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デジタル給与とは?基本的な仕組みと従業員へのメリット、デメリットを解説

By 大西勝士

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2023.05.01

2023年(令和5年)4月に「デジタル給与」が解禁されました。今後は「〇〇Pay」などのデジタルマネーでの給与の受け取りが可能になります。給与のデジタル払いは、従業員にとってどんなメリットがあるのでしょうか。今回は、デジタル給与の基本的な仕組みとメリット・デメリット、注意点を解説します。

デジタル給与とは

デジタル給与とは、「〇〇Pay」などのスマホ決済サービスを取り扱う資金移動業者の口座で給与を受け取れる制度です。なぜ、給与のデジタル払いが可能になったのでしょうか。まずは、デジタル給与の概要や導入される理由について確認していきましょう。

2023年4月から給与のデジタル払いが解禁

2023年(令和5年)4月1日に改正労働基準法が施行され、給与のデジタル払いが解禁されました。

労働基準法では、給与は現金払いが原則です。例外として、労働者が同意した場合は、銀行口座や証券総合口座への給与支払いが認められています。今回の労働基準法改正により、新たに資金移動業者の口座への給与支払いも可能となりました。

勤務先がデジタル給与を導入すれば、今後はデジタルマネーで給与を受け取り、そのままスマホ決済に利用できるようになります。

デジタル給与が導入される背景

デジタル給与が導入される背景には、キャッシュレス決済の普及があります。

経済産業省が算出・公表したデータによると、2022年(令和4年)のキャッシュレス比率は36.0%です。決済額は初めて100兆円を超えました。2010年(平成22年)以降、キャッシュレス比率と決済額は一貫して増加しています。

現金を使わずにキャッシュレス決済を利用する人が増えたことで、給与のデジタル払いのニーズが高まっています。

出典:経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました

外国人材の受入れも目的の1つ

デジタル給与の導入は、外国人材の受入れ・共生に対応する狙いもあります。

外国人が日本で生活する際は、家賃や公共料金の支払いなど、さまざまな場面で口座の利用が必要です。給与のデジタル払いを可能にすることで、外国人の生活環境の改善につながり、外国人材を受け入れやすくなる効果が期待できます。

デジタル給与の仕組み

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企業が給与のデジタル払いを導入するには、一定の要件を満たさなくてはなりません。ここでは、デジタル給与の基本的な仕組みについて説明します。

労働者の同意が必要

企業がデジタル給与を導入するには、労働者の同意が必要です。労使協定を締結したうえでデジタル給与に関する留意事項を労働者に説明し、個別に同意を得なくてはなりません。企業がデジタル給与を導入しても労働者が希望しない場合は、これまでと同じように銀行口座で給与を受け取れます。

給与の一部をデジタル払いで受け取ることも可能

企業がデジタル給与を導入した場合、給与の一部をデジタル払いで受け取れます。例えば、「給与30万円のうち、5万円を資金移動業者の口座、残り25万円を銀行口座で受け取る」といった具合です。

指定資金移動業者の口座は「預金のためではなく、支払や送金に用いるためのもの」という位置づけです。労働者に趣旨を説明したうえで、デジタル払いの受取金額を適切に設定する必要があります。

指定資金移動業者が1日あたりの払出上限額を設定している場合は、受取金額をその上限額以下にしなくてはなりません。

口座の上限額は100万円以下

指定資金移動業者の口座の上限額は「100万円以下」に設定されています。口座残高が上限額を超えた場合、あらかじめ労働者が登録した銀行口座へ自動的に出金される仕組みです。その際は、出金手数料が労働者負担となる可能性があります。

出金先の口座を登録する必要があるため、デジタル給与が導入されても銀行口座が不要になるわけではありません。

口座残高の現金化が可能

デジタル払いで受け取った給与は、ATMや銀行口座へ出金して1円単位で現金化できます。少なくとも毎月1回は、労働者は手数料負担なしで指定資金移動業者の口座から払い出しが可能です。

払出方法や手数料は指定資金移動業者によって異なるため、事前に確認しておく必要があります。

口座残高は少なくとも10年は有効

指定資金移動業者の口座残高は、最後の入出金日から少なくとも10年は有効であることが要件となっています。口座残高に変動があった日から10年以内であれば、申し出などによって払い戻しが可能です。

不正取引や業者の破綻には一定の保証がある

指定資金移動業者の口座から不正出金された場合、労働者に過失がなければ、損失額は全額補償されます。過失がある場合の補償については個別対応です。

不正出金の事実を一定期間内に資金移動業者へ通知することが、補償の要件となっているケースもあります。その場合は、損失発生日から30日以上の通知期間を確保することとされています。

万が一指定資金移動業者が破綻した場合は、保証機関が口座残高の全額を弁済する仕組みです。具体的な弁済方法は資金移動業者ごとに異なるため、必ず確認しておきましょう。

資金決済法上の資金保全の仕組み

指定資金移動業者が破綻した際の資金保全については、資金決済法でも定められています。

資金移動業者は、各営業日ごとに要履行保証額を把握して供託所に供託し、資金を保全しなくてはなりません。資金移動業者が破綻した場合は、財務局の還付手続きによって供託金から弁済を受けられます。

しかし、何らかの事情で十分な供託金がない場合は、債務の全額が弁済されない可能性があります。また、十分な供託金があったとしても、還付には半年程度の期間が必要です。

銀行預金は預金保険制度で保護される

一方、銀行預金は「預金保護制度」の対象です。万が一銀行が破綻しても、1金融機関1預金者につき元本1,000万円までとその利息は保護されます。状況によって異なりますが、通常は破綻から数日以内に払い戻しが行われます。

預金保険制度の対象金融機関であれば、どの銀行でも補償内容は変わりません。デジタルマネーに比べると、銀行預金は補償内容が手厚いといえるでしょう。

デジタル給与のメリット

企業がデジタル給与を導入することには、次のようなメリットが考えられます。

振込手数料の削減が期待できる

従業員の銀行口座に給与を支払うときは、振込手数料がかかります。2023年(令和5年)4月現在、資金移動業者の口座への送金手数料は明確になっていません。もし送金手数料が安価に設定されれば、給与をデジタル払いにすることで振込手数料の削減が期待できるでしょう。

ただし、従業員数や振込先の金融機関などによって、振込手数料は変わってきます。コスト削減を目的にデジタル給与を導入する場合は、手数料の軽減効果を確認することが大切です。

>>西日本シティ銀行NCBビジネスダイレクト利用時の振込手数料一覧

企業イメージ向上や人材確保につながる

デジタル給与の導入は、企業イメージの向上や人材確保につながる可能性があります。

企業体制が整っていないと、新しい制度をすぐに導入するのは難しいものです。給与のデジタル払いに対応することで、積極性や柔軟性のある経営姿勢をアピールできます。

また、外国人労働者への給与支払いが容易になるため、海外の優秀な人材を確保しやすくなる効果も期待できるでしょう。

従業員のキャッシュレス決済の利便性が向上する

給与のデジタル払いに対応すると、従業員のキャッシュレス決済の利便性が向上します。資金移動業者の口座に直接給与が支払われるため、銀行口座から資金移動する手間が省けます。日常的にスマホ決済を利用している従業員にとっては、大きなメリットといえるでしょう。

デジタル給与のデメリット

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一方で、デジタル給与の導入には次のようなデメリットもあります。

給与支払いの業務負担が増える

デジタル給与を導入すると、給与支払いの業務負担が増える恐れがあります。給与をデジタル払いで受け取るのは、同意した労働者に限られます。そのため、デジタル払いの希望者を個別に管理しなくてはなりません。

また、労働者ごとにデジタル払いの受取金額は異なります。1人の労働者につき、銀行口座への振込と資金移動業者の口座への送金が必要になるので、業務量の増加は避けられないでしょう。

デジタル給与の管理コストが上昇する

デジタル給与を導入すると、従業員が提出した同意書や送金先の口座情報、デジタル払いの送金額などの管理が新たに発生します。そのため、現在のシステムでは、給与のデジタル払いに対応できないかもしれません。

デジタル給与に対応した新たな給与管理システムを導入すれば、まとまったコストがかかるでしょう。

デジタル払いで振込手数料を削減できたとしても、それを上回る管理コストが発生し、トータルでは支出が増える恐れがあります。

不正出金のリスクがある

デジタル給与は、不正出金のリスクがあるのもデメリットです。労働者がスマホ決済のアカウントを適切に管理していないと、口座の乗っ取りなどにより、不正に出金される可能性があります。労働者に過失があった場合は個別対応となるため、損失が補償されるかは不透明です。

銀行預金は「預金者保護法」で補償される

銀行預金からの不正出金については(通称)「預金者保護法」により、本人に過失がない場合は原則として金融機関が全額を補償します。

預金者に過失がある場合、補償額は被害額の75%です。例えば、キャッシュカードの暗証番号を生年月日にして身分証と一緒に持ち歩いた場合などは過失があると判断されます。重大な過失の場合は、補償を受けられないこともあります。

デジタル給与の注意点

デジタル給与を導入する際は、以下の点に注意が必要です。

労働者への強制は労働基準法違反となる

企業がデジタル給与を導入しても、労働者が希望しない場合は、これまで通り銀行口座で給与の受け取りが可能です。労働者本人が同意していないにもかかわらず、給与のデジタル払いを強制すると労働基準法違反となり、罰則の対象となり得ます。

現金化できないポイントや仮想通貨は認められない

デジタル給与は、厚生労働省の審査に通過した指定資金移動業者の口座に限られます。現金化できないポイントや、仮想通貨での給与支払いは認められません。すべてのデジタルマネーが、給与のデジタル払いに対応するわけではないため注意が必要です。

デジタル給与開始までの今後の流れ

デジタル給与は解禁されましたが、すぐに利用できるわけではありません。ここでは、給与のデジタル払い開始までの今後の流れを確認していきましょう。

①2023年4月1日から資金移動業者の指定申請の受付開始

改正労働基準法の施行に伴い、2023年(令和5年)4月1日から資金移動業者の指定申請の受付が開始されました。指定資金移動業者となるには、所定の要件を満たさなくてはなりません。指定申請書の内容をもとに、厚生労働省が審査を行います。審査結果が出るまで数ヶ月かかる見込みです。

②厚生労働省が指定資金移動業者を決定

所定の審査を経て、厚生労働省が指定資金移動業者を決定します。指定業者名の一覧は、厚生労働省のホームページで公表される予定です。その際は、指定資金移動業者に関する以下の情報が掲載されます。

  • 資金移動業者の名称

  • 資金移動サービスの名称

  • 資金保全の仕組みに関する情報

  • 労働者からの同意取得時に記載が必要な情報

③労使協定を締結

指定資金移動業者が決定したら、労働者と労使協定を締結しましょう。労使協定では、「給与デジタル払いの対象となる労働者の範囲」「取扱指定資金移動業者の範囲」などを決定します。

④企業から労働者にデジタル給与の詳細・留意事項を説明

労使協定を締結後、企業はデジタル給与を希望する個々の労働者に対して詳細や留意事項を説明します。留意事項は、「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」の裏面に記載されています。同意書は、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。

⑤従業員は企業へ同意書を提出

給与のデジタル払いを希望する従業員は、企業へ同意書を提出します。同意書に記載する項目は以下のとおりです。

  • デジタル払いの希望受取額

  • 指定資金移動業者の口座番号(アカウントID)

  • 支払開始希望時期

  • 代替口座情報(銀行口座または証券総合口座)

⑥給与のデジタル払い開始

従業員が同意書に記載した支払開始希望時期以降に、給与のデジタル払いが開始されます。デジタル給与に対応するために、企業は必要に応じて給与管理システムの見直しなどが必要です。

まとめ

デジタル給与が解禁されましたが、実際に利用できるのは指定資金移動業者の決定後になります。給与のデジタル払いに対応するには、労使協定の締結や労働者への説明、給与管理システムの整備などに取り組まなくてはなりません。メリット・デメリットを理解したうえで、デジタル給与の導入を検討しましょう。

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