事業を始めるにあたって、個人事業主として始める人もいれば、法人(会社)設立を考える人もいるでしょう。法人設立を考えている場合、設立にはいくらかかるのか、どれくらいのお金を用意しておくべきなのでしょうか?今回は法人設立に焦点を当てて、会社設立にかかる費用や、自身で会社設立の手続きを行う場合と専門家に依頼する場合の違いなどについて、詳しく解説します。
1.起業前に知っておきたい基礎知識
会社の種類
2006年(平成18年)に施行された新会社法では、新たに設立できる会社の種類は、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類となりました。それまで設立可能であった「有限会社」は、新会社法の施行から新たに設立することができなくなりました。
この4種類のうち、「合資会社」「合名会社」を設立する人は相対的に少ないと考えられるため、この記事では「株式会社」「合同会社」の2つの会社形態に絞って説明します。
株式会社の設立方法
「募集設立」と「発起設立」
株式会社の設立方法には、「募集設立」と「発起設立」の2つがあります。
募集設立は、不特定多数の人たちから出資を募り設立する方法です。発起設立は、事業主自身や家族、友人など限られた人が発起人となり、その人たちが資金を出し合い設立する方法です。なお、発起設立では発起人が一人でも会社を設立することができます。
合同会社の設立方法
合同会社は比較的新しく設けられた会社形態で、「LLC(= Limited Liability Company)」と呼ばれることもあります。
金銭以外のものでも出資が可能
合同会社の特徴のひとつとして、金銭ではなく技術やノウハウなど金銭以外のものでも出資が可能な点が挙げられます。
お金はなくても、経営資源として価値を提供できるものがあれば会社を設立できるのです。合同会社の設立は毎年増加しており、今後もニーズが高まっていくのではないでしょうか。
手続きが簡素&設立費用が安い
設立費用に関しても、合同会社の方が株式会社より安く、手続きも簡素なものとなっています。そのためか、合同会社がペーパー・カンパニーとして使用されるケースも見られます。
ペーパー・カンパニーとは
ペーパー・カンパニーとは、「法人として登記されているものの、従業員がいるわけでもなく活動の実体がない会社」のことを指します。ペーパー・カンパニーは日本よりも法人税が安い国や地域(いわゆる、タックスヘイブン)に設立され、資産管理や金融取引のための会社として利用されるケースが多いとされています。
法人設立には資本金が必要
資本金とは、事業主が最初に準備しなければならない資金のことをいい、定款で定めておく必要があります。資本金は、その会社の規模や資金力の判断基準となりうるため、資本金が大きいと会社の信用も上がり、取引先の拡大や金融機関からの借入もしやすくなります。
法人は資本金1円から設立可能だが現実的とは言い難い…
現行法では、資本金1円から法人を設立することが可能なのですが、社会的な信用力や設立後の運営を考えると、1円での設立は現実的と言い難いように思えます。
一方で、資本金が高ければ良いというわけでもありません。資本金は一般的に発起人が出資するものです。したがって、資本金を高く設定すると、その分出資者である発起人の負担が大きくなるのです。
会社の規模や業種、会社が目指す方向性にもよりますが、筆者の周りでは資本金を300万円~500万円に設定する会社が多いように見受けられます。
法人設立にあたって必要な費用
法人設立にあたって、必ずかかる費用が存在します。
後ほど述べますが、公証役場での定款の認証や法務局での設立登記申請の際に、20万円~40万円ほどかかります。また、それら以外にも必要な費用として以下を考えておきましょう。
・新会社の印鑑(実印)作成費用:5,000円〜
・発起人個人の印鑑証明取得費用:必要枚数×300円
・新会社の登記簿謄本の発行費用:必要枚数×500円
2.法人設立時の定款認証にかかる費用は?
法人を設立するには、定款を作成して定款認証を受ける必要があります。その際に以下のような費用が発生します。
(1)定款に貼る収入印紙代
定款とは、会社の商号(会社名)や目的、本店所在地などの会社の活動についての基本的なルールを記載した書類のことをいいます。
株式会社を設立する場合には、この定款を作成し、公証役場で定款認証を行わなければなりません。その際、定款に貼る収入印紙代として4万円が必要となります。なお、電子定款の場合、収入印紙代は不要です。
(2)定款認証の際に公証人に支払う手数料
株式会社を設立する場合は、定款認証を受ける必要があります。定款認証は、住所(本店所在地)を管轄する公証役場にて行います。認証の際には、認証手数料として5万円の費用がかかります。合同会社を設立する場合は、定款認証を受ける必要がないので、認証手数料はかかりません。
(3)定款の謄本発行手数料
謄本とは、文書の原本の内容を証明するために,原本の内容と同一の文字で完全に謄写した書面をいいます。定款の謄本は、公証役場保管用、設立登記申請用、会社保管用の3通が最低でも必要となります。定款の謄本手数料は1頁あたり250円ですので、おおよそ2,000円程度と考えておきましょう。なお、電子定款の場合は登記の際に提出を要しないので、謄本を取得する必要はありません。
3.法人設立にかかる費用(登記費用・登録免許税)は?
定款認証後、設立登記をすることで会社が誕生
定款認証を受けたら、次に法務局で設立登記を行います。会社を設立する際は、定款で定めた本店所在地を管轄する法務局へ登記申請を行わなければなりません。この設立登記の完了をもって会社が誕生することになります。
登記申請には登録免許税が必要
申請の際には、登録免許税が必要になります。登録免許税は資本金の額に1,000分の7を乗じた金額となり、収入印紙を貼付台紙に貼り付けることによって納付します。
ただし、登録免許税には最低納付金額が定められており、計算した金額が株式会社で15万円、合同会社で6万円に満たない場合は、それぞれ15万円、6万円が登録免許税となります。
4.設立手続きを専門家に依頼する場合
会社の設立手続きは専門家に依頼するのがおすすめ
会社の設立手続きは、法律に基づいて行われるため、法律の知識に乏しい人にとっては煩雑になりやすく、スムーズな設立手続きが行えないことも考えられます。その結果、業務開始が遅延する可能性もあります。
そのようなことにならないよう、会社設立については専門家に依頼する方が賢明です。特に定款については、会社設立後の事業活動にも影響する書類です。その作成において、専門家の適切なアドバイスを受けられることは大きなメリットといえるでしょう。
会社設立に関わる専門家
会社設立に関わる専門家は、一般的に行政書士、司法書士、税理士です。それぞれに代行手数料はかかりますが、自分で行うより確実かつスムーズに設立手続きが行えると考えられます。
以下、それぞれの専門家がどのように会社の設立に関わってくるのかを見ていきましょう。
行政書士
行政書士は、会社や個人が官公庁に提出しなければならない書類を代行して作成し、手続きまでの業務を独占的に行います。会社設立の場面では、定款の作成、公証役場での認証手続きを代行します。
司法書士
司法書士は、個人や会社が裁判所や法務局に提出しなければならない書類を代行して作成し、手続きを行います。会社設立において、司法書士は法務局での設立登記申請の代行を行います。
税理士
税法に詳しい税理士は、税金の計算を主な仕事としています。確定申告や税務書類の作成、税務相談など、会社設立後には欠かせない存在といえます。
設立代行を請け負っている税理士事務所なら費用を抑えられる
行政書士や司法書士と業務提携している税理士事務所
税理士は会社設立において、行政書士や司法書士のような代行業務を行うことを法律で禁止されています。しかし、行政書士や司法書士と業務提携し、設立代行を請け負っている税理士事務所は多数存在します。
設立後の税務顧問の契約を条件に、代行費用を抑えられる
設立代行を請け負っている税理士事務所は、設立後の税務顧問を引き受けることを条件に設立手続きを格安で受け、提携している行政書士や司法書士に代行業務を外注するという体制をとっています。(法的に問題ないか、念のため確認を! 尼田)
税理士は会社設立後も欠かせない存在であるため、設立時点から手続きをすべて任せられる税理士事務所に依頼することは、手間と費用を抑えることにつながると考えられるでしょう。
手数料は事務所によってさまざまですので、複数の税理士事務所を予算と比較して決めるのがおすすめです。
印紙代を抑えられる「電子定款」
上記の専門家に設立代行を依頼すると、書面の定款ではなく「電子定款」を利用していることが多いです。電子定款は印紙が必要ないため、4万円の印紙代を抑えることが可能です。
5.会社設立手続きに関する費用相場の比較
これまで述べてきたとおり、会社設立にはさまざまな費用がかかります。表にまとめると以下のようになります。
株式会社の設立を自分で行う場合と専門家に依頼する場合の比較
自分で株式会社を設立する場合は、資本金を除けば設立費用の目安は約25万円となります。専門家に依頼した場合は35万円~40万円ほどです。内訳は以下のとおりになります。
| 自分で行う場合 | 専門家に依頼する場合 |
資本金 | 300万円~500万円 | 300万円~500万円 |
定款認証手数料 | 5万円 | 5万円 |
定款印紙代 | 4万円 | - |
定款謄本作成費用 | 必要枚数×250円 | 必要枚数×250円 |
定款作成代行手数料 | - | 5万円~10万円 |
登記申請印紙代 | 15万円 | 15万円 |
登記申請代行手数料 | - | 5万円~10万円 |
印鑑作成代 | 5,000円~ | 5,000円~ |
印鑑証明書発行手数料 | 必要枚数×300円 | 必要枚数×300円 |
登記簿謄本発行手数料 | 必要枚数×500円 | 必要枚数×500円 |
合同会社の設立を自分で行う場合と専門家に依頼する場合の比較
合同会社を設立する場合は、資本金を除けば、設立費用の目安は約12万円となります。専門家に依頼した場合は25万円~30万円ほどです。内訳は以下のとおりになります。
| 自分で行う場合 | 専門家に依頼する場合 |
資本金 | 300万円~500万円 | 300万円~500万円 |
定款認証手数料 | - | - |
定款印紙代 | 4万円 | - |
定款謄本作成費用 | - | - |
定款作成代行手数料 | - | 4万円~8万円 |
登記申請印紙代 | 6万円 | 6万円 |
登記申請代行手数料 | - | 4万円~8万円 |
印鑑作成代 | 5,000円~ | 5,000円~ |
印鑑証明書発行手数料 | 必要枚数×300円 | 必要枚数×300円 |
登記簿謄本発行手数料 | 必要枚数×500円 | 必要枚数×500円 |
まとめ
今回は、株式会社と合同会社のそれぞれの設立費用について詳しく解説しました。会社設立の方法は、法律に基づいて厳格に決められています。それゆえ、自分で行うにしても専門家に依頼するにしても、計画的に行う必要があります。
本記事を参考に、スムーズに設立手続きを行えるよう、いつ、どこで、いくらの費用がかかるか、しっかりと把握しておきましょう。
公認会計士、税理士、CFP
大手監査法人に勤務した後、会計コンサルティング会社を経て、税理士として独立。中小企業、個人事業主を会計、税務の面から支援している。独立後8年間の実績は、法人税申告実績約300件、個人所得税申告実績約600件、相続税申告実績約50件。