インタビュー

「面会アプリ」で介護職員の業務軽減と地域のつながりを生む|株式会社ttt

By 山本 佳世

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公開日 2022.03.02

業界・業種の垣根を越えたスタートアップ企業と地場企業の「価値共創」を目的とした、オープンイノベーション型のビジネスコンテスト「西日本FHビジネスコンテスト OPEN INNOVATION HUB」。2021年秋から第2回目のエントリーと選考が始まり、いよいよ2022年3月11日に最終選考会を迎えます。今回は最終選考に残った10社の皆さんに、応募したビジネスモデルやそのビジネスにかける想いを伺いました。

■提案者プロフィール
株式会社ttt 代表取締役社長 内田啓太さん

佐賀県出身。長崎国際大学在学中に起業し、塾や家庭教師、ベーカリーカフェの経営に携わる。その後、会計ソフトの開発・販売会社に入社し、社内ベンチャーとして介護事業の責任者に。ここでの経験を経て前身となる合同会社みなみかぜを設立し、宅老所やデイサービスを運営。2018年12月に株式会社tttに組織変更。現在、職員数250名、7施設(320床)を運営している。2023年には、職員数450名、12施設(600床)へ展開予定。

介護業界の課題を解決する「面会アプリ」

――まずは株式会社tttの事業内容について教えてください。

内田:企業理念"課題に感謝"と事業理念"すべての人にやさしくするために"を掲げ、『住宅型有料老人ホームたいよう』の運営及び周辺事業(デイサービス事業や訪問介護・訪問看護事業)を展開しています。当社が行うサービスの最大の特徴は、"すべての人にやさしい介護サービス"を提供すること。経済的な理由で介護施設を利用できない方や他の施設では受け入れが難しい方でも安価な料金で利用していただくことで、高い満足度を実現しています。

その一方で、職員にも"やさしさ"を提供していることも特徴です。給与は同エリアの相場よりも高く設定し、介護の人手不足解消やキャリア開発にも力を入れています。これらの取り組みにより、介護業界におけるさまざまな課題を解決していきたいと思っています。

――今回のビジネスコンテストには、『面会アプリ 施設へGO!』というアプリ開発で応募していただきました。このアプリについて詳しく教えてください。

内田:テーマに「面会のエンタメ化=面会革命」を掲げ、施設面会による業務負担の44.9%削減を実現したいと考えています。というのも、介護施設の職員の多くは面会受付をはじめ、問い合わせやクレーム対応などに追われ、本質的な介護の仕事に集中できていないのが現状です。

特に面会受付の対応は多い時で1日に3時間以上かかることも。クレームに関しては「預けたはずの荷物が利用者に届いてない」といった、利用者家族と施設側との認識の相違によって起こるケースも多いようです。

そこで面会受付業務に関する手間を省き、さらに家族と簡単に情報共有できるようなDXツールとして考えたのがこのアプリです。画面上で面会の予約管理や必要情報の登録ができ、オンライン面会もできるようにしたいと考えています。

――そのようなICTの活用は実際、介護業界で進められているのでしょうか?

内田:最近はよく見かけるようになりましたが、介護のDX化に関してはIT企業といった介護以外の業界で開発が進められているケースが多く、実際の現場との温度差を感じるものもあります。DX化が求められる今、「現場にとって本当に必要な機能を持つと同時に、ビジネス的な効果も期待できるもの」を考えた時に、考案したのがこの「面会」に特化したアプリでした。外部企業発ではなく、当社ならではの現場発のアプリです。

施設・利用者・地域の三方よしの仕組み

――今回のビジネスコンテストのテーマである「地域とつながる、家族とつなぐ」は、どのような点で表されていますか?

内田:この面会アプリには、面会の管理機能に加えて「差し入れ機能」というものを付加したいと思っています。

実は家族が利用者に持ってくる"差し入れ"も面会における課題のひとつなんです。例えば糖尿病の方に甘いものを渡したり、たくさんもらった差し入れを他の利用者にお裾分けしたりすることでトラブルに発展するなど、差し入れが職員の負担になることも少なくありません。そこでアプリの機能の一つとして、差し入れるものを事前に登録して管理できるようなスキームを組み込むことを考えました。

差し入れを購入する際は、アプリ上で周辺の店舗に発注できるようにすることで、利用者と地域をつなぐことを可能に。店舗だけでなくボランティア活動をしたい人も登録できるようにすれば、介護施設とのマッチングを図ることもできます。

DX化によって介護の要らない世界に

――『面会アプリ 施設へGO!』によってどんな社会を目指したいですか?

内田:このアプリが介護現場から発信するDX化の先駆けとなり、自社だけでなく他社の介護施設の運営にも役立てたらいいなと思っています。ゆくゆくは日本だけでなく、高齢化が進んでいる諸外国にも市場を広げていきたいですね。

以前までは介護施設にマイナスのイメージが抱かれることがあったかもしれませんが、今は違います。高齢化が進んでいる日本では今後、若者中心ではなく高齢者中心で経済がまわっていくのではないかというのが僕の見解です。そんな時代において老人ホームは、地域の"顔"としての役割を担っていくはず。介護業界はますますDX化が求められてくると思うので、このアプリをきっかけに他の課題解決にも発展していきたいと思っています。そうして自動車やスマートフォンのように暮らしに欠かせない「あって当たり前」の介護サービスを作り、「介護が要らない世界」を目指したいです。

実際の介護現場に長く携わっている内田さんだからこそ考えることができた『面会アプリ 施設へGO!』。本格化する超高齢化社会に対応していくため、DX化によって介護業界全体の課題解決に貢献したいと語る内田さんの熱意には圧倒されるものがありました。

お知らせ

「第2回西日本FHビジネスコンテスト OPEN INNOVATION HUB」最終選考会の様子は3月11日(金)13時より、以下YouTubeよりオンライン配信されます。さらに詳しい株式会社tttのプレゼンの様子、ぜひご覧ください。

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