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【デザイン思考】とは?意味や5つのプロセス、事業へのメリット・デメリットを解説

By 森本由紀

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2022.11.28

デザイナーがデザインを行うプロセスをビジネスに応用した「デザイン思考」が注目されています。製品やサービスの課題解決のために、デザイン思考の活用も検討してみましょう。本記事ではデザイン思考とは何か、導入のために知っておきたいこともあわせて紹介します。

デザイン思考とは?

企業における問題解決のために、デザイン思考が役立ちます。まずは、デザイン思考の意味や定義を確認しておきましょう。

デザイン思考の意味

デザイン思考とは、デザイナーの思考プロセスを体系化したものです。デザイナーがデザインを行うときには、特有の思考を行っています。この思考はビジネスにおける問題解決にも役立つと考えられ、注目されています。

課題を解決できるのはなぜ?

デザイナーが衣服や建築物をデザインするときには、ユーザーニーズから課題を発見して解決策を考えます。ビジネスで前例のない課題を解決する際にも、同様のプロセスで考えるのが有効でしょう。ユーザーに寄り添い共感することで、製品やサービスの本質的な課題を発見できるのです。

デザイン思考の発端

デザインを思考法としてとらえる考え方は、1960年代頃から存在していました。「デザイン思考」という言葉が最初に使われたのは、1987年(昭和62年)にハーバード大学教授のピーター・ロウが出版した「デザインの思考過程」です。

2005年(平成17年)にはスタンフォード大学のd.schoolで、デザイン思考が教えられるようになりました。こうして、デザイン思考は徐々に世界的に認知されるようになったのです。

日本におけるデザイン思考

日本でデザイン思考が知られるようになったのは、1990年代頃からです。2018年(平成30年)には、デザイン思考を応用した「デザイン経営」を推進する「デザイン経営宣言」を特許庁が発表しました。デザイン思考は近年になって、ますます注目を浴びています。

混同されやすい他の思考法との違い

ビジネスの場面では、課題解決に役立つさまざまな思考法が提唱されています。ここでは、デザイン思考と混同されやすい思考法をいくつか紹介します。

アート思考との違い

アート思考とは、アーティストが作品を創出するときの思考法です。アーティストは自由な表現や創造を行います。ビジネスにおいても、担当者の自由な発想を発端に独創的なアイデアを生み出す場面があるでしょう。このような場面では、アート思考が活用されます。

一方、デザイン思考は自由な発想にもとづくものではありません。ユーザーのニーズを発端に、既にある製品等の課題を解決する場面で用いられることが多くなっています。

ロジカルシンキングとの違い

ロジカルシンキングとは、物事を体系的に整理して筋道を立てて考える手法です。日本語では、論理的思考法を意味します。ロジカルシンキングも課題解決のための思考法ですが、デザイン思考とは異なります。

さまざまな論理的検討を行いながらゴールを目指すのが、ロジカルシンキングです。これに対し、デザイン思考のプロセスは、仮説を立てて検証を繰り返します。

>>ロジカルシンキングとは?定義やフレームワーク、思考力の鍛え方を解説

クリティカルシンキングとの違い

クリティカルシンキングとは、批判的思考という意味です。クリティカルシンキングでは物事が本当に正しいのか疑問を持ちながら、効果を検証していくプロセスをたどります。

デザイン思考はあくまでユーザーのニーズを起点として考えるため、クリティカルシンキングとはアプローチの仕方が違います。

>>「クリティカルシンキング」とは。重要性や能力を鍛える実践方法をわかりやすく解説

デザイン思考が注目されている理由

デザイン思考は以前から知られていた考え方ですが、最近特に注目されています。今なぜデザイン思考が必要なのか、理由を考えてみましょう。

市場構造の変化

デザイン思考が求められる大きな理由の1つは、市場構造が変化したことです。高度経済成長期には、新しいモノを作ればすぐに売れていました。しかし、今はモノがあふれていて、新しいという理由だけでは売れません。ユーザーのニーズは変化しており、従来の考え方のままでは対応できないのです。

今は、先行き不透明な「VUCAの時代」といわれています。ユーザーのニーズを出発点に製品やサービスを作り出さなければ、企業は生き残れないでしょう。

VUCAの時代とは?

VUCAとは、以下の頭文字をとった造語です。

  • Volatility(変動性)

  • Uncertainty(不確実性)

  • Complexity(複雑性)

  • Ambiguity(曖昧性)

変化が著しく、将来の予測が困難な状態を意味します。企業がVUCAの時代を生き抜くには、常に顧客ニーズをもとに解決策を見い出す姿勢が重要です。

>>予測困難な「VUCA」時代とは?乗り切るための必要なスキルや人材を押さえよう

環境意識の高まり

近年、環境意識が高まっていることも、デザイン思考が注目されている理由です。地球環境問題は、企業にとって無視できないものとなりました。消費者の環境意識も高まっており、大量生産、大量消費という考え方はもはや成り立ちません。デザイン思考によるユーザー目線の製品開発が、企業にとっては不可欠です。

DX推進のために必要

企業でDXを進める際には、老朽化したシステムを新しいシステムに更新する必要があります。システム開発の際には、ユーザーにとって使いやすいかどうかを第一に考えなければなりません。デザイン思考はDX推進のために不可欠です。

DXとは?

DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語です。デジタル技術を用いて、ビジネスに変革を起こすことを意味します。単なるIT化ではなく、既存の価値観を大きく変える取り組みです。

>>DX(デジタルトランスフォーメーション)って?定義や考え方を分かりやすく説明

「DXレポート」でも言及

国はDXを積極的に推進しています。経済産業省は2018年(平成30年)に、DXの現状や課題、今後の対応策などをまとめた「DXレポート」を公表しました。DXレポートの中では、ベンダー企業において「ユーザ起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」が求められると述べています。

なお、ベンダー企業とはシステムを提供するITベンダーです。

デザイン思考の5つのプロセス

ここからは、デザイン思考を実践する際のプロセスをみてみましょう。デザイン思考のプロセスとは、次の5段階です。

共感

デザイン思考の入口は、ユーザーに対する共感です。共感とは、ユーザーがどんな悩みを抱えており、何を求めているのかを探るプロセスになります。

会社においては、聞き取りやアンケート調査を活用するとよいでしょう。ユーザーの立場に立って、なぜそのような回答をするのかまで考えることが重要です。

定義

デザイン思考でいう定義とは、ユーザーの声をもとにニーズを明確化することです。ユーザー自身が気付いているニーズだけでなく、潜在的なニーズも見きわめることが必要でしょう。

ユーザーが課題をすべて自覚しているとは限りません。ユーザーが言語化している部分の背後にある本質的な課題を見つけます。

発想

ユーザーのニーズを定義したら、次のプロセスは発想です。発想とは、課題を解決するアイデアを出していき、アイデアを概念化することです。

発想のプロセスでは、できるだけ多くのアイデアを出すことが重要になってきます。チームでブレインストーミングを行い、多様なアイデアを抽出するとよいでしょう。

プロトタイプ

プロトタイプとは、試作のことです。発想のプロセスで概念化したアイデアを実現するために、試作を行います。チームの支持を得たものは、とりあえず試作してみます。

試作は問題点や課題点を発見するために行うものなので、コストをかける必要はありません。機能はシンプルでも、実際に作ってみることが重要です。試作してみることで、考慮しなければならない点が判明します。

テスト

テストとは、試作したものを使ってユーザーテストを行うプロセスです。ユーザーのフィードバックから、それまで気付かなかった問題点が見つかるかもしれません。

問題点に気付いたら、改善点を盛り込んで再び試作品を作ります。このようにして、試作とテストを繰り返します。

企業がデザイン思考をとり入れるメリット

デザイン思考に注目していて、事業にとり入れたいと考えている会社も多いでしょう。ここからは、企業がデザイン思考を導入するメリットとは何かを説明します。

アイデアの提案が習慣化する

デザイン思考のプロセスでは、実現可能不可能にかかわらず、アイデアをどんどん出す必要があります。アイデアが整理されているかどうかも関係ありません。質よりも量が重要になります。

自分のアイデアを否定されることがなければ、従業員は積極的に提案を行うようになるでしょう。意見の提案が習慣化するのは、大きなメリットです。

多様な意見を受け入れられるようになる

デザイン思考は、チームで意見交換をしながら実践するのが効果的です。従業員はそれぞれの意見に向き合い、整理しながら合意を形成していきます。多様な意見を受容しながら、多角的にとらえる視点が身につくでしょう。

イノベーションの創出につながる

イノベーションとは、技術革新という意味です。ビジネスにおけるイノベーションは、それまでになかった画期的な製品やサービスを生み出すことを指します。

デザイン思考の手法を用いれば、偶然思いついたアイデアでも形にすることが容易になります。デザイン思考の習慣化により、イノベーションが生まれやすくなるでしょう。

従業員のモチベーションが上がる

デザイン思考を導入すれば、従業員は自らの提案をチームに受け入れてもらえます。会社の一員として貢献している実感が持てるので、従業員のやる気が向上するでしょう。

チームの一体感が深まる

チームでデザイン思考を実践する際には、メンバー全員が各プロセスに参加します。チーム内のコミュニケーションが活発になり、一体感が深まるでしょう。アイデアを共有する習慣が根付けば、組織全体の活性化にもつながります。

デザイン思考のデメリットとは?

デザイン思考の実践にはさまざまなメリットがありますが、デメリットもあります。デザイン思考のデメリットとは何かを知っておきましょう。

ゼロベースでのプロダクト創出には不向き

デザイン思考では、既にある製品やサービスに対するユーザーのニーズを探ります。インタビューやアンケートをもとに、潜在的な課題を見つけていく手法です。何もない状態から新しい製品・サービスを創出する場面には向いていません。

ありきたりなアウトプットになることも

デザイン思考ではユーザーを広く想定し、ユーザーのニーズを発見します。そのため、誰にでも受け入れられる、ありきたりなアイデアを思いつきがちです。汎用性の高いアイデアばかりをアウトプットしていると、イノベーションを起こしにくくなってしまいます。

組織へ浸透させるのが難しい

会社でデザイン思考をとり入れる場合、従業員の理解が必要です。デザイン思考の認知度はまだまだ低く、理解が進みにくいかもしれません。組織全体に浸透させるのが困難なこともあるでしょう。

企業がデザイン思考を活用する際のポイント

デザイン思考を会社でとり入れてみたいと考える人は、多いのではないでしょうか。ここからは、デザイン思考を導入、活用するために知っておきたいことを説明します。

デザイン思考を体験してみる

デザイン思考を研修や書籍で学ぶ以外に、体験型のワークショップに参加すると理解しやすいでしょう。

デザイン思考を手っ取り早く理解するには、実験的に社内で運用してみるのがいちばんです。少人数のプロジェクトチームを編成し、デザイン思考のプロセスに沿って試作品を作ってみましょう。

フレームワークを活用する

デザイン思考は、フレームワークを活用すると実践しやすいでしょう。フレームワークとは、課題解決に役立つ枠組みです。デザイン思考と相性が良いフレームワークには、次のようなものがあります。

事業環境マップ

自社の製品やサービスに影響を及ぼす外部環境を、以下の4種類の要因から分析するフレームワークです。

  • 市場

  • 産業

  • トレンド

  • マクロ経済

外部環境の影響を評価することで、開発の方向性が明確になります。多様な意見も整理しやすくなるでしょう。

共感マップ

エンパシーマップとも呼ばれるものです。ユーザーが見ているもの、聞いているもの、感じているものなどをマップに落とし込めば、ユーザーの本質の理解に役立ちます。

まとめ

ビジネスにおけるデザイン思考とは、ユーザーニーズを起点とし、製品やサービスをデザインしていく手法です。チームのメンバーで多様な意見を出し合うことで、課題解決の糸口が見つかる可能性があります。

中小企業における課題解決のためには、情報収集やネットワーク作りが重要です。西日本FH Big Advanceは、ビジネスのさまざまな場面で利用できる中小企業支援のプラットフォームです。ぜひ活用してみてください。

西日本FH Big Advance

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