会社の魅力を高めれば、人や仕事が集まってくる

「チームで働くすべての人に」をコンセプトに、チームのコラボレーションを活発にして、仕事が楽しくなるようなサービスを開発・運営している株式会社ヌーラボ。2004年に福岡市で設立された同社は、今やスタッフ100人ほどに。東京と京都、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムにも拠点を広げ、世界で400万人以上が利用するサービスへと成長しています。数々のメディアやイベントでも引っ張りだこの代表・橋本正徳さんに、起業にまつわる人事や労務の体験談を伺いました。
■プロフィール
株式会社ヌーラボ 代表取締役
橋本正徳(はしもとまさのり)さん
1976年、福岡県生まれ。早良高校を卒業後に上京し、飲食業や劇団主催、音楽活動を行う。1998年、福岡に戻って家業の建築業に携わった後、広告制作や八百屋を経てプログラマーに転身。2004年、株式会社ヌーラボを立ち上げ、代表取締役に就任。2006年から自社開発のWebサービス「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」をリリースして運営。
目次
書籍出版で得た資金をもとにプログラマーの仲間たちと起業

- 橋本さんは2004年に福岡市で起業されたそうですね。その前はどんなことをされていたのでしょうか?
橋本: 高校卒業後に上京して、劇団や音楽活動をしていたのですが、福岡に戻ってプログラマーに転身。27歳のとき、オープンソースプログラムで一緒にソフトウェアを作っていたプログラマー3人で会社を立ち上げました。
- 創業時、どんな会社にしたいと思っていましたか?
橋本: 「エンジニアにとって幸せな会社にしていきたいね」とか、「福岡一、日本一の会社にしたいね」と話していました。何の分野でどうやって一番になるか、というのは特になかったんですけど(笑)。受託の仕事から始めて、いつか自分たちのサービスを作りたいと思っていました。
- 社員はどのように増えたのですか?
橋本: すぐ5人になり、2年で10人くらいになったかな。仕事とは関係なく、もともとオープンソースで一緒に作っていたメンバーが仲間に加わっていった感じです。
- 橋本さんは福岡のITコミュニティの立役者としても有名ですし、すでに仲間がいたというのは強みですね。
橋本: 起業前、エンジニアやプログラマーが集まる勉強会やコミュニティを運営していて、活動を外に発信していました。そのうち僕らが福岡で開催する勉強会に東京から出張でわざわざ来てくれる人が出てきて、東京から出版の依頼も舞い込みました。技術書を出版して、そのとき得た資金をもとに会社を立ち上げたんです。2006年の法改正以前は株式会社は1,000万円、有限会社は300万円の資本金が必要という決まりがあったので、最低300万円の資本金を準備する必要があったんです。起業前から名前を表に出して活動したことで、注目してくれる人もいたので、採用に困ることはなかったですね。労務関係は社外で労務士さんにお願いしていました。
技術を磨き、ものを作って、アウトプット
- 社員が増えたのは、仕事の依頼が多かったからだと思います。なぜ選ばれていたと思いますか?
橋本: やはり技術でしょうね。とにかく一生懸命に技術を学び、学ぶ過程をアウトプットしていましたし。がむしゃらに技術を追いかけ、ものを作って、人に見せることを続けていたので、一緒にやってみたい人が来るし、仕事をお願いしてみたいという人も来てくれた。だから営業活動はしていませんでした。
- 外に向けて発信するのは、メンバーで話し合って決めた方針ですか?
橋本: いや、そういう性格の人たちが集まったという感じですね。僕はずっと音楽を作って、インターネットの黎明期から自分の音楽をネット上にアップロードして、いろんな人に聴いてもらっていました。また、そうやって音楽を作っている人たちの情報を集めたデータベースを作って公開したことも。職業プログラマーになる前の話です。
- どうして音楽や情報を公開しようと?
橋本: 自分が作ったものは、誰かに見せたくなるじゃないですか。音楽も作ったら聴いてもらいたくて。特に僕がやっていた音楽は路上で弾くタイプではなく、デジタルミュージックだったので、公開する場所はインターネットしかなかった。同じように音楽をやっていた人や、オープンソースで実際会わずにオンライン上でソフトウェアを作っていた人たちと起業したので、アウトプットするのが自然だったんですよね。僕らはオンラインやインターネットネイティブみたいな感じなのかな。
- なるほど。オープンにすることで、人が集まってくる手応えがありましたか?
橋本: いい感じにしたら来るな、というのはありました。ダサい感じでは出したくなくて。仕事という感じではなく、楽しそうにしているのが良かったんじゃないかなと思います。
売上が横ばいの時期に自社サービスを育てた

- それから自社サービスを開発されました。
橋本: はい、自社でプロジェクトマネジメントツール「Backlog」を作り始めて、東京の人も結構採用したりして、3年から5年で20人くらいになったのかな。そこでいったん売上の伸びが止まり、その間にBacklogとかを育てるという感じでした。
- 創業から数年の間、福岡の他のベンチャーと交流はありましたか?
橋本: 数か月先輩の会社があるけど、交流はあまりなかったですね。20代後半で起業しているので、とがりたい年齢じゃないですか(苦笑)。
- 橋本さんにもそんな時期が?
あります、あります。丸くなったのは、40超えてからですよ。
今後の成長を見据えて、人事担当者を採用

- 2016年に初の人事担当として安立沙耶佳さんを採用されたきっかけは?
橋本: 自社のプロダクトがひとまず安定して、これから成長していくなというタイミングを迎え、人をたくさん採用しなきゃと思ったんです。それで、初めて人事というか採用担当を探し始めました。
- 会社のフェーズが変わったのですね。
橋本: 実は、人事の採用フローがだいたいできて、一度アウトソースしたんです。ちょうどその頃、大手人材会社に勤めていたアンヂェラ(安立さん)がうちに営業に来た。後から聞くと、彼女は「自分の会社で使っているツールを作っているヌーラボに行ってみたい。福岡から海外にも進出しているし」みたいに、軽く観光というか聖地巡礼気分で来たそうです(笑)。でもね、アンヂェラと話した後、「あ、さっきの人が人事になるといいんじゃないかな」と思ったんです。それで、アウトソース先の人に話してみると、なんとアンヂェラは彼の元同僚で「僕が彼女を採用しました」と。「ホントか!!」とビックリしましたね。
- 営業で来た安立さんにピンときた上に、共通の知人がいたとはすごい。
橋本: それで連絡してみたら、入ってくれることになりました。彼女はそれまで人事の経験がなく、人事になるつもりもなかったけど、うちならやってみたいと思ったそうです。それまでネット業界の営業で300社訪問しても、入りたい会社は正直1社もなかったらしく…。でも、これはチャンスだと飛び込んで来てくれました。片田舎の社員30~40人くらいのうちの会社に、大企業から転職してくれるとは想像してなかったので、意外と来てくれるんだと驚きました。
- まさにご縁ですね。
橋本: そうですね。入社初日に採用計画を共有して、4年弱でメンバーが倍以上に増えました。また、ほぼ年功序列と頑張りを軸にしていた評価制度をグレード制に変更。しばらくして資金調達もして、2018年に労務担当も採用しました。当時、労務はまだ募集していなかったのですが、別のポジションで応募してくれた人に労務を打診して採用しました。
会社の哲学に基づき、選択肢の多い組織に

- 人事担当や労務担当が社内にいると、どんな変化が?
橋本: ずいぶん安心できるようになりました。外の労務士さんにお願いしていたら、どうしてもその社労士事務所の会社経営哲学が入ってくる。だけど、今はピュアにうちの会社の哲学にのっとって、ルールはこれがいいね、こういう仕組みがいいねと決められるので、とても良くなりましたね。こういう会社にしていくんだという思いを反映できます。
- 会社が大事にしている哲学とは?
橋本: えー!それを言語化できないのが悩ましいんですけど(笑)。
- 創業時は、エンジニアにとって幸せな会社を目指すと話されていましたが、そこは今も大切にされていますか?
橋本: そうですね、ものや仕組みを作る人は全員エンジニアとした場合、そういう人が幸せな会社になればいいなと思います。裏を返すと、そういう人じゃないとあんまり幸せになれないんじゃないかなと、うちの場合は。
- ものを作る人が幸せな会社って、どんな会社でしょう?
橋本: 選択肢が多く、自分で選択肢から選べるような状況を作りたいと考えています。例えばリモートワークでもオフィスで働いてもいいし、参加しても参加しなくてもいいよというミーティングが結構あります。自由といえば自由だけど、裏を返すとコミットメントを求めるところもあるという感じかな。自分で選んだんだから、とね。
外注していると、管理の仕方は極力シンプルがいい。一つの方法で管理できたら、管理する人としてはそれが一番ラクじゃないですか。なので、アウトソーシングしていたら、選択肢が極力ない方向にいくわけなんです。だけど、社内でできるなら、管理が多少大変になっても選択肢を増やせる。うちはテクノロジーカンパニーなので、管理が大変な部分は極力オートメーションにすれば、管理がラクで、選択肢がいっぱい取れるという状況になります。今はオートメーション化を進めているところです。
40代になり自分や会社に自信がついてきた

- 4年弱で60人ほど社員が増えています。中には離れていく人もいると思うのですが、離職したいという人を止めることもありますか?
橋本: いや、あんまり止めないです。人生の話なんで、僕はそこを止める権限はないかなと(笑)。仕事でこれをやりたいと言われたら、対応できるかもしれないけど、会社を移るみたいなところは仕事の上のレイヤーの人生という話ですから。エンジニアとして成長したいだろうから、うちで学べることが学び終わったら、他に移った方がいいかもしれません。一方で、長く関わることも成長につながるので、個人の意思次第だと思います。一度辞めて、また戻って来ても全然いいですし。
- さっき、昔はとがっていたと言われていましたけど、今は達観された感じですね。
橋本: そういえば、前は人が辞めると、頭にきてましたね。頭にきてたというか、本当に嫌だなあと思ってましたよ…。
ー へー、年を重ねて見えてきたことがあるのでしょうか?
橋本: 体力がなくなってきたし、諦めですね、世の中ってそういうもんだって(笑)。うーん、ただ、多少は自信が出てきたのかな。だから人を許せる。20代30代は自分にも会社にも自信がなかったから、人を責めるしかなかったのかもしれないですね。
ハンターを野に放って採用するのは無理がある

- 最近スタートアップでは初期から人事担当者を入れるところもあると聞きました。どう思われますか?
橋本: 僕は入れなくてもいいと思うけどな。採用人事を入れるときって、無理やり採用を進めていくためという感じがするから。会社としての魅力がちゃんと本質的になって、人が寄ってくるようになってからの方がいいと思います。福岡のスタートアップは、そもそも人事を持っている会社が少ない。東京では、無理やり採用みたいな、ハンターを野に放ってゴリゴリとエンジニアを連れてきて、1~2年後くらいにそのエンジニアたちが徒党を組んで辞めるというストーリーが結構多いなという印象があります。
- 機が熟してないのに無理やり採用すると、逆効果ということですかね。
橋本: 採用人事に関しては、そう思います。ただ、評価づくりは、結構早い段階でやった方がいいのかもしれません。初期の段階で人を採用するときは、代表や経営陣が声をかけにいくとか、僕らみたいに自分たちのアウトプットをどんどん出して寄ってきてもらうとか、そんな活動をした方がいいんじゃないでしょうか。そして20人30人になって、「さあ、これからアクセル踏もう」という段階になったら、人事が必要だと思います。
- 最後に、起業したばかりの人や起業を考えている人にアドバイスをお願いします。
橋本: そうですね…頑張ってください(笑)。良くない例として、「アイデアはあるけど、エンジニアとデザイナーがいない」と言って起業しようとする人が結構いるんですけど、相当なカリスマじゃないとそんな人にエンジニアとデザイナーはついてこないので、まずはエンジニアかデザイナーになることをおすすめします。まずは自分で手を動かしてみた方がいいですよ。
インタビュアープロフィール

佐々木恵美
フリーライター・エディター
福岡市出身。九州大学教育学部を卒業、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。2児の母。
株式会社ヌーラボについて
■ 会社概要
会社名
株式会社ヌーラボ(英語表記 Nulab Inc.)
所在地
福岡本社:福岡市中央区大名一丁目8番6号 HCC BLD.
東京事務所:東京都千代田区神田神保町3-2-3 Daiwa神保町3丁目ビル2F
京都事務所:京都府京都市下京区突抜2丁目360 いぐちビル
子会社
ニューヨーク社:Nulab, Inc. 262 Bowery, 3rd Floor New York, NY
シンガポール社:Nulab ASIA Pte. Ltd. 51, Changi Business Park Central 2, #02-06 The Signature Singapore 486066
アムステルダム社:Nulab B.V. Weesperstraat 61, 1018 VN Amsterdam, Netherlands
設立
2004年3月
代表取締役
橋本 正徳
■ 事業内容
株式会社 ヌーラボは、Backlog(バックログ)・Cacoo(カクー)・Typetalk(タイプトーク)という3つの自社サービスを開発・提供している会社です。いずれもチームのコラボレーションを促進し、「働く」を楽しくする業務アプリケーションで、ベンチャー企業から大手企業まで多くのユーザーに使われています。本社は福岡にありますが、拠点・ユーザー共にすでに海外展開を行っています。
Backlog(バックログ)
170万人以上が使う国内最大規模のプロジェクト管理ツール
Cacoo(カクー)
全世界300万人(海外比率86%)以上が使うビジュアルコラボレーションツール
Typetalk(タイプトーク)
福岡市より優良商品認定を受けたビジネスチャットツール
■ 問い合わせ先
株式会社 ヌーラボ 広報担当 / pr@nulab.com
TEL:092-752-5231

- 経営者
Writer
西日本シティ銀行
renew編集部は西日本シティ銀行・デジタル戦略部内の編集チームです。福岡・九州のビジネスに寄与できるようさまざまな情報を発信していきます。
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