福岡市中央区のけやき通りから南に入った道沿いに「Patisserie chez chichi(パティスリー シェ・シシ)」がオープンしたのは、2022年5月のこと。ブルーを基調とした素敵な店内には、フランスの焼き菓子を中心にチョコレートや生菓子などが並んでいます。「地域の人の食文化が豊かになる一助になりたい」と優しい笑顔で話すオーナーシェフの西嶋一力さん。36歳で念願の店を構えた起業ストーリーには、起業を目指す人へのヒントがつまっていました。
■プロフィール Patisserie chez chichi(パティスリー シェ・シシ) オーナー 西嶋一力(いちりき)さん 1985年長崎県生まれ。福岡の大濠高校を卒業後、東京の製菓・製パン専門学校に進学。東京、神戸、リヨン(フランス)の菓子店で経験を積み、2022年5月に福岡市警固で念願のパティスリーを開店。
憧れの店に出会い、自分の店を開くという夢ができた ――まずは事業内容について教えてください。
西嶋: 2022年5月に警固にオープンしたフランス菓子屋です。フランスに古くから伝わる伝統菓子や地方の菓子など、フランスの豊かな菓子文化を伝えたいと思い、厳選した素材を使って丁寧に手作りしています。 店名の「chez」(シェ)はフランス語の「家」で、「chichi」(シシ)はフランス時代の僕のニックネーム。「シが多い」なんて言われますが、友人の家に遊びに来るように気軽な気持ちでお越しいただけるとうれしいです。
――起業されるまでの話を聞かせてください。出身は福岡ですか?
西嶋: いいえ、父の転勤に伴い、長崎で生まれて東京と札幌で過ごし、高校3年間は福岡の大濠高校に通いました。それから東京の製菓・製パン専門学校を卒業し、東京と神戸、フランスのリヨンの菓子屋で修業。34歳で実家のある福岡に移住し、1年半働きながら起業準備をして、今年5月にこの店を開きました。
――いつか自分の店を持ちたいと思っていたのですか?
西嶋: 製菓学校に進学したのは、自分がスキルアップして成長できる仕事だと思ったから。19歳で働き始めたとき、自分の店を持つという志までは持っていませんでした。ただ、お菓子業界は離職率が9割にのぼる中、僕は自分に他の可能性があるなんて変に思うこともなく、一生この仕事をしようと決めていたので、多少辛くても辞めるという選択肢はありませんでした。
――志が生まれる転機があったのですね。
西嶋: 最初の3年間は普通のケーキ屋で働いたのですが、疑問に思うことがあって。次にこだわって探して転職したのが、東京の「Patisserie Noliette」(パティスリー ノリエット)です。僕の菓子職人としての骨格は、この店の永井シェフに作ってもらいました。ノリエットは、僕が知っていたお菓子屋とは全然違い、生菓子からチョコ、アイスケーキ、お惣菜までラインナップがとても豊富。緑色の大理石のショーケースもすごくかっこよくて、憧れました。働き始めてから、このようなお店のスタイルをパティスリーというと知り、本場のフランスに興味を持ち、自分もパティスリーを開きたいと本気で思うようになりました。
事業計画書を何度も書いてブラッシュアップ ――起業にあたって、最初に取り組んだことは?
西嶋: 店を出すなら父の実家のある福岡と決めていて、妻と子どもと引っ越しました。金融業界で働く父のすすめで、最初にしたのは事業計画書を作ること。初めて書いたのは2021年2月頃で、そのために店の内装費や設備費などを把握したため、事業がみえやすくなりました。お菓子屋を開業するには約20坪で2000万円以上かかり、融資が必要でした。その年の6月に物件を見つけて計画書を出したものの、ダメでした。
――他にはどんなことを?
西嶋: 自治体のスタートアップのコンテストにも応募しました。事業計画書は最初にしっかり書いたつもりでしたが、何度も書くうちにブラッシュアップできたことが良かったです。融資については、最初に相談していた金融機関の担当者に不信感があり、結局は西日本シティ銀行さんにお願いしました。初期費用を抑えるため、店の壁は自分で塗ったんですよ。 また、売上の予測を立てるために、福岡市の人口統計を調べました。半径1km内の住人が何人で、ターゲット層はどのくらい、女性比率がどのくらいなど。さらに他の指標も用いて、年間の売上予測を計算していたところ、実際にだいたいその数字で推移しています。
――物件はどうやって見つけられましたか?
西嶋: 希望エリアの不動産屋を訪ねて情報提供をお願いしても、自転車で回って空き物件をあたっても、全く見つからずに焦りました。そこで、ネットに載っていた不動産屋に片っ端からメールを送ったら、たまたま今のこの物件が空きそうと年末に連絡をもらいました。仕事の休憩時間に見に行き、すぐに決めました。
――5月のオープン前後はいかがでしたか?
西嶋: 製造は僕ひとりで、いろいろなものをお店に並べたかったので、オープン前後は店に泊まりがけで働きました。せっかくお菓子屋を始めるからには、妥協したくなかったんです。オープンの告知は、お店のシャッターへの掲示とインスタのみ。スタッフは、妻ともうひとりです。実は子どもがまだ3歳と1歳で、妻には迷惑をかけているし、いばらの道を歩んでいると自覚しています。
――今後の展望を聞かせてください。
西嶋: 今は僕がひとりで作っているので、現状維持で精いっぱい。売上を安定させて、人を雇い、もっと商品のラインナップを充実させたいです。お金儲けをしたいなら、商品を絞った方が効率的に違いありません。でも、僕はパティスリーとしてバラエティ豊かな商品を生み出し、地域の人の食文化がちょっと豊かになるような店を目指したい。自分の表現の幅を広げて、師匠に恥ずかしくない店にしたいと思っています。 今は専門学校とインスタで求人の告知をしています。小さいお店なので、そんなにいい条件は出せないのですが、一緒にこの店を良くしていこうと思ってくれる人に出会えたらいいなと思っています。
――最後に、起業を考えている人にアドバイスをお願いします。
西嶋: 僕はまだ経営者という感じではなく、偉そうなことは言えません。ただ、自己資金を計画的に貯めておくことが大事だと感じています。やりたいことを体現するためにはお金が必要で、それが社会的な信用にもつながるので。開業資金に加えて、運転資金のこともしっかり考えておいた方がいいですよ。
Patisserie chez chichiについて お知らせ ◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」オープニングキャンペーン実施中!
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福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。