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事業承継とM&Aの違いをご存知ですか?自社に最適な方法で後継者問題を解決しよう

By 大野 翠

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公開日 2022.07.19

事業承継とM&Aは、後継者問題を考えるうえで最近よく耳にする用語です。本記事では、この2つの概要と違い、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。さらに、自社にとってどちらが最適か図る方法も紹介します。

後継者問題を解決する方法

事業を展開していると、会社の規模に関わらず後継者問題に関する悩みを抱えている企業は少なくありません。跡継ぎが明確であればよいのですが、難航している場合は後継者問題についてなるべく早く対策をとっておきましょう。後継者問題を解決する方法としては、「事業承継」と「M&A」があります。

事業承継

これまでの事業はそのままに、親族間で後の代の人に経営権を渡すことや、ほかの個人または法人に譲渡することです。事業承継のうち、ほかの法人に事業の経営権を譲渡し吸収合併することをM&Aともいいます。

M&A

広い意味でいうと、事業承継のひとつです。これまでの事業の経営権をほかに移転、または譲渡することです。M&Aの仕組みによっては、必ずしも移転譲渡だけでなく、業務提携や資本提携のような協力関係を構築する概要のものもあります。

事業承継とは

ここからは、事業承継の概要と目的、リスクについて解説していきます。

経営権などを次の経営者へ引き継ぐこと

大枠でいうと、「親から子に会社を引き継ぐこと」を事業承継といいます。事業承継は必ずしも親族間だけではなく、従業員や社外への引継ぎの場合もあります。

事業承継の種類

事業承継の種類には、大きくわけて以下の3つがあります。

親族内事業承継

経営者から見て、子や孫を事業の後継者とします。これまでも行われてきた、いわゆる「跡継ぎ」や「代替わり」という仕組みです。子や孫に任せられない場合には、経営者の兄弟や義理の家族(娘婿など)を後継者とすることもあります。

親族外事業承継

事業の承継者を、親族以外に選任することです。「社内承継」「第三者承継」などとも呼ばれます。親族ではなくても有能で事業を任せられる場合、その人を後継者とすることです。よくある例として、経営者の側近や社内の役員の中から選任する場合があります。これまでの事業をよく知っている人が承継するため、事業承継後の企業内が大きく混乱することはあまりないでしょう。

事業の譲渡や売却による事業承継(M&A)

事業の譲渡や売却による事業承継をM&Aといいます。つまり、M&Aも広義の事業承継に含まれるということです。

事業承継の目的とリスク

事業承継の目的には、「事業の継続」や「後継者に事業を渡したい」などがあります。その中で、今後の事業にとってふさわしい後継者を選ぶことは容易ではありません。そのため、経営者は早いうちから先々の事業を誰に任せるか、どのように継続していってほしいかなどを明確にしておきましょう。

事業承継のリスクとは

事業承継の引継ぎがうまくいかない場合、その後の経営状態に大きく影響するリスクがあります。引継ぎがうまくいかない理由には、後継者選びや、事業承継のタイミングに失敗したことが挙げられます。また、近年問題視されているのが、経営者の高齢化です。高齢化が進むことで急病や認知症などのリスクが高まり、経営者本人が望む形で事業承継ができなくなることもあります。

株式買収と事業承継について

企業が非上場株式会社の場合、経営者がオーナー企業の株式を保有しています。つまり、経営権を持つ経営者が株主でもあるため、オーナー企業の所有と経営が一体である状態です。

この場合、事業承継をすることで税制上の問題が発生する場合があります。一般的には、経営者が保有している自社の株式を後継者に売却することで、株式の承継は可能です。しかし、相続や贈与という問題もあるため、税理士へ相談するなど専門家の意見も仰ぎましょう。

M&Aとは

企業を親族や社員などに引き継ぐのではなく別の企業へ売却や譲渡するという、事業承継の方法のひとつです。M&Aの種類は豊富なため、自社にメリットがあると感じるものを選びましょう。また、M&Aは「売り手企業」と「買い手企業」に分かれます。

  • 売り手企業…事業承継を希望していて引き継ぎ先を探している企業のこと
  • 買い手企業…事業承継を引き受ける側の企業のこと

M&Aの取引には数種類ある

M&Aの種類の中でも主な3つについて、解説していきます。

株式譲渡

売り手企業がすでに発行している株式を、買い手企業が買い取ることで経営権を引き継ぐ仕組みです。株式譲渡(買収)の方法には、上場会社の株式であれば、TOB(公開買い付け)や株式を証券取引所で購入する市場買い付けなどがあります。株式未公開会社の株式の場合も売買による譲渡は可能ですが、様々な制限が特に多くあります。いずれの場合も専門家と相談し進める必要があります。

事業譲渡

売り手企業の財産や経営者が保有している一部、またはすべての権利を譲渡することです。買い手企業は売り手企業の財産の譲渡を受けるので、不動産取得税や登録免許税など各種税金がかかることがあります。買い手企業にとっては経済的な負担が大きくなることから、デメリットであるといえるでしょう。一方、一部の事業譲渡であれば買い手企業が譲渡対象を選べるため、費用負担がかさみそうな事業は承継しないこともできます。

分割・合併

これまであった複数の企業の事業の一部を分割し集合させ、あらたに企業を作り事業を承継させる仕組みが新設分割です。また、会社を分割し別の企業に吸収合併する吸収分割と呼ばれる手法もあります。

合併も分割と似ている仕組みで、2種類あります。新設合併は、複数の企業がすべて解散してあらたに会社を設立することで事業を承継する仕組みです。また、複数の企業が集まったなかで、一つの企業のみ残して合併することを吸収合併といいます。

M&Aの目的とリスク

売り手企業にとってのM&Aの目的は、事業承継の意味が大きいでしょう。買い手企業側は、すでにある程度の規模に育っている企業を引き継ぐことで事業拡大を図る目的があります。双方のリスクには、思ったような結果にならないことがあるという点が挙げられます。また、そもそもM&Aにおける買い手企業がなかなか見つからないこともあります。

事業承継とM&Aの違い

ここからは、事業承継とM&Aの違いについて解説します。大きな違いは、事業承継あるいはM&Aの後に、売り手企業の経営者が経営に携わるかどうかという点です。

経営者が事業に携わるかどうか

もとの企業の経営者は後継者へ事業のすべてを譲渡するため、事業承継後の事業には携わりません。一方、M&Aの種類のうち分割や合併であれば、経営者はそのまま事業に携わることもあります。このように、事業承継とM&Aには、その後に経営者が事業にかかわるかどうかという点で違いがあります。

事業承継とM&Aのメリット・デメリット

ここからは、メリット・デメリットについて解説していきます。

事業承継のメリット・デメリット

親族間や社内での承継の場合のメリットは、事業の滞りがなくスムーズに引継ぎができやすいという点です。また、取引先や顧客に対しても事前にアナウンスしやすく、事業承継が認知されやすいというメリットがあります。

一方、特に親族間事業承継の場合のデメリットは、経営者個人の遺産相続の問題に発展することもあるという点です。経営と家族の問題は別ではありますが、場合によっては相続トラブルへの発展もありえます。また、経営者が事前に後継者候補として経営の引継ぎをしても、後継者候補の本人があまり乗り気ではない場合は問題です。経営者自身が親族間の承継を望んでいても、必ずしも希望通りにはならないというデメリットもあります。

M&Aのメリット・デメリット

メリットは、事業承継よりも選択肢が広いことです。売り手企業の経営者が、引退や代替わりをする必要がない方法もあります。いくつかの方法の中から、双方の条件が揃った案を実施すればよく、より希望に即した形でM&Aができます。

一方デメリットは、なかなか買い手企業が見つからないことです。売り手企業の経営状況によっては、M&Aが成立するまでに資金がショートしてしまう可能性もあります。M&A成立後の買い手企業のデメリットには、思ったような利益が見込めないなどがあります。また、M&Aによって社内の仕組みが変わったり新規の部署が立ち上がったりすると、組織が不安定になることもあるでしょう。

自社に最適な方法を選ぼう

ここからは、事業承継とM&Aの選び方のポイントについて紹介します。

事業承継しないとどうなる?

事業承継やM&Aをしない場合、後継者がいないので事業は廃業せざるを得ません。これまで働いていた従業員を解雇し、会社の規模や事業内容によっては取引先等にも迷惑をかけることになります。

後継者の有無がポイント

事業承継とM&Aを選ぶ目安として、「後継者の有無」がポイントとなります。後継者は、必ずしも親族である必要はありません。経営者が信頼できる社内の人や社外であっても後継者としてふさわしい人がいる場合は、まずは事業承継を検討してください。後継者が見当たらない場合には、M&Aの種類のうちいずれかを検討しましょう。

時間がかかることも想定して早めに対策を

事業承継を希望し明確な後継者がいる場合であっても、実際に事業を完全に引き継ぐまでには準備も含めて時間がかかります。株式会社の場合は株式の譲渡や法人登記の変更など実務上の手続きだけでも時間がかかるうえに、後継者教育の時間も必要です。

M&Aの場合も、同様に時間がかかります。事業承継の後継者にあたる買い手企業が見つからないことには、なにも始まりません。後継者問題について意識するようになれば、早めに対策をとることをおすすめします。

後継者問題に関する相談は西日本シティ銀行窓口まで

事業承継やM&Aなど後継者問題に関する悩みは、西日本シティ銀行窓口で相談しましょう。個人だけでなく法人にとっても、身近な相談相手として活用できます。事業承継やM&A以外でも、ビジネスに関するさまざまなお金の相談を承っています。

まとめ

会社を経営していると、いつかは直面するのが後継者問題です。M&Aと事業承継の2つの違いは、事業承継後の経営者のポジションです。事業承継後も経営にかかわりたい場合は、M&Aの手法を選択しましょう。税務の問題が発生する場合には、税理士などプロに相談することをおすすめします。また、事業承継など後継者問題に関する悩みは、最寄りの西日本シティ銀行窓口で相談してください。


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