パーパスをベースにした企業経営(パーパス経営)は、事業の継続的な成長や他社との差別化を図るために欠かせないものとなっています。世界で広がりを見せているパーパス経営について、定義とメリット、実践にあたってのポイントについて解説します。
パーパス経営とは?定義やMVVとの違い
パーパス(purpose)を日本語に直訳すると「目的」という意味になりますが、近年、ビジネスシーンで話題になっている“パーパス”経営についてはどうなのか、その定義と類似しているMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違いについて解説します。
パーパスの定義は「存在意義」
企業経営において、パーパスは「企業や従業員の存在意義」を指します。単なる利益追求型経営ではなく、人や社会、コミュニティへ価値を提供できる経営を目指すのがパーパス経営です。
2019年(令和元年)、アメリカの企業団体が発表した声明で企業活動におけるパーパスの重要性が語られ、世界に広まりました。
パーパスは企業独自の価値観を言葉にしたものであり、企業が社会にとってどんな役割を持つかを表現します。この「社会において」というのが、パーパス経営において大きなポイントです。単なる事業スローガンではなく、社会的意義があり世の中から共感を得られるのがパーパス経営の定義です。
パーパス経営を行う目的
企業活動におけるパーパスには、主に企業と個人の2要素が含まれます。
パーパス経営は企業や個人(従業員)それぞれが自分の存在意義を確認し、社会に価値を提供することを目的にしています。企業がどんなに社会的意義のあるパーパスを掲げていても、実際に働く従業員が共感し理解できなければ実現には至りません。
企業とそこで働く個人がそれぞれで存在意義を考え、重なる思いや理想像がパーパスとなり、企業経営の目的の核となります。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い
大きな違いは、独自の存在価値や社会貢献についての視点が入っていることです。
使命を示すミッション、将来像を指すビジョン、価値基準を表すバリューは、それぞれパーパスに含まれている要素を持っています。既存のMVVに、自社の社会的な存在意義を入れたものがパーパスです。
実は日本に古くからあるビジネススタイル
日本では、すでに昔からパーパス経営が行われていました。それは、志(こころざし)による経営です。
企業立ち上げ時の思いを常に意識し、社会からの共感を得ながら発展を目指すスタイルは、パーパスが知られる前から存在します。
なぜ今、パーパス経営が注目されているのか
以前から日本の経営手法の一つとして存在していたパーパス経営ですが、なぜ今、世界的に注目を浴びるようになったのでしょうか。理由として、主に次の4項目が挙げられます。
差別化しにくい現状
近年ではプロダクトの同質化が進み、新たな製品やサービスを出してもすぐに類似のものが登場するという状態にあります。その中でさらなる差別化を図るため、企業のパーパスも製品・サービスの特徴とセットで伝える取り組みが増えています。
プロダクトに企業のパーパスが加わることで独自性が高まり、他にはないブランドの構築につながります。
顧客志向の変化
顧客の意識が変わりつつあることも、パーパス経営のニーズ増加につながっています。環境問題をはじめ、従来の生産・消費の仕組みなどに対して疑問を持つ人が増えました。これにより、企業のパーパスがモノ・サービス利用の重要な判断基準になりつつあります。
また、モノを大量に作り安く売って利益を出すという、従来型のビジネススタイルを受け入れられない潮流があるのも事実です。企業自身だけではなく社会全体への影響も考慮した経営がおこなわれているかが、消費者の企業評価において重要な要素です。パーパスに基づいた企業経営が、その判断材料となります。
人材市場における企業選びの判断基準
パーパス経営の有無は、人材採用にも影響を与えています。1980年代(昭和55年)以降に生まれた世代は、日本経済の停滞期に成長してきた人たちです。そのため、利益を追求するという姿勢以上に、どれだけ社会に貢献できるかという企業の存在価値を重視する傾向にあります。
日本で進む少子化において、優秀な人材を確保することは企業の生き残りを左右しかねない大きなテーマの一つです。パーパスは企業ブランディングだけでなく、働き手に対して企業の未来をアピールするためのツールとしても有効です。
金融市場で話題の「ESG投資」
投資の世界においても、パーパスが重要視される傾向にあります。「ESG」は、環境(Environment)、社会(Social)、管理体制(Governance)の3要素のことです。企業のこれからの成長を見通すための情報として、とても重要視されています。
環境・社会を守り育てる取り組みをし、透明性があり健全な企業管理体制を行う企業に投資するのが「ESG投資」です。年々、ESG投資に意欲的な投資家が増加傾向にあります。ステークホルダーに対する説明責任を果たして目指す姿を共有するためにも、パーパスは大きな役割があります。
パーパス経営のメリットと注意点
パーパス経営はアメリカのトップ企業が取り入れるなど今注目されています。
ここからは、企業がパーパス経営を行うことで得られるメリットと注意すべきポイントを見ていきます。
パーパス経営を行うメリット
存在価値を言葉に落とし込み明確に示すパーパスは、企業や従業員にさまざまなメリットをもたらします。
企業・従業員の存在意義が明確になる
パーパスは、企業自身の意思そのものともいえます。社会に対して自社はどんな立場で価値を創出するかを誰もが分かる言葉で定義すれば、企業の存在意義がはっきり伝わります。
また、従業員のエンゲージメントを高める効果もあるのです。パーパスがあれば従業員が企業を通じて果たせる社会での役割を自覚でき、仕事のモチベーションアップが期待できます。
先行き不透明・差別化しにくい状況から一歩抜け出せる
新型コロナウイルス感染症の流行やデジタル化などの影響で、これまでの経営戦略では立ち行かなくなる事態が起きています。先が見えない中で差別化を測って生き残りたいと考えたとき、パーパスはよい道標となり得ます。
先行き不透明なビジネス環境では、柔軟かつスピーディな意思決定・行動力が必要です。方向性に迷ったときにパーパスが企業内で浸透していれば、経営陣・従業員ともに素早く決断して同じ方向へ進めます。この推進力が現状を打破し、競合から頭一つ抜ける鍵となるでしょう。
社外からの共感を得やすくなる
消費者をはじめ、株主や取引先などの社外からの理解・共感が得やすくなるのもパーパス経営のメリットです。自分が分かっているからといって、他者も同様に理解しているとは限りません。パーパスで明文化すれば、第三者にも企業の考えがしっかり伝わります。
共感が得られれば、応援者も増えていくでしょう。その結果、ステークホルダーの増加やインターネット上での情報拡散など多彩な広がりを生み出し、企業の発展につながります。加えて、優秀な人材を獲得しやすくなるというメリットも得られます。
大切なのは「らしさ」と「実現性」、パーパス経営の注意点
メリットが多いパーパス経営ですが、押さえておきたいポイントがあります。企業の理想像を語ればよいわけではなく、独自性や実現性も必要です。
見せかけのものではなく、自社で実行できるか
企業の思い、独自性、社会との関係を端的に表現し伝えるパーパスですが、理想的な言葉をただ並べるだけでは意味がありません。むしろ逆効果になるでしょう。
世の中で取り上げられている課題の解決をうたうだけでは、埋もれてしまいます。企業の内部から湧き出た志をわかりやすく伝え、それを通じてどのように社会貢献できるかを示す必要があります。また、実現性も伴わなければなりません。
SDGsに囚われすぎない内容か
「SDGs」を意識するあまり、SDGsの項目をコピーしたようなパーパスになってしまわないように注意する必要があります。
SDGsは2030年達成を目標にしていますが、パーパス経営を行っている企業はその先の2050年までを視野にいれて策定しています。SDGsはすでに当たり前になり、さらにその先の課題に取り組んでいくことが独自性や差別化につながるのです。
ブランディングにもつながる「パーパス経営」5つの方法
パーパス経営を行うにあたり、どのような手順で取り組んでいけばよいのでしょうか。ここでは、一例として5つの方法を紹介します。
1)従業員1人ひとりの存在意義・未来像について議論
パーパスは、企業や経営陣だけのものではありません。そのため、企業を支える全ての従業員が共感・実行できる内容にする必要があります。そこでまず、従業員それぞれが考える企業や働き方の理想的な姿について意見を出し合うのです。
この段階ではあまり制約をかけず、できるだけ具体的な未来像を描いてもらいます。自分や企業、社会の姿を思い浮かべながら、議論を深めましょう。
2)現状把握・反省
次に、議論の中で出た理想像に対して、現状はどの位置にいるのかを考えます。特に理想と現実に大きな隔たりを感じる場合には、どうすればこの隔たりを小さくできるかアイデアを出し合います。
パーパスの軸にときどき立ち戻りながら、現状を把握し反省点を見つめてみましょう。
3)パーパスステートメントの作成
議論を深めるうちに、パーパスに入れたい要素が集まってきます。それらを踏まえて、パーパスステートメントを作成しましょう。パーパスステートメントとは、パーパスをわかりやすく言語化した声明です。
パーパスステートメントは企業内外のあらゆる人にとって理解しやすく、共感できる内容が好ましいです。企業が目指す方向性を分かりやすく示す、簡潔な文章を作成します。
4)「自分ごと」として取り組める環境づくり
パーパスステートメントを作成したら、社内外にその内容を伝えるとともに、企業全体でそれを実行することが重要です。まずは社長をはじめとする経営陣が指揮をとり、パーパス実現のための行動計画を策定します。
それを従業員の行動ベースに落とし込み、各自の担当業務に反映できる環境づくりを行いましょう。評価や給与の制度改革が必要になることもあります。「それは実現できるものだろうか」という視点で、あらゆる角度からメスを入れていきましょう。
5)定期的な評価
パーパスステートメントが機能しているか、定期的に評価する仕組みづくりも欠かせません。パーパスの実行に際しては、KPI(重要業績評価指標)を用いるとよいでしょう。パーパスに関係する複数の項目について達成度を数値化すれば、実行の度合いや推移を把握しやすいです。
こうした仕組みづくりは、社長や経営陣が率先して行うことが求められます。その姿勢が従業員の実践意欲を高め、社会における企業価値の創造、および独自性に富んだブランディングへと発展していきます。
まとめ
パーパス経営を行うためのプロセスには、時間と労力がかかります。だからこそ、パーパスステートメントに沿って経営している企業の本気度は、人々の心を動かします。
パーパスを主軸とした企業経営は、今後ますます広がりを見せることが予想されます。世の中における自社の存在意義を考え、伝え、実践するパーパス経営を思案するべきタイミングが、まさに今来ています。