インタビュー

白黒写真のカラー化によって 人を笑顔に、地域を元気に|青藍デザイン事務所 伊藤 晃生さん

By 佐々木恵美

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2023.06.14

九州産業大学で4年次から大学院まで3年にわたり、「白黒写真カラー化」の研究に取り組んでいた伊藤晃生さん。卒業後はその技術と経験を生かして起業し、2023年4月「青藍(せいらん)デザイン事務所」をオープンしました。

在学時から数々のメディアに取り上げられてきた白黒写真カラー化の研究や、卒業後すぐに起業に至った経緯、今後の展望まで伺いました。

■プロフィール
青藍(せいらん)デザイン事務所
代表 伊藤晃生さん

1998年、福岡市生まれ。九州高校デザイン科(現・芸術造形科)を卒業後、九州産業大学芸術学部ソーシャルデザイン学科へ進学し、情報デザイン専攻。同大学院芸術研究科デザイン領域修了。9年にわたりデザインを学ぶ。2023年4月、福岡市東区香椎駅前に店舗兼オフィス「青藍デザイン事務所」をオープン。

大学で白黒写真のカラー化を研究

――大学院を修了後、2023年4月に24歳で「青藍デザイン事務所」を開業されたとのこと。まずは事業内容について教えてください。

伊藤:主に3つの事業を展開しています。最も大きな柱は、白黒写真カラー化・写真修復専門店「monokara.(モノカラ)」です。昔の白黒写真をカラー写真に蘇らせて、色あせや破れなどもデジタル技術で修復します。ほかに、証明写真専門のフォトスタジオ「青い風船」、オンラインのデザインスクール「学デ子(マナデシ)」もあります。

――伊藤さんの取り組みは、地元の新聞やテレビで紹介されているのを見たことがあります。そもそも、どうして大学で白黒写真カラー化の研究を始めたのですか?

▲(上)伊藤さんが手がけた白黒写真のカラー化、(下)古い写真の修復

伊藤:じつは大学1年次から、アニメや映画に出てくる福岡のスポットを巡る研究をしていました。「聖地巡礼プロジェクト」と題して、実際に行政とツアー企画も進んでいたのですが、3年次が終わる2020年にコロナ禍に入り、すべてが白紙になってしまいました。

そこで別の研究テーマを探していたところ、東京大学の先生が、原爆投下前の広島を撮影した白黒写真をカラー化する研究をしていると知り、興味を持ちました。私自身、中学生の頃からフォトショップを使って白黒の写真をカラーに修復していたことも影響しています。そこで大学4年次から大学院の博士前期(修士)課程まで、白黒写真のカラー化をテーマに研究を続けて、論文をまとめました。

――カラー化のどんなところに魅かれたのでしょう。また、具体的なテーマはありましたか?

伊藤:昔の白黒写真で見る景色や人は、どこか遠い世界のように感じていました。でも、色をつけることで、本当にこんな世界があったんだと一気に現実味が出てきて、とても面白いと思いました。

これまで歴史的に有名なシーンや戦争を映した写真がカラー化されていたのですが、私はもっと身近な地元の人たちの生活を題材にしたいと考え、それをテーマにしました。

AIを使わず、すべて手作業で仕上げる

――白黒写真のカラー化は、どのように行うのでしょうか?

伊藤:カラー化のサービスを行う会社では、AI(人工知能)によって自動でカラーにする方法が一般的です。フォトショップなどのアプリを使えば、ものの数秒でカラー化できて、それから人が微調整するのが主流のようです。

しかし、monokara.ではAIを使わず、すべて手作業で色をつけていきます。AIで下塗りをしてしまうと、細かい調整をしづらくなるので、一から手作業で行います。それによって、よりリアルで違和感のない仕上がりになるようにこだわっています。

▲左が元の白黒写真、中央がAIによるカラー化、右がmonokara.によるカラー化。monokara.のカラー化写真は、当時の状況を可能な限り詳細まで調べることで、空の色や人肌の色、屋根瓦の色などなるべく真実に近づけ、ひとつずつ丁寧に色を再現。写真の破れも補正対応している。

――確かに、2つのパターンを見比べてみると違いが分かります。

伊藤:ありがとうございます。AIの場合は自動で識別して色をつけますが、私はできる限り実際にどうだったのかを調べたり推測したりして、丁寧に作業を行っています。

例えば、国土地理院のサイトから当時のマップを見て、撮影した場所の目星をつけ、その場所に関する古い資料にあたったり、影の強さや角度などからそのときの天気や時間を推測して空の色を考えたりしています。高校からデザインを学び、デッサン経験も豊富なので、その経験が役に立っていると思います。

――学生のときに、イベントもされていたそうですね。

伊藤:はい、大学4年から修士2年にかけて、「monokara.」展と題し、白黒写真とカラー化写真を比較してご覧いただく展覧会を6回開催しました。事前に地域の方や団体からお借りした古写真を修復・カラー化して展示。明治期から昭和期の福岡市内の写真がそろいました。

さらに、来館者が持ってこられた古い写真を無料で修復・カラー化するワークショップも開催しました。満州で生活していた家族との写真、戦争で亡くした父親のたった1枚の写真、結婚の記念写真など、貴重な写真をカラー化してお渡しすると、皆さんに大変喜ばれて素敵な笑顔を見ることができて、とてもうれしく温かい気持ちになりました。

同展では、香椎宮で昔の香椎宮の写真を展示したり、西鉄電車の駅の壁に古い駅の写真を掲示したり、電車まつりで旧電車の写真をカラー化した記念カードを配布したりと、いろいろな会社や団体にご協力いただいたおかげで、たくさんの方々と楽しい経験ができました。

大学のバックアップを活用して起業

――卒業してすぐに起業されました。起業を決断するまでは悩まれましたか。

伊藤:もちろん迷いました。在学中、「monokara.で起業したい」といろいろな方に相談しても、「なかなか難しいのでは」と反対されることの方が多く、いったんWebデザイナーとしてどこかの会社に就職するという道も考えました。

でも、monokara.は人を笑顔にできる取り組みで、地域の面影を写した白黒写真をカラー化して、もっと多くの皆さんに喜んでほしい、地域を元気にしたいという思いが強くて。それに、白黒写真をお持ちの方はご高齢になっていくので、今やることに意味があると思ったのです。ですから、卒業後すぐに起業することを決めました。幸い、両親は私の決断を尊重し、応援してくれました。

――ご両親の応援は心強いですね。

伊藤:じつは両親もここで一緒に働いています。証明写真専門のフォトスタジオ「青い風船」は、大学でカメラを勉強して、写真業界で長年働いてきた父がカメラマンとして撮影を、母がメイクを担当します。また、もう一つの事業、オンラインのデザインスクール「学デ子(マナデシ)」は、大学で共に学んだ友人たちと一緒に近々スタートする予定です。

――起業にあたって取り組んだことを教えてください。

伊藤:まずはネットなどで情報収集をしました。また、九州産業大学には「オープンイノベーションセンター」が設置されていて、起業している人や税理士さんに相談できるので、1年ほど通いました。

大学の先生や施設の方にもアドバイスをもらいつつ、どのような事業にするか、資金繰りはどうするかなどをしっかり考えて、事業計画書を作り上げました。

――資金調達は融資でまかなったのでしょうか。

じつは学生時代に世界一周旅行をしようと思って、お金を貯めていたんです。その時のお金を物件契約に充てました。無事に融資がおりたこともあり、2023年4月29日に店舗兼オフィスをオープンすることができました。

写真のカラー化で人と社会に貢献

――JR・西鉄香椎駅から歩いて7分ほどで、素敵な雰囲気の店舗兼オフィスですね。白黒写真のカラー化・修復について相談したい場合は、写真を店舗に持ってきたらいいのでしょうか。

伊藤:はい、基本的には予約いただいた方が確実ですが、直接お持ちいただいても大丈夫です。大切な写真について話をお伺いしながら、丁寧にカラー化・修復いたします。

フォトスタジオも予約制なので、事前にご連絡ください。どちらも料金体系を会社のWebサイトに載せていますので、ご覧いただければと思います。何か気になることがあれば、電話やメールでお気軽にご相談ください。

――最後に、今後の展望について教えてください。

伊藤:大学では、地域の人たちと連携して、地域や人の発展のためにビジネスに取り組むというソーシャルデザインを学びました。ですから、「世のため、人のため、未来の自分のため」という大きな軸が自分の中にあります。

当面はmonokara.に最も力を注ぎ、福岡に眠っている多くの白黒写真をカラー化して、皆さんに笑顔になっていただきたいです。同時に、カラー化によって当時の様子が蘇ることで、地域の歴史や文化の再発見につながり、地元の人たちが自分の住む地域により愛着を持ち、さらに良い地域、社会になっていくことを願っています。

将来的には、今掲げている3つの事業にとどまらず、社会にとっていいと思えることにどんどんチャレンジしていきたいです。

青藍デザイン事務所について

■会社概要
会社名:青藍デザイン事務所
URL:https://seiran-design-office.com/
所在地:福岡市東区香椎駅前2-1-25藤本ビル1F
開店日:2023年4月29日
代表:伊藤晃生

■事業内容
白黒写真のカラー化・写真修復「monokara.」、就活・証明写真専門フォトスタジオ「青い風船」、オンラインデザインスクール「学デ子」

■問い合わせ先
092-692-6366
info@seiran-design-office.com

お知らせ

Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

◎コワーキング施設「The Company DAIMYO」

西日本シティ銀行・大名支店ビルの5階、6階にコワーキング施設「The Company DAIMYO」ご利用受付中!
↓↓詳細はこちらをご確認ください。
https://thecompany.jp/multi-location/daimyo/

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