「助成金」や「補助金」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。いずれも国や地方自治体からもらえる返済不要の交付金であり、何らかの施策や事業に対して、その取り組みに要した負担金の一部を後から支給されるものです。
それでは、助成金と補助金という言葉はどのように使い分けられており、どのような違いがあるのでしょうか。今回は2つの違いについてまとめるとともに、創業時に使える助成金や補助金について紹介します。
1.助成金と補助金の意味や管掌行政機関の違いとは?
助成金も補助金もお金が支給されるという意味では同じです。しかし、それぞれを管掌する行政機関、すなわち、制度を設ける行政機関が異なります。以下、詳しく解説します。
助成金の意味・主管
厚生労働省の取り扱いが多い一方、自治体が管掌する助成金もある
「助成金」は、多くが厚生労働省の管掌であり、雇用や労使に関係する支援金です。また、少ないながら自治体が管掌する助成金もあります。
基本的に、助成金は「法令を守りつつ、従業員の労働環境の向上を積極的に図る事業に対する報奨金」という性格を持ちます。
補助金の意味・主管
経済産業省や地方自治体が管掌しているものが多い
「補助金」は、経済産業省や地方自治体が管掌しているものが多いです。
国や地方自治体の政策を推し進めるために、その政策目的に合致する事業を行う会社や個人事業主を支援する性格を持っているのです。
2.助成金と補助金の財源の違いとは?
助成金は雇用保険料が財源
助成金は、会社が支払っている「雇用保険料」が財源となっています。
雇用保険料は会社の負担割合が低く、毎月無理のない範囲で事業主に納めてもらうことができる性質を持ちます。
雇用保険料を助成金の財源とする仕組みになっているため、「助成金」を利用できる会社や事業主は、雇用保険の適用事業者でなければなりません。
補助金は税金が財源
国や地方自治体から公募されている補助金の財源は「法人税」です。
当然ですが、法人税を納めていない会社や滞納のある会社は、補助金の申請をすることはできません。法人税をきちんと支払っている事業者のみ補助金を活用することができます。
3.助成金と補助金の受給条件や申請対象の違いとは?
助成金の受給条件・申請対象
①雇用保険に加入していること
先ほどお伝えしたように、助成金の財源は会社が支払っている雇用保険料です。したがって、助成金を利用できる会社の条件として「雇用保険の適用事業者(雇用保険への加入)であること」が挙げられます。
ただし、一定期間を超えて労働保険料を滞納している企業は、助成金を受給できないことがあるので注意が必要です。
②法律上の必要な帳簿などを整備していること
助成金を申請する際には労働者名簿、就業規則、賃金台帳、出勤簿などを添付書類として提出します。助成金の種類によっては定款や登記簿謄本、会計帳簿なども必要となります。
③適正な労務管理をしていること
不正受給防止のために、必要な届け出をしているか、未払賃金がないかなどが申請の前後に調査されます。過去3年間に不正受給をした、またはしようとした会社は受給できないことがあります。
また、人材の雇入れに関する助成金では、雇入れ前後の6か月間に事業主の都合により解雇したり、特定受給資格者となる離職者を3人超かつ被保険者数の6%発生させたりした場合、受給できないケースが筆者の周りでは多くなっています。
条件を満たしているか、積極的に確認すべき
助成金を利用したことのある会社は、制度についての知識があるため、条件に合致すれば何度も助成金を受給できることを知っています。一方で、制度を知らなければ受給機会を逃してしまいます。
厚生労働省から助成金に関するアナウンスはあるものの、それに気付きにくいことが要因として挙げられるでしょう。これを機会に、自身の会社が条件に合致するかどうかを精査し、条件に当てはまる場合は制度を積極活用してみてはいかがでしょうか。
補助金の受給条件・申請対象
補助金ごとに条件などが異なる
補助金は、国のさまざまな政策ごとにいろいろな種類があり、それぞれの補助金の「目的・趣旨」と、自身の事業内容が合致する必要があります。
すべての経費が交付されるわけではないので、事前に募集要項などで補助対象となる経費や補助の割合、上限額などを確認するようにしましょう。
4.助成金と補助金の募集方法・募集期間の違いとは?
助成金の募集方法・募集期間
助成金は、一般的に随時募集していますが、予算がなくなり次第終了となります。通常、1か月~2か月程度で締め切りと考えておくとよいでしょう。
補助金の募集方法・募集期間
補助金は年1~3回程度の公募となります。公募の募集期間は、一般的に数週間から1か月程度であるため、短期間で申請しなければなりません。
事業計画のイメージや事前の準備が大切
助成金も補助金も、締め切りまで約1か月程度と募集期間はたいへん短くなっています。普段から事業計画をイメージし、やりたいことを書面にまとめておくようにしておかなければなりません。
「助成金や補助金があるから、この事業を始めよう」という流れではなく、自分がやりたいことをまず頭の中でイメージすることが大切です。あらかじめ事業計画を立て、事業に該当しそうな助成金・補助金が発表されたときにすぐに対応できるようにしておきましょう。
説明会や過去の募集を参考にする
毎年3月から6月の時期は、新しい助成金や補助金の募集が多く、説明会も開催されるため、まめにチェックすることが大切です。過去にどのような募集が行われてきたのかを調べるのも参考になるといえます。
この時期の募集枠が埋まらなかった場合や申し込みが殺到した場合などは、予算が補正され、2次募集・3次募集などが行われることもあるため、見逃さないようにチェックしておきましょう。
4.助成金と補助金の採択率の違いとは?
採択率とは、申請して審査に合格し支給を受けることができる割合をいいます。
助成金の採択率
助成金は、給付条件を満たしていれば問題なく支給されるケースがほとんどです。したがって、採択率は100%に近いといえるでしょう。
申請から受給までに時間がかかることも
助成金は比較的簡単に受給することができる上、返済不要というメリットがあり、有効な資金調達手段のひとつといえます。一方、デメリットとして、申請から受給までに時間がかかる場合が多いこともあるため、注意しておく必要があります。
補助金の採択率
補助金に関しては審査が厳しく、採択件数や金額があらかじめ決まっているケースも多く見られます。したがって、必ずしも受給できるわけではありません。補助金の種類によっては、採択率が3割程度のものもあるようです。
5.助成金と補助金、制度の目的の違いとは?
助成金の支給目的
雇用や労働環境、労務問題などの整備・改善
助成金の主な支給目的は、景気悪化により雇用を確保できない会社や、労働環境の整備ができない会社に向けて、雇用や労働環境、労務問題などの整備・改善を支援することにあります。こういった会社が助成金を活用することで、従業員の雇用維持や労働環境の整備が可能となるでしょう。
補助金の支給目的
国や地方自治体による政策の推進
補助金の目的は、「国や地方自治体が政策を推進するため」です。政策目的に見合った事業に補助金を支給し、その事業を後押しすることによって政策の推進を図るのがねらいです。
政策によってさまざまな種類がある
たとえば、商店街の活性化に関する政策であれば、商店街を活性化する取り組みを行う事業が補助されると考えられます。製造業の技術力向上が政策であれば、設備投資資金や研究開発費を、温暖化ガス削減政策であれば、二酸化炭素排出を抑制する設備投資資金を補助されるでしょう。
つまり、国や地方自治体からしてみれば、「自分たちの地域政策を実現するために、会社に対して資金援助をするので、自分たちの政策を実現させてください」という意味を含んでいるといえます。
6.創業時に使える助成金・補助金とは?
「中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)」(厚生労働省)
「中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)」は、これから新規起業する人や、起業して間もない法人や個人事業主を対象とする助成金制度です。
助成の種類は以下の2種類があります。
①「雇用創出措置助成分」
「雇用創出措置助成分」とは、中高年齢者(40歳以上)の人が起業によって就業機会の創出を図るとともに、事業に必要な従業員(中高年齢者等)を雇用する際の「雇用創出措置(募集、採用や教育訓練の実施)」にかかる費用の一部を助成するものです。
②「生産性向上助成分」
「生産性向上助成分」とは、上で述べた「雇用創出措置助成分」の助成金の支給を受けた後、一定期間経過後に生産性が向上した場合に、生産性向上にかかる助成金が別途支給されるものです。
「地域創造的起業補助金(創業補助金)」(中小企業庁)
創業時には何かとお金がかかると考えられます。「地域創造的起業補助金」は、創業時に必要となる費用の一部を、国や地方自治体が補助する制度です。新たな雇用の創出や新規需要などを促し、経済を活性化させることが目的です。
「事業承継補助金」(中小企業庁)
事業承継補助金は、事業統合や再編、世代交代などによる事業承継により、廃業することなく新たな革新を生み出そうとする中小企業や小規模事業者が対象です。その取り組みに必要な費用の一部を補助し、世代交代を通じた日本経済の活性化を図ることを目的としています。
「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」(東京都)
東京都内の商店街で、若手男性または女性が新規事業を開業するにあたり、店舗の新装や改装、設備投資などに必要な費用の一部が補助されます。商店街における新たな起業家の育成・支援を行い、東京都内にある商店街の活性化を図ることを目的としています。
まとめ
今回は「助成金」と「補助金」の違いについて解説しました。税金や雇用保険料が財源となり、事業主としては積極的に活用すべき制度といえるでしょう。手続きはやや煩雑になりやすいため、社会保険労務士や専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。
どちらも返済不要の資金調達方法ですが、支給されるまでに時間がかかることを考え、創業時にはほかの資金調達方法についても検討するようにしましょう。
公認会計士、税理士、CFP
大手監査法人に勤務した後、会計コンサルティング会社を経て、税理士として独立。中小企業、個人事業主を会計、税務の面から支援している。独立後8年間の実績は、法人税申告実績約300件、個人所得税申告実績約600件、相続税申告実績約50件。