4年)10月1日~2023年3月31日

一般の事業

1,000分の9.5

1,000分の13.5

農林水産・清酒製造の事業

1,000分の11.5

1,000分の15.5

建設の事業

1,000分の12.5

1,000分の16.5

労働保険に加入するには?必要書類と手続き方法を解説

続きを読む

事業主は被保険者となる労働者を雇用した日から、決められた期限内に労働保険の加入手続きをおこなわなければなりません。ここでは、労働保険へ加入するための成立手続きについて5ステップで紹介します。

1.適用事業の区分を確かめる

労働保険では事業の種類によって、一元適用事業と二元適用事業のどちらかに区別されます。適用事業によって加入手続きが変わるため、まずはどちらの適用事業に該当するか確認しましょう。適用事業の区分は以下のとおりです。

一元適用事業

二元適用事業

雇用保険と労災保険2つの保険料をまとめて取り扱う事業

(二元適用事業以外のすべての事業)

・農林水産の事業

・建設の事業

・港湾労働法の適用される港湾運輸の事業

・都道府県、市町村およびこれに準ずるもののおこなう事業

2.必要書類を準備する

続いて、労働基準監督署や公共職業安定所に提出する必要書類をそれぞれ準備します。

  • 保険関係成立届

  • 概算保険料申告書

  • 雇用保険適用事業所設置届

  • 雇用保険被保険者資格取得届

  • その他の書類(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿など)

なお、二元適用事業の「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」は、労災保険と雇用保険でそれぞれの分が必要です。上記以外にも登記事項証明書や営業許可証など、事業主関連の書類を求められる場合があります。詳しくは、労働局や公共職業安定所へ確認するのが安心です。

3.労働基準監督署等に届け出を提出する

必要書類が準備できたら、労働基準監督署等に届出をしてください。労働基準監督署には「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」を提出します。概算保険料申告書に限っては、都道府県労働局や日本銀行(代理店、歳入代理店も可)へ提出することも可能です。なお、二元適用事業の場合は、労働基準監督署等と公共職業安定所どちらの手続きから進めても構いません。

4.公共職業安定所に届け出を提出する

続いては、公共職業安定所(ハローワーク)へ必要書類を提出します。公共職業安定所へ提出する書類は一元適用事業と二元適用事業で若干異なるため、わかりやすいよう一覧にしました。

一元適用事業

二元適用事業

・雇用保険適用事業所設置届

・雇用保険被保険者資格取得届

・その他の書類(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿など)

・保険関係成立届

・概算保険料申告書

・雇用保険適用事業所設置届

・雇用保険被保険者資格取得届

・その他の書類(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿など)

「雇用保険適用事業所設置届」には、労働基準監督署へ提出した「保険関係成立届の控え」を添付する必要があります。

5.労働保険が成立

労働基準監督署等と公共職業安定所で手続きを終えると、労働保険の加入が成立します。労働保険は年度更新となり、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間単位で保険料を算定します。更新期間(6月1日~7月10日)が近付くと労働局から申告書が送付されてくるため、案内に従って納付手続きをおこないましょう。

労働保険の加入手続きの注意点

労働保険の加入手続きを誤ると、事業主に対し罰則が課せられる場合があります。最後に、労働保険の加入手続きにおける注意点を紹介します。

保険関係の成立から期限内に加入する必要がある

労働保険の加入手続きは、保険関係の成立から期限内におこなう必要があります。保険関係の成立する日とは、事業主が被保険者となる労働者を雇用した日です。提出期限は届出書類によって異なります。

  • 保険関係成立届:労働者を雇った翌日から10日以内

  • 概算保険料申告書:労働者を雇った翌日から50日以内

  • 雇用保険適用事業所設置届:労働者を雇った翌日から10日以内

  • 雇用保険被保険者資格取得届:労働者を雇った日の翌月10日まで

加入手続きを怠った場合追徴金が課せられる

労働保険への加入義務がある事業主が指導を受けたにも関わらず手続きを怠った場合、強制加入手続きが執行されます。労働保険料はさかのぼって徴収され、あわせて追徴金も徴収されます。

また、労災保険の加入手続きが完了していない段階で、労働災害が発生した場合は注意が必要です。労働災害が事業主の故意または重大な過失によるものだと判断された場合は、給付費用の100%または40%が徴収されます。

まとめ

社員やアルバイトに関わらず、労働者を1人でも雇っている場合は労働保険への加入が必須です。労働保険の加入手続きは、所定の書類とともに労働基準監督署や公共職業安定所へ届け出ましょう。福岡県内で労働保険の手続きに不明点や不安がある事業主は、福岡労働局に問い合わせてください。


Writer

おすすめの記事

続きを読む >

求人

2022.07.21

【求人】リフォーム・住宅メンテナンス業の株式会社海辺、次なるステージを目指すべく人材を募集中!【PR】

コロナ禍やウクライナ情勢、円安によって物価高騰が続く今。その影響を受け、マンションやビルなどの不動産価格も上昇しています。そこでますますニーズが高まっているのが、元々ある資産に手を加えることで価値を高めるリフォームや修繕工事です。今回ご紹介する総合住宅リフォーム会社の株式会社海辺は、およそ40年前からそのニーズに着目し、現在では内装だけでなく外装やサイン工事までワンストップで手がけています。そんな同社では次のステージを目指すべく、新しい仲間を募集中!そこで業務内容や仕事の魅力、今後の展望について、35歳の若さで社長を務める海邉義一さんにお話を伺いました。

続きを読む >

お役立ち

2022.06.16

インボイス制度とは。注目の導入理由から免税事業者への影響までわかりやすく説明

軽減税率の導入に伴って、2023年(令和5年)10月よりインボイス制度が導入されます。消費税の課税事業者に限らず、免税事業者にも影響があるとされているのです。この記事では、インボイス制度の概要や導入に至った理由、その基礎となる消費税の知識と事業者への影響などについて解説します。