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カーボンニュートラルとは?実現に向けた取り組みや問題点についてわかりやすく解説

By もろふし ゆうこ

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公開日 2022.07.07
カーボンニュートラル

地球温暖化への対策として、カーボンニュートラルの実現が重要視されています。温室効果ガスの排出量と除去率・吸収率を均衡させることで、環境を守る取り組みです。この記事ではカーボンニュートラルの概要やネットゼロ・カーボンオフセットとの違い、課題、企業の取り組み事例を解説します。

カーボンニュートラルとは?意味と取り組みの背景

地球温暖化をどう食い止めるかは、世界中で大きなテーマとなっています。温室効果ガスが環境問題に深く作用しており、どれだけ削減できるかが今後の地球環境を左右します。
しかし、さらなる経済成長を目指すには、インフラ整備や産業発展が不可欠です。従来の方法では、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出は避けられません。
そこで導入されたのが、カーボンニュートラルの仕組みです。

カーボンニュートラルとは

カーボン(carbon)は「炭素」、ニュートラル(neutral)は「中立の」という意味があります。つまりカーボンニュートラルとは、炭素をプラスマイナスゼロの中立状態にすることです。具体的には、温室効果ガスの排出量から除去率・吸収率を均衡させることをカーボンニュートラルと呼びます。

ネットゼロとの違い

カーボンニュートラルと共によく使われるのが「ネットゼロ」という言葉です。ネットゼロとはネット(net・正味)がゼロであること、つまり二酸化炭素の排出量が正味ゼロの状態を指します。
基本的に、ネットゼロとカーボンニュートラルは同義語として使われているのです。厳密にいうと、カーボンニュートラルには排出量と除去率・吸収率が中立しているというニュアンスがあります。一方ネットゼロは、排出量から除去率・吸収率を差し引くと実質ゼロになるという意味合いが強いです。

カーボンオフセットとの違い

カーボンオフセットは、「カーボン(炭素)をオフセットする(offset・相殺する)」という意味の造語です。排出を避けられない温室効果ガスについて、ほかの活動で埋め合わせます。

カーボンニュートラルと異なるのは、温室効果ガスの排出量を間接的に相殺する点です。カーボンニュートラルは、排出量と除去率・吸収率を均衡させます。差し引きゼロにするイメージです。一方、カーボンオフセットは排出量に相当する活動を別に行い、排出量分の埋め合わせをします。たとえば活動を数値化し「クレジット」を市場で売買し、相殺します。

なぜカーボンニュートラルが必要なのか

温室効果ガスは、二酸化炭素やメタンなどの大気中に含まれるガスです。温室効果ガスが発生することで太陽の熱を地球に閉じ込め、地表の温度を上げてしまいます。

地表の熱が上がることで、地球規模の気象災害や気候変動を引き起こす恐れが高まります。このペースで気温上昇が続けば、人間の命にも関わる事態になりかねません。
カーボンニュートラルは、この状況を食い止めるために取り組まれているのです。

カーボンニュートラル実現を目指す「脱炭素ドミノ」の動き

日本政府は2020年(令和2年)にカーボンニュートラルを通じ、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を目指すことを宣言しました。
これを達成するためには温室効果ガスの排出を極力抑えるとともに、ガスを除去・吸収できる環境を整える必要があります。
環境省はカーボンニュートラル促進のためにロードマップを作成し、「脱炭素ドミノ」で重点的に対策することを決定しました。
環境省「脱炭素ポータル」

脱炭素へ移行するためのステップ

脱炭素ドミノを通じたカーボンニュートラル実現の取り組みについて、環境省は以下のステップを提案しています。

脱炭素先行地域を100か所以上創出する

基本施策として、2025年までに脱炭素に取り組む地域を100か所以上つくることが第一の目標です。脱炭素先行地域は、次の7項目を実行します。

  1. 再エネポテンシャルの最大活用による追加導入
  2. 住宅・建築物の省エネ導入及び蓄電池等として活用可能なEV/PHEV/FCV活用
  3. 再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用
  4. 地域特性に応じたデジタル技術も活用した脱炭素化の取組
  5. 資源循環の高度化(循環経済への移行)
  6. CO2排出実質ゼロの電気・熱・燃料の融通
  7. 地域の自然資源等を生かした吸収源対策等

引用元:環境省「脱炭素ポータル」

全国で重点対策を実施する

脱炭素先行地域を増やすとともに、全国各地で重点対策を実施します。地域の実情を踏まえた脱炭素活動に取り組むことで、カーボンニュートラルの実現スピードを加速させる狙いです。

日本全国に「脱炭素ドミノ」を伝播させる

2030年を目処に、脱炭素ドミノを全国に広げます。ある取り組みがビジネスや商業、自然環境や公共施設、国民の住生活へドミノのように伝播していくのが、この段階でのゴールです。

2050年を待たずに脱炭素を実現

脱炭素ドミノが広がれば、取り組み事例が蓄積され次の対策につながります。技術開発も進み、新たなビジネスチャンスの創出も期待できます。好循環をつくり、活力ある脱炭素地域を実現することで、カーボンニュートラルの目標達成を目指す方針です。
なお、脱炭素社会を目指す取り組みについては別記事でも詳しく解説しています。

renew「脱炭素社会の実現に向けた取り組みとは? 必要な対策について」

環境省が推奨する8つの重点対策

脱炭素先行地域以外のエリアについては次の8項目を重点対策とし、カーボンニュートラル化を図ります。

  1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
  2. 地域共生・地域裨益型(ひえきがた)再エネの立地
  3. 公共施設や業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
  4. 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
  5. ゼロカーボン・ドライブ(再エネ×EV/PHEV/FCV)
  6. 資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
  7. コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
  8. 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立

引用元:環境省「脱炭素ポータル」

企業だけでなく、個人にも行動・努力を求めているのが特徴です。

日本におけるカーボンニュートラル実現の問題点

カーボンニュートラルを実現できれば、地球環境を守れます。しかし、実現にはいくつかの課題も残ります。

日本経済にも影響する?カーボンニュートラルの問題点

カーボンニュートラルの早期実現が理想ですが、世界各国が抱える実情は複雑です。特に排出基準の設定や、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行には難しい問題が隠れています。経済活動にも影響を与えるテーマだけに、一筋縄ではいかないのでしょう。

排出基準・検証が難しい

温室効果ガスの排出基準は現在、生産行為を元に算出されています。ただ、これでは先進国の排出基準が少なめに、開発途上国の排出基準は多めに設定されてしまうのです。

これは、先進国企業が人件費削減のため発展途上国に工場を設置しており、発展途上国の排出量に算入されてしまうからです。そして、発展途上国は化石燃料への依存度が高めで、インフラ整備のためにどうしても排出量が増えてしまいます。

消費行為から排出量を算出できればいいのですが、データ計測や統計をまとめるのに限界があり、実現していません。

再生可能エネルギーの発電コストが高め

再生可能エネルギーとは、何度も再生して利用できるエネルギー資源のことです。太陽光や水力、風力などがあります。化石燃料のような、有限で枯渇する恐れがあるエネルギーに代わるものです。

世界的にも排出される温室効果ガスは、その多くがエネルギー起源の二酸化炭素で、再生可能エネルギーへの置き換えは急務です。

ただ、再生可能エネルギーは発電コストが高いという弱点があります。化石燃料よりも供給が不安定な点も、懸念材料です。とはいえ近年、再生可能エネルギーのコストを抑えて安定供給するための技術開発が進んでいます。

企業のカーボンニュートラル取り組み事例

カーボンニュートラルに向けた取り組みをしているかどうかは、企業イメージにも影響します。環境に配慮した事業体制があるかという視点で、投資先を決める人も増加傾向です。企業における脱炭素の動きについて見てみましょう。

電気の使い方を改善

すぐに取り組める対策として、既存エネルギーの使い方を工夫することが挙げられます。

省エネ対策

使っていない部屋や建物の照明を落とす、省エネに対応した機器を導入するなどです。従業員の働き方を見直すことで、省エネにつながることもあります。

「省エネ法」では、2030年までにエネルギーの消費効率を35%改善するという目標を掲げています。今後より一層、省エネ対策が求められるでしょう。

再生可能エネルギーの活用

太陽光発電パネルを工場内に設置するといった、再生可能エネルギーの活用も視野に入れる必要があります。化石燃料の利用率が依然として高めである日本においては、とりわけ意識して取り組むべきテーマです。

近年、消費者の目も厳しくなっています。企業の環境活動も経営体制をジャッジする一つの材料となっており、軽視できません。

CO2排出削減できる燃料の開発・導入

カーボンニュートラルで特に注目されているのが、二酸化炭素をできるだけ排出しない燃料です。

水素

燃焼しても二酸化炭素が排出されないエネルギーとして、活用されているものです。近年では自動車や家庭の燃料電池、発電所などで使われています。製造過程の違いによって、水素は3つの種類に分けられます。

  • グリーン水素:再生可能エネルギーの電力で水を電気分解する(二酸化炭素は発生せず)
  • ブルー水素:化石燃料を分解して製造する(二酸化炭素は地中に貯留)
  • グレー水素:化石燃料を分解して製造する(二酸化炭素は大気に放出)

基本的に、水素をつくる過程で二酸化炭素が発生します。ただ、グリーン水素は二酸化炭素を排出せずに製造できるため、特に注目が集まっているのです。

再生可能エネルギーは、天候や時間帯により余剰が出てしまいます。それを水素の製造に活用すれば、エネルギー供給の安定化にもつながるのです。

バイオディーゼル燃料

原材料が植物由来であり、環境に優しい燃料です。使用済みの揚げ油を回収し、化学反応を発生させます。するとディーゼルエンジンで使える燃料となり、軽油の代替燃料に生まれ変わるのです。

バイオディーゼル燃料に含まれる二酸化炭素は、揚げ油の原材料である植物が光合成により大気から吸収したものです。よって、バイオディーゼル燃料を燃焼させても、二酸化炭素は増えないことになります。化石燃料の代わりにバイオディーゼル燃料を使えば、化石燃料を燃焼させたときの二酸化炭素を削減できたことになります。

カーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)

液化天然ガスの採掘や燃焼には、多くの二酸化炭素を排出します。そこでカーボンニュートラルの考えを取り入れ、地球温暖化に歯止めをかける体制づくりが行われているのです。

具体的には、植林など環境保全活動を並行して実施し、液化天然ガスの排出量と吸収・除去量を均衡させます。この体制下で使われる液化天然ガスが「カーボンニュートラルLNG」です。日本の大手企業が相次いでカーボンニュートラルLNGの利用を宣言し、さらなる普及を目指しています。

製造工程や新素材の開発・導入

化石燃料に頼っていた従来の製造工程を見直し、研究と開発を重ねることでカーボンニュートラルに取り組む企業が増えています。特に建設業においては、鉄鋼やコンクリートの製造において二酸化炭素が多く発生します。その解決策として、新たな技術が生まれました。

ゼロカーボンスチール

鉄が空気中の酸素と結合してできた鉄鉱石が、鉄鋼の主な原材料です。鉄鉱石を鉄鋼に製鉄するためには、鉄鉱石から酸素を引きはがさねばなりません。その過程で石炭をはじめとする化石燃料が使用され、二酸化炭素を排出します。

しかし、化石燃料の代わりに水素を使うと二酸化炭素は発生せず、代わりに水が生成されます。この仕組みに注目して誕生したのが、ゼロカーボンスチールです。

ただ、この製造方法には課題もあります。大量の水素が必要になること、従来の製鉄方法では製造できないためさらなる技術開発が求められることです。

環境配慮型コンクリート

建設業界では、環境配慮型コンクリート(カーボンリサイクル・コンクリート)が誕生しました。二酸化炭素を再利用して製造するコンクリートです。

工場などで出た排気ガスには、二酸化炭素が多く含まれています。この二酸化炭素を回収してコンクリートの原材料に活用できないか、研究と開発が進められてきました。

その結果、二酸化炭素にカルシウムを反応させ、カーボンリサイクルの材料にする方法を発見しました。これによりコンクリート内部に二酸化炭素を含有・固定でき、カーボンニュートラルを考慮したコンクリートが生まれたのです。

まとめ

ここ数年、自然災害が多発しています。その要因の一つに地球温暖化の進行があり、世界全体で取り組むべき課題です。ビジネスシーンにおいても、環境保護の重要度が年々高まっています。

カーボンニュートラルは気候変動対策の一つとして、世の常識となっています。次世代のためにも、さらなる取り組みが求められるでしょう。


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