M&A(企業合併・買収)を円滑に進め、一定の効果を得るにはPMIが重要です。PMIとはどういうもので、M&Aとどのような関係があるのでしょうか。今回はPMIの概要や期待できる効果、成功させるポイントについて解説します。
PMIの意味とは?M&Aとの関係は?
M&Aを実行して経営統合によるシナジー効果を得るには、PMIを成功させる必要があります。まずは、PMIの概要やM&Aとの関係について確認していきましょう。
PMIの概要
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の統合プロセスです。M&Aは相手企業と合意し、手続きをすれば終わりではありません。経営管理体制はもちろん、人事や経理、ITシステムなどの統合作業が必要になります。異なる会社同士を1つにするため、従業員の意識や考え方を合わせていくことも大切です。
M&Aはクロージング後のPMIが重要
クロージングとは、株式や事業の譲渡といったM&Aの最終手続きです。M&Aが成功するかは、クロージング後に実施するPMIにかかっています。
統合作業に不備があれば、重大なミスや大規模なシステム障害が発生し、信用力の低下や業績悪化を招く恐れがあります。また、従業員の意識や考え方がまとまらないと社員同士の対立が起こり、優秀な社員の離職につながりかねません。
買収後の統合作業がうまくいかなければ、そのM&Aは成功したとはいえないでしょう。
M&Aの3つの統合形式
M&Aの統合形式には、「連邦型統合」「支配型統合」「吸収型統合」の3つがあります。統合形式の選択は、PMIに影響を与える可能性があります。それぞれの特徴を理解したうえで、統合の基本方針を策定することが大切です。
連邦型統合
譲渡企業(売り手)を子会社として存続させ、経営の自主性を尊重する統合形式です。成長支援のM&Aなどでよく見られます。譲受企業(買い手)から数名の役員を派遣する程度で、役員構成に大きな変更がないケースが一般的です。
これまでの企業文化を残して経営方針も維持されるため、従業員の抵抗は少ない傾向にあります。一方で、PMIが思うように進まず、M&Aの効果を十分に発揮できない可能性もあります。
支配型統合
譲渡企業を子会社として存続させるものの、経営には積極的に関与していく統合形式です。譲渡企業が経営不振にあるなど、譲受企業が有利な立場にある場合に見られます。代表取締役を譲渡企業から派遣し、役員構成も大きく変更するようなケースです。
経営方針や事業戦略が大幅に見直されるなど、譲受企業の意向が大きく反映されます。譲渡企業主導でPMIを進められるため、M&Aの効果を早期に得やすい統合形式といえるでしょう。ただし、関与が強すぎると従業員の反発を招く恐れがあります。
吸収型統合
吸収合併や吸収分割、事業譲渡などの手法で、対象企業の組織・事業の全部または一部を自社に吸収して一体化する統合形式です。各手法の特徴は以下のとおりです。
吸収合併:相手の法人格を消滅させて、消滅企業の権利義務の全部を存続会社に継承させること
吸収分割:企業が営む事業の有する権利義務の全部または一部を分割後、他社に承継させること
事業譲渡:企業が営む事業の全部または一部を他社に売却すること
企業や事業を買収側に吸収するため、譲受企業の方針が色濃く反映されます。統合のスピードが速く、早期にM&Aの効果を得られるのがメリットです。一方で、支配型統合と同じく、進め方によっては現場に強い負担を与えることになります。
PMIによって期待できる効果
PMIによる統合作業を進めることで、具体的にどんな成果を得られるのでしょうか。ここでは、PMIによって期待できる効果を紹介します。
シナジー効果の実現
PMIを進めることによって、M&Aによるシナジー効果の実現が期待できます。シナジー効果とは、複数の要素を組み合わせることで得られる相乗効果のことです。PMIで2つの会社・事業を1つに統合させることで、これまでよりも大きな成果を出しやすくなります。たとえば、以下のような効果が考えられます。
売上拡大、財務内容の改善
PMIで経営や業務を統合することにより、売上拡大が期待できます。お互いの強みやノウハウを活かしながら事業を拡大できれば、業績向上につながるでしょう。また、経理・財務を統合し、資産や負債を見直すことで財務内容の改善につながります。
コスト削減
PMIで重複する事業や資源、生産管理体制などを整理すると、経営のムダを省けます。また、仕入先を見直して原材料の整理・統一を図ることにより、コスト削減につながります。
優秀な人材の育成・獲得
PMIでは単に組織や業務を統合するだけでなく、従業員の意識の統一にも取り組みます。社員研修などで経営方針をうまく共有できれば、従業員のやる気向上につながるでしょう。また、人事制度や採用基準を統一することにより、優秀な人材を獲得しやすくなります。
企業買収におけるリスクの軽減
M&Aで異なる会社が1つになることは、メリットだけでなくリスクもあります。しかし、PMIをスムーズに進めることによって、企業買収におけるリスクの軽減が期待できます。具体的には以下のとおりです。
経営体制の不備・混乱
M&Aでは、経営体制がうまく統一できないと社内に混乱が生じます。統合形式によって異なりますが、基本的には買収側の意向が強く反映されます。譲渡企業の経営陣や従業員が譲受企業の示した方針に反発すれば、M&Aが成立しても十分なシナジー効果を得られないでしょう。PMIをうまく進めることで、経営体制の不備や混乱を避けられます。
取引先との関係悪化
M&Aでは、統合作業を早期に終わらせないと業務に支障が出てしまいます。深刻なトラブルが生じれば、取引先との関係が悪化するかもしれません。PMIを計画的に実行することによって、取引先との関係悪化を避けられます。
従業員の士気低下・退職
M&Aでは、企業風土が異なる会社が1つになります。特に買収される側の従業員は、M&Aに対して悪い印象を持つこともあります。業務や考え方をうまく合わせられなければ、従業員同士で対立が生じることもあるでしょう。PMIで従業員の意識や考え方をうまく合わせることで、従業員の士気低下や退職の防止につながります。
PMIのプロセス
PMIは以下の手順で進めます。
統合方針の作成
ランディングプランの作成・実行
100日プランの作成・実行
モニタリング
ここでは、それぞれの内容を確認していきましょう。
統合方針の策定
まずは統合方針を策定します。デューデリジェンス(譲渡企業の価値・リスクの調査)で明らかになった課題などを考慮しながら、どんな形式で統合するかを決めましょう。
また、リスクへの対処や獲得したいシナジー効果などを明確にして、PMIの計画に反映させます。買収側と被買収側でしっかりとコミュニケーションをとることが大切です。
ランディングプランの作成・実行
ランディングプランとは、M&Aのクロージングから3~6ヵ月以内に行うべき短期の統合計画です。ランディングプランでは、経理管理体制をはじめ人事や経理、財務などのさまざまな領域が検討対象となります。デューデリジェンスで明らかになった課題やリスクをもとに、優先的に取り組む事項をリストアップしましょう。
100日プランの作成・実行
100日プランとは、M&A成立後から100日間(約3ヵ月)で実施する計画です。ランディングプランは統合項目の全体的な計画であるのに対し、100日プランは優先度の高い項目の具体的な作業計画になります。誰が主導して、いつまでにどんな手順で進めるかを詳細にタスクとして落とし込みましょう。100日はあくまでも目安であるため、実行期間はきっちり100日である必要はありません。
モニタリング
M&Aがクロージングし、ランディングプランや100日プランの実行に移ったら、定期的に進捗状況のモニタリングを行います。計画の進み具合や効果の有無を検証し、計画とのズレを把握することが大切です。予定通り実行できていなければ、必要に応じて軌道修正する必要があるでしょう。
PMIの具体的な統合内容
続いて、PMIによって統合する具体的な内容について解説します。
経営管理体制
まず、新しい経営管理体制を構築しなくてはなりません。M&Aでは、基本的に譲受企業が意思決定を行います。譲渡企業に経営陣を派遣・常駐させて、ヒアリングを行いながら経営方針や経営ビジョンを共有していくのです。
譲渡企業が中小企業の場合、十分な経営体制が構築されていない可能性もあります。取締役会などの法令上求められる組織はもちろん、意思決定のプロセスや業績管理方法、人員の配置転換などの整備を進めましょう。
人事・労務
M&Aでは買収側から役員が派遣され、経営陣が変更されるのが一般的です。派遣する役員の選定は、M&A後の経営に大きな影響を与えます。PMIをスムーズに進めるためにも、早い段階で役員構成を決定しておく必要があるでしょう。
人事制度の整備も重要な項目です。労働条件が変更になる場合は、労働者の合意を得なくてはなりません。定款や就業規則、給与規則といった各種規程も見直します。
譲渡企業が中小企業の場合、決裁権限などが明確に決まっていないケースもあります。事業部や責任者の役割を明確にするため、状況に応じて職務分掌や決裁権限の見直しも検討しましょう。
ITシステム・業務オペレーション
PMIでは、ITシステムや業務オペレーションの統一に取り組みます。買収側と同じシステムを使用することで、業績を把握しやすくなるなど業務効率化が期待できます。ただし、新たなシステムの導入は、現場にとって大きな負担となるかもしれません。また、業務オペレーションを変更する場合、慣れるまでは作業完了に時間がかかるケースもあります。
業務担当者に丁寧なヒアリングを行い問題点などを明確にしたうえで、新たな業務フローを設計していくことが大切です。
経理・財務
M&A後に適切な経営判断を行うために、経理・財務の統合は特に重要な項目といえます。
中小企業では経営者の親族が経理を一手に引き受け、マニュアルなどが整備されていないケースもあります。被買収側の支払業務や給与計算などに支障が出ないよう、業務フローを見える化して新たな業務体制を構築する必要があるでしょう。
また、経理担当者にヒアリングを行ったうえで、使用する会計システムや決算期の統一などを検討しなくてはなりません。予算や業績管理、経営計画の策定のために、管理会計の整備も必要です。
従業員の意識・企業文化
基本的には、買収側の企業風土に統一していきます。ただし、譲受企業の考え方を一方的に押し付けると、買収される側の従業員の反発を招きかねません。
中小企業の場合、オーナーの考え方が従業員の意識や企業文化に大きな影響を与えています。譲渡企業のオーナーが従業員に対して丁寧に説明し、理解を求めることが重要といえます。
また、社員研修など従業員同士でコミュニケーションがとれる機会を積極的に作りましょう。合併買収に対する不安軽減のために、全従業員に対して丁寧なフォローを行うことが大切です。
PMIを成功させるポイント
PMIをスムーズに進めるには、どんなことに注意すればよいのでしょうか。ここでは、PMIを成功させるポイントを2つ紹介します。
プロジェクトチームを組成して早期に準備を進める
PMIを実行するリーダーを決め、プロジェクトチームを組成して早期に準備を進めましょう。契約交渉や買収手続きに追われると、PMIの準備が遅れてしまいます。クロージングまでにランディングプランや100日プランを作成し、すぐに実行できる体制を整えておくことが大切です。
また、プロジェクトチームをうまく機能させるには、リーダーの選定も重要なポイントです。強力なリーダーシップのもと、現場に混乱が生じることがないように計画を進めなくてはなりません。買収側はM&Aの検討段階から、PMIを確実に実行できるリーダーを選んでおきましょう。
コンサルタントに支援を依頼する
PMIを成功させるには、M&Aについて経験・実績のあるコンサルタントに支援を依頼するのも有効な手段です。専門家に相談すれば、PMIの進め方について具体的なアドバイスがもらえます。特にM&Aの経験がない場合は、金融機関などにサポートを依頼するのが確実といえます。
まとめ
M&Aのシナジー効果を最大化するには、早い段階でPMIの準備に取り組むことが大切です。専門家のサポートを受けながら、経営管理体制やITシステム、経理・財務などをうまく統合する必要があります。M&Aについて疑問があれば、西日本シティ銀行の営業担当者に相談してみてください。