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ムーンショット経営とは?企業が取り組む意味や目的を知ってイノベーションを起こそう

By 澤田 真里奈

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2022.10.04

ムーンショットとは未来の可能性に満ち溢れ、壮大かつ魅力的な目標です。内閣府の未来計画や、Googleのプロジェクトでもムーンショットに取り組んでいます。この記事ではムーンショットの意味を解説し、内閣府が掲げる具体目標や企業経営に活かすための知識を紹介します。

ムーンショット計画の意味とは?

ムーンショット計画とは、壮大で可能性に満ち溢れた目標・計画のことです。前人未到の挑戦に臨むこともあり、達成するためには困難を伴います。しかし、高い目標に向かって知識・技術を総動員すれば、常識を変えるほど大きなインパクトに繋がることを期待できます。

内閣府は「ムーンショット型研究開発制度」を創設しました。この制度は日本や世界が抱える課題解決に向け、イノベーションを創出していくプロジェクトです。ムーンショットへの取り組みは国際的な課題に限らず、企業経営やビジネスでも注目されています。

ムーンショットといわれる由来

ムーンショットという言葉は、アメリカのアポロ計画が発祥です。1960年代にアポロ計画が発表され、月面着陸プロジェクトはムーンショットと名付けられました。人類初の月面着陸は達成までに大きな困難を要しましたが、その後の宇宙開発や人類の進歩に大きく貢献したのです。

アポロ計画から半世紀以上が経ち、再びムーンショットが世界的課題の解決や企業経営において注目されるキーワードとなっています。

ムーンショット計画が掲げられた背景

内閣府がムーンショット計画を掲げた背景には、日本の社会問題や世界的な課題が関係します。ここでは大きく3つのテーマで、ムーンショットの背景を見ていきましょう。

少子高齢化

日本は少子高齢化が進んでおり、経済の衰退や労働人口の不足が懸念されています。少子高齢化によって起こる問題を解消するには、安心して子どもを産める制度や健康で長く働ける環境が大切です。

また、限られた人材でも生産性が落ちないように、テクノロジーを活用していくことも求められます。サービスの拡充や新しいプラットフォームを創造することが、少子高齢化を解決する糸口になるのです。

自然保護・環境保全

技術革新や文明の発展のみにフォーカスすると、地球環境を破壊することがあります。地球環境の破壊は自然災害や資源の枯渇を招くなど、結果的に人類の暮らしに大きな被害をもたらします。

地球環境の回復と文明の発展を両立することは、より多くの人が長期間にわたって安心・安全に暮らすためにも重要です。持続可能な社会に向けてSDGsが策定されるなど、サステナビリティは国際的に取り組むべき課題です。

テクノロジーの活用・発展

テクノロジーの発展が、まだ見ぬ新天地や未開の領域を開拓する足がかりとなります。人類はこれまで、テクノロジーを進化させることで活動領域を拡大してきました。例えば馬よりも早く移動できる自動車、世界中と一瞬で繋がれるインターネットといったイノベーションがその1つです。

また、テクノロジーだけでなく研究開発・サイエンスの分野も発展には欠かせません。あらゆるエネルギー資源や科学法則の発見など、現在では当たり前に知られている技術革新が人類を進歩させてきたのです。

内閣府が掲げる9つのムーンショット目標

内閣府では「Human Well-being(人々の幸福)」の実現に向け、9つのムーンショット目標を掲げています。Human Well-being(人々の幸福)の実現には、基盤となる3つの領域が存在します。

  • 社会

  • 環境

  • 経済

これら3つの領域から具体的に9つの目標を立て、最長で2050年までの実現を目指しているのです。それぞれの目標について、1つずつ紹介します。

参考:内閣府「ムーンショット目標

1.身体・脳・空間・時間の制約からの解放

目標のビジョンは、以下のとおりです。

  • 誰もが夢を追求できる社会

  • 100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会

2050年までに、「サイバネティックアバター生活」の様式を普及させることが目標です。サイバネティックアバターとは、身体的能力や認知能力、知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術です。

複数の人が多数のアバターやロボットを遠隔操作することで、大規模で複雑なタスクも実行できるようにします。これにより、遠隔からロボットで高齢者の見守りをしたり、パワーアーマーを災害時の救助活動に役立てたりすることが可能です。

2.疾患の超早期予測および予防

目標のビジョンは、以下の3つです。

  • 100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会

  • 基本的生命過程の制御技術 (バイオ)

  • 脳神経メカニズムの全解明(脳・神経系)

臓器間ネットワーク(臓器同士の協調作用)を包括的に解析し、疾患を早期に予測・予防する目標です。糖尿病や高血圧など、高齢化に起因する慢性疾患は予防が急務とされています。疾患として発症する前の「まだ後戻りできる状態」から、健康な状態に引き戻す方法の確立を目指します。

3.AIロボットと人々の共生

目標のビジョンは、以下の3つです。

  • 完全無人化による産業革新

  • サイエンスの自動化(AI)

  • 宇宙への定常的進出(宇宙)

AI ロボットを段階的に開発し、最終的には人と同等以上の身体能力を持たせて共生することが目標です。2030年までには一定のルール内や人の監督下で、自立的に動作する AI ロボットを開発します。2050年までには、自然科学領域において自ら思考・行動するAI ロボットの開発に取り組みます。人が違和感を持たずに接することができ、人とともに成長していくAIロボットを実現させる試みです。

4.地球環境の再生

目標のビジョンは、以下の2つです。

  • 資源の完全循環

  • 資源要求の劇的削減

地球環境の再生に向け、地球温暖化問題と環境汚染問題の解決を目指します。

地球温暖化問題の解決(Cool Earth)では資源循環の技術を開発し、温室効果ガス削減に繋げます。

環境汚染問題の解決(Clean Earth)では、海洋プラスチックごみを分解・無害化する技術を開発予定です。分解・無害化したごみを資源に転換し、再び消費・生産へと繋げることが目標です。

5.持続的な食料供給

目標のビジョンは、以下の2つです。

  • 資源の完全循環

  • 自然との共存

生物機能等をフル活用し、持続的な食糧生産システムの創出を目指します。世界的には人口が増加しており、今後の食料需給のひっ迫は必然的です。

しかし食料増産のために、化学合成肥料など化学物質への依存は望ましくありません。化学物質は、土壌から温室効果ガスを発生させる要因になるためです。温室効果ガスは気候変動のリスクを増大させるので農産物がうまく育たなくなり、負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。

そこで、化学物質に頼らず土壌微生物や昆虫が持つ生物機能を活用するのです。

6.誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現

目標のビジョンは「未踏空間の可視化(量子から地球まで)」です。

2050年頃までに、量子技術の大規模化を達成し、誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現します。誤り耐性型汎用量子コンピュータとは、量子ビットで生じる誤りを自動訂正し、多用途に応用できる精度の量子コンピュータです。ネットワーク・ハードウェア・ソフトウェアの3つの観点から、量子技術の規模を拡大することが目標です。

7.サスティナブルな医療・介護システムの実現

目標のビジョンは、「100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会」です。

主要な疾患の予防および克服に向けた医療・介護システムの実現を目指します。日常生活の中で疾患予防が自然とできるよう、生体制御システムや社会インフラを向上させます。

また、日本は災害が多い国なので、災害時・緊急時の医療提供システムの整備が急務です。医療アクセスの再構築やメディカルネットワークを駆使し、平時と同程度の医療を受けられるシステムを目指します。

8.極端風水害の軽減

目標のビジョンは「ミレニアム・チャレンジ」になります。

極端な自然災害の被害から解放され、安心して暮らせる社会を実現するための目標です。台風や豪雨の強度やタイミング、発生範囲を制御して被害拡大を防ぎます。2030年までには、自然災害の被害を軽減できることを数値として示し、屋外実験の開始を目指します。

9.精神的に豊かで躍動的な社会の実現

目標のビジョンは同じく「ミレニアム・チャレンジ」です。

心の安らぎや活力を増大させる技術・サービスを開発し、個人や社会経済を発展させることが目標です。テクノロジーの発展により生活が大きく変わっているのに対し、人間の心への考慮はまだ不足しています。そのため、フォロー・サポートするために新しい科学技術の開発が求められているのです。

2030年までには、人の心と深い結びつきのある要素を抽出します。抽出・分析結果に基づいた技術やサービスを開発し、2050年までに広く普及させることが目標です。

ビジネスで注目されるムーンショット経営

ムーンショットは、ビジネスにおいても脚光を集めています。ムーンショット経営は、イノベーションを重視するIT企業や製造業などでよく取り組まれています。例えば、無人自動運転やAR機能搭載のウェアラブル端末など、近未来的なプロジェクトが各社で実施されてきました。ムーンショットへの挑戦は企業の成長を促し、常に優秀な人材を確保できる1つの要因となっています。

ムーンショット経営が創造性やチームワークに繋がる

ムーンショットへの取り組みは、企業の創造性やチームワークを育てるカギとなります。

ムーンショットは、実現したい未来から逆算してゴールを目指します。前人未到の試みであるほど不確定要素は多く、さまざまなシナリオをイメージすることが必要です。まだ誰も見たことがない未来を作る創造性が、ムーンショットの醍醐味です。

また、ムーンショットは一人で達成できるものではありません。プロジェクトチームが一丸になって努力するからこそ、新技術の開発や新市場の開拓に繋がるのです。

ムーンショット目標は達成できなくてもよい

ムーンショットは挑戦的かつ高い目標を掲げるため、必ずしも達成できるとは限りません。しかし、達成できなくてもそれは必ずしも失敗ではない、というのがムーンショットの考え方です。プロジェクトの過程で生み出されたものが別の技術に役立つなど、挑戦による副産物や知識の相乗効果こそが進歩に貢献します。

企業がムーンショット目標を設定する3つのポイント

企業でムーンショット経営に挑戦しようにも、何をどのように考えるべきか悩むでしょう。内閣府は9つのムーンショット計画を考えるにあたり、3つの策定基準を設けました。それぞれの策定基準を紹介するので、ムーンショット経営を考える際の参考にしてください。

参考:ムーンショット目標策定の考え方・基準(リバイス版)

1.人を魅了し奮い立たせる「Inspiring」

現時点では夢のような話でも、「実現すればどんなによいだろう」と人々を魅了することに取り組みます。昔の人が初めてテレビを見たときやSF映画に登場する近未来のアイテムのように、気持ちをワクワクさせる魅力が必要です。

Inspiringの策定基準

  • 困難だが、実現すれば将来の産業・社会に大きなインパクトが期待されるもの

  • 多くの人や海外と価値観を共有できるもの

  • 日本の国益や産業競争力の確保に向け、科学者の英知を結集して行うもの

2.実現可能性がある「Credible」

ムーンショットは、実現の可能性があることでなくてはいけません。魅力的なイノベーションであっても、実現のシナリオが立たなければ夢のままで終わってしまいます。実現可能性を確かめるためにも、専門家や研究者といった知識人が必要となるわけです。

Credibleの策定基準

  • 未来の社会システムの変革をも目指すものであること

  • 野心的であるが、科学的に実現可能性を語りうるもの

  • 達成状況が検証可能なものであること

  • 既存の関連する戦略や施策の方向性と整合的であること

3.創意にあふれ斬新である「Imaginative」

過去の延長線ではなく、新しいものを生み出すことに取り組みます。また、ムーンショットは多くの人がイメージを共有できることが大切です。頭の中に映像が浮かぶほど、明確なイメージを持てるものにしましょう。

Imaginativeの策定基準

  • 多くの人が、テクノロジーが切り開く未来の可能性を明確にイメージできるもの

  • 目的や緊要性が明確に理解されるもの

まとめ

ムーンショットは、歴史に残る功績や人類の進歩に繋がるイノベーションです。未来を変える可能性があるからこそ、目標達成には困難を伴います。しかし、その考え方に基づく取組は、豊かな創造性や新たな発見を生み出し、次のステップに貢献していくのです。ムーンショットはビジネスにも活かせるため、その考え方を採り入れることで、企業の成長を促すアクションに繋げてみましょう。

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