「フェムテック」という言葉をよく見聞きするようになりました。フェムテック市場は世界的に拡大しており、日本でも注目を浴びています。本記事ではフェムテックの市場規模や国内企業の取り組みと、企業がフェムテックを導入する効果を紹介します。
フェムテック市場が急拡大中
「フェムテック」は、近年になって登場した概念です。フェムテックの潮流は世界的に広がり、関連する市場は成長を続けています。まずは、フェムテックの意味や市場規模についてみてみましょう。
フェムテックとは?
「フェムテック(Femtech)」とは、英語の「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語です。女性特有の悩みをテクノロジーを用いて解決することを意味します。
言葉の起源
「フェムテック」という言葉を使い始めたのは、デンマークの女性起業家イダ・ティン氏です。ティン氏は2016年(平成28年)、自身の開発した月経周期予測アプリへの投資を募る際に「フェムテック」という言葉を使いました。
それ以降、テクノロジーを用いた女性の課題解決に関連する事業が世界中で展開され、市場が急成長しました。
2020年は日本のフェムテック元年
日本でフェムテック領域の市場に参入する企業が大幅に増加したのは、2020年(令和2年)のことです。フェムテックは国会でも取り上げられるようになり、同年10月には自民党の議員による「フェムテック振興議員連盟」も発足しました。
フェムテックの対象となる分野
フェムテック市場が取り扱うのは、女性のライフステージにおけるさまざまな健康課題です。主に、以下のような分野・領域が対象になります。
生理(月経)
不妊・妊活
妊娠期
産後
プレ更年期
更年期
ポスト更年期
婦人科疾患
セクシャルウェルネス
フェムテックの市場規模
フェムテック市場は、世界中の投資家やマーケティング関係者から注目を浴びています。新たな企業がどんどん誕生しているほか、既存の企業の新規参入も活発です。フェムテックの世界市場規模は2025年までに500億ドル(5~6兆円)になるともいわれています。
国もフェムテック活用を支援
日本国内では経済産業省がフェムテック活用による働く女性支援に取り組んでおり、さまざまな調査・研究も行われています。2021年度(令和3年度)からは、「フェムテック等サポートサービス実証事業」が実施されています。
フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金
フェムテック等サポートサービス実証事業では、フェムテック製品・サービスにより女性が働きやすい環境づくりを行う企業・団体に対し補助金が交付されています。これまでに補助金の対象となった実証事業には、以下のようなものがあります。
乳がんを経験した女性が変わりなく働ける職場の提供
企業の従業員を対象としたライフステージを支える企業内助産師の有用性検証
潜在助産師を活用した育児期の女性の職場復帰支援のためのオンライン相談
不妊治療患者を対象にした遠隔医療スキームの確立
妊活・不妊治療と仕事の両立を支援する妊活サポート
更年期ケアの重要性の可視化及び社会への啓蒙
仕事と安全な妊娠・出産の両立を目的とした周産期遠隔医療プラットフォーム活用
フェムテックが注目される背景
多くの企業がフェムテックに関心を持ち、国内のフェムテック市場は拡大中です。一般消費者の認知度も上がってきています。日本でフェムテックが注目される背景としては、以下のような理由が考えられます。
女性活躍推進の動き
日本では2016年(平成28年)に女性活躍推進法が施行され、働きたい女性が個性や能力を発揮できる環境の整備が進んでいます。女性活躍推進のためには、生理や更年期による不調、不妊治療などによる心身の不調の問題を解決しなければなりません。
不妊治療と仕事を両立している人は約半数
厚生労働省が2017年(平成29年)に行った調査によると、不妊治療をしたことがある人のうち、仕事と両立している人は53%、16%が退職、8%が雇用形態を変更したと回答しています。また、両立できず不妊治療をやめた人も11%います。
企業の生産性向上とワークライフバランス実現のため、女性の健康課題解決は重要です。
出典:厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査事業調査結果報告書(概要)」
年間4900億円の労働損失
経済産業省では、女性の月経随伴症状などによる労働損失は年間4,900億円にのぼると試算しています。女性が働きやすい環境が整っていないことは、社会全体の損失になります。
SNS発展による女性の悩みの可視化
これまでは、女性が身体の悩みについてオープンにしにくい風潮がありました。女性は一人で悩んだり我慢したりするしかなく、問題が表面化されていなかったのです。
しかし、SNSの発展により、女性が声を上げやすくなりました。悩みの共有によりさまざまなアイデアも生まれるようになり、フェムテックへと発展して行ったのです。
企業のマーケティングにも有効
SNSには拡散力があるため、企業側も悩みを抱える女性をターゲットにしたマーケティングがしやすくなっています。フェムテック関連のビジネスを展開するスタートアップ企業が増加し、市場の活性化につながりました。
テクノロジーの進歩
フェムテックは、テクノロジーを利用した課題解決です。IT技術の進歩が、女性の悩み解決に大きく貢献していることは言うまでもありません。
スマートフォンが普及し、誰もが手軽に情報や解決策にアクセスできる一方で、調査やアンケートも実行しやすくなりました。コロナ禍によりオンライン相談や遠隔診療も進んだことも、フェムテック促進につながっています。
女性の可処分所得の増加
働く女性が増え、女性が自由に使えるお金が増えたこともフェムテックが注目されている理由です。現代では以前と比べ、女性が自分の悩み解決のためにお金を使いやすくなりました。フェムテック関連の製品・サービスは注目を浴びやすく、企業側でも開発に意欲的になっています。
女性起業家の活躍
近年、女性の視点を活かしたビジネスを展開する女性起業家が増えました。女性起業家の活躍により、女性の悩みを解決する製品・サービスのアイデアを実現しやすくなったのです。フェムテックにより、女性活躍の機会がますます広がることにもなりました。
企業がフェムテック市場に参入するメリット
これからフェムテック事業を展開したいと考える企業も多いでしょう。ここからは、企業がフェムテック市場に参入した場合に得られるメリットを説明します。
企業イメージがアップする
フェムテックは、近年注目されるようになった新しい領域です。フェムテック事業を始めることで、これからの時代に必要とされているビジネスを展開する先進的な企業として評価されます。女性が活躍しやすい環境づくりを進める姿勢は、企業のイメージを向上させるでしょう。
福利厚生にも利用できる
新規事業としてフェムテックに取り組む以外に、従業員の福利厚生にフェムテックを取り入れる方法もあります。
たとえば、情報集めやオンライン相談ができるアプリを従業員が無料で利用できるようにしたり、低用量ピルや不妊治療の費用補助を行ったりする企業は増えています。
女性が活躍できる場を用意できる
フェムテック事業のマーケティングや市場調査、研究開発のためには、女性自らの力が必要です。企業において女性が活躍できる場所を増やせることもメリットになります。フェムテックに力を入れることで、長く働ける女性社員の数も増えます。人手不足の解消にもつながるでしょう。
資金調達にも有利
新規事業としてフェムテックを取り入れる場合、資金調達が必要になります。フェムテック事業に取り組んでいる企業は、市場での注目も集めやすくなっています。フェムテック関連の銘柄に投資する投資家も増えており、資金調達面でも有利です。
国内のフェムテック製品・サービスの事例
日本国内でも、さまざまな企業がフェムテック市場に参入しています。ここからは、国内で開発されたフェムテック製品やサービスの事例を紹介します。
生理・月経
毎月訪れる生理日を快適に過ごせるようなアイテムや、スマホで利用できるアプリが開発されています。
月経管理アプリ
過去の生理日のデータを入力すると、排卵日や生理日の予測をしてくれるアプリです。月経管理ができるほか、健康に役立つ情報の入手にも役立ちます。
吸水ショーツ
ショーツ自体が液体を吸収できる構造になっており、吸水型サニタリーショーツとも呼ばれるものです。ナプキンを装着しているときのようなごわつきやムレを感じにくく、生理中の不快感が軽減します。
妊娠・不妊
テクノロジーを活用し、妊活・不妊治療や妊娠中の健康管理をサポートするシステムなどが登場しています。
不妊治療サポートアプリ
不妊治療のスケジュールや治療データを管理できるアプリです。統計データや自分と似た人のカルテを参照したり、患者同士がコミュニケーションできたりする機能もあります。
卵巣年齢検査の簡易キット
自宅で卵巣年齢をチェックできる検査キットです。卵巣年齢を把握することで妊活や不妊治療について具体的に考えやすくなるため、ライフプラン検討に役立ちます。
遠隔分娩監視装置
ICTを用いた遠隔分娩監視装置と周産期医療プラットフォームを連携し、遠隔で妊婦と胎児の健康状態を管理するシステムが開発されています。
更年期
ホルモンバランスの変化により、さまざまな不調が出やすい更年期をサポートするグッズやアプリが提供されています。
骨盤底筋強化アイテム
更年期に骨盤底筋が緩むと、尿漏れなどのトラブルが起こります。アプリと連携しながら膣のトレーニングができ、骨盤底筋の強化に役立つアイテムが開発されています。
更年期のオンライン相談サービス
アプリを利用して、更年期の心身の悩みをオンラインで相談できるサービスです。医師や専門家から発信された信頼度の高い情報の入手もできます。
フェムテック市場の今後
フェムテック市場は順調に成長を続けています。フェムテック市場の今後の見通しについて考えてみます。
2025年には年間2兆円の経済効果
これまでは月経に伴う症状、不妊治療、更年期に伴う症状により、離職や昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされていた女性が多数いました。これからは、フェムテック製品・サービスの利用により、仕事との両立が実現します。経済産業省の調査報告書では、女性が仕事との両立を果たすことで得られる給与相当額の推計は2025年時点で年間約2兆円と試算しています。
経済効果の内訳は、以下のとおりです。
月経分野
PMSや月経随伴症状に関する知識が広まり、これまで治療等適切な対応をとってこなかった女性が60%から30%に低下する見込みです。月経によるパフォーマンス低下に伴う損失額は年間約4900億円とされていますが、これが約半減し、年間約2400億円の経済効果が予測されます。
妊娠・不妊分野
不妊治療に伴う負荷が軽減され、治療と仕事の両立をあきらめる女性が30~50%減少すると考えられています。また、生殖補助医療実施数の増加や生殖補助医療開始時期が早まる効果もあり、生産性の向上が期待されます。
妊娠・不妊分野の経済効果は、年間約3,000億~5,000億円という予測です。
更年期分野
更年期症状に関して治療等適切な対応をとっていなかった女性の割合が、60%から30%に減るものと予測されています。仕事との両立困難から退職や勤務形態変更をする女性が半減し、年間で約1.3兆円の経済効果が見込まれます。
出典:経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)」
ジェンダード・イノベーションへと発展
これまではビジネス、医療などさまざまな分野で、成人男性に偏った研究開発が行われてきました。これからの時代は、科学、技術、政策など幅広い領域に性差分析を取り込んでイノベーションを創出する「ジェンダード・イノベーション」が重要と考えられています。
今後はフェムテックの上位概念である、ジェンダード・イノベーションに注目が集まるでしょう。
政府もジェンダーズ・イノベーションを重要視
ジェンダード・イノベーションは2005年(平成17年)にアメリカで提唱された概念で、欧米を中心に広まってきました。近年日本でも、その重要性が認識され始めています。
内閣府男女共同参画局が公表した「女性版骨太の方針2022」でも「科学技術・学術分野において男女共同参画を進め、研究・技術開発に多様な視点を取り入れていくことは、ジェンダード・イノベーションの創出にもつながり、重要である」旨が言及されています。
出典:内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022」
まとめ
フェムテック市場は急成長しています。これから新規事業を始めたい企業は、注目しておきましょう。企業の福利厚生として、フェムテックを導入する動きも高まっています。女性の健康課題解決の必要性を認識し、働きやすい環境づくりをサポートしましょう。
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