「ふるさと納税」と聞くと、個人が地方公共団体に寄付をすることをイメージするかもしれません。しかし、現在は法人でも寄付ができる「企業版ふるさと納税」もあります。企業が本制度を活用することに、どんなメリットがあるのでしょうか。今回は企業版ふるさと納税の概要や寄付をするメリット、注意点を解説します。
企業版ふるさと納税とは?
企業版ふるさと納税とは、国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに企業が寄付を行う場合に、法人関係税から税制控除する仕組みです。2016年(平成28年)に内閣府によって創設されました。
法人として寄付をすることで、税負担の軽減が期待できます。また、寄付を通じて地方創生や脱炭素などの社会貢献ができ、企業のPRになるのもメリットです。
制度対象となるプロジェクト
国が認定した地域再生計画に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクト寄付の制度対象となります。認定されていないプロジェクトに寄付をした場合、本制度の税額控除は適用されません。
個人のふるさと納税との違い
企業版ふるさと納税と個人版ふるさと納税では、返礼品の有無に違いがあります。
個人がふるさと納税をすると、寄付金額に応じて地域の特産品などを受け取れます。一方、企業版ふるさと納税は寄付の見返りに経済的利益を受け取ることが禁止されているので、返礼品はありません。
企業版ふるさと納税の税額控除額
企業版ふるさと納税は、2020年度(令和2年度)税制改正で地方創生の更なる推進を目的に制度が大幅に見直されました。従来よりも税の軽減効果が拡大し、企業にとってより使いやすい仕組みになっています。
税の軽減効果は寄付額の最大9割
企業版ふるさと納税では、寄付額の最大9割が法人関係税から控除されます。通常の寄付金に適用される「損金算入による税の軽減効果」に加えて、本制度独自の税額控除を受けられるのが特徴です。
▲内閣府 地方創生推進事務局パンフレットより抜粋
通常の寄付の損金算入(約3割)に6割の税額控除が上乗せされるため、企業の自己負担は最小約1割です。たとえば、1,000万円を寄付すると最大約900万円の法人関係税が軽減され、企業負担は約100万円となります。
税額控除の適用期限
税額控除の適用期限は、2024年度(令和6年度)までです。適用期限内に制度対象のプロジェクトに寄付をすると、税制優遇を受けられます。
しかし決算期をまたぐ場合には地方公共団体の受領日や証明書の発行タイミングによっては、翌期の控除対象となるケースもあるようですので、事前に地方公共団体へ連絡をし確認しておくとよいでしょう。
企業版ふるさと納税で寄付をするメリット
企業版ふるさと納税で地方公共団体に寄付をすると、税額控除のほかに以下のメリットが期待できます。
社会貢献を通じた企業PR効果
「地域の産業・観光」「人材の育成・確保」「定住・移住の促進」「少子高齢化対策」など、地方創生に関するさまざまな事業を支援できます。
近年では気候変動問題への関心が高まっており、環境保全や脱炭素などの目標を掲げる企業や地方公共団体も増えています。寄付をすることによって、自社だけでは難しいSDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献が可能です。
地方公共団体のホームページや広報誌で寄付をした企業が掲載されることもあるため、結果として企業のPR効果が期待できます。取引先や金融機関などからの信用力向上にもつながるでしょう。
地方公共団体とのパートナーシップ構築
寄付をきっかけに、地方公共団体と新たなパートナーシップを構築できる可能性があります。
たとえば、企業の社員と地方公共団体の職員との間で定期的なミーティングが行われ、アプリ開発が実現したケースがあります。ワーケーション実施により地域交流が生まれ、事業の相談がしやすくなったという事例もありました。
地方公共団体と友好な関係を築ければ、企業と地域の双方にとってメリットのあるビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
新規事業の展開
地方創生プロジェクトを支援することで、地域資源を活かした新規事業の展開も期待できるでしょう。
地方公共団体の中には豊富な資源があるにもかかわらず、雇用の創出や税収増に活かせていないケースもあります。寄付をきっかけに地方公共団体と連携すれば、地域の特徴や資源を活かした新規事業を展開できる可能性があります。
企業版ふるさと納税を活用する際の注意点
企業版ふるさと納税で税額控除の適用を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。寄付の下限額や禁止事項などが定められているため、活用する前に注意点を理解しておくことが大切です。
1回あたり10万円以上の寄付が対象
企業版ふるさと納税では、1回あたり10万円から寄付が可能です。約9割の税額控除が適用されると、10万円の寄付で約9万円の税の軽減効果が期待できます。
ただし、寄付による税の軽減効果を得られるのは決算(確定申告)後となります。企業経営に支障が出ないように、資金繰りを考慮して寄付額を決めましょう。
返礼品は受け取れない
企業版ふるさと納税では、寄付の代償として地方公共団体から経済的利益を受け取ることは禁止されています。個人版ふるさと納税とは異なり、自治体からの返礼品はありません。
「税額控除による税負担の軽減」と「社会貢献を通じた企業のPR効果」が、特典に該当すると理解しておきましょう。
経済的な見返りに該当する具体例
禁止事項である経済的な見返りに該当する具体例は、以下のとおりです。
禁止事項に触れてしまうと、企業イメージを著しく損ねる恐れがあるので注意しましょう。条例や規則を遵守し、公正な手続きを経て寄付先の地方公共団体と何らかの契約を締結するのは問題ありません。
本社が所在する地方公共団体への寄付は制度対象外
本社とは、地方税における「主な事務所又は事業所」のことです。本社が所在する地方公共団体への寄付は、制度対象外となります。
たとえば、福岡県福岡市に本社がある企業の場合、福岡県と福岡市への寄付は可能ですが企業版ふるさと納税の対象外となります。
地方交付税の不交付団体への寄付は制度対象外
次の都道府県や市区町村への寄付は、制度対象外となります。
寄付先を検討する際は、内閣府が運営する「企業版ふるさと納税ポータルサイト」で制度対象かを確認するといいでしょう。
寄付の流れ
基本的には以下の流れで手続きを行います。
地方公共団体に寄付を申し込み(企業)
納入通知書の送付(地方公共団体)
寄付金の納付(企業)
寄付金受領証の送付(地方公共団体)
法人関係税の申告・税額控除の適用(企業)
ただし、地方公共団体によって手続きの流れが異なる可能性があるので、事前に確認しておきましょう。
寄付先を選定する際は、支援するプロジェクトの内容を確認したうえで企業PRや新規事業展開につながるかを見極めることも重要です。
まとめ
企業版ふるさと納税で地方公共団体に寄付をすれば、地方創生や脱炭素などへの社会貢献を通じて企業のPR効果が期待できます。寄付金は最大9割の税額控除が適用されるため、費用負担を抑えることも可能です。
社会貢献活動を企業価値の向上や新規事業展開につなげたい場合は、企業版ふるさと納税の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
AFP、2級FP技能士
会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より金融ライターとして活動。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数の金融メディアで執筆中。