いま、この記事をご覧の人の中には、起業や会社設立に関心があったり、いずれは会社を立ち上げようと考えていたりする人が多いのではないでしょうか。しかし、漠然と会社を起こすといっても、何から始めたらよいかわからない人もいることでしょう。今回は、会社の起こし方に関する基礎知識や会社設立手続きの仕方、注意すべきポイントなどをわかりやすく解説していきます。
1.法人設立のための準備
設立手続きに入る前に、最初は会社設立のための準備から始めます。会社設立にかかる期間は、おおよそ2週間から3週間程度と言われています。
ただし、事前に必要な手続きをきちんと把握しておかなければ、スムーズに会社設立手続きを進められません。しっかりと必要な手続きを把握しておきましょう。設立前の準備として以下の手続きから始めます。
(1)会社の基本事項の決定
(2)会社の印鑑(代表社印)の作成
(3)定款(ていかん)の作成
では、それぞれについて具体的に解説してきます。
(1)会社の基本的事項の決定
会社の基本的な事項には以下が挙げられます。
商号とは?決め方にルールはある?
「商号」とは会社の名前です。
名前は自由に決めることができますが、近隣の地域に同一の商号がある場合は、その名前は使用できません。事前に会社の住所(本店所在地)を管轄している法務局で、類似の商号がないことを確認するようにしましょう。
商号を決める際の注意点
株式会社の場合は、商号に「株式会社」の文字を使用しなければなりません。名の知れた有名企業を連想させる名前も使用できないので注意してください。
(2)会社の印鑑(代表社印)の作成
会社設立時には、会社の印鑑(実印)が必要になります。会社の印鑑(代表社印)は、登記申請する際に法務局で印鑑登録をすることになりますので、前もって印鑑を作成しておきましょう。代表者印のほか、銀行印やゴム印、角印も作っておくといいでしょう。
(3)定款の作成
会社を設立するには、会社の基本ルールを作る必要があります。このルールが定款と呼ばれるものです。この定款は発起人が自由に作れるものではなく、会社法という法律に従った内容でなければなりません。
定款の内容には下記のとおりです。
以下、それぞれについて解説していきます。
①絶対的記載事項
「絶対的記載事項」とは、定款に必ず記載しなければならない項目のことをいいます。絶対的記載事項には以下のようなものがあります。
・商号(会社名)
・目的
・本店所在地
・設立に際して出資される財産の価額、その最低額(資本金)
・発起人の氏名または名称及び住所
作成した定款に絶対的記載事項が漏れていると、公証人役場で認証を受けることができないので、必ず記載するようにしましょう。
ここで会社の目的を記載する場合には注意が必要です。目的に記載されている行為以外の会社の行為は無効となる可能性があります。そのため、事業の目的を抽象的に記載したうえで、「事業目的に付随する一切の業務」というような書き方にするのが一般的です。
②相対的記載事項
「相対的記載事項」とは、会社のルールとして決定した際に、その事項を定款に記載していなければ無効となる事項をいいます。一般的には以下の2点を記載するケースが多いです。
上記のほかにも以下の相対的記載事項がありますが、事例としては少ないといえます。
・現物出資(金銭以外の形で会社設立に際して出資されるもの)
・財産引受(会社設立に際して会社が第三者から財産を取得すること)
・発起人の報酬
・設立費用
これらについては、裁判所の選任した「検査役」の調査を受けなければなりません。
③任意的記載事項
「任意的記載事項」とは、会社のルールとして決定した事項でも、特に定款に記載しなくてもよい事項をいいます。たとえば、定時株主総会の招集時期や、会社の事業年度などが任意的記載事項にあたります。
2.法人設立の申請方法・手続き
法人設立のための準備が完了したら、いよいよ設立までの手続きに入ります。具体的には以下のような流れになります。
(1)定款の認証
(2)資本金の払込み
(3)登記申請に必要な書類と申請手続き
それでは、株式会社の設立を想定して、それぞれ具体的に見ていきましょう。
(1)定款の認証と認証に必要なもの
定款を作成したら、次に公証人役場で定款の認証を行います。公証人役場において、定款が法律に基づいて適正に作成されたことを公的に証明してもらうのです。定款の認証は、会社の本店所在地を管轄する公証人役場で行います。公証人役場へ持参する主なものは以下のとおりです。
①定款3通
定款は公証人役場保管用、会社保管用、登記申請用の3通を用意しましょう。3通すべてに発起人全員の署名押印、割印が必要です。押印は個人の実印としなければなりません。
②発起人全員の印鑑証明書1通ずつ
印鑑証明書は役所で印鑑登録を行い取得します。会社設立登記の申請の際にも使いますので、2通取得しておきましょう。
③収入印紙4万円
公証人役場保管用の定款に収入印紙を貼り付けて消印をすることで、印紙税を納付します。
④手数料5万円プラス数千円
定款の認証の費用は当日、現金で支払います。公証人へ払う手数料5万円と、定款の謄本作成料の数千円を用意しておきましょう。
⑤委任状
公証人役場での定款認証は、原則として発起人全員で行かなければなりません。しかし、全員で行くことが難しい場合は、公証人役場に行けない発起人の委任状が必要となります。
上記をそろえ、公証人役場へ行ってチェックを受けて認証してもらいます。公証人役場へは、あらかじめ電話で日時を決めておいたほうがいいでしょう。当日になって訂正箇所の指摘がある場合もありますが、よほどの場合でない限りはその場で訂正可能です(訂正の場合に備えて、定款には前もって捨印を押しておきましょう)。
(2)資本金の払い込みとその手順
定款の認証が完了したら、次に定款で定めた資本金に相当する金額を、銀行の口座に払い込まなければなりません。ここでは、資本金の払い込み手続きについて具体的に順を追って説明します。
①発起人個人名義の銀行口座を用意する
定款記載の資本金に相当する金額は、最終的に会社の銀行口座に入金されますが、まだ会社の設立登記がされてないので、会社名義の銀行口座というものがありません。そのため、便宜的に発起人となる人の個人名義の口座を使用することになります。
発起人が複数いる場合には、発起人代表者の個人名義の口座を用意しましょう。個人名義の銀行口座は現に使用中の口座でもよく、新たに口座を開設する必要はありません。
②資本金の金額を払い込む
発起人の個人口座が用意できたら、「資本金の払い込み」を行います。このときのポイントは、「それぞれの発起人がいくら払い込んだのか」が、通帳上で明確にわかるようにしておくことです。各発起人は、誰がいくら出資するかがあらかじめ決まっています。したがって、決められた金額が確かに払い込まれていることを証明する必要があるのです。
そのためにも、発起人の名前が通帳に印字される「振込」を行うことをおすすめします。また、通帳がないような一部のネット銀行では、登記申請時に必要となる通帳のコピーが用意できないので、通帳が用意できる銀行の口座を用意するようにしましょう。
③通帳コピーを用意する
通帳コピーは、発起人全員が決められた金額を確かに銀行口座に振り込んだということを明らかにする重要な書類になります。コピーする箇所は次の3点です。
・表紙(銀行名の記載部分)
・表紙裏(支店名・支店番号、銀行印などの記載がある箇所)
・払い込み金額が記帳されている箇所
「払い込み金額が記帳されている箇所」には、発起人の名前と金額がしっかり印字されているか確認してください。マーカーで印をつけておくとわかりやすいでしょう。
④払込証明書を作成する
「払込証明書」は、発起人から会社に対して、間違いなく払い込みがなされたということを代表取締役が証明する書類です。
払込証明書には以下の内容を記載します。
・払込を受けた金額の総額:金○○万円
・発行する株式数:○○株
・日付
・本店所在地
・商号(会社名)
・代表取締役 氏名
「払込を受けた金額の総額」「発行する株式数」は定款に記載された数字を記載します。「日付」は資本金が振り込まれた最も遅い日以降の日付にしましょう。「本店所在地」「商号(会社名)」は定款と同じように記載します。
上記に加え、払込証明書に会社代表印を押印します。押印箇所は払込証明書の左上と、代表取締役氏名の右横に1つずつ、計2か所です。左上の印は、後述する通帳コピーを綴じる際に、隠れないよう気をつけましょう。また、代表取締役氏名の横に押印する印は、個人の実印ではなく、会社の実印である「会社代表者印」である点に注意が必要です。
⑤払込証明書と通帳コピーを綴じる
最後に、払込証明書と通帳コピーを綴じ、製本を行います。上から以下の順番でホッチキス留めしましょう。
(a)払込証明書
(b)通帳コピー(表紙)
(c)通帳コピー(表紙裏)
(d)通帳コピー(払い込み金額の記載ページ)
そして各ページの境目に代表者印を押印していきます。(a)の裏面と(b)の表面、(b)の裏面と(c)の表面、(c)の裏面と(d)の表面の3箇所です。
(3)登記申請に必要な書類と申請手続き
登記申請では、会社を代表する人(設立時の代表取締役など)が、会社の所在地を管轄する法務局に申請書類を提出することにより行います。登記申請に必要となる主な書類は以下のとおりです。
①登記申請書
登記申請書は商号(会社名)や本店所在地、添付書類一覧、登録免許税の金額、添付書類などが記載される書類です。登録免許税の金額は、株式会社の場合は「資本金額の1000分の7」と決められていますが、15万円に満たない場合は15万円となります。また、添付書類については、それぞれの会社の状況に応じて異なります。
②登録免許税納付用紙
登録免許税は収入印紙で納付することになります。その納税額分の収入印紙を台紙に貼り付けて提出します。提出をする際には、収入印紙に消印をしないように注意しましょう。
③印鑑届出書
会社の実印となるものを「代表社印」として法務局に提出し、印鑑登録を行います。その際に提出する書類が印鑑届出書です。
④認証を受けた定款
公証人役場で定款の認証を受けたら、その定款を法務局に提出します。
⑤払込証明書
払込証明書は上で述べた通り、定款記載の資本金が発起人からきちんと払い込まれていることを証明する書類です。払込証明書とともに、所定の銀行口座の「通帳の表紙」「表紙裏」「振り込み内容が記帳されている箇所」のコピーを製本して提出します。
⑥取締役全員の就任承諾書
発起人以外の人が取締役として就任する場合、「就任承諾書」が必要となります。「就任承諾書」とは、取締役として就任することを承諾したと証明する書類です。取締役が複数いる場合、その全員がこの書類を提出しなければなりません。
⑦資本金の額の計上に関する証明書
「資本金の額の計上に関する証明書」は、全額金銭での出資の場合には不要ですが、現物出資や資本準備金がある場合には提出しなければなりません。
⑧委任状
司法書士などに登記申請を依頼する場合には委任状が必要になります。
3.会社設立時に必要な費用まとめ
会社設立時には公証人役場と法務局において費用が発生し、会社の種類によって必要な金額が異なります。ここでは、株式会社と合同会社について、必要な費用を表にまとめましたので、参考にしてください。
(1)株式会社設立の場合にかかる費用
(2)合同会社設立の場合にかかる費用
まとめ
今回は、会社設立の方法や手続きについてご紹介しました。会社設立には相応の費用もかかりますし、手続きも煩雑になることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
スムーズに手続きをするために、可能であれば、会社設立の専門家に依頼するのが賢明です。手数料はかかりますが、その分確実に早く設立ができるでしょう。会社設立の専門家は税理士や司法書士、行政書士などです。これらの士業の人は設立時だけでなく、設立後も関わることが考えられます。設立時からビジネスパートナーとしてお付き合いすることを視野に入れてもよいでしょう。意外かもしれませんが、ゼロから相談できるので気負う必要はありません。
一緒に疑問や不安をひとつずつ解消していきましょう!