企業版ふるさと納税とは、企業が地方公共団体に寄附を行うための制度です。税負担の軽減に加えて企業価値の向上も期待できるため、新たなビジネスチャンスを獲得できるかもしれません。今回は、企業版ふるさと納税の制度概要や税制の仕組み、活用するメリットを解説します。
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企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)とは
企業版ふるさと納税の正式名称は「地方創生応援税制」です。企業が国が認定した地方創生プロジェクトに寄附を行った場合に、法人関係税から税額控除を受けられます。
まずは、企業版ふるさと納税の制度概要や通常のふるさと納税との違いについて見ていきましょう。
制度の概要
企業版ふるさと納税は、2016年(平成28年)度に創設されました。企業に地方公共団体への寄附を働きかけ、地方創生を推進することが目的です。寄附金は、国が認定した地方公共団体の地方創生関連事業に活用されます。
寄附を行った企業は最大9割の税の軽減効果を受けられ、社会貢献や企業PRといったメリットも期待できます。
寄附の実績
内閣官房・内閣府によれば、2021年(令和3年)度の寄附実績は、前年比約2.1倍の約225億7,000万円です。件数は約2.2倍の4,922件となっています。2020年(令和2年)度税制改正で税額控除割合が引き上げられたため、金額・件数ともに大きく増加しています。
寄附受入額が多い地方公共団体は、1位が静岡県裾野市の17億4,410万円です。2位は群馬県太田市の10億3,660万円、3位は徳島県神山町の9億9,900万円となっています。福岡県福岡市は5位で8億2,570万円、件数は93件です。
寄附金の使い道
2021年(令和3年)度の実績では、寄附金の使い道は「しごと創生」が120億9,710万円で全体の5割以上を占めています。次に多いのが「まちづくり」の74億8,250万円で、全体の約3割です。
その他に、「地方への人の流れ」「働き方改革」がテーマの事業に対しても寄附が行われています。
通常のふるさと納税との違い
企業版ふるさと納税と個人が行う通常のふるさと納税の違いは、返礼品の有無にあります。
個人版ふるさと納税も、地方公共団体に寄附を行える仕組みです。原則として、自己負担2,000円を除いた全額が所得税や住民税から控除されます。寄附額に応じて、地域の特産品などの返礼品を受け取れるのが魅力です。
一方、企業版ふるさと納税は、寄附先の地方公共団体から返礼品を受け取れません。また、税額控除の割合や自己負担額も異なります。
企業版ふるさと納税の税制の仕組み
企業版ふるさと納税は、企業の税負担が軽減されるのが魅力です。ここでは、企業版ふるさと納税の税制の仕組みを説明します。
寄附額の最大9割の法人関係税が軽減される
企業版ふるさと納税では、最大で寄附額の約9割の税負担が軽減されます。内訳は、損金算入による軽減効果が約3割、企業版ふるさと納税による税額控除が最大6割となっています。実質的な企業負担を約1割まで圧縮することが可能です。
例えば、1,000万円を寄附すると、最大で約900万円の法人関係税(法人住民税、法人税、法人事業税)が軽減されます。
従来の税額控除割合は約3割でしたが、2020年(令和2年)度税制改正で約6割に引き上げられました。適用期限は2025年3月31日(令和6年度)です。
法人住民税
法人住民税は、寄附額の4割の税額控除を受けられます。法人税割額の20%が上限です。
法人住民税とは、法人の事務所が所在する都道府県および市町村がそれぞれ課税する税金です。道府県民税と市町村民税があり、「均等割」と「法人税割」の2つがあります。
法人住民税の内訳は、以下のとおりです。
法人税
法人税は、寄附額の1割を限度に税額控除を受けられます。法人税額の5%が上限です。法人住民税で4割に達しない場合は、その残額について税額控除を受けられますが、寄附額の1割が限度となります。
法人税とは、法人の企業活動で得られる所得に対して課税される国税です。会計上と税務上の収益・費用を調整して算出した課税所得に、一定の税率をかけて税額を計算します。
法人事業税
法人事業税は、寄附額の2割の税額控除を受けられます。法人事業税額の20%が上限です。
法人事業税とは、法人が行う事業そのものに課される税金です。法人の事務所等が所在する都道府県が課税します。
資本金1億円超の普通法人は、所得に応じた「所得割」、付加価値額に応じた「付加価値割」、資本金等の額に応じた「資本割」の3つが課されます。付加価値額は、従業員への給与・賞与や利子、賃借料、単年度損益の合計額です。
資本金1億円以下の普通法人は、所得割のみ課されます。
企業版ふるさと納税を活用するメリット
企業版ふるさと納税で地方公共団体に寄附をすると、企業にはどんな効果が期待できるのでしょうか。ここでは、企業版ふるさと納税を活用するメリットを5つ紹介します。
税の軽減効果が期待できる
企業版ふるさと納税は、税の軽減効果が高いのが魅力です。通常でも寄附額の約3割が損金算入となりますが、企業版ふるさと納税は約6割の税額控除が追加されます。
社会貢献や企業PRを目的に地方公共団体へ寄附を行う場合は、企業版ふるさと納税を利用するほうが有利といえるでしょう。ただし、先に寄附金を支払い、後から税額控除を受けることになるため、資金繰りに注意が必要です。
社会貢献ができる
企業版ふるさと納税では、地方公共団体の地方創生プロジェクトが寄附の対象となります。地域の仕事づくりやまちづくり、少子化対策など対象事業の内容はさまざまです。
例えば、環境保全や脱炭素などの取り組みを支援すれば、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成に寄与できます。企業版ふるさと納税を活用することによって、自社だけでは難しい社会貢献も可能となるでしょう。
企業のPRになる
企業版ふるさと納税は、企業のPRになるのもメリットです。寄附先の地方公共団体のホームページや広報誌、関連事業の施設などに企業名が掲載されることがあります。
そのため、取引先や金融機関からの信用力向上、企業の認知度アップにつながる可能性があります。
地方公共団体とのパートナーシップの構築
企業版ふるさと納税を活用することで、地方公共団体との新たなパートナーシップを構築できる可能性もあります。
寄附をきっかけに地方公共団体の担当者とのコミュニケーションが増えると、自社の事業について相談しやすくなるでしょう。企業の社員と地方公共団体の職員が定期的にミーティングを実施し、実証実験やアプリ開発が実現した事例もあります。
事業展開を検討している地域があれば、企業版ふるさと納税を活用して地方公共団体との関係構築に取り組むのも選択肢です。
人材育成の機会として活用できる
企業版ふるさと納税には「人材派遣型」という制度があり、人材育成の機会として活用できます。企業が人件費を含む事業費について寄附を行い、寄附活用事業に従事する地方公共団体の職員として従業員を派遣する仕組みです。
税制上の優遇措置を受けながら、地方公共団体の事業に参加して行政の現場を体験できます。任期終了後は、事業参画で得た経験やノウハウを自社のビジネスに活かすことも可能でしょう。
企業版ふるさと納税を活用する際の注意点
企業版ふるさと納税を活用する際は、以下3つのルールを守る必要があります。仕組みを理解せずに寄附を行うと、税額控除を受けられない可能性があるため要注意です。
1回あたり10万円以上の寄附が対象
企業版ふるさと納税では、1回あたり10万円以上の寄附が制度対象です。企業が寄附をしやすいように、金額の下限は低めに設定されています。寄附額が1回10万円以下の場合、税額控除は受けられません。
寄附に対する経済的な見返りは禁止
企業版ふるさと納税では、寄附に対する経済的な見返りは禁止されています。経済的な見返りの具体例は以下のとおりです。
寄附の見返りに補助金を受け取る
寄附を条件に事業の入札に参加する
寄附に応じて商品やサービスの提供を受ける
ただし、地方公共団体のホームページや広報誌に寄附を行った企業名を掲載することは、経済的な見返りに該当しません。公正なプロセスを経ていれば、寄附先の地方公共団体と何らかの契約を締結することも可能です。
制度対象外の地方公共団体がある
企業版ふるさと納税では、制度対象外となる地方公共団体も存在します。次の地方公共団体へ寄附を行っても、税額控除は適用されないので注意しましょう。
本社が所在する地方公共団体
企業の本社が所在する地方公共団体への寄附は、企業版ふるさと納税の対象外です。本社とは、地方税法における「主たる事務所または事業所」を意味します。
例えば、福岡県福岡市に本社がある企業が、福岡市に寄附を行った場合は制度対象外となります。税の軽減措置などの特典も受けられません。
地方交付税の不交付団体
地方交付税の不交付団体への寄附も、企業版ふるさと納税の対象にはなりません。具体的には、次の地方公共団体が対象外となります。
企業版ふるさと納税を検討する際は、寄附先の候補となる地方公共団体が制度対象に含まれるかを確認しておきましょう。
企業版ふるさと納税の手続きの流れ
寄附を募集している地方公共団体は、内閣府の「企業版ふるさと納税ポータルサイト」から探せます。地域だけでなく、寄附事業分野別にプロジェクトの一覧を確認することも可能です。キーワードを入力して、自社にあった寄附先を検索する方法もあります。
寄附先の候補を選定して社内や地方公共団体との調整が終わった際は、以下の流れで手続きを進めましょう。
①寄附の申出書を提出する
地方公共団体に、企業版ふるさと納税の寄附申出書を提出します。寄附額や対象事業、連絡先などの必要事項を記入しましょう。
寄附申出書は地方公共団体から取り寄せるか、ホームページからダウンロードして入手できます。
②寄附金の払い込みを行う
寄附申出書を提出したら、地方公共団体から納入通知書が送付されます。
納入通知書とは、寄附を行う企業に対して寄附額や納期限などを通知する書類です。納入通知書を利用して、寄附金の払い込みを行いましょう。
寄附金の納付方法は地方公共団体によって異なるため、事前に確認しておくとスムーズに手続きを進められます。
③受領証を受け取る
寄附金の払い込みを行った後は、地方公共団体から受領証が届きます。
受領証とは、地方公共団体の長が、企業版ふるさと納税の対象となる寄附を行ったことを証明する書類です。対象事業の名称や寄附年月日、寄附額などの情報が記載されています。
受領証は税額控除を受ける際に必要になるため、紛失しないよう大切に保管しておきましょう。
④確定申告で税額控除を受ける
企業版ふるさと納税で寄附を行った事業年度の確定申告において、税額控除の適用を受けます。法人税や法人住民税、法人事業税の申告書に受領証を添付し、寄附を行ったことを証明しなくてはなりません。
企業版ふるさと納税では、寄附額の最大9割の法人関係税が軽減されます。ただし、実際にいくら税負担が軽減されるかは、企業の状況によって変わってきます。税額控除の手続きや税負担の軽減効果については、税理士や税務署に確認しましょう。
まとめ
企業版ふるさと納税で地方公共団体に寄附を行うと、法人関係税の負担が軽減されます。企業PRや地域とのパートナーシップ構築、人材育成といった効果が期待できるのもメリットです。社会貢献を通じて企業価値の向上を目指すなら、企業版ふるさと納税を活用してみてはいかがでしょうか。
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