「愛犬が自宅からいなくなった」「散歩中に逃げ出した」。犬と暮らしている人であれば、そんな悲しい経験をすることがあるかもしれません。そんな"もしも"に備えるために開発されたのが、「NOSE ID(ノーズアイディー)」。犬の鼻にある鼻紋(びもん)という紋様によって個体識別をすることで、迷い犬の特定ができるアプリです。
今回はこの画期的なアプリを開発した「株式会社S'more(スモア)」代表取締役の澤嶋さつきさんとエンジニアの有田彩乃さんに、開発の経緯や思い描く未来のお話についてたっぷりと伺いました。
■プロフィール
株式会社S'more(スモア)
代表取締役 澤嶋さつき さん
兵庫県出身。株式会社アドバンスクリエイト、株式会社リクルート、ForthValleyを経て独立。2021年に東京で「株式会社S'more」を立ち上げ、翌年'22年に福岡へ拠点を移す。
犬を救いたい、社会を変えたい。2つの思いが合致
――まずは「NOSE ID」の機能について詳しく教えてください
澤嶋:犬の鼻には、人間の指紋のように1頭1頭で異なる鼻紋というものがあります。「NOSE ID」はこの鼻紋の認証技術を活用したサービスで、スマホのカメラで鼻紋を読み取るだけであらかじめ登録している情報と紐づけ、犬を特定することができます。愛犬が迷子になった時や災害ではぐれてしまった時など、万が一の備えとして活用していただけるんですよ。
その他の機能として、愛犬のワクチン接種証明書の保存、普段食べているフードの種類や病気の有無などの情報管理ができることも特徴です。
――やはり、犬好きが高じてアプリを開発されたのですか?
澤嶋:犬愛に関しては私よりも共同経営者の韓 慶燕(かん けいえん)の方が強く、そもそもこのアプリも彼女が溺愛している愛犬と離れ離れになりそうになった経験が開発のきっかけになりました。その時に、飼い主と愛犬とずっと繋がっていられるツールはないかと考え、見つけたのが鼻紋だったんです。
さらに彼女は、犬を取り巻く社会にも課題があると感じていて、それを解決できる事業がしたいとも考えていました。
――犬を取り巻く課題とはどういったものでしょう?
澤嶋:韓曰く、犬を飼っていると不自由に感じることが多々あるようです。犬のお迎えがあるからといって仕事を早く上がると白い目で見られたり、ペット同伴OKの場所が少ないのでお出かけを諦めたり…。海外では犬を連れて行けるオフィスがあり、犬と公共機関やカフェを利用することは当たり前になっているのに、なんで日本ではできないのかなというモヤモヤした思いを抱えていたようです。
――澤嶋さんは起業に関してどのような思いがあったのですか?
澤嶋:私は、社会が抱える負を解決して日本全体を変えられるような、そんなインパクトがあることができたらいいなと考えていました。
――犬を救いたい、社会を変えたいという2人の思いが合致したのがこのアプリだったんですね。
澤嶋:ただ、2人とも最初からペットや鼻紋に関するアプリを作ろうとは考えていなかったんです。前職で相方(韓)と出会ったのですが、本当に仲が良くて。一緒にプロジェクトを立ち上げたり新しいプロダクトを作ったりして社内で表彰されたこともあり、「2人ならなんでもできる」と思って2021年に起業しました。
それから鼻紋にたどり着き、「これが成功したらすごいことになる、社会を変えられるかもしれない」と思って本当にワクワクしましたね。
情報を足で稼ぎ、課題を一つずつクリアしながら前へ進む
――起業にあたって、まず取り掛かったことは何だったのでしょう?
澤嶋:鼻紋をスマホで読み取るアプリという構想はあったものの、システム的なことが全く分からず。まずは知り合いにSNS等で連絡をとって手がかりを得ようと思いました。そうして皆さんからアドバイスをいただいたり、アプリ開発に精通している人を教えてもらったりして、とにかく足を使って情報を集めましたね。
次に資金が要ることが分かり(笑)、投資家を教えてもらって資金を調達しました。
――アプリはどのようにして作っていったのですか?
澤嶋:「NOSE ID」は鼻紋をAI(人工知能)で解析することで個体識別をするのですが、認証率を上げるには一定数を読み込む必要がありました。少なくとも2,000頭の鼻紋の登録が必要ということが分かり、インスタグラムで呼びかけて犬の鼻の写真を集めることにしたのですが…。最初は「女子2人が何やってんだ」と怪しまれて、なかなか集まらなかったんですよ。それでもめげずにいろんな人に呼びかけたところ徐々に協力してくれる人が現れて、目標数を集めることができました。
ところがその時に、鼻紋は写真ではなく動画じゃないと読み取れないことが分かり、また一から鼻の動画の送付を呼びかけてまわったんですよ。エンジニアも鼻紋認証は初めての試みだったので手探りのことが多く、みんなで一つひとつ課題をクリアしていきました。
――メンバーはどのような方が集まっているのですか?
澤嶋:代表取締役が私と韓の2人、エンジニアは有田を含めた2人、その他に"鼻紋チーム"と"マーケティングチーム"のスタッフが在籍してトータル14人体制で「NOSE ID」の運営にあたっています。
――有田さんはどのような役割をされているのですか?
有田:ユーザーの意見を聞いて、それを改善する仕組みを開発しています。これまで寄せられた意見としては、登録の方法がわかりづらい、カメラで認証しづらいなど。こういう機能が欲しいという要望も寄せられることも多いので、それを社内で検討してアプリに組み込めないか模索する日々です。
新しい社会への第一歩として、福岡市と連携し実証実験をスタート
――現在(2023年11月時点)はどれくらいの鼻紋が登録されていますか?
澤嶋:現在は約5,000頭が集まりましたが、鼻紋の認証率は92%。100%にするにはまだまだ数が足りません。そこで福岡市と連携し、実証実験を行いながら愛犬家の皆さんに呼びかけて1万頭の登録を目指しています。
福岡市では動物愛護センターで迷子犬を保護した際に「NOSE ID」で鼻を読み込み、飼い主探しに役立てていただいているんですよ。動物愛護センターだけでなく、ドッグランやペットサロンといった約160か所のペット関連施設でもアプリを利用していただき、エリア全体で実証しています。
――福岡市で実証実験をする経緯は何だったのでしょう?
澤嶋:行政との連携が私たちとユーザーにとって安心材料になると考えました。福岡市は犬猫の殺処分数を減らすことを目標に掲げていますし、スタートアップの支援にも力を入れているので、ぜひ福岡市にお願いしたいと思いました。このご縁があって、私たちも東京から福岡へ本社を移したんです。
こうしてだんだんと世間に認知されるようになり、日本だけでなく海外からもちょこちょことお問い合わせをいただいているので、世界中に広められたらいいなとも思っています。
――海外にはご自分たちでPRされたのですか?
澤嶋:スイスに本社を置く「ネスレ株式会社」が運営するペットケアのスタートアップ育成プログラムに採択していただきまして、それをきっかけに海外にも情報が広まったようです。
――躍進的に事業を展開されていますが、さらなる展望としてはどんなことを考えていますか?
澤嶋:「NOSE ID」が"鼻パス"として免許証のような役割を果たし、しつけやマナー面で合格していれば公共機関や店舗を愛犬と一緒に利用できる仕組みを作りたいと考えています。
そしてペットの情報を共有することで、お互いに助け合う"互助の輪"ができたら。迷子探しはもちろんですが、私たちが最終的に実現したいのは社会を変えることなので!
株式会社S'moreについて
■会社概要
会社名:株式会社S'more
URL:https://www.smore-pets.com/
所在地:福岡市中央区天神4-6-28
設立:2021年1月
代表取締役:韓 慶燕、澤嶋 さつき
■事業内容
ペット関連IT事業
■問い合わせ先
090-6475-6401
info@smore-pets.com
お知らせ
▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。
▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817
◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」
福岡県福岡市出身・福岡市在住。地元の大学を卒業後、ペット雑誌「犬吉猫吉」や旅行情報誌「九州じゃらん」の編集に携わり、フリーライターとして独立。ペット雑誌の経験を活かし、ペット関連の取材や執筆をする"(自称)ペットライター"としても活動中。趣味はネコグッズ集め、ライブ鑑賞、プロ野球観戦。