ドラッカーのマネジメント理論は今もなお、多くのビジネスパーソンから支持されています。この記事ではドラッカーの名言を交えながら、現代の企業ビジネスにも役立つマネジメント手法や考え方、マネージャーに求められる能力について解説します。
ドラッカーの略歴
「マネジメントといえばドラッカー理論」と考えるビジネスパーソンは多いでしょう。なぜ1900年代に確立されたマネジメント理論が、現代でも支持されているのでしょうか。
まずは、ドラッカーの経歴やマネジメント理論が支持されている理由について紹介します。
ドラッカーとは
ドラッカーは、マネジメント体系の確立と普及に大きな影響を与えた人物です。「マネジメントの父」「知の巨人」と称されています。
ピーター・ファーディナント・ドラッカーは1909年(明治42年)、オーストリア・ウィーンで生まれました。イギリスやアメリカに拠点を移す中で、当時台頭していた大企業の経営について研究を深めていきます。ドラッカーの考え方や手法は、世界中の経営者が今もなお受け継ぎ、実践するほどです。
ドラッカーのマネジメント手法が注目される理由
ドラッカーの専門領域は経営学、というイメージが浸透しています。しかし実際には、政治や歴史、哲学、心理、教育、美術など多岐に渡るものでした。
ドラッカーが生涯を通じて追い求めたテーマは「人間の自由・平等」です。企業経営や組織のあり方だけでなく、人が幸せに暮らすための自己実現や成長について言及した数々の書籍・記録もあります。その手法・考え方は現代に通ずるものも多く、現在も支持されています。
ドラッカーのマネジメントとは
一般的に、マネジメントとは「経営、管理」という意味を持つ言葉です。特にビジネスシーンにおいては、組織運営に必要なヒト・モノ・カネを管理することを指します。
そしてドラッカーは、マネジメントという言葉の意味についてより深く、多角的な考察を行なっています。自身の著書では、次の名言を残しました。
マネジメントという言葉は難しい言葉である。完全なアメリカ英語であって、イギリス英語を含めいかなる外国語にも翻訳できない。それは機能であって、かつ人である。社会的な地位であって、一つの体系、研究分野である。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「ドラッカー名著集13 マネジメント[上]ーー課題、責任、実践」
ドラッカーのマネジメント理論
ドラッカーが掲げるマネジメントは、企業をはじめとするあらゆる組織が「社会の機関」であることが前提にあります。著書の中で、彼はこう語っています。
マネジメントは、それらの組織の機関である。マネジメント自体には機能はない。それだけでは存在もしえない。組織から離れたマネジメントは、マネジメントでさえない。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「ドラッカー名著集13 マネジメント[上]ーー課題、責任、実践」
社会や個人の目的実現やニーズ達成のために組織が存在し、その一機関としてマネジメントが存在するとドラッカーは指摘しています。そのうえでマネジメントの本質を知るために、まずはマネジメントの役割を定義する必要があるというのです。
マネジメントの役割
組織の本質的な目的である社会への貢献を実現するために、マネジメントには3つの重要な役割があります。
(1)自らの組織に特有の目的とミッションを果たす。 (2)仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる。 (3)自らが社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「ドラッカー名著集13 マネジメント[上]ーー課題、責任、実践」
ビジネスにおいては、経済的成果をあげることが企業の目的です。その目的を果たすためには、組織を構成する「人」の生産性が鍵となります。生産性を高める戦略を立案・実行する重責を担うのが、マネジメントです。
その結果得られた成果が社会に与える影響を適切に処理し、社会貢献につながるようコントロールすることも重要な役割だとドラッカーは指摘します。
マネジメントとリーダーシップの違い
マネジメントは組織が成果をあげるための「機関」です。リーダーシップは、組織が正常に機能するための統制をとる「仕事」とされています。
言い換えると、マネジメントは組織の成果に関する責任を担うことです。一方、リーダーシップはビジネスパーソンが後天的に習得する仕事の能力を意味します。
立場は関係なくビジネスパーソンに求められるのが、リーダーシップです。さらに組織全体の管理や成果を担うのがマネジメントです。
ドラッカー理論におけるマネージャーとは
一般的に、企業におけるマネージャーとは、組織が掲げる目標を達成するためにメンバーを管理するポジションを指します。チームの方向性を決め、進捗状況を監督しながらゴールを目指す存在です。 組織のマネジメントを担うマネージャーについて、ドラッカーは次のように定義しています。
マネージャーに求められる2つの役割
ドラッカーのマネジメント理論によると、マネージャーには2つの役割があるとされています。ドラッカーが著書に記した名言をもとに解説します。
(1)成果をあげられる人・組織を創造する立場
第一の役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
企業の資源である人材・モノ(技術や設備、情報など)・資金を活用し、投じた資源以上の成果を上げることが求められます。特に競合他社との差を考えるとき、投入資源はどちらも類似しているケースが多いです。その中でどれだけ成果を多くあげられるかが、勝負どころといえます。マネージャーは、その舵取りを担う存在です。
(2)目先の仕事だけでなく、中長期的な視点で捉えるバランサー
第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させていくことである。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
急いで仕上げなければならない仕事については、どんなマネージャーであっても対応可能でしょう。より一歩進んだマネジメントを目指すなら、将来を視野に入れた仕事も並行させることです。たとえば人材育成や新規ビジネスの構想、自身のスキルアップに必要な勉強などが挙げられます。
緊急度の高い仕事に隠れてしまいがちですが、将来のために取り組むべき仕事も重要です。両者のバランスを取るのも、マネージャーの役割といえます。
マネージャーに必要な5つの仕事
上述した2つの役割は、マネージャーという役割の大きな柱です。それを踏まえて、ドラッカーは著書や講演において、マネージャーに必要な仕事は5つあると述べています。
目標を設定すること
組織すること
動機付け・コミュニケーションを図ること
評価測定をすること
人材を開発すること
これらの項目は「ドラッカーのマネジメントで重要視される能力」にも通ずるものです。とりわけ、目標の設定についてドラッカーは非常に注目していました。
マネジメントでは、成果が重視されます。成果を出すためには、適切な目標設定が必要です。しっかりした目標は、組織や人、事業戦略の柱となり、企業の社会貢献度を判断する材料となり得えます。目標設定は、ドラッカーによるマネジメントの考え方の重要なポイントです。
マネジメント層が避けるべきポイント
逆に、マネージャーにふさわしくない考え方やマネジメント方法も知っておく必要があります。マネージャーの職務設計について、ドラッカーは以下の項目を避けるべきとしています。
組織の成果をあげるという責任を担うマネージャーは、上記のような条件下では機能しないというのがドラッカーの考え方です。
限られた職務のみ担当すること、本来すべき仕事とは異なる仕事を担うこと、成功の可能性が低い業務を手がけることを避ける必要性を説いています。マネージャー自身が適切な職務設計をするだけでなく、マネージャーの上司も上記項目を認識することが大切です。
「真摯さ」があるか
マネージャーとして避けたい態度について、ドラッカーは指摘しています。
マネージャーは、人という特殊な資源とともに仕事をする。人は、ともに働く者に特別の資質を要求する。(中略)根本的な資質が必要である。真摯さである。最近は、愛想よくすること、人を助けること、人づきあいをよくすることが、マネージャーの資質として重視されている。そのようなことで十分なはずがない。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメントーー基本と原則」
「真摯さ」という単語は、さまざまな考え方が可能です。たとえば、ドラッカーの原本では「真摯さ」の箇所はIntegrityと書かれています。「誠実、高潔」という意味ですが、あえて「真摯さ」と訳しているのです。これは、その人が持って生まれた誠実さを原動力として取り組む姿勢というニュアンスを出したかったためとも考えられます。
真摯さがないマネジメント手法は部下もすぐ見抜く、とも著書には書かれています。
ドラッカーが考える企業の2つの機能
マネジメントについて考えるのに不可欠なのは「企業」についてしっかり捉えることです。ドラッカーのマネジメント手法では特に、企業の定義を深く理解しておく必要があります。彼の名言とともに見ていきましょう。
企業とは
企業とは何かを知るには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客の創造である。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
このドラッカーの名言からもわかるように、企業は本来、顧客の創造のために存在しています。社会における人々の欲求を有効需要に変え、モノ・サービスを提供する市場と顧客を創造できたとき、企業は企業として存在しうるのです。
つまり「顧客を基盤とする組織が企業である」というのがドラッカーの考え方です。
2つの企業家的機能
ドラッカーは、企業にはマーケティングとイノベーションという2つの機能があると語っています。 一般的にマーケティングとは、商品・サービスを販売するための仕組みづくりのことです。そしてイノベーションとは日本語で「技術革新」と訳され、これまでにない商品・サービスを新たに生み出すことを指します。
企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、ただ二つだけの企業的な機能をもつ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。他のものはすべてコストである。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
マーケティング
真のマーケティングは、(中略)顧客からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足はこれである」という。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
ドラッカーが定義するマーケティングとは企業の成果を指し、それは顧客側から見た企業そのものであるといえます。従って、マネジメント戦略を成功させるためには、企業のあらゆる分野においてマーケティングに関心と責任を持ち、浸透させていくことが不可欠です。
イノベーション
しかし、マーケティングだけでは企業としての成功はない。静的な経済には、企業は存在しえない。企業人さえ存在しない。(中略)企業の第二の企業家的な機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出すことである。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント【エッセンシャル版】ーー基本と原則」
マーケティングに加えて、イノベーション戦略も重要です。企業が常によりよいものであるためには、よりよいサービスや満足を供給しつづける必要があります。イノベーションはその目的を目指すサービス・戦略の改良であると同時に、財とサービスの創造であるとドラッカーは定義しました。
ドラッカーのマネジメントで重要視される能力
最後に、彼が考えるマネジメントで重要な能力についてまとめます。
主に5つの能力が重要であると、ドラッカーは考えました。
目標設定能力
ドラッカーは目標設定について、多彩な視点を持つことの大切さを述べています。企業が目指すべき「組織の成果」をあげるために、以下の目標軸を持つことを提案しています。
短期的な目標
長期的な目標
無形の目標
部下の目標(仕事内容、働きぶり)
社会への責任に関する目標
自分が企業内のどのチームに所属していても、企業全体や部門の成果目標に沿ったチーム目標を掲げることが重要です。大きな目標から、個人の目標へ落とし込むことも求められます。また、自分たちの成果を目指すだけでなく、社会的な責任についての目標を持つことが望ましいとしています。
組織化能力
マネージャーは、自らの資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない、これこそ真の全体を創造する唯一の方法である。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント 基本と原則」
組織化、つまり企業の資源である「人」を一つにまとめていく能力も欠かせません。自分のチームにはどんな強みを持つメンバーがいて、その強みを引き出すマネジメントが理想です。同時に、個々の弱みを消すことも考える必要があります。
コミュニケーション能力
成果を上げること、多彩な人材を組織化することに不可欠なのが、コミュニケーション能力です。他者からの意見を受け入れる能力と、マネジメント側の考えを相手に伝える能力も高いレベルを要求されます。会話する相手の期待や欲求を踏まえながら、自分の真意を伝えるコミュニケーションスキルが必要です。
評価測定能力
人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある。いかなる組織であっても、メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である。 |
引用元 | P.F.ドラッカー「マネジメント 基本と原則」
企業は人材あっての組織です。マネジメント側の考えとは別に、働く従業員それぞれの想いがあることも忘れてはいけません。評価測定においては、面談などを通じて個々の意見をしっかり把握しましょう。
特に、定量評価できない面にも意識を向けることがポイントです。それぞれの頑張りが評価されることで、チームメンバーのモチベーションが上がります。それがチームや企業全体の向上につながり、成果につながるのです。
問題解決能力
業務が多忙になればなるほど、気がついた課題から速やかに着手しようとする傾向が強くなるものです。マネジメントにおいて押さえておきたいのは、時間軸に沿って課題を振り分け、取り組む意識です。
ドラッカーは、すぐに解決すべき課題から着手することを提案しています。そして将来的な課題については適切なタイミングで対応するようにします。喫緊の課題から解消していけば今すべき仕事が整理され、より冷静な判断が可能です。
まとめ
スピーディに進化しつづける社会においてもなお、ドラッカーのマネジメント理論は多くの経営者にとってよい指標となっています。マネジメントは重い責任が伴う仕事です。マネージャーとしての「正解」を自ら導かねばならないとき、ドラッカーの考え方や手法はそっと背中を押してくれることでしょう。