
株式会社RAPAS代表の陸守康汰さんは、高校卒業後にJリーガーとして3年間プレーした後、20歳で会社を立ち上げました。スポーツ事業を皮切りに、コロナ禍にはどん底の生活を経験しましたが、「手書きの手紙によって企業を支援する」というニッチな市場を開拓して、会社を軌道に乗せました。これまでの道のりから今後のビジョンまで、じっくり話を聞きました。
■プロフィール
株式会社RAPAS(ラパス)
代表取締役社長 陸守康汰(りくもり こうた)さん
福岡市出身。福岡西陵高校を卒業後、鹿児島ユナイテッドFCに入団し、Jリーガーになるという夢を叶える。2017年、ザスパクサツ群馬に移籍、合計3年間Jリーガーとして活動。2019年1月に福岡市でRAPASを設立し、2020年4月に法人化。
中学生のときに戦略を立ててJリーガーに
―陸守さんは元Jリーガーで起業されたとのこと。まずはサッカー選手になるまでの話を聞かせてください。
陸守:僕は小学2年生でサッカーを始めたのですが、小学生の頃はプロを目指すようなレベルではありませんでした。でも、地元の中学校に入学しサッカー部に入部したところ、顧問の先生が「お前でもプロになれる。目指すかどうかはお前次第だけど、目指した方が面白いんじゃないか」と言ってくれて。その先生は福岡大学でキャプテンをされて、同世代にプロになった方もいたと知り、「僕でもなれるかも、プロを目指そう」とスイッチが入りました。とにかく愚直に練習して、県の国体候補50人に選ばれるまでは成長できました。
―では、サッカーが強い高校に進学されたのでしょうか。
陸守:いえ、プロを目指す人は強豪の私立高校に進学する中、僕が選んだのは県大会にギリギリ出場するような公立高校でした。プロになるには、1年生から試合に出て、キャプテンになれて、かつプロとつながりのある監督がいる高校に入るのが早道だと思ったからです。中学生の頃から戦略を立てるのがすごく好きで、目標のためにやることを細分化して考えるようなタイプでした。
狙い通りの高校生活を送ることできて、結局プロのレベルには達していませんでしたが、監督の紹介で鹿児島ユナイテッドFCのトライアウトに参加。「お前は下手だけど面白い、光るものがある」と一番下のC契約にこぎつけました。でも1年で契約が終わり、次にザスパクサツ群馬で2年プレーして、ケガにより引退を決めました。
▲現役時代のユニフォーム。右が鹿児島ユナイテッドFC、真ん中・左がサスパクサツ群馬。―引退後のキャリアについて、何か考えていましたか。
陸守:中1でプロを目指したとき、本田圭佑さんに憧れて、選手をしながら社長になりたいと思っていました。2018年の年末に契約が終わり、2019年1月3日に群馬から福岡に帰って、1月6日にはRAPASをスタートしました。
最初にやったのはサッカースクール業で、保育園や幼稚園を回って営業して、1年目で20園ほどと契約。すごく順調だったので翌年の2020年4月に株式会社にしたのですが、すぐコロナ禍になり、月数百万円の売上がほぼゼロに。社員もいたので次の事業を模索したものの、結局何もできなくて借金だけが残り、水道とガス、電気が止められる悲惨な状況でした。創業時からかわいがってもらっている大賀薬局の大賀社長がご飯や飲みに連れて行ってくれて、本当にありがたかったです。
それから、中学校で自分のキャリアについて講演する機会があり、キャリア教育の教材が足りないと聞いて、キャリア教育のWEB教材「ジョブレンズ」を立ち上げました。福岡市教育委員会と連携し、翌年にはティーアンドイーという映像制作会社と業務提携して事業を売却。サッカースクールもフランチャイズ方式にして、新たな事業に向かうことにしました。
「手書きの手紙」サービスにより急成長
―2021年10月に立ち上げられた「オモイトドク事業」とは、どんな事業なのか教えてください。
陸守:今、副社長になっている萩尾と出会い、「スクール事業は手紙で営業したら」と言われたことがきっかけです。話を聞くと、前職で手紙を使って営業をしていた、と。そのとき、日本マクドナルド創業者の藤田田さんの本に、「女性と子どもにビジネスの芽がある」と書かれていたのを思い出して、スクールのお母さんたちにインタビューすると、写経がブームになっていると教えてくれました。
ほかにも文通のプラットフォームがあるなど、手書きが注目されているのを知って、これはビジネスになるかもしれないと思い、手紙に賭けてみることに。それが手書きの手紙により企業をサポートする「オモイトドク事業」です。

―手書きの手紙の市場があったのでしょうか。
陸守:当時はロボットレターといってロボットが手書き風に手紙を書く会社があり、確か年商が5~6億円という記事がありました。それなら、僕らもロボットと同じくらいの価格で人の手書きにすれば、手書きに変えてくれるのではないかと考えました。
それでいろんな社長に話しても「デジタルの時代に手紙の事業なんて儲からないだろう」と言われたけど、大賀社長だけは目の色を変えて「それは儲かる。デジタルの時代に逆張りのサービスは絶対流行る」と背中を押してくれました。
手書きの手紙はすごくニッチだけど、広告市場が7兆円程度、DM広告市場は5,000億円程度あるからいけると思ったんですよね。最初は僕のマンションの狭い一室で、萩尾と2人で机を並べて業務に取り組みました。1年ほどは苦しい状況でした。そんな中、急に数千通の受注が入り、いつも飲み会などをしている友達に連絡して20人くらい集めて、必死に手紙を書いてもらったこともありました。
▲当時の様子。―文面は決まっているのですか。
陸守:内容は専属のストーリーテラーが考えています。便せん数枚のボリュームで、1時間に書けるのは1~2通程度です。その大型の受注によって営業資金ができたので、東京の人脈をたどって1年ほどゴリゴリに営業をしました。在宅で数多くのレタリストを抱えれば、手書きの手紙はうちしか書けないというブランディングになると思い、当時手書きをやっていた会社と業務提携して、代理店とOEMを使い、うちは工場になることにしました。手書きの手紙サービスは世の中に結構ありますが、裏ではうちが書いてたりするんですよ。
―きちんと仕組みを作られたのですね。どんな会社とお取引があって、反応はいかがですか。
陸守:名前を出せるところでは、明治安田生命さん、エン・ジャパンさん、Googleさん、ビズリーチさんなどとお取引があり、関係構築や営業を目的として、年賀状などにもご利用いただいています。
お客さまに気持ちが届いてアポイントが取れたとか、業績が上がったという話をたくさんいただいて、うれしく思っています。当社で文章を作っていて、反響率のデータが集まってくるので、どんな業種ならどんな文章がいいのかといった知見もどんどんたまっています。
▲お手紙の一例。一文字ずつ、丁寧に手書きされている。(画像は実在の企業・個人とは関係ありません)―順調に拡大しているのですね。
陸守:はい、今は営業をすることなく、「手書きの手紙ならRAPASだよね」とご依頼いただくことが多くて、ありがたいです。僕の強みは戦略と営業ですが、スタッフがとても優秀でオペレーションをうまく回してくれているのが、当社の真の強みだと思っています。
2023年1月に新生RAPASとしてリブランディングを行い、ロゴを変更して、ホームページもリニューアルしました。「オモイトドク事業」を中心に、BPOカンパニーになると打ち出しました。会社としては成長モードに入っていて、一昨年から昨年で売上が約210%、昨年から今年は約270%で着地する見込みです。
ワクワクしながら福岡を代表する会社になりたい
―他にどんな事業があるのでしょうか。
陸守:教育事業のオペレーションに始まり、手紙の戦略立案から発送までのオペレーションを回し続けてきた当社だからこそできるBPOサービス全般の「マカセロ事業」があります。これまで「オモイトドク事業」で、在宅ワーカーや障害のある方々にお仕事を依頼してきた経験があり、今後はデータ入力など、他の業務にも広げていくつもりです。すでに大きなプロジェクトが動き出す予定で、ディレクションができる人材をもっと採用したいと思っています。もう一つ、スポーツや教育、PRをサポートする「ツナガルセイカ事業」もあります。
―今、働いている方は何人いらっしゃいますか。
陸守:経営陣が3人、スタッフ10人、そして障害者スタッフ6人の合計19人です。20~50代まで、男性は3人で、あとは女性ばかりです。特に子育て中のママさんはマルチスキルがあって、すごく優秀な方が多いので積極的に採用しています。一人ひとりに合わせて柔軟に対応していて、フルタイムもいれば時短社員もいます。
―福岡で起業した理由とメリットがあれば教えてください。
陸守:Jリーグのキャリアの最後2年は群馬にいて、東京で起業する道もあったのですが、やはり地元の方が何とかなるかなと思って戻ってきました。20歳で起業して今27歳ですが、まわりの経営者をはじめお付き合いするのは上の年齢の方々ばかりです。皆さんが気さくに話してくださって、どんどん人脈が広がっていくのは福岡の魅力だと思います。

―仕事をする上で大切にしていることを教えてください。
陸守:当社は企業理念に「BECOME A PIONEER ~先駆者であり、開拓者であれ~」を掲げています。僕らはアイデア×オペレーションの会社であり、レッドでもブルーでもなく、誰もまだたどり着いていないブラックオーシャンを開拓して市場化することを得意としていることにプライドを持っています。
スピリットとしては、みんなで笑って泣いてハイタッチした青春時代のように、チームで達成したときの喜びを分かち合えるような職場にしたいと思っています。実際にものすごくチームワークが良く明るい職場で、みんなワクワクしながら働いていると感じます。
―今後の展望について、お聞かせください。
陸守:僕が30歳になる3年後には、売上10億円を達成することを目標にしています。そのために自分が何をすべきかを書いているノートがあって、それを実行していけば売上が立つと思っています。これからも壮大な夢を語り、愚直に行動していくつもりです。中学生のとき、同級生や保護者の前でプロのサッカー選手になると宣言して、ひたすら努力したように。
僕はIPOや上場には全く興味がありません。それから、「東京に向いているから東京に来たら」と言われるけれど、上京するつもりもないんです。尊敬する大賀社長や福岡の社長さんの背中を追って、福岡を代表する会社を作りたい。結局、福岡が大好きなんです。
株式会社RAPASについて
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
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北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。