これからの企業は、従業員エンゲージメントを重視する必要があります。今回は、従業員エンゲージメントの意味や重要性を説明します。エンゲージメント向上の5つの施策も紹介するので、自社での取り組みを考えるうえで参考にしてみてください。
従業員エンゲージメントの意味や従来の概念との違い
「従業員エンゲージメント」とは、人事分野で最近よく使われるようになった用語です。まずは、従業員エンゲージメントの基本的な意味と、「従業員満足度」や「モチベーション」との違いについて解説します。
従業員エンゲージメントとは
英語の「エンゲージメント(engagement)」は、約束、誓約、契約などの意味の単語です。ここから派生して、組織と個人の間の信頼関係にもエンゲージメントという言葉が使われます。「従業員エンゲージメント」とは、従業員の会社に対する愛着心、自社に貢献しようとする意欲の意味です。
会社と従業員の相互の信頼関係
従業員エンゲージメントの高い企業とは、会社と従業員が深い信頼関係で結びついている企業のことです。会社が一方的に従業員を支配する関係ではありません。会社と従業員の双方がお互いに貢献し合える状態が、エンゲージメントのある状態です。
従業員エンゲージメントの3つの要素
従業員エンゲージメントの意味を理解するためには、次の3つの要素から考えるとよいでしょう。
理解度…会社の進む方向をどれだけ理解しているか
共感度…会社の理念やビジョンにどれだけ共感しているか
行動意欲…会社のために行動しようという意欲を持っているか
従業員エンゲージメントが高い企業とは、従業員が上記3つの要素を持っている企業のことです。企業側は、それぞれの要素を高める施策を講じる必要があります。
従業員満足度との違い
従業員満足度とは、従業員が会社に満足している度合いについての概念です。あくまで会社の居心地のよさを測るもので、会社に貢献したい気持ちを測るものではありません。
従業員エンゲージメントは、会社を信頼し、会社のためにできることをしたいという従業員の前向きな気持ちです。自発的に会社に貢献したいと思っているかが重要になります。
従業員エンゲージメントは生産性の向上に直結する
従業員満足度に影響を与えるのは、主に労働条件や福利厚生です。労働条件をよくして福利厚生を充実させれば、従業員満足度は上がります。しかし、会社の生産性は必ずしも向上しないでしょう。居心地がよいだけでは、会社に貢献しようという意欲につながらないからです。
会社の生産性を高めるには、会社と従業員のエンゲージメントを強化する必要があります。従業員エンゲージメントが高まれば、従業員満足度も高くなるでしょう。
モチベーションとの違い
モチベーションには、人が行動する際の動機づけや目的意識、意欲といった意味があります。仕事に関するモチベーションは、「やる気」と言い換えてもよいでしょう。
仕事に対してやる気のある従業員が、会社に対して貢献したい気持ちを持っているとは限りません。「自分のやりたい仕事ができるなら、この会社でなくてもよい」と考える従業員もいるでしょう。
会社のために貢献したい気持ちがあるか
従業員エンゲージメントの構成要素の1つである「行動意欲」は、仕事に対するやる気よりももっと広くとらえます。「この会社のために行動したい」という前向きな気持ちです。
モチベーションに加えて会社に対する貢献心がある場合には、従業員エンゲージメントが高いといえます。
従業員エンゲージメントが重視される背景
現代の企業をとりまく動向は変化しています。今、従業員エンゲージメントが重要視されている理由について考えてみましょう。
人材の流動化
かつては1つの会社で定年まで勤めるのが一般的で、転職する人はそれほど多くはありませんでした。最近は、やりたいことやライフスタイルの変化により転職を考える人が増えています。
企業としては、優秀な人材を会社に引き留めておく工夫をしなければなりません。従業員エンゲージメントを高めれば、人材の流出を防ぐ効果があります。
少子高齢化による人材不足
今は超高齢化社会となり、生産年齢人口が減っています。企業が持続的に活動していくためには、若く優秀な人材を確保することが必須です。
人材不足に備えるために、従業員エンゲージメントの向上は欠かせません。従業員との信頼関係が強固になれば、少子高齢化の影響も最小限に抑えられます。
リモートワークの浸透
コロナ禍の影響で、企業ではリモートワーク、テレワークの導入が進みました。従業員が出社する回数が減り、上司や同僚とのコミュニケーションの機会も減少しています。
このような状況下では、従業員は一人だけで仕事をしている気持ちになってしまいがちです。会社に貢献している意識も生まれにくいでしょう。従業員が会社から離れないよう、エンゲージメント向上のための積極的な取り組みが求められます。
従業員エンゲージメントを向上させるメリット
従業員エンゲージメントを意識した取り組みは自社の内部に限らず、取引先や顧客にもよい影響を与えます。従業員エンゲージメント向上の具体的なメリットをみてみましょう。
従業員のモチベーションアップ
従業員エンゲージメントを高める取り組みをすれば、従業員の会社に対する理解度や共感度が上がります。会社のために自発的に貢献しようとする従業員が増えるでしょう。
会社のことを信頼できれば、従業員のモチベーションアップは高まります。自発的に新しい提案をしようとする従業員が増え、会社の雰囲気もよくなります。
離職率の低下
従業員エンゲージメントが低い会社では、従業員の離職率が高くなります。従業員が定着しない状態が続くと採用や教育のコストが無駄にかかるため、会社にとって損失が大きくなってしまうでしょう。
エンゲージメントを意識した取り組みをすれば離職率が低下し、人材コスト削減につながります。離職率の低い企業は学生からも注目されるため、優秀な人材が集まりやすいでしょう。
会社の業績向上
従業員の意欲は、会社の業績に影響を与えます。やる気のない従業員が多ければ、会社の生産性は低下してしまうのです。
従業員一人一人が前向きに業務に取り組めば生産性が上がり、利益向上につながります。従業員エンゲージメントの高さは売上にも反映され、会社の業績も上がるでしょう。
顧客満足度が上がる
従業員エンゲージメントが高くなると、従業員一人一人がこだわりを持って職務に取り組むようになります。新しい発想が生まれやすくなり、高品質の製品やサービスを顧客に提供できるでしょう。顧客満足度が上がれば、より企業が成長できます。
社内の雰囲気が明るくなる
それぞれの従業員が自らの業務に前向きに取り組むようになると、社内のコミュニケーションが活発になります。従業員同士の距離感が縮まり、会社の雰囲気が明るくなるでしょう。誰もが働きたい会社になれば、よい人材を集めるのにも効果的です。
従業員エンゲージメントを向上させる5つの施策
会社と従業員の間のエンゲージメントを強化するために、自社でとれる施策を考えてみましょう。ここからは、従業員エンゲージメント向上の基本的な施策を5つ紹介します。
企業理念やビジョンの周知
従業員に会社の理念やビジョンを伝え、従業員が深く理解できるような工夫が重要です。会社が顧客や社会へ提供したい価値は何かを、わかりやすく説明しなければなりません。
口頭で伝えるだけでは従業員は理解を深めにくいので、文字で確認できる手段を用意しましょう。企業理念やビジョンの周知には、社内報を活用する方法や、冊子を制作して配布する方法があります。
人事評価制度の見直し
会社のために貢献しても適正に評価されない職場では、働く意欲も低下するでしょう。それぞれの従業員の貢献に応じて、公平に評価できる仕組みを設けるのが効果的です。
インセンティブ制度を導入すると、従業員のモチベーションが高まります。企業理念の理解と成果に至るまでのプロセスも評価基準に加えると、なおよいでしょう。
ワーク・ライフ・バランスへの取り組み
残業や休日出勤が多い場合、従業員はその会社に貢献したいとは思わないでしょう。働き方も多様化している時代です。従業員に長く働いてもらうには、ワーク・ライフ・バランスに配慮した取り組みも重要になってきます。
従業員エンゲージメント向上のためには、休暇制度の充実や勤務時間の見直しが欠かせません。フレックスタイム制の導入や、ノー残業デーの実施などを検討しましょう。
福利厚生制度の充実化
会社を信頼して長く働いてもらうには、福利厚生制度の充実も必要です。福利厚生とは、従業員とその家族に対する報酬・サービスで、給与や賞与以外のことです。
各種手当や社員旅行、レクリエーションなどの充実化を検討しましょう。
社内コミュニケーションの活発化
同じ会社で一緒に働いている人のことをよく知らないようでは、自社への愛着も芽生えません。そのため、従業員同士のコミュニケーションが活発になるような工夫も必要です。同じ部署だけでなく、他の部署とも交流が持てるような制度を作りましょう。
従業員エンゲージメント向上の取り組み事例
従業員エンゲージメント向上のためには、上記のような施策が効果的です。ここからは、施策を進めるにあたってやっておきたいことや施策の具体的事例を紹介するので、参考にしてみてください。
エンゲージサーベイの実施
従業員エンゲージメント向上の施策を行うにあたって、まずは自社の従業員エンゲージメントの現状を把握した方がよいでしょう。
従業員エンゲージメントを測るために活用できるのが、エンゲージサーベイ(エンゲージメントサーベイ)です。定期的にサーベイを実施し、施策に反映させましょう。
エンゲージサーベイとは
会社と従業員のエンゲージメント測定に使われる診断ツールです。主にインターネットを利用して、従業員にアンケート調査を行います。
エンゲージサーベイを実施すれば、会社と従業員の関係が数値化されます。定期的にサーベイを続ければ、従業員の意欲の変化などもわかるでしょう。エンゲージサーベイにより、売上や利益率などの一般的な指標には表れにくい会社の課題を発見できます。
冊子を活用してビジョンの浸透
企業理念やビジョンの周知のためには、冊子を作るのがおすすめです。
近年は多くの企業でブランドブックと呼ばれる冊子を活用しています。ブランドブックでは、企業がどこを目指しているのかをわかりやすく伝えられます。
ブランドブックを発行
ブランドブックとは、ブランドの目指す方向性・ビジョンを社内で共有するための冊子です。ブランディング活用の一環として、社内向けに発行されます。
ブランドブックを作れば、従業員はブランドの価値やコンセプトを理解しやすくなります。ブランドブックを作っておけば、採用活動を行う際にも役立つでしょう。
ピアボーナスの導入
人事評価制度の見直しの一環として、ピアボーナスを導入する方法があります。ピアボーナスは会社から従業員へのボーナスではなく、従業員同士が贈り合うボーナスです。新しい人事評価制度として、近年注目を浴びています。
ピアボーナスの仕組み
社内でピアボーナスを導入する場合には、専用のツールを使うのが一般的です。従業員は、アプリを使ってボーナスを送受信します。貯まったボーナスは会社の用意する商品と交換したり、インセンティブとして金銭で支払いを受けたりできます。
承認・賞賛されることで意欲的に仕事ができる
ピアボーナスを導入すれば、従業員は自分のやった仕事が認められたことを実感できます。もっと褒められたいと思う気持ちが芽生え、意欲的に仕事に取り組めるでしょう。一人一人が働きがいを感じられる職場づくりが可能になります。
完全フレックスタイム制の導入
従業員のワーク・ライフ・バランスに取り組むため、完全フレックスタイム制を導入する企業も増えています。自由度の高い勤務が可能になれば、会社のために貢献しようという意欲も向上します。
完全フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、出勤時間や退勤時間を労働者が自由に決められる制度です。ただし、必ず出勤していなければならないコアタイムが設けられることが多くなっています。
完全フレックスタイム制では、コアタイムが設けられていません。各月の総労働時間は決まっていますが、従業員の都合でいつでも出退勤できる自由な制度です。
まとめ
企業が持続可能な経営を行うには、従業員との信頼関係も重要です。従業員エンゲージメントを向上させる取り組みをすれば従業員の定着率が上がり、会社の業績も向上します。5つの施策を参考に、各企業で対応できる取り組みを考えてみましょう。