社員が一丸となり順当に利益が増えても、利益に対してかかる税金が高く驚いた経験はありませんか。本記事では少しでも税金を減らすための節税方法について、10種類を紹介します。本記事を参考に、すぐに活用できるものから取り入れてみましょう。
法人にかかる税金とは
まずは、法人を対象にした主な3つの税金について概要を解説します。
法人も個人と同様に納税が必要
法人と個人の税金の種類は違います。しかし、個人では所得に対して、法人では利益に対して課税されるという大きな仕組みは同じです。個人のうち給与所得者は毎年の年末調整、個人事業主などは確定申告を経て住民税や所得税が確定し納税します。一般に法人も同様で、法人税の申告を行い確定した税額を納税するという流れです。
法人税は利益に対して課税される
法人の税金は、利益に対して課税されます。利益を少なくすることで課税対象が減り、納税すべき金額も少なくなるのです。つまり「利益を少なくするための工夫」をすることが、法人の節税につながります。
法人税
法人の各事業年度ごとに得られた事業所得に対してかかる税金で、国税のひとつです。対象となる法人には、株式会社などの普通法人や協同組合などが含まれます。法人税の税率は、資本金や法人の種類によって以下のように分けられています。なお、累進課税である個人の所得税と違い、法人税は所得が増えても以下の税率までしか税金はかかりません。
資本金1億円以下の中小法人の法人税税率
年間所得800万円以下の場合:15%
年間所得800万円超の場合:23.2%
中小法人以外の法人税税率
法人事業税
法人が事業活動を行う際に利用する道路や公共施設、公共サービスに対して支払う目的の税金で、地方税のひとつです。法人事業税は法人税と違い税率が一律ではなく、法人の事業所がおかれている地方自治体(都道府県)によって税率が違います。納付先は地方自治体(都道府県)となります。法人事業税の特徴的なポイントは、法人の所得が赤字の場合は納付しなくてよいという点です。
法人住民税
法人事業税と同じく地方税に分類され、納付先は地方自治体(都道府県および市町村)です。総務省の解説によると、法人住民税とは「地域社会の費用について、その構成員である法人にも個人と同様幅広く負担を求めるもの」とされています。法人住民税は「法人税割」と「均等割」から成り立っており、それぞれの金額を算出して合計した金額が税額となります。税率や算出方法は各自治体によって違うため、法人の事務所などが所在する地方自治体へ確認しましょう。
法人の節税対策10選
法人にかかる税金のうち、節税効果が見込まれるのは法人税にあたります。どの程度の節税効果があるかについては、法人の種類や所得金額などで差があります。最終的な判断は、税理士などの専門家にゆだねましょう。
1:減価償却資産の一括処理
青色申告をした法人が30万円未満の減価償却資産を購入(取得)した場合、購入金額を一括で損金算入として経費処理できる仕組みです。これを、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例」といいます。この特例を受けるには、確定申告書などに「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」の添付が必要です。
2:法人保険や団体定期保険の活用
法人税の節税では、法人を対象にしている生命保険や団体定期保険を活用することで効果が見込まれます。法人向け保険とは、掛け金の一部または全額を損金算入として加入できる仕組みです。法人向け保険には、さまざまな種類があります。法人の決算期にあわせて加入できる商品や、役員の勇退資金として貯蓄性のあるものもあります。どの商品が自社にとってメリットがあるのか、比較検討するとよいでしょう。
団体定期保険では企業が契約者となり、被保険者(保険の対象となる人)が従業員になる仕組みの保険です。保険料は、損金計上できます。
3:経営セーフティ共済への加入
法人だけが加入できる経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)への加入も、節税効果があります。経営セーフティ保険は、取引先の破産などで大きな金銭的損害を被った場合、年間240万円まで経費計上できる仕組みです。保証人や担保がなくても、掛け金の10倍までの金額の融資が受けられます。共済掛け金は損金算入できるため、この点でも節税効果があります。
4:短期前払費用の経費計上
短期前払費用の経費計上は、すぐに取り入れられる節税方法です。その都度払っていたものを1年分まとめて支払うことで、短期前払費用として経費計上できるという仕組みです。たとえば、毎月支払う家賃や生命保険料、定期購入している消耗品費などが対象となります。
これからも継続的に支払う予定のある経費であれば、月払いから年払いなどまとめて支払うだけで節税効果が見込まれます。法人税の節税というとハードルが高く感じるかもしれませんが、このようにちょっとした工夫で節税効果を高められるのです。
5:福利厚生費や交際費の活用
正当な使い道の福利厚生費や接待交際費は、もれなく経費計上しましょう。たとえば福利厚生費で従業員全員の健康診断費用を会社が負担する場合は、経費として認められます。また、社員旅行や社内の接待費なども全額損金算入可能です。他にも、従業員の資格取得費用を法人が負担する場合も節税になります。特に業務上必要な資格取得を推奨することで、ゆくゆくは資格を生かした業績向上や業務拡大も見込まれるでしょう。福利厚生費や交際費の充実は、節税以外のメリットもあるといえます。
6:役員報酬の見直し
会社の売り上げ(利益)に対して適切なバランスで役員報酬を制定することが、節税のポイントです。利益に対して役員報酬が高すぎると、会社にお金が残らなくなります。一方、利益に対して役員報酬が低すぎると、利益が大きくなりすぎるため法人税が多くかかります。近年、業績好調で利益も上がり続けているなかで役員報酬を長年変更していない場合は、見直しを検討しましょう。利益に対する役員報酬のバランスは見極めが難しいため、税理士などの専門家と相談しながら進めましょう。
7:長期在庫品の処分
会社の業務として在庫を抱えている業種では、長期在庫品を処分すると節税効果があります。古い在庫や長期在庫品の処分や、値引きして販売することで損金計上が可能です。どうしても売れなかった在庫は廃棄処分をすることでも損金算入できるため、節税となります。廃棄処分の場合は、確定申告の際に廃棄処分を行ったという証明書の添付が必要です。そのため対象となる証明書の発行が可能か事前に廃棄業者へ確認しましょう。
8:出張代を出張手当にする
社内業務として出張が発生した際、従業員が出張で立て替えたレシートを後日持参し、会社が実費精算する場面はよくある光景です。
このような後払いの実費精算ではなく、出張手当という基準を設けて支給することで節税対策になります。
出張手当は事前に作成した旅費規程に基づき手当を支払うことになるため、これまでよりも手間がかかります。しかし、出張手当とすれば全額経費計上になるため、高い節税効果が見込めるでしょう。
9:住宅手当を社宅利用へ
従業員を多く抱える会社では、住宅手当も大きな金額になります。従業員に対する住宅手当は給与扱いになりますが、法人が契約した物件に住む仕組みに変更し社宅利用とすれば全額損金になります。従業員の福利厚生としても利用できるので、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。しかし、社宅家賃の50%以内までしか会社が負担できないため、社宅費用の半分は従業員が負担する必要があります。
10:企業版ふるさと納税制度の活用
法人向け節税の新しい取り組みとして、「企業版ふるさと納税」が登場しました。2016年(平成28年)10月に内閣府によって創設された企業版ふるさと納税は、個人向けのふるさと納税とは対象や内容が違います。
節税と同時に脱炭素社会への後押し
寄付の対象は、自治体が策定した地方創生にかかる事業(内閣府が認めた地域再生計画として認められたもの)です。地域再生計画に対し企業が寄付をした場合に、一定の割合で税額が控除されます。地域再生計画には、近年注目されている脱炭素化(カーボンニュートラル)を推進する内容のものもあります。企業は、節税効果もありながら脱炭素社会への後押しができるというメリットが得られるでしょう。
なお、寄付金額の最下限は10万円で、控除される金額は最大9割となっています。
効果的に節税を進める方法と注意点
10種類の節税方法をすべて同時に実践しても、大きな節税になるとは限りません。自社の状況に応じてどの方法が有効であるか検討し、より効果的なものから取り入れていきましょう。
効果的に活用するには
より効果的に節税を進めるには、日常的に取り入れやすく、なるべく費用がかからない節税方法を優先して導入してみましょう。
新たに費用が発生する節税対策では、事前に税理士などの専門家に相談してから進めましょう。
費用を抑えた節税対策を行う
節税効果を気にするあまり、一時的な出費がかさむのも問題です。自社にとって節税効果が高いと感じた方法のなかで、より費用を抑えた対策から取り入れてみましょう。
必要に応じて費用のかかる節税も検討しよう
まとまった出費を伴う節税がどの程度節税効果があるかについて、税理士などの専門家に相談してから実践しましょう。たとえば、法人保険の保険料や役員報酬は、一度変更するとその後も長期的な出費として発生し続けます。場合によっては、今後の業績見通しなどの分析も必要になることもあります。一時的な節税効果を求めるのではなく、中長期的な視点をもって検討していきましょう。
事前に専門家へ相談したうえで進めよう
企業版ふるさと納税は近年創設されたばかりの制度のため、なじみがない企業も少なくないでしょう。個人向けふるさと納税の認知度が向上していることから、企業でも導入してみたいと考える人も多いのではないでしょうか。企業版ふるさと納税は、個人向けふるさと納税とは違う点が多くあります。そのため、企業が寄付を検討する際には必ず税理士など専門家に事前に相談したうえで検討しましょう。
企業版ふるさと納税の利用以外でも、法人の節税全般に関しては専門家へ事前相談してから実践することをおすすめします。
まとめ
節税方法のうち、どの節税なら効果が見込まれるのか比較検討してから実践しましょう。まずは、費用や導入の手間がかからないものから実践することがおすすめです。新たな出費を伴う節税が出費に対してどの程度の節税効果があるのかを加味して、専門家にも相談しながら進めましょう。
芙蓉宅建FPオフィス代表、FP技能士センター正会員
金融業界歴10年目、お金と不動産の専門家。生命保険、損害保険、各種金融商品の販売を一切行わない「完全独立系FP」として、プロの立場から公平かつ根拠のしっかりしたコンサルティングを開催している。