お役立ち

【TOB】株式公開買い付けについて。気になる3つの対応策をわかりやすく解説!

By 松田 聡子

|
公開日 2021.11.01

株式投資をしていると、自分の保有している銘柄がTOB(株式公開買付け)の対象になることがあります。TOBが実施されると株主にはどのような影響があり、どう対応すればよいのでしょうか。この記事では、TOBの基礎知識と投資家が取れる選択肢について解説します。

TOB(株式公開買付け)をわかりやすく解説

TOB(株式公開買付け)とは、ある企業の経営権を持ちたい企業が、相手の株式を取引所外で買い集める方法のことです。公開買付けを行う企業は株式の「買付け期間」「買付け株数」「買付け価格」を公示し、保有する株主に売却を呼びかけます。

TOBの目的

TOBは他社の経営権を握る以外に、自社株を集める目的としても活用されます。

経営権を得るため

多くのTOBの目的は、企業買収や子会社化です。株主の権利は、配当など利益分配を受け取るだけではありません。株主総会での議決権も、株主の重要な権利です。株主が一定以上の株数を持つのは、その企業の経営権を持つことを意味します。持ち株比率により、株主は次のような権利を持ちます。

  • 3分の1超:特別決議への拒否権を持つ
  • 2分の1超:普通決議を単独で可決できる(取締役の選任、解任など)
  • 3分の2超:特別決議を単独で可決できる(事業譲渡・合併など)

自社株を集めるため

TOBは自社株を買い集めるために行われる場合もあります。自社株を収集する主な目的は、上場廃止や他社からの買収への防衛などです。

TOBの種類

買収する側(買手)と相手企業(売手)の関係によって、友好的TOBと敵対的TOBに分類されます。

友好的TOB

買収する企業が相手企業から了承を得たうえで行うTOBを、友好的TOBといいます。グループ内の企業を完全子会社化するケースなどが、友好的TOBに該当します。日本におけるTOBは、友好的TOBであることがほとんどです。

敵対的TOB

敵対的TOBとは、相手企業の了承なしで行うTOBのことです。敵対的TOBのターゲットになった企業は買収されないための対抗策を打つことが多いので、成功しない可能性もあります。

TOBをする側のメリット・デメリットとは

TOBでの企業買収には、他の買収方法にはないメリットやデメリットがあります。

TOBをする側のメリット

TOBによる買収は、相手企業の株式を一定の価格で一度に買い集めることが可能です。ここでは、買収する企業のメリットについて解説します。

一定の価格で株式を取得できる

市場で株式を買うケースと違い、決められた価格で株式を買い取ります。そのため、市場の株価変動の影響を受けずに株式の買付けが可能です。買取りに必要な費用もあらかじめ見積もれます。

多くの株式を一度に取得できる

TOBでは大量の株式を一括で取得できます。市場で株式を買い集めるには、手間と時間が必要です。TOBは効率的に支配権を握りたい企業にとって、有効な手法といえます。

予定の株式が集まらない場合はキャンセルできる

TOBで買付け株数が目標に達しなかった場合、買付けのキャンセルが可能です。市場で株式を買い集めると、目標株数を取得できなかった場合は相手企業の株式が中途半端に残ってしまいます。TOBでは買付けのキャンセルができるため、余分なコストがかかりません。

目標達成までのスケジュール管理がしやすい

TOBは買付け期間を決めて実施するため、目標達成までのスケジュール管理が容易です。相手企業の株式を市場で買付ける場合、目標とする株数が集まる時期や取得に要する費用は事前にわかりません。目標達成までの時期やコストの見通しが立てられることは、TOBのメリットの1つです。

自社に不足していた経営資源が得られる

TOBが成功し相手企業を支配できるようになると、自社にはない販売網や技術、人材などの経営資源が得られます。新たな経営資源により自社の経営規模が拡大し、事業の成長が見込めることはTOBの大きなメリットです。

TOBをする側のデメリット

買収する企業にとってメリットの多いTOBですが、次のようなデメリットもあります。

市場価格より高く買い取らなければならない

相手企業の株式の目標株数を確実に取得しなくてはならないため、TOBの買付け価格は市場価格より高く設定されています。よって、実施には多くの資金が必要となります。

TOBに失敗することもある

TOBが必ず成功するとはかぎりません。敵対的TOBの場合、相手企業の抵抗によって失敗に終わるケースがあります。友好的TOBの場合、競合する企業が現れて買収できないこともあるのです。

買付けを公開しなければならない

TOBでは、公開買付けに関する情報を公表しなければなりません。敵対的TOBやTOBの実施によって生じたトラブルにより、企業イメージを損なうことも考えられます。たとえTOBが成功しても、社会的な評価が下がるリスクがあることを想定しておくべきでしょう。

期待した効果を得られないリスクがある

TOBによる企業買収が成功しても思ったような効果が得られず、却って業績が悪化してしまうリスクもあります。買収を検討する段階では好ましい結果を想定しますが、負の要素も考えておくことが大切です。

TOBをされる側のメリット・デメリットとは

TOBは、買収される企業にもメリットやデメリットがあります。

TOBをされる側のメリット

TOBで買収される企業のメリットは、経営改善や事業拡大が期待できることです。買収企業の資金やブランドにより停滞していた事業が活性化し、買収される側の持つ経営資源が活かされる可能性があります。

TOBをされる側のデメリット

TOBにより買収される企業には、次のようなデメリットがあります。

経営権を失う

TOBによって買収されることは、買収した企業に経営権を握られる状態を意味します。買収される前の経営者の影響力は、持ち株の比率によっては全くなくなる可能性もあるのです。

TOB失敗のリスク

友好的TOBが失敗に終わった場合、買収される側の企業に経営上の問題が生じるおそれがあります。経営統合に向けて準備していたことが、ムダになってしまうからです。TOBのよさと株主のメリットが結びつかないときがあるので、注意しましょう。

社風の変化

TOBが成功すると、買収された企業の社員は別会社の支配のもとで働くことになります。買収した企業と自社の社風や理念が違いすぎると、退職する社員も出てくるでしょう。人材は企業の重要な経営資源なので、社風の急激な変化がマイナスに働かないような配慮が必要です。

業績が悪化する場合も

TOBでは、買収側と相手先企業の相互のシナジー効果が期待されます。しかし、TOBにより経営が統合されると却って経営が悪化する場合もあります。友好的TOBであっても、双方にどのようなメリットがあり懸念すべき点はないかを慎重に精査しましょう。

保有している株式がTOBされたらどうする?

上場企業の株式を保有している一般的な投資家は、TOBに遭遇する可能性があります。保有している株式がTOBの対象になったら、どうすればよいのでしょうか。

TOBに応じる

TOBでは買取り価格が市場価格を上回るケースがほとんどです。自分が買付けた価格よりTOB価格が高いのであれば、TOBに応じるメリットは大きいといえます。ただし、市場価格が上昇してTOB価格を上回ることもあるので、TOB発表後の株価を確認してから申し込むようにしましょう。また、TOBでは買付け株数に上限が設けられているケースもあり、申し込んでも買ってもらえない可能性があります。その場合はTOBに申し込まず、市場で売却したほうが賢明です。

市場で売る

TOBの対象になった株式の市場での売却も可能です。市場での売却には手数料が必要ですが、TOBに応じるよりも手間がかかりません。株式全部買付けの場合、TOBが発表されるとTOB価格に近い金額で売却できる可能性が高くなります。またTOBが不成立になったり、買取り上限を設けられていると買い取ってもらえなかったりする可能性もあります。それらを考慮すると、TOBに申し込まないで市場で売却することも有力な選択肢です。

保有を続ける

保有株式がTOBの対象になったからといって、必ず手放さなければならないわけではありません。そのまま保有し続けることも可能です。仮にTOB価格や市場価格がTOB発表前より高水準だとしても、株式をより高値で買い付けている場合は損失が確定してしまいます。そのようなケースでは、そのまま保有することも選択肢の1つです。

上場廃止に注意

株式全部買付けなどの場合、TOB完了後に上場廃止が予定されていることがあります。保有株式が上場廃止になると市場での売買ができなくなり、証券会社では取り扱えなくなります。TOB後の上場廃止の可能性の有無については、該当企業のホームページなどで必ずチェックするようにしましょう。

強制的に買い取られることも

TOBに応じなくても、成立後に買取り企業が一般の株主から株式を強制的に取得することがあります(スクイーズアウト)。このような場合、保有し続けたくてもTOB価格で株式を手放さなくてはなりません。

まとめ

上場株式を保有していると、自分の持っている銘柄がTOBの対象になることもあります。その場合は、必ずTOBの内容を確認しましょう。TOBには不成立のリスクや買い取ってもらえないおそれがあるため、市場での売却が一番無難な選択肢といえます。ただし、売却価格やTOB価格が買付け価格を大きく下回る可能性もあります。TOBが発表されたら、慌てずにとるべき行動を考えましょう。


タグ
  • TOB

Writer

おすすめの記事

対談記事【ビジネスのヒント】|斬新な新サービスを支えた企業と銀行の絆
続きを読む >

お役立ち

2025.02.06

対談記事【ビジネスのヒント】|斬新な新サービスを支えた企業と銀行の絆

経営に関する悩みや課題を抱える事業経営者の皆さまにとって、銀行の営業担当者は心強いサポーターの一人です。そこで、らいふくのーと編集部では、事業経営者と西日本シティ銀行の営業担当者にスポットをあててインタビュー。二人の出会いや、事業の成功までの道のりなどをざっくばらんにお話しいただきます。

【2025年】キャッシュレス決済導入に使える補助金・助成金5選
続きを読む >

お役立ち

2025.03.05

【2025年】キャッシュレス決済導入に使える補助金・助成金5選

感染症対策やインバウンド対策等の一環としてキャッシュレス決済への需要が高まるなか、キャッシュレス決済の導入を検討しているものの、コストが気になるという事業者様は少なくないでしょう。 そこでこの記事では、キャッシュレス決済端末を導入する際に活用できる主な補助金や助成金を紹介します。 ※記事内容は、2025年3月3日時点の情報です。最新の情報は、必ず省庁や自治体の公式HPをご確認ください。

IT導入補助金2025の変更点とは?拡充ポイントや制度概要を解説
続きを読む >

お役立ち

2025.03.04

IT導入補助金2025の変更点とは?拡充ポイントや制度概要を解説

事業者の業務効率化を支援する国の施策のひとつに「IT導入補助金」があります。 ITツールの導入を支援する制度で、これまで複数年にわたり公募を実施してきました。 さらに、令和6年(2024年)12月の令和6年度(2024年度)補正予算成立に伴い、今後の継続も決まっています。 そこでこの記事では、IT導入補助金2025で実施予定の拡充ポイントを交えて制度概要を解説します。 ※記事内容は、2025年2月3日時点の情報です。最新の情報は、必ず省庁や自治体の公式HPをご確認ください。

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」
続きを読む >

お役立ち

2023.11.21

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」

これから就職先を探している学生のみなさんにとって、どんな企業が自分にとって働きやすいのか、気になりますよね。そこで今回は、西日本シティ銀行が取り扱う次世代ワークスタイル応援私募債『ミライへの路*』を発行している企業のみなさんにご協力をいただき、その企業で実際に働いている若手の社員に直撃インタビュー。なぜ入社を決めたのか、実際に働いてみてどんな感じなのか、などをヒアリングしました。また、併せて、各企業の経営者にも、求める人材像や今後の展望などをお話しいただきました。取材に協力いただいた企業は、地元・福岡で働き方改革に注力している、優良企業ばかりです。ぜひ、就職希望先の候補の一つとして、働く先輩たちのリアルな声をご一読ください。

お菓子製造のOEMで福岡の製菓業界に新境地を開く。ATELIER S.e.n.s.e 中原浩雅さん
続きを読む >

インタビュー

2025.03.07

お菓子製造のOEMで福岡の製菓業界に新境地を開く。ATELIER S.e.n.s.e 中原浩雅さん

他社ブランドの商品を生産する"OEM"。受託企業は商品の製造に、委託企業は商品開発やPRに集中できるというメリットがあり、アパレルや自動車などのさまざまな業種で活用されていますが、食品業界でもOEMの商品は多く見られます。今回はそんな食品の中でもお菓子(焼き菓子)のOEM製造を手がける、「ATELIER S.e.n.s.e(アトリエ・センス)」代表の中原浩雅さんにインタビュー。福岡ではまだ希少なお菓子のOEMという業種で起業した背景には、中原さんの多彩な経験が深く関わっていました。

手書きの手紙で企業をサポート、さらにその先へ|株式会社RAPAS 陸守康汰さん
続きを読む >

インタビュー

2025.03.04

手書きの手紙で企業をサポート、さらにその先へ|株式会社RAPAS 陸守康汰さん

スポーツ業界でスポンサー広告の費用対効果をAIで可視化|株式会社NextStairs万井拓馬さん
続きを読む >

インタビュー

2025.03.03

スポーツ業界でスポンサー広告の費用対効果をAIで可視化|株式会社NextStairs万井拓馬さん

【ミライへの路に挑む企業】循環型の総合不動産企業として、社員もお客さまもハッピーに!|株式会社みらいコンシェルジュ
続きを読む >

お役立ち

2025.02.06

【ミライへの路に挑む企業】循環型の総合不動産企業として、社員もお客さまもハッピーに!|株式会社みらいコンシェルジュ

多様な生き方や働き方が広がりつつある現代。企業にはこれからますます、さまざまな人が働きやすい環境を整えることが求められます。社員の働きやすさを叶える企業の取り組みとは? この連載では、実際に働き方改革を積極的に取り組む企業で働く人や経営者にインタビュー。今回は熊本を基盤に不動産売買やファイナンシャルプランニング、保険の見直しなどの幅広い事業を展開する「CRAS(クラス)」を運営する「株式会社みらいコンシェルジュ」にお話を伺いました。