人材不足を補う施策として注目されている外国人雇用は、企業にとってさまざまなメリットがあります。日本人雇用とは異なる手続きや申請が必要ですが、ポイントを理解すれば十分対応可能です。この記事では外国人雇用について、近年の動向や手続き方法、採用時の注意点を解説します。
外国人雇用の動向とメリット
日本で働くことを法的に許可されている外国人を従業員として受け入れる企業は、増加傾向にあります。外国人雇用の利点を活かすことで、事業のさらなる発展を目指すためです。
外国人雇用の動向
世界情勢の影響を受けながらも、外国人労働者の人数、外国人雇用を実施する企業数は増加が続き、過去最高を更新しています。
外国人労働者数は横ばい
厚生労働省の調査によると、2021年(令和3年)10月末時点での外国人労働者数は1,727,221人です。これは、届出が義務化された2007年(平成19年)以降で過去最高となっています。
ただ、前年比では0.2%の増加率で、2020年(令和2年)の増加率4.0%と比較して横ばい傾向です。新型コロナウイルス感染症の世界的流行による渡航制限の影響を、大きく受けることとなりました。
出典:厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)」
外国人雇用を行う事業所は増加傾向
外国人を雇用している事業所数も、過去最高を更新しました。2020年(令和2年)と比べて17,837か所増加し、計285,080か所となっています。
増加率は対前年比で6.7%で、2020年(令和2年)の増加率10.2%よりも落ち着いています。新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受けながらも、増加傾向は継続しているといえるでしょう。
出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)」
外国人雇用のメリット
なぜ近年、外国人雇用へのニーズが高まっているのでしょうか。この背景には、若手労働者の不足や、事業のグローバル化を推進する動きがあります。
若手の労働力を確保しやすい
日本は少子高齢化が進んでおり、若手従業員の確保は企業の大きなテーマの一つです。従業員数が不足している部門での外国人雇用は、業務の円滑化につながります。
世界各国の中でも、日本は特に言語の習得が難しい国として挙げられます。日本での就職を希望する外国人労働者は、勤労意欲と優秀さを兼ね備えた人が多いのも特徴です。モチベーション高く仕事に臨む彼らの姿勢は、他の若手従業員にも良い刺激となります。
インバウンド対策を推進できる
母国の言葉や文化を理解できる人が窓口となることで、日本に来ている外国人の視点を踏まえて対応できます。インバウンドにてこ入れしている接客・サービス業において、外国人雇用は大きな効果があるのです。
海外からの利用者誘致においても、外国人労働者は即戦力になります。WebサイトやSNSを通じた情報発信や友人知人へのクチコミなどを、翻訳・通訳を介さず実施できるのも魅力です。
海外事業の立案・展開にプラスとなる
事業の海外展開を視野に入れている企業にとって、外国人雇用はその第一歩を踏み出すチャンスになり得ます。海外の文化や言語を知ることができ、強みとして活かせるからです。
たとえば、進出対象の国・地域出身の人材を自社で受け入れ、情報収集やマーケティング、企画立案の業務を任せます。知識や経験がゼロの日本人よりも効率よく、対象国のニーズに十分合う事業展開が期待できるでしょう。
外国人雇用に必要な手続きと就労ビザ
外国人を採用する場合、日本人を雇用するときとは異なる手続きが必要になります。外国人雇用の流れと就労ビザについて見ていきましょう。
外国人雇用の基本的な流れ
就労ビザを取得できそうか確認したうえで、面接に進む人を決定します。内定者の経歴や採用地等に応じたビザ申請を行い、ビザ取得後に雇用という流れです。
就労ビザ取得の見込み調査
採用面接の応募者について、まずは就労ビザを取得できる見込みがあるか調査します。どんなに高い能力がある人でも、就労ビザの取得が難しければ日本企業で働けません。応募者の学歴や職歴を、面接前に必ず確認しましょう。
なお、外国人の就労ビザは、職種等により複数の種類があります。オフィスワークに従事する外国人を雇用する場合は「技術・人文知識・国際業務ビザ」が必要です。
面接・内定
就労ビザの取得見込みがある応募者と面接し、採用者を選出します。面接時には在留カードを必ず確認しましょう。在留資格の種類や期間満了日、資格外活動許可の有無は特に確認すべき項目です。不法滞在者や就労不可の記載がある人は、採用できません。
内定者が決まったら、雇用契約書を作成します。記載内容は、基本的に日本人を雇用する際と同様です。雇用契約書は就労ビザ申請で必要になります。ビザの申請前に必ず作成しましょう。
就労ビザ申請
雇用契約書を取り交わしたのち、就労ビザを申請します。会社の所在地を、管轄している入国管理局で手続きしましょう。入国管理局による審査後、ビザ発給の可否が決まります。
採用スタイルにより、申請から就労ビザ取得までの流れが若干異なります。「技術・人文知識・国際業務ビザ」の場合は次の3つです。
1つ目は、日本留学中の外国人を新卒採用するケースです。
留学ビザから「技術・人文知識・国際業務ビザ」への変更手続きを行う(在留資格変更許可申請)
2つ目は、海外にいる外国人へ内定を出し、日本で雇用するケースになります。
雇用元の企業が「在留資格認定証明書」を日本の入国管理局へ申請する
「在留資格認定証明書」の発行後、外国にいる内定者へ送付する
内定者本人が現地の日本大使館で就労ビザの申請手続きを行う
3つ目は、日本国内の別会社で働く外国人を中途採用するケースです。
新たな雇用元の企業が「就労資格証明書交付申請」を日本の入国管理局で行う
入国管理局により就労可能と判断されたら正式に雇用できる
就労ビザ審査・取得後、雇用
就労ビザの審査・取得後、雇用となります。就労ビザの審査期間は通常、1〜3ヶ月程度です。審査内容は採用予定者に関することだけでなく、企業の財務状況や外国人労働者の給与水準なども含まれます。
雇用後は、ハローワークへ届け出ることが法律で義務付けられています。また、就労ビザに基づき、担当する業務内容に制限があるので注意しましょう。在留期間の更新を怠らないよう、管理の徹底も求められます。
就労ビザ調査・申請のコツ
外国人雇用を実施するにあたり、就労ビザの申請・審査・取得手続きが大きな山場となります。採用フローにおいては、以下のポイントを押さえておきましょう。
候補者の学歴・職歴を知る
外国人雇用の面接前に確認すべき主な事項は、以下の2つです。
就労ビザの取得可否には、主に学歴・職歴が関わっています。採用予定者の専攻科目や職務内容、実務経験の年数などが審査されるため、あらかじめこれらの情報を収集します。卒業証明書や成績証明書、過去の勤務先での在職証明書などで調査可能です。
例外となるケースもある
次のケースに該当する場合「技術・人文知識・国際業務ビザ」の取得が不要になることがあります。
在留資格が「日本人の配偶者等」
在留資格が「永住者」「永住者の配偶者等」
在留資格が「定住者」
内定者が対象になるかは、在留カードの記載事項で確認できます。
外国人雇用時のポイント
まずは、自社で外国人を雇用する目的・理由を明確にしましょう。求める人材の国籍や経歴、言語能力など、具体的な募集要項を決めやすくなります。
そのうえで次に挙げる項目に取り組んで、外国人雇用の成功につなげましょう。
求人の出し方
求人対象者への訴求力を高めるためのポイントを紹介します。
求人媒体の選出
外国人の求人をかけられる媒体は、多岐にわたります。外国人雇用時の主な求人媒体は、以下のとおりです。
求人媒体ごとに特色があります。どのツールが自社の求人プロジェクトに向いているか、検討しましょう。
たとえば読者数の多い紙面で人材募集することで、応募者数を集められます。インターネット求人は世界中に情報を拡散でき、アップデートしやすいです。学校の就職課は、外国人留学生の新卒採用に向いています。また、人材紹介会社や公的機関を利用すれば、求人に長けた担当者と相談しながら募集をかけられるメリットを得られます。
求人広告の多言語記載
「日本語能力の高い人材が欲しいから」と、求人広告に日本語のみ記載するのは少しもったいないです。日本語での会話は難なくできる反面、文章を読むのは苦手という外国人もいます。また、多言語での求人募集は、自社が外国人雇用を積極的に行なっているというアピールにもつながるのです。
仕事内容のミスマッチを防ぐという観点からも、募集要項は多言語対応することをおすすめします。
労働環境・社内制度の整備
「正社員として働きたい」という外国人からの応募が集まっても、働きやすい環境・制度が整っていなければ人材は定着しません。外国人雇用を検討する際は、以下の注意点を踏まえて社内整備に取り組みましょう。
労務管理
外国人雇用は、正社員や契約社員など形態がさまざまです。どの立場の労働者に対しても、日本の労働法に基づいた労務管理が求められます。
特に年次休暇や労働時間、税金制度など、日本ではなじみのある制度でも外国人には不慣れなことも多く存在します。また、文化・価値観の違いや宗教への配慮も不可欠です。
やさしい日本語や母国語による資料を用意する、相談に応じる時間を持つ等、より丁寧な労務管理を実施しましょう。
出典:厚生労働省「外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?」
人事施策
社内評価や昇格・昇給は仕事の良いモチベーションとなります。ただ、外国人の従業員はステップアップしにくい、給与水準が変わらない等の課題を抱えるケースもあるようです。
外国人雇用を実施する場合、人事制度の整備と周知にも取り組みましょう。キャリア形成や給与は、外国人従業員が仕事において重視するポイントです。能力に応じて公平に評価する組織づくりが欠かせません。
出典:厚生労働省「外国人の雇用」
外国人雇用の注意点
日本人従業員を雇い入れるときとは異なる注意点があります。採用予定者へ確認すべき事項をおさえ、企業として適切な対応をとりましょう。
採用予定者への確認
最も大切なのは、在留資格の内容を把握することです。そして、業務に必要な日本語能力を見るときのポイントもあります。
在留カードを確認する
外国人を雇用するときは必ず在留カードの提示を受けなければなりません。在留資格の内容を丁寧に確認しましょう。
外国人雇用は、入管法(出入国管理及び難民認定法)によりルールが定められています。入管法で規定された在留資格を持つ外国人か、内定を出す前にチェックします。
日本語力を多角的に見る
ビジネスで用いる日本語にも対応できる外国人従業員は、引く手数あまたです。ただ、現時点では日本語力に少し難があっても、入社後にスキルアップできる可能性もあります。
日本語の文章を読んで理解できても、会話はスローペースになる人もいます。その逆もあるでしょう。「雇用後、業務を通じて成長できそうか」という視点を持つことも大切です。日本語能力試験の結果や応募書類・面接だけでなく、多角的に判断しましょう。
企業側の対応
求人に応募した側の目線に立った採用活動を意識しましょう。特に、以下の注意点を念頭におく必要があります。
ミスマッチを防ぐ
仕事内容や職場の雰囲気について、募集要項など文章だけでは伝わりにくいこともあります。面接は応募者と直接会話できる良い機会です。会社の概要や任せたい仕事、福利厚生や評価制度などをわかりやすく伝えましょう。
英語や母国語で書かれた資料を用意できると、相互理解が深まります。また、実際に働いている外国人従業員と交流できる場を持つのもおすすめです。
発言や態度に気をつける
自分はそのつもりでなくても、外国人から見ると批判的・差別的に感じる発言や態度をしてしまうことがあります。特に面接の場面では企業が人材を選考するだけでなく、人材が会社を選ぶ場でもあることを忘れないようにしましょう。
まとめ
外国人雇用は、さらなる成長を目指す企業にとって重要な取り組みになりつつあります。今回挙げたポイント・注意点を踏まえれば、決してハードルの高いことではありません。
なお、外国人の受け入れをはじめ、人材に関する相談はNCBリサーチ&コンサルティングでも可能です。ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。