
起業にはお金が必要であり、自己資金だけでまかなえない場合は、何らかの方法で調達しなければなりません。そもそも、いくらかかるのかも気になるところでしょう。今回は、起業にかかる費用の目安とその調達方法について解説します。
起業(開業)資金はいくら必要?
起業(開業)にかかる資金は個人事業なのか会社(法人)を設立するのかだけでなく、業種・業態によっても大きく変わってきます。

個人事業を始める際の手続きにかかるお金
自営業やフリーランスとして行う個人事業であれば、開業に必要な手続きは「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」の提出だけです。開業届は用紙1枚の簡単なもので、自身で作成すれば費用はかかりません。
会社(法人)の設立手続きにかかるお金
会社(法人)を設立するには、定款の作成・認証と登記が必要です。最低限必要な法定費用として、株式会社を設立する場合で約20〜25万円、合同会社では約6〜10万円かかります。これに加え、会社代表者印の作成費用などに1万円程度、司法書士などに手続きを依頼すれば10万円程度の報酬が必要になります。
| 株式会社 | 合同会社 |
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定款認証手数料 | 3〜5万円*(1) | 不要 |
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謄本手数料 | 2,000円程度 | 不要 |
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定款印紙代 | 4万円 (電子定款の場合は不要) | 4万円 (電子定款の場合は不要) |
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登録免許税(設立登記) | 15万円〜*(2) | 6万円〜*(3) |
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代表者印作成費用等 | 1万円程度 | 1万円程度 |
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司法書士等報酬 | 7〜15万円程度 | 6〜12万円程度 |
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*(1)資本金額により変動
*(2)15万円または資本金の額の0.7%のいずれか高い額
*(3)6万円または資本金の額の0.7%のいずれか高い額
資本金は返済不要の資金で準備しなければならない
会社を設立する場合は「資本金」も必要です。資本金には、自己資金や第三者からの出資など、返済義務のない資金を充てるのが原則です。金融機関からの借り入れなどを資本金とすることは、基本的に認められません。
2006年(平成18年)の会社法改正により、資本金1円以上で会社を設立できるようになったため、実際には資本金がなくても会社の設立自体は可能です(最低資本金の規定がある業種を除く)。
とはいえ、資本金は会社が事業を営んでいくための元手となるお金です。あまりに少ないと会社の信用にもかかわり、融資を受けにくくなったり取引先が限られてしまったりするおそれがあります。長期的に事業を継続・拡大していくのであれば、ある程度の資本金は準備すべきでしょう。
適正な資本金の額はビジネスモデルにもよりますが、初期費用に3〜6カ月程度の運転資金を加えた金額がひとつの目安です。
初期投資にかかるお金(初期費用)
開業にあたっては事業に必要な物品の購入費用や設備投資費用、店舗やオフィスを構える場合は内外装費や保証金(敷金)、前払賃料などの初期費用がかかります。
自宅開業などでほとんどかからないケースから、数千万円〜1億円以上かかるケースまで、初期費用は大きな差がつく部分です。
運転資金として準備するお金
黒字が見込めるまでの赤字を補てんできる程度の運転資金は、準備しておきましょう。事業を行うには、家賃や水道光熱費、商品の仕入れ代金、従業員の人件費などの経費がかかります。売上が経費を上回れば利益が出ますが、開業当初は赤字となるケースも少なくありません。事業が軌道に乗る前に資金が足りなくなれば、せっかく立ち上げても継続できなくなってしまいます。
自身の当面の生活に必要なお金
収入がなくても半年から1年程度は生活できるお金を、事業資金とは別に確保しておきましょう。起業後の収入は事業の利益によって大きく左右され、不安定になりがちです。手元資金をすべて起業に充ててしまうと、赤字になったときに生活できなくなるおそれがあります。
事業の内容にもよりますが、安定した収入を得られる仕事を続けながら、副業(複業)として開業するのもひとつの方法です。
【事業業種別】起業する際に必要な費用の目安

起業に必要な費用は、その業種によっても大きく違います。
下表は業種ごとに起業に必要な費用の目安を示したものです。実際にかかる費用は具体的な事業内容や規模によって変わりますが、金額のイメージを掴むための参考にしてください。
業種 | 起業に必要な費用の目安 | 業種 |
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歯科医院 | 2,000万円〜1億8,000万円 | 歯科医院 |
医院・クリニック | 1,000万円〜1億5,000万円 | 医院・クリニック |
美容室 | 500万円〜3,000万円 | 美容室 |
居酒屋 | 600万円〜2,500万円 | 居酒屋 |
カフェ | 100万円〜1,500万円 | カフェ |
学習塾 | 100万円〜1,000万円 | 学習塾 |
小売店 | 50万円〜500万円 | 小売店 |
士業事務所 | 50万円〜500万円 | 士業事務所 |
飲食店や美容院、クリニックなどは内外装費や設備投資などにお金がかかり、起業に必要な費用もかさみがちです。退去したテナントの内装や設備機器などをそのまま利用できる「居抜き物件」を借りたり、中古やリースなどを利用したりといった工夫で、費用は大きく変わります。
士業事務所やネット販売事業、プログラマー・デザイナー・ライターなど、自宅でも開業できる業種・業態なら、ほとんどお金をかけずに起業することも可能です。
500万円未満での起業(開業)が最も多い
日本政策金融公庫が実施した「2020年度新規開業実態調査」によると、500万円未満で開業する人が43.7%と最も多くなっています。次に多いのが500万円以上1,000万円未満の27.3%で、約7割の人が起業資金1,000万円未満で開業しています。
起業資金(開業費用)の平均値は989万円、中央値は560万円です。いずれも1991年(平成3年)の調査開始以来最低となっており、年々減少しています。要因としては、初期投資や運転資金があまりかからないインターネットを利用した起業の増加などが考えられます。
知っておきたい6つの資金調達方法

起業に必要な資金の調達方法は、主に次の6つです。
それぞれの資金調達方法について、より詳しくみていきましょう。
(1)自己資金
起業資金のベースとなるのは「自己資金」です。手元にある資金だけで起業できれば、資金調達の必要はありません。資金を借り入れた場合の金利負担や返済義務、出資を募った場合の利益分配や経営への介入といった心配も不要です。
しかし、自己資金だけですべての起業資金をまかなえる人は多くありません。日本政策金融公庫が実施した「2020年度新規開業実態調査」によると、開業時の資金調達額の平均は1,194万円です。そのうち自己資金の平均は266万円で、平均調達額の占める割合は22.2%となっています。
では、自己資金はいくら準備すればいいのでしょうか。個別の状況によるため一概にはいえませんが、起業資金全体の2〜3割程度がひとつの目安になります。金融機関等から融資を受けるにしても、自己資金は多いほうが有利です。
(2)国や自治体からの補助金・助成金
国や自治体ではさまざまな起業(創業)支援事業を行なっており、条件を満たせば補助金や助成金をもらえる可能性があります。
補助金や助成金は「もらえるお金」であり、利用しない手はありません。ただし、申請には手間がかかり、審査に通らなければなりません。また、支払った費用の一部が後払いで支給される仕組みなので、まずは自分でお金を準備しなければなりません。
最初から補助金・助成金を当てにするのではなく、他の資金調達方法と並行して申請をしておき、もらえればラッキーというくらいの気持ちで臨みましょう。国や自治体が実施している補助金や助成金の情報は、下記サイトから検索できます。
補助金・助成金・融資の検索(中小企業基盤整備機構・J-Net21)
(3)親族・知人等からの借り入れ
金融機関からの借り入れのような審査はなく、条件も自由に決められるため、利用しやすい点がメリットです。
一方で、お金が絡めば親族や知人でもトラブルに発展するリスクがあります。事業が失敗して返済できなくなれば、親族や知人との関係まで悪化しかねません。選択肢のひとつではありますが安易に頼らず、慎重な判断が必要です。
(4)投資家等からの出資
資金を提供してもらい、代わりに利益の配当を受けたり経営に参加する権利を与えたりする方法です。借り入れとは異なり、提供された資金を返済する必要はありません。
将来性や成長性のある事業であれば、投資家やベンチャーキャピタルなどから多額の出資を得て、事業を一気に拡大することも可能です。
ただし、出資者は会社の経営に対して影響力を持つようになるため、意見が対立してトラブルに発展するリスクには注意が必要です。
(5)民間金融機関からの融資
資金調達で最も一般的に利用される方法です。親族・知人からの借り入れのように人間関係でトラブルが生じたり、出資者から経営に介入を受けたりする心配がありません。ただし融資には審査があります。開業当初からある程度の売上・利益が見込める事業であれば、信用保証協会の保証などを利用して融資を受けられる可能性があります。
西日本シティ銀行のビジネスローン
ベンチャーやスタートアップのように、開発先行型で創業から当面の間は赤字が続くビジネスモデルでは、金融機関から融資を受けるのは難しいケースもあります。将来性があり、成長期待の高いビジネスモデルであれば、ベンチャーキャピタルなどからの融資・出資がおすすめです。国や自治体が実施しているこのほかの創業融資制度の情報は、下記サイトから検索できます。
補助金・助成金・融資の検索(中小企業基盤整備機構・J-Net21)
(6)国からの創業融資
国が行う創業融資は起業支援が目的であり、これから起業しようという人も融資を受けやすいのが特徴です。
代表的な創業融資制度としては、政府系金融機関である日本政策金融公庫が取り扱う「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」、「新創業融資制度」などがあります。
日本政策金融公庫では、技術やノウハウなどに新規性があり、地域経済の活性化につながる事業を支援する「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」など、上記以外にもさまざまな創業融資を実施しています。これから起業しようとする人にとって強い味方といえるでしょう。
よろず支援拠点などを活用するのも一手です。地域の他の支援機関等とも連携しながら、中小企業・小規模事業者が抱える売上拡大や経営改善等に関する様々な経営相談に対応するワンストップで相談に乗ってくれます。
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自分に合った資金調達をしよう

起業を成功させるには、自分に合った資金調達方法の選択が欠かせません。それぞれの方法のメリット・デメリットをまとめましたので、比較検討に活用ください。
資金調達方法 | メリット | デメリット |
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自己資金 | ・自由に使える ・金利負担や返済義務がない | ・資金力に限界がある ・準備に時間がかかる |
国や自治体からの補助金・助成金 | ・返済義務がない | ・申請手続きに手間がかかる ・要件が厳しい ・後払いのため自己資金の準備が必要 ・すぐに受け取れない |
親族・知人等からの借り入れ | ・審査が不要 ・借入条件を自由に決められる | ・金利負担や返済義務がある ・人間関係が悪化するリスクがある |
投資家等からの出資 | ・返済義務がない ・多額の資金調達も可能 | ・利益を分配しなければならない ・経営に介入されるおそれがある |
民間金融機関からの融資 | ・人間関係のトラブルや経営への介入などの心配がない | ・金利負担や返済義務がある ・担保や保証人が必要 |
国や自治体からの創業融資 | ・融資までの機関が短い | ・金利負担や返済義務がある |
まとめ
起業にかかる費用は業種や業態、事業内容、規模によって大きく異なります。自己資金だけでは資金が不足する場合には、自分に合った方法を選んで調達しなければなりません。
西日本シティ銀行の「NCB創業応援サロン」では、資金調達に欠かせない創業計画書の作成から融資の組み立てまで、起業(創業)資金の調達に関するさまざまな相談を承っています。これから起業を考えている方は、ぜひ一度相談ください。
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