お役立ち

物流の「2024年問題」について掘り下げ。業界が抱える課題と一般消費者への影響とは?

By もろふし ゆうこ |
公開日 2023.06.23

物流の2024年問題とは、トラックドライバーの時間外労働時間に上限が設けられることで生じる課題を指します。働き方改革法案の「時間外労働時間の上限規制」の猶予期間が終了する2024年4月以降、物流業界はもちろん、荷主企業や一般消費者にも影響が出るでしょう。今回は、2024年問題の中身を詳しく解説します。

物流の2024年問題とは

誰もが働きやすい社会を実現するために、国をあげた取り組みが進められています。その指針となっている働き方改革により、物流・運送業界における働き方にも変化が起こりそうです。

まずは、今話題を集めている「物流の2024年問題」について、概要と背景を解説します。

「物流の2024年問題」概要

本来、物流の2024年問題とは、トラックドライバーの長時間労働を改善するための前向きな取り組みです。しかし、その思いとはうらはらに、現実的な課題も浮かび上がっています。そのため、「問題」という言葉が使われているのです。

物流の2024年問題について、具体的な中身を見ていきましょう。

「物流の2024年問題」の中身

2024年4月1日以降、働き方改革関連法の「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されます。トラックドライバーの労働時間に新たな上限が設けられ、違反した場合は罰則が科せられます。

時間外労働時間とは

法定労働時間を超えて働いた時間です。1日8時間、週40時間を超過して働いた分が時間外労働となります。

時間外労働には上限が設定されています。また、時間外労働分の給与は割増率が適用され、基本給に上乗せされる仕組みです。

物流の2024年問題が提起されたきっかけ

物流の2024年問題は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が土台にあります。

働き方改革関連法

働き方改革関連法とは、2018年(平成30年)に成立した法律です。労働者がより働きやすい環境の実現を目指すべく制定されました。これにより、長時間労働の是正や待遇の見直し等が行われています。

各業界や産業、企業規模の特性を考慮し、働き方改革関連法の各制度・規制には一部猶予期間が設けられています。段階を経て順次、施行されている状況です。物流の2024年問題も、猶予期間の終了に伴い提起されている課題です。

厚生労働省「働き方改革特設サイト」

時間外労働時間の上限規制とは

働き方改革関連法における「時間外労働時間の上限規制」とは、どのような内容なのでしょうか。

「時間外労働時間の上限規制」概要

働き方改革関連法には「時間外労働の上限規制」があります。2019年(令和元年)に大企業で、2020年には中小企業で施行されました。

時間外労働時間の上限は月45時間、年間360時間となっています。

労使間で合意した場合は月100時間未満、年間720時間です。

2024年から物流に影響が出る理由

トラックドライバーが従事する自動車運転業務は、上限制限に5年の猶予期間が設けられていました。その期限は2024年3月末まで、つまり2024年4月1日からは上限制限の対象になります。これが「物流の2024年問題」の土台です。

猶予期間中、トラック運送など自動車運転業務における時間外労働時間は、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」を基に各事業者が管理しています。

猶予期間の終了による変化

これまでトラックドライバーには時間外労働時間の上限がありませんでしたが、2024年4月1日からは働き方改革関連法の「時間外労働時間の上限規制」に従うこととなります。ドライバーは、ほかの職種とは異なる規制を設けています。具体的には、時間外労働時間が年間960時間に変更されるというものです。通常の上限よりも増えているのは、運送中の交通状況や荷物の積み下ろしの時間を考慮しているためです。

また、時間外労働時の給与割増率も変わります。従来は25%プラスでした。改正後は月60時間超の給与に対し、50%プラスに引き上げられます。

物流事業者が抱える課題

運送や物流事業者は、2024年問題によりどんな影響を受けるのでしょうか。

売り上げの減少

労働が企業の売り上げに直結している労働集約型産業である運送・物流業界において、時間外労働時間の上限制限は売り上げ減少を招きかねません。企業における労働量が減るため、必然的に売り上げも減ってしまうという考え方です。

事業者の固定費は従来のまま、もしくは上昇傾向であるにも関わらず仕事の量が減れば、売り上げ減少による利益減少の圧力は更に大きくなります。

長時間労働・低賃金

トラック運転手は、走行距離に応じた運行手当を受け取っています。時間外労働時間の上限規制がスタートすれば、稼働時間が従来より短縮され、走行距離も短くなるでしょう。

そもそも、トラックドライバーなど自動車運転業に携わる人の賃金は、他の業界に比べて低い傾向にあると言われています。実際、国土交通省の調査では以下の報告がなされています。

年間賃金は、労働時間が長いにも関わらず、全職業平均と比較して約1〜3割低い。

引用元: 国土交通省「自動車運転業務の現状

2024年問題でさらに影響を受けるとなれば、従事者にとっても大きな打撃となります。

人材確保が難しい

有効求人倍率は全職業平均の約2倍。人手不足が年々深刻化。

引用元:国土交通省「自動車運転業務の現状

元々、配送に携わるドライバーの人材確保が難しい状況にありました。2024年問題を視野に入れると、より一層厳しくなると予測できます。

時間外労働に上限が設けられれば、ドライバーの稼働時間が減ります。そして、配送できる荷物の量も減少します。今までと同じ荷物量を同じスケジュールで配送しようとすると、ドライバーの確保が必須です。

現状でも人材確保が難しい中で、さらに人を増やすのは非常に大変なことです。

ドライバーの高齢化

平均年齢は、全職業平均と比較して約3〜17歳高い。

引用元:国土交通省「自動車運転業務の現状

配送・物流の産業におけるドライバーの平均年齢は高めになっており、高齢化が課題となっています。業務量の限界や退職者の増加、将来の担い手教育など、人材確保や育成の難しさをより深刻なものにしているのです。

荷主・個人消費者への影響

2024年問題は、物流業界以外にも波及すると見られます。荷主や一般消費者にとっても、決して他人事ではないのです。

荷主が受ける影響

商品の配送を委託する側である荷主にとっても、2024年問題は非常に大きなテーマです。

運賃の値上げ

物流企業が2024年問題による売り上げ・利益減少をカバーする手段として、運賃の値上げが挙げられます。運賃が上がれば、荷主の負担は増加します。

取引の縮小

配送運賃の値上げは荷主にとって、取引縮小につながる恐れがあります。従来の物流オペレーションでは運用できなくなり、さまざまな変更を余儀なくされることを視野に入れておくべきでしょう。

一般消費者への影響

さらに一般消費者においても、2024年問題の影響を少なからず受けるものと見られます。

即日配達が困難に

ネットショッピングをする際に便利な配送サービスである「即日配達」が利用できなくなるのではと指摘されています。ドライバーの稼働時間減少や、人材不足による影響です。

配送料の値上げ

この流れでいくと、荷物の配送料が値上げされてもおかしくありません。これまで送料無料だった商品も、配送料の負担を求められる可能性があります。インターネットで日常的に買い物をする人は、家計負担が増えることになります。

物流の2024年問題を見据えた、新たな物流システムへ

2024年問題がいよいよ現実味を帯びてきた中、物流の新たなシステム構築に取り組む企業が増えています。

デジタル化の推進

限られた労働時間の中で今までと同程度の業務量をこなすために、システムの見直しが有効です。デジタル化を進めることで、業務効率アップを目指せます。

トラック予約受付における荷待ち時間の短縮、車両管理のシステム化によるトラック稼働率向上などは、2024年問題の課題解決に役立ちます。

業務効率化は人材確保にも有効

物流業務のデジタル化は仕事の効率化につながるだけでなく、人材採用における訴求ポイントにもなります。

社内システムの整備により業務効率が上がれば、これまでよりも短い時間で売り上げを確保できるようになるためです。同業他社との差別化にもつながるでしょう。

リレー運送の本格導入

これまでひとりのトラックドライバーが担当していた配送業務を、複数で担う動きも出ています。いわゆる「リレー運送」です。

別の地点から来たトラック同士が中継地点で待ち合わせをし、互いの荷台を引き継ぎます。その後、それぞれの出発地へと引き返すのです。リレー形式にすることでトラックドライバーの日帰り勤務が可能になり、稼働時間の短縮につながります。まさに、時間外労働時間の上限規制にマッチした方法といえます。

ドライバーの働き方改革につながるか

リレー方式によりドライバーの拘束時間を短くできれば、働き方も大きく変わります。日帰り勤務により身体への負担が軽減され、プライベートの時間をより多く持つことが可能です。

また、従来の働き方は厳しいと感じていた人にもドライバー勤務の門戸が開かれるのではないかと、期待が高まっています。

ゆっくり配送

また、荷主の新サービスも注目を集めています。通称「ゆっくり配送」と呼ばれているものです。

ゆっくり配送は、海外のネットショップを中心に取り組みが始まっています。通常の配送予定日よりも予定を遅らせることで、商品購入者が特典を得られるサービスです。

荷主・配送業者・一般消費者の「三方よし」な仕組み

ゆっくり配送は荷主や配送業者、消費者それぞれに大きなメリットがある仕組みです。

荷主や配送業者が得られるメリットは、繁忙期の業務・コスト削減、供給能力の負担を軽減できることです。消費者には、割引クーポンなどの特典を得られる利点があります。

スピーディな配送システムは、利用者にとって非常に便利です。一方、「そこまで急いでいない」というユーザーもいます。ゆっくり配送は、この点に着目した効率的なシステムです。

まとめ

物流の2024年問題は、物流業界だけの問題に留まりません。今後、物流業務システムの見直しや配送サービスの変更、運賃改定などが進められ、各業界や一般消費者にも何らかの影響が出るでしょう。

ただ、2024年問題は、配送現場を担うトラックドライバーの労働環境を改善するための法規制が基になっています。働きやすさや業務効率のアップなど、業界におけるプラスの面にも期待したいところです。

>>「価値の連鎖」バリューチェーン、「供給の連鎖」サプライチェーンについて

Writer

おすすめの記事

対談記事【ビジネスのヒント】|接骨院から建設業へ。驚きの経歴と経緯
続きを読む >
お役立ち2025.10.23

対談記事【ビジネスのヒント】|接骨院から建設業へ。驚きの経歴と経緯

経営に関する悩みや課題を抱える事業経営者の皆さまにとって、銀行の営業担当者は心強いサポーターの一人です。そこで、リニュー編集部では、事業経営者と西日本シティ銀行の営業担当者にスポットをあててインタビュー。サポートのきっかけや、事業の成功までの道のりなどをざっくばらんにお話しいただきます。

【今月のZero-Ten Park】株式会社ストリ|心と体に美しさと健やかさを
続きを読む >
ニュース2025.09.30

【今月のZero-Ten Park】株式会社ストリ|心と体に美しさと健やかさを

福岡を中心に世界5カ国15拠点を展開するシェアオフィス&コワーキングスペース「Zero-Ten Park」。そこに入居している、今注目したい企業をピックアップ。今回は「株式会社ストリ」をご紹介します。

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」
続きを読む >
お役立ち2023.11.21

働き方改革に注力している企業ってどんなところ?|次世代ワークスタイル応援私募債「ミライへの路」

これから就職先を探している学生のみなさんにとって、どんな企業が自分にとって働きやすいのか、気になりますよね。そこで今回は、西日本シティ銀行が取り扱う次世代ワークスタイル応援私募債『ミライへの路*』を発行している企業のみなさんにご協力をいただき、その企業で実際に働いている若手の社員に直撃インタビュー。なぜ入社を決めたのか、実際に働いてみてどんな感じなのか、などをヒアリングしました。また、併せて、各企業の経営者にも、求める人材像や今後の展望などをお話しいただきました。取材に協力いただいた企業は、地元・福岡で働き方改革に注力している、優良企業ばかりです。ぜひ、就職希望先の候補の一つとして、働く先輩たちのリアルな声をご一読ください。

【ミライへの路に挑む企業】地球を守り働く人の成長を支える環境調査会社|株式会社ENJEC
続きを読む >
お役立ち2025.07.18

【ミライへの路に挑む企業】地球を守り働く人の成長を支える環境調査会社|株式会社ENJEC

多様な生き方や働き方が広がりつつある現代。企業にはこれからますます、さまざまな人が働きやすい環境を整えることが求められます。社員の働きやすさを叶える企業の取り組みとは?この連載では、実際に働き方改革を積極的に取り組む企業で働く人や経営者にインタビュー。今回は、九州を中心に、水質、大気、土壌といった環境にまつわる調査・分析の事業を手がける、福岡市の株式会社ENJEC(エンジェック)に取材しました。

質の高い人材紹介サービスで、企業も求職者も従業員も幸せに |株式会社GR8キャリア 小畑和貴さん
続きを読む >
インタビュー2025.06.11

質の高い人材紹介サービスで、企業も求職者も従業員も幸せに |株式会社GR8キャリア 小畑和貴さん

医療・福祉業界の人材紹介サービスをメインに事業展開する株式会社GR8(グレイト)キャリア。代表の小畑和貴さんは宮城県出身で福岡に移住し、住宅メーカーから人材紹介業界に転職したという異色のキャリアの持ち主です。創業から1年足らずでメンバーは20人ほどに増え、順調な滑り出しといえます。しかし、組織や利益の拡大は求めず、あくまでも「質の高いサービス提供」と「社員とその家族が笑顔で過ごせること」にこだわり続けたいという小畑さんに、その思いの根源や起業のストーリーを聞きました。

番組・動画制作から拠点の運営まで、幅広い事業を展開|株式会社move on.e 岩谷直生さん
続きを読む >
インタビュー2025.06.02

番組・動画制作から拠点の運営まで、幅広い事業を展開|株式会社move on.e 岩谷直生さん

20歳から放送局の番組制作に関わり、個人事業主を経て、41歳で番組と動画制作を主軸にした株式会社move on.eを設立した岩谷直生さん。長年のディレクター経験を生かして、マスメディアの番組やイベントを手掛ける一方で、子どもに向けた全く新しい事業にも意欲的にチャレンジしています。

【事業継続力強化計画認定制度】概要や認定のメリット、申請支援事業も紹介
続きを読む >
お役立ち2025.11.25

【事業継続力強化計画認定制度】概要や認定のメリット、申請支援事業も紹介

近年、地震や台風などの自然災害、感染症の流行など、企業経営を取り巻くリスクが多様化しています。 こうした中で注目されているのが、災害や緊急事態に備えて事業を継続できる体制を整える「事業継続力強化計画(BCP)」です。 この計画の認定を受けることで、補助金申請時の加点や税制優遇など、さまざまなメリットがあります。 そこでこの記事では、事業継続力強化計画認定制度の概要や認定メリットに加えて、計画策定・申請を支援する取り組みについても解説します。

【中小企業必見】最低賃金引上げに伴う負担軽減策とは?福岡県の支援策も紹介
続きを読む >
お役立ち2025.11.25

【中小企業必見】最低賃金引上げに伴う負担軽減策とは?福岡県の支援策も紹介

令和7年度の最低賃金引上げにより、全国的に人件費の負担が増加しています。特に中小企業や小規模事業者にとっては、賃上げへの対応が経営上の大きな課題となっています。 こうした状況を受け、国や自治体では、最低賃金の引上げに伴う事業者の負担を軽減するため、各種支援策を打ち出しています。 この記事では、最低賃金引上げに対応するための国の主な支援策に加え、福岡県独自の支援制度について解説します。